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そして、最後は青龍。 青龍の二人が挑戦する前、こそこそと話し合う数人の男達。 「頼忠はどうせ参加しないんだろう?」 「物忌みは明日ですから、今日が最後ですね。」 「なら、勝真殿が失敗したなら紫姫の占いに頼る事になりますね。」 「占う時間が必要ですから、夕刻前には終わらせてくれないと。」 「「「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」」」 顔を見合わせる。心の中で考えている事は、皆同じ事。 『『『『『『失敗しますように・・・・・・!』』』』』』 勝真がやっと京職の仕事から解放されて久し振りに四条の屋敷を訪れた時、良い考えは浮かんではいなかった。 『ちくしょう。大夫の奴め、面倒な仕事を全部押し付けやがって。花梨に会うどころか、考える暇も無かったぜ。』 今日一日、夕刻まではまだ時間はある事はあるのだが、今更準備はおろか、どうこう出来る時間も無い。しかも、他の奴らが自分の失敗を望んでいるのは、考えるまでも無く解る。 こうなったら意地でも探し出してやりたいが。 『他の奴らも色々とやったらしいが、全て駄目か。じゃあ俺はどうしたら良いだろう?』 ふと普段持ち歩いている弓が眼に止まった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。これ位しか可能性は無いか?」 ヒュッ! ピシッッ!! 花梨は庭から聞こえてくる、その聞き慣れている音につられて簀子に出る。 と、そこには予想通り、勝真が弓の練習をしていた。 しばらく黙って見ていたが、気配に気付いて振り返った勝真に声を掛ける。 「相変わらず、上手ですよね。」 「ようっ。まぁ、俺は剣よりもこれが好きだからな。」 「剣の腕前はどうなんですか?」 「そこいらの奴らには負けないぜ?まぁ、頼忠には敵わないが、あいつは特別だからな。比べるなよ?」 花梨と他愛も無い会話を続けていたが、頭の中では他の事を考えていた。『いきなり言うのは不自然だよな?』 話のきっかけが掴めず、ズルズルと時間だけが過ぎてしまう。内心焦り始め、何でも良いから、兎に角言ってみようかと考え始める。 勝真が決心して口を開こうとしたその瞬間、突然花梨が意味不明な言葉を発した。 「ウィリアム・テル。」 「ん?ういりあむって何だ?」 「私の世界の物語であるんですよ。ウィリアム・テルって言う名前の弓の名人が、息子の頭に、拳大の大きさの果物、りんごを乗せて、そのりんごを弓で射るっていうお話が。」 「ふぅ〜ん・・・。」気の無い返事を返しながら、勝真は心の中で口笛を吹いた。『よし!飛んで火に入る夏の虫、とはこの事だな。』 「花梨、やってみるか?」 「うん?何を?」 「その話と同じ事。怖いならやらなくても良いぞ?」からかうように見れば。 「・・・・・・やってみようかな?」との返事に、勝真の方が驚いた。「えっ?本当にやるのか?危ないぞ?」 「そうだね。でも、勝真さんだし、大丈夫でしょう。」 血の気が引いていく。『・・・・・・・・・頼むから怖がってくれよ。』 さすがに頭の上に置く事は出来ないから、果物の代わりの木片を持った手を肩の高さに上げて腕を伸ばす。 『何でこんな事になったんだ?』 実力はある。自信もある。だからと言って、失敗する可能性も無くは無い。 なのに。 弦を引き絞り木片を睨みつける勝真を、花梨は目を反らさず見つめる。しかも、腕は全く震えていない。 『こいつ、どんな神経しているんだ?』弓を射る勝真の方が緊張で震えてしまう。『言わなきゃ良かった・・・・・・・・・。』 だが、後悔先に立たず。 このままでは手元が狂う・・・・・・。一度弓を下ろし、深呼吸を繰り返して気を落ち着かせる。 そして、再び弓をかまえて弦を引き絞る。 狙いを定めて――――――。 ピュッ! バシッッ!! 見事、木片を矢が突き抜け、粉々に吹き飛ばした。 「ふう―――。」緊張が解け、勝真が大きく息を吐き出す。 「うわぁ、凄いっ!!」花梨は満面の笑みを浮かべて、歓声を上げる。 と、同時に。 「きゃあ――――――!!」 との叫び声が響き渡った。 「み、み、神子様〜〜〜〜〜〜!!」 紫姫が顔面蒼白になり、十二単の姿のまま簀子から花梨の元へ、蹴躓きながら駆け寄ってきた。 「神子様、お怪我は?お怪我はありませんか?」花梨にしがみ付く。 「うわっ!紫姫、大丈夫だよ!勝真さんの弓の腕前は世界一なんだから!」 「俺が花梨を怪我させる訳ないだろう?自信が無けりゃ、やらないさ。」緊張で震えていたのに、成功した途端、態度が大きくなる。 「そういう問題ではありませんっ!神子様にもしもの事があったらと考えただけで―――っ!」 紫姫は絶句すると、大粒の涙が溢れ出した。 その涙を見て、花梨は慌てふためいた。 「紫姫、御免なさい。御免なさい。御免なさい!もう、危ない事はしないから。無茶はしないから。約束するから泣かないで?」必死に宥める。 「ぅ・・・ひっく・・・・・・うぇ・・・・・・。」 「二度と紫姫を怖がらせるような真似はしないから。ねっ?」 「本当に?本当に危ない事はしませんか?」 「うん、絶対にしない!紫姫に心配かける事は二度としないよ。」 「良かった・・・・・・・・・。」 花梨は、紫姫の涙が止まるまで抱き締め、優しく髪を撫でていた。 花梨の苦手な事、それは紫姫の涙。 それを発見したのは勝真だが、紫姫の怒りを買い・・・・・・・・・。 ―――――――――勝真、問題外。 すっかり日が暮れた頃、花梨の部屋には頼忠を除いた八葉と紫姫が集まっていた。 八葉がこの時間に来たのは、花梨の物忌みの付き添い役を誰がやるのかが気になった為。 だが、勝真が花梨に対して何をやったのかを知った男達は、青ざめ、そして攻め立てた。 「お前が花梨を危ない目に遭わせてどうするんだよ!」 「実力はあるさ。」 「実力が有る無いの問題ではありません。」 「自信があったからやったんだ!無けりゃしない!」 「万が一、と言う言葉もあります。」 「そんなドジ、この俺がするか!?」 殴り合い一歩手前の騒ぎとなったが、 「勝真さんは悪くない!私がやりたいって無理にやらせたんだから!」花梨が勝真と他の八葉達の間に身体を入れる。「紫姫に、もう二度と危ない事はしないって約束したから、それでもう許して!ね?」花梨が涙眼で訴える。 花梨が勝真を庇うのが不愉快で更に怒りは増すが、これ以上攻め立てれば花梨を苦しめる事になりそうで、渋々口を閉じる。 何時までも拘って、花梨の機嫌を損ねる事はしたくは無い。花梨に怪我は無かったのだし、勝真は失敗したのだから。これで全員に再びチャンスが与えられる事になり、大事なのはその事。 そう、それが一番重要なのだが、今、気になっている事は。 「花梨、お前の苦手な事って何だ?」 未だに花梨一人、勝負があった事は知らない。そして、暗黙の了解として誰一人として花梨に言うつもりは無い。だが、結局解らなかったから余計に知りたくて、イサトが直接尋ねる。 「苦手な事?」 「そう、怖い物、苦手だと思う事など、姫君が嫌いだと思う事は何だい?」 「そうだなぁ、沢山あるけど、一番苦手な事は一人になる事かな?」 「一人になる事?」 「そう、一人。私一人っ子だし、親は共働きだから普段ずっと家に一人でいるの。一人ぼっちでいると寂しいから嫌い。」顔を顰めて言うが、次の瞬間にっこりと微笑んだ。 「最近、皆が何かと構ってくれるから嬉しくて♪」 「色々な事があったようですけれど、怖い事はありませんでしたの?」 「あぁ、色々と、ね。でも、八葉の誰かしらが一緒だったから、怖い事なんて全然無いよ。危ない事は最初からさせてくれないし、万が一、何かあっても守ってくれるって解っているから。」 「まぁ!八葉の皆様との信頼関係は素晴らしいですわ!」紫姫は瞳を潤ませ、感激している。 だが、八葉の心中は――――――。 まさか。 もしかして。 ひょっとすると。 俺達のしていた事は、意味が無かった? 全て無駄だった? ――――――最初から、勝負になっていなかった? 『頼忠が参加してもしなくても関係なかったのですね。』 『巻物を持ち出した事がバレたおかげで、説教喰らっただけ損したって事か。』 『声を誉めていただきましたが・・・・・・。』 『この姫君と一緒だと本当に退屈しないよ。』 『・・・・・・・・・・・・。』 『神子の笑顔が見られただけ良かったと言う事でしょうか?』 『紫姫の涙に弱いって解ったのに・・・!』 少女に信頼されている事は嬉しい。嬉しいのだが。 『『『『『『『俺達のしていた事は一体何だったのか?!』』』』』』』 泣きたいような、笑いたいような・・・複雑である。 「それで明日の物忌みは、誰に付き添って頂きますか?」 結局、勝負は付かず自分達で決める事は出来なかった。ならば、神子に選んで欲しいとの思いを込めて見つめるが。 「えっとぉ・・・・・・・・・。」眼が泳いでしまう。 ただでさえ、大切な時間を潰してまで付き添わせる事に申し訳ないと思っているのに、 七人の真剣な眼差しに晒されれば、一人の名前を言うなんて怖くて出来ない。 「紫姫・・・・・・。」縋るように見つめる。 「では、占いで――――――。」 紫姫が気を利かせて、占いで決めましょう、と言おうとした時。 「頼忠殿が来られましたわ。」 と、女房から伝えられた。 次でやっと頼忠登場です。・・・・・・・・・長かった・・・・・・・・・・・・。 2004/06/24 17:21:52 BY銀竜草 |