バレンタイン・バレンタイン・バレンタイン



 このブロンドのオジさんは、彼女に送るプレゼントを探すために俺を誘った。
 そうとも、それはわかっているさ。
 彼の彼女はすっごくキュートなんだ。もちろん彼が気に入るぐらいにね。そしてとてもラッキーだ。
「それで一日俺が付き合うの?!ビーン・ボーイ!」
「いいだろう?おまえの見たい店も見てやるからさ!」
 そう言って豪快に笑うところとか、そうやって大口開けて笑うところとか、満面笑顔全開で笑うところとか、好きだから困っちゃうんだよ、俺。
「バレンタインデーにバラの花、なんてありきたりなことはしたくないじゃないか」
 ああ、そんな気遣いされたら、きっとガールズもマダムも「ショーンは自分に気があるんじゃないか」って期待しちゃうよ。
 バレンタインデーのプレゼント選び、なんて言われて、俺だって期待してる。
 本命じゃなくても、けっこう気に入られてるはず、って。
 靴選びに付き合ってくれたりとか、他にも色々。……自分が着る物や履く物の見立てなんて、ただの友達に頼まないんだよ、普通。
「彼女のバレンタインプレゼントになにを贈るつもりなのさ」
 この離婚暦の多いプレイボーイに、後学のために女性に何をプレゼントすればいいのか聞いておこう。あのダニエル・ラドクリフ少年はかわいそうに、こういう先輩には恵まれてないからデートスポットに疎いんだ。
「特別なものなんかないよ」
 このオジさん、あっさり言ってくれやがった。
 特別なものなんかないなんて、もらった方にはすごく特別なものになるに違いない。
「似合いそうなものを贈ってあげればいいと思うんだよ」
 キザッ!
 それをあっさり、本当にやるところがシェフィールド出身のプレイボーイのすごいところだと思うんだよね、俺。
 でも俺を誘ってくれたのは、嬉しい。
「あー!あの靴よさそう!あれ見ていい?!」
 茶色のカジュアルな革靴、いいなぁ。ヴィゴが持ってたようなウェスタンブーツもいいなと思うんだけど、ドタ靴みたいな平たいの、これいいな。
 ……にこにこしたショーンが「いいよ。見てこいよ」と後押し。
 さりげなく、隣で別の靴を見ているのが、ちょっと眺めると様になるんだよね。
 あれは?これは?って言ってくるんじゃなくて、ただ自分に似合いそうな靴を探すような風に靴を眺めてる。
「どうだ?お気に入りにできそうか?」
 試しに履いているのを見て、一言。
「うーん……まあまあ。ショーンはいいのあった?」
「こっちもまあまあ」
 まあまあ、ね。靴売り場はここまでかな。
 ショーンがちらちら眺めるのはアクセサリー売り場とか。
「なあオーリ、若い子っていうのはこういうポップなほうが好きかな?」
 ショーンがまじまじと見ているのはキュービックジルコニアのピアス。
 それが好きかどうかは個人の判断だろうけど、キュービックジルコニアよりは本物の輝石のほうが若い子だって嬉しいと思うんじゃないかと思う。
「アンティークもいいかとは思うんだ」
「じゃあショーンの好きなほうにしたら?」
 あ、返答がない。
 悩んでる。
 バレンタインデーにバラの花よりも、彼女に似合うもの、か。
「バラの花なんて、そんなにありきたりかなあ?」
 俺としてはバラの花を贈ろうなんて思いつかないんだけど。
「自分で育てたバラならいくらでも、と思うけど、残念ながらバレンタインの季節に咲くバラなんてうちには植えてないんだ。温室がないといけないからね」
 ショーンの育てたバラなら、バレンタインなんかどうでもいいから見てみたい。
 こほん、とショーンが咳払いをするのが聞こえた。
「バレンタインにバラの花束っていうのは、やられると、けっこうどうしていいかわからないもんなんだって、実感したことがあるんだ」
 あー……本気でやりそうな人、すぐにひとり思いつくんだけど、それがその人かどうか確かめたくないな、俺。多分ニュージーランドで一緒になった、スペイン語が訛るアメリカ人だと思うんだけどさ。
 でも納得。
 やられて困ったら、それはやめておこうと思うよな。
「よし、これを包んでもらおう」
 俺が考え込んでいる間に、彼女へのプレゼントは決まったらしい。
 歩いて歩いて歩いて歩いて、よく歩くな、ビーニーって。
 彼女へのバレンタインプレゼントが決まったら、今度は園芸店にも寄るわけ。俺も付き合うけどね。
 でもそこで、ちょっとびっくりした。
 バラの苗を見ているのはいいんだけど、
「それ、買うの?」
「おかしいかな?」
「いや……」
 だってショーン、そのバラの苗、プレートに「アビゲイル」って書いてあるんだけど。
 ……ま、いっか。別に「アビゲイル」をアビゲイルにあげるわけじゃないんだし。
「オーリ、腹減った?」
 ああ、また俺が大好きな満面の笑顔。
「Yes!」
「よし、なんか食って帰ろうか。奢ってやる」
「ラッキー!」
 バレンタイン前のプレゼント、バレンタインデーは彼女に取られるけど、これぐらいは神様も許してくれる。
「ああ、オーリ、付き合ってくれたお礼というのも何だけど、なんでも欲しいもの言ってみろよ」
 マジ?
 ブラボー!ダメ元で言ってみるだけの価値はあるんじゃないか?頑張れ俺!
「じゃ、俺がもし、ビーニーが欲しいって言ったらくれる?」
 お願い、満面の笑顔でなにか言って。
 きょとんとしたショーンの沈黙、ものすっごい怖い。
「いいよ」
 満面の笑顔で……おい、オッサン今なんて言った?!
「本当に?!」
「いいよ。でもオーリ、本当にそれが欲しいのか?」
 怪訝な顔、というよりも困惑したような顔でショーンが訊いてくるけど、そんなこと構うか!
「それがいいんだ!俺、本当にそれが欲しいんだから!」
 ああ、どうしよう、顔に血が上ってきた。
 耳まで熱い。ビーニー、ビーニー、ビーニー!あなたって人はなんてすてきなご褒美をくれるんだろう!
「わかった、オーリ。今日は無理だけど」
 ああ、神様!ロケの間ロクに教会に行かなくてごめんなさい!来週から真面目に教会に行って、きちんと聖書も開きます!
「あ、あの、ビーニー!次って、いつ会える?!そのときはロンドン?!ビーニーのところ?!それともホテル?!」
 質問攻めだ、って言いたそうな顔で苦笑してる。
 でも、でも、あなた自分が何を承諾したのか、解ってるの?!



お子様扱い:オチは一瞬です。
青年扱い:むしろオチまでが長いです。


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はわわわ〜っ!
おねだりしたら、カイシカさんにいただいてしまいましたよ〜っ!!
バレンタインで花豆です!!
大人な豆と、ガンバレワカゾー!な花たんがカワイイ〜ッvvv
しかも、つづきが選択式です!
さささ、ずずいっと奥へ!!