『―――喧嘩―――』



「ボクね、大きくなったら母上と結婚するっ!」
花梨の膝の上に座り、大きな瞳をキラキラと輝かせて宣言する息子。父親似の端正な顔だが、可愛い原因はそれだけではない。
「嬉しいな!」ぎゅっと抱き締める。「楽しみにしているね♪」
「うん♪」

ほのぼのとした母子の会話。
なのに。

「それは許されません。」怒って睨みつける人物あり。「花梨殿はこの頼忠の妻。忠直とは結婚出来ません。」
「頼忠さん・・・・・・。」花梨は苦笑する。
「嫌だ。ボクだって母上と結婚する!」忠直も怒って反論する。「父上はズルイ!何時も何時もボクから母上を奪うんだから!僕だって母上と一緒に寝たいっ!」
「「えっ?!」」花梨は赤面。頼忠は当然という表情をする。
「夫婦は一緒に寝るものだ。何が悪い?」
「え・・・・・・?頼忠さん―――。」言葉を飲み込む。『子供に余計な事は言わないで。』
「だからズルイって言うんだ!ボクだって母上と夜もずっと一緒にいたい!夫婦じゃないと一緒に寝られないのなら、ボクも母上と結婚する!!」
「夫婦とは一組だけだ。花梨殿にはもう私がいる。忠直は駄目だ。」
「なら、父上は別れてよ!?」
「それは出来ない。」
「どうして!?」
「どうしても。」
「何で!?」
「何ででも。」
「むぅ〜〜〜。」口をへの字に曲げている。「父上はやっぱりズルイ。ちょっと早く生まれたからって、母上を独り占めするんだから。」だんだん顔が紅く染まっていく。「ボクが先に生まれていれば、母上と結婚出来たのに・・・・・・悔しいっ!!」
「先に生まれたからって、花梨殿と一緒になれたかは解らん。」
「もう頼忠さんったら、何て事を言うのっ!」
「うぅぅぅ〜〜〜!」忠直の瞳からボロボロと涙が溢れ落ちる。
「忠直・・・・・・。」花梨は困って息子を抱き締める。「父上の言葉は気にしなくて良いの。ほら、泣いちゃ駄目よ?」
「母上っ!」膝から飛び降りる。「十年後!十年後には絶対に父上よりもりっぱな男になって見せます!だからその時は忠直と結婚して下さいっ!!」
「っ!忠直ったら・・・・・・!」再び抱き締める。「楽しみにしているからね?」
「はいっ!」
「花梨殿?」頼忠は慌てる。「心変わりをするのですか、貴女は?」
「頼忠さんたら、大人げありません。」夫を睨みつける。「自分の息子に喧嘩売ってどうするんですか?」
「それは・・・・・・忠直が我が儘を言うから・・・・・・・・・・・・。」しどろもどろ。
「子供じみた事を言っているのは頼忠さんです。」今度は息子に笑顔を向ける。「今夜は一緒に寝ようね。」
「本当?やったあ♪」途端に涙が止まって笑顔が零れる。
「花梨殿っ?!」顔色を変える。「私に一人で寝ろとおっしゃるのですか?」
「幼い忠直が毎日一人で寝ているんです。頼忠さんは大人なんだから、一人でだって寝られるでしょう?」
「そんなぁ・・・・・・・・・。」情け無い声が出てしまう。「花梨・・・・・・。」
「そんな声を出したってダメです。忠直を苛めた罰です。」つん、とそっぽを向くと、息子を抱き上げる。「反省して下さい。」
忠直は、と言えば。
母親の首に腕を回して抱き付き、肩越しに父親を見るその眼は――――――『僕の勝ちっ♪』
そんな憎らしい表情をしているとは知らない花梨、さっさと室を出て行く。

「・・・・・・・・・・・・。」
二人を見送ると、頼忠はがっくりと肩を落とした。
母親は、息子とは結婚出来ないのは知っている。言葉位、花梨の夫は頼忠唯一人と言ってくれたって良いではないか。息子が出来た途端、自分は花梨にとっての優先順位が下がってしまったのだから。
忠直はズルい。花梨の夫である私をズルいと言うが、本当は忠直の方がずっとズルい。
花梨の笑顔の先は何時も忠直。何かある度に、忠直を可愛がり抱き締める。昼間、仕事で屋敷にいない間ずっと花梨を独占しているのに。せめて夜ぐらいは私が独り占めしたい。そう思って何が悪い。
それなのに。
夜も一緒にいたいとは・・・・・・!
泣かれてしまえばこちらが悪者。
「泣きたいのは頼忠の方です・・・・・・花梨殿。」






何でこんな話を思いついてしまったのだろう?頼忠が完全にニセモノです。
はて、この子供は誰に似ているのだろう?って、誰にも似ていない・・・・・・・・・。

私の身近に子供は居ません。居た事もありません。よって、子供がどういう者かは知りません。―――じゃあ書くなよ、自分。
なのに・・・続きがあるんだよね・・・・・・・・・、更に偽者の親子が登場の。

2004/11/02 17:12:06 BY銀竜草

で、『―――喧嘩〜数年後〜―――』に続きます。

2005/02/08 23:57:52 BY銀竜草