□ セカンド・チャンス □
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シャワーを浴びながら、髪を洗う手が、小刻みに震えている。
流れてくる泡のため、目を開けることが出来ない。
それが余計に、自分の身体のふるえを自覚させ、タケルは肩ではあ・・と息をついた。
ため息すら、ふるえている。
居間からは、兄がつけているテレビの音が聞こえている。
先にシャワーを浴びて風呂上がりに、今頃ちゃっかり、勝手に父のビールなんかを拝借しているのだろう。
そんな兄の様子は、いつもと少しも変わらない。
なのに。
なぜ、自分だけがこんなに意識してるんだろう。
震えてどうにもならないくらい、それをとめることも出来ないくらい。
ざあああ・・・とシャワーの湯の勢いを強めて、さっとシャンプーを流して湯を止め、浴室の鏡に映る自分を見る。
青白い頬。
細い腕。
うすい胸。
尖った肩。
やせっぽちの身体。
・・・なんて、みじめな。
こんな身体を、兄は本当に抱きたいと思っているのだろうか?
錯覚かもしれない。
こんな自分の、どこをいったい好きなんていえるのだろう。
特に美形だとか可愛くもなく、頭がキレるわけでもない、ただの平凡なコドモの僕を。
「ああ、もう!」
タケルはそんな自分の思いを振り切るように、きつくかぶりを振った。
だめだ。もう!
1人で考えてると、どんどんキモチが奈落の底まで落ちていってしまう。
兄は好きだって言ってくれた。そんな自分のことを、それでも好きだと言ってくれた。
いいよ、それだけで、他の何も、考えちゃ、だめだ。
僕は、僕で、お兄ちゃんが好きなんだ。
他の誰よりも。
今は、それだけでいい。
落ち込むことなんて、後でだって出来るんだから。
家に帰って1人になってからだって、出来るんだから。
今は、これからのことだけを・・。
・・・・これからの、コト。
考えて、どきんと胸が大きく鳴った。

青白い頬に少しだけ、赤みが差す。
こんなカラダでも、兄は求めてくれて、愛してくれたんだ。
それこそ、カラダ中、至る所を。
コトバで、指先で、唇で。
・・・・・・・舌で。
確かめるように。
まるで、僕という存在が、本当にそこにいるのかを、確かめるかのように丹念に。
気を失うくらい恥ずかしくて、気を失うくらいに嬉しかった。
それを、またもう一度、兄は僕に求めようとしてくれている。
あれを、もう一度味わうのか。
あのいたたまれないほどの快楽と、背徳感と、切なさと。

「僕は、今から、お兄ちゃんに抱かれるんだ・・」

声に出して言ってみて、恥ずかしさに泣きたくなった。
鏡の向こうの青白かった自分が、茹で上がった蛸のように真っ赤になっている。
それにざぶんと浴槽の湯をかけて、タケルはスポンジを手にとると、ボディソープを真剣な顔で泡立て始めた。
(と、とりあえず、と、とにかく、キレイにはしておかなくっちゃ!
 あ、あちこち・・・。うん・・)


1時間も風呂に入ったまま出てこない弟を心配して、そろそろ声をかけてみようかと思った矢先、ちょっとふらついた足取りでやっとタケルが浴室から顔を出し、ヤマトはほっとしたようにソファの上でため息をついた。
正直、つけっぱなしのテレビも何が何やら、ほとんど目にも耳にもはいってなかった。
それでも、そんな素振りはちっとも見せず、冷蔵庫の扉を開けると、オレンジジュースの缶を取って「ほら、タケル」と投げ渡す。
「あ、ありがとう・・」
どうでもいいけど長い風呂だったな、と言いかけて、ヤマトが慌てて口をつぐんだ。
なんだか、それを責めているようにとられるんじゃないかと、そんな気がしたからだ。
「おいおい、それで、ちゃんと拭いて出てきたのかよ? 髪、びしょびしょじゃん」
そばに行って肩からかけたタオルで髪を拭ってやろうとして、その肩や髪の冷たさに思わずはっと息をのんだ。
「おまえ、水シャワーでもしてたのか?」
「あ・・・。うん。長風呂してたら、なんか、のぼせちゃって。それで、水でシャワーして出てきたんだけど」
「バカだなあ。風邪ひくぜ?」
「うん。ごめん・・」
「いや、いいけど」
言いながら、髪を拭う手がほんの少しタケルの頬にふれる。
それだけで電気にはじかれたように、その身体がぴくっとするのがわかった。
パジャマの下で、小さな身体が小刻みに震えている。
「・・・寒いのかよ? 水なんか浴びたから」
「あ・・う、うん・・。そう、だね。そうかも」
話す唇も心なしか震え、声も気のせいか少し上擦っている。
「エアコン強くしてやるから、ほら、これ着てろ。あ、ジュースは返品な。あったかいココアでも入れてやるから、そこ坐って待ってろよ」
「うん・・」
自分のフリースの上着を投げ渡し、タケルの手からオレンジジュースを奪い取ると、ヤマトがキッチンでミルクを暖め出す。
それを見ながら、なんだか申し訳ないような情けない気分になって、タケルはソファの上で丸く膝を抱えた。
抱いた膝が、がくがくと震える。
しかも、歯もがちがちと鳴って。
どうしよう、とめられない。
でも、これは寒いからじゃない。
兄は、気づいただろうか?
このふるえが、寒さのせいじゃないんだってことに。

「ほら」
「・・ありがと」
差し出されたカップを両手で取って、少し顔を上げて、目を見ないようにして小さく礼を言う。
そして、そっとカップを口に運んだ。
カップのあたたかさはしっかり手につたわってわかるのに、ミルクココアの甘さがわからない。
・・・泣きたくなった。
気遣ってくれるやさしさが、なんだかつらくて。
コドモな自分がどうしようもなく嫌で。
そのくせ、頭だけはオトナぶった欲望と妄想でいっぱいだ。
釣り合わないことをしている。
「・・・お兄ちゃん・・」
助けを求めるように呼んだ声に、「ん?」といたわるような声が答えて、いつものやさしい手がポンと頭の上に置かれる。
そのまま隣にすとんと腰を下ろしてきたヤマトに、タケルの全身がビクッ!とわななき、思わずカップを投げ出しそうになってしまった。
ヤマトはそれを知ってか知らずか、少し身体をずらして坐り直し、タケルとの間に半人分くらいの空間を作った。

「今日さー。太一のヤツがさ」
「・・・え?」
唐突な話題に、タケルが驚いて顔を上げてヤマトを見た。
「昨日、貸してやった数学のノート返しにきてさ。ま、それはよかったんだけど」
「・・・うん」
「いざ、授業始まってノート開いたら、アイツ、すっげえ落書きしてんだよ」
「落書き?」
「ああ。数学の須藤は・・・あ、数学の教師、須藤ってんだけど。アイツ、ぜってーヅラだってオレらのクラスじゃ噂だぜーとか。でっかい字で、ご丁寧に絵まで描いてくれて」
「ええー」
「それをまた隣の席のヤツが見つけてバカ笑いしやがるからさ、しっかり見つかっちまって・・」
「で、どうしたの?」
「俺、すげー大目玉くらってさ。数学の間中、廊下に立たされたんだぜ」
「あはは・・」
「笑いごとじゃないって、まったく! ま、その先生の授業タルくてあまり聞きたくなかったから、ちょうど良かったけど。ほんっとに、太一のヤツだけは!」
「でも、太一さんらしいねー、そういうの」
「おいおい、俺の立場はどーなるんだよ? 兄の名誉を傷つけられたってのに、弟は怒ってもくれないのかよ」
「だってー」
ふてくされたように言うヤマトに、タケルがくすくすと笑っている。
「お兄ちゃんたち、中学3年になっても、小学生の時と少しも変わらないんだもん」
そういうヤマトと太一の関係は、とてつもなく羨ましいと思うし、時には妬くこともあるけれど、やっぱり大好きな二人の話を聞くのは楽しい。
タケルは素直にそう思った。
あ、でも、今どうしてそんな話を?と考えかけたところで、ヤマトがおだやかな声色で言った。
「俺な、タケル」
「・・・え?」
「おまえが風呂入ってる間、ちょっとよからぬコトを考えちまってさ」
よからぬコト、の内容には充分思い当たるタケルは、自分の心を言われてしまいそうで、思わずその口をふさぎたくなってしまった。
「いや、まあ、よからぬコトってのは、今に始まったことじゃねえけどさ・・・。お前のこと、いろいろ、考えてて、出てきたら、どうしようとか。どんな風にベッドに・・」
ベッド、という言葉に、タケルの全身がぎくっと反応する。
それをちらっと見て、ヤマトは小さく微笑みながら、微かにため息をついた。
「どんな風にベッドに誘おうかとか、試行錯誤してるうち・・。ふと、まだ4人家族だった頃の写真を、おまえが今も大事に自分の机の引き出しに入れてたのを思い出してさ・・・。タケルのヤツ、どんな思いで1人、部屋であれを見てたんだろうって思ったら・・・。なんか、たまんなくてさ」
「お兄ちゃん・・」
「俺と、こういうコトになって・・・。そりゃあ、もう、どうやったって元の4人家族には戻れやしないけど、それでもまだそんな夢も持っている
かもしれないおまえに、ああいう席で、親父とかのいる前で、今夜俺のとこ来る・・って、そういう決断を無理にさせて、もの凄く残酷なことしてんじゃないかって、思ってさ。俺がもし、兄弟とかじゃなかったら、お前も俺ももっと無茶なことも考えるのかもしんないけど・・・。一回あんなコトしといて、今さらって思うかもしれねえけど、なんか俺、ヒドイんじゃねーかって・・」
自分の膝の上で組んだ両手を見つつ、ヤマトが静かに言う。
「俺、おまえのことが好きだよ。タケル・・」
「・・・・お・・」
思わず、呼ぼうとした声が出ずに固まった。

「ずっと好きだったし、今も、これからも、そんなにいきなりキモチが変わるなんて、そんなこと有り得ないと思う」

お兄ちゃん・・。

「だからこそ。今、じゃなくても、いいって、そう思えてきたんだ・・。おまえのキモチがついてきてないのに、俺ひとり、突っ走って、そんな状態で深いトコまでいっちまったら・・・。おまえの気持ちがもたねーもんな・・」

ち、ちがうよ、お兄ちゃん。

「大事にしたいと思ってる。その通りにちゃんと出来るかどうか、ずっとは自信ないけどな。でも、お前が嫌がるようなことは、しないよ・・ つーか、したくない」

待って。僕は、そんなこと。

「タケル、俺はさ。そういうのじゃなくていいんだ」

お願い、待ってったら。

「今じゃなくたっていい。ちゃんと待ってやるから。おまえがもっと、心もカラダも成長するまで」

待って、ちがうんだ。そんなこと、僕は望んでるんじゃないよ・・?

「お兄ちゃん・・・ 僕は」
やっとの思いで絞り出した言葉が、またふるえる。

こういう時、こんな風に兄が明快な答えにたどり着くとき、いつも自分は一歩出遅れて、そうして、真意を伝えられないまま機会を逃す。
初めての時も、結局自分の言葉で、キモチを伝えることができなかった。
好きだと言ってくれた兄の言葉に、僕も、と頷くだけで精一杯で、泣きじゃくってあとはもう感情をどう言葉にしていいわからなかった。
だからこそ、2度目の機会が与えられたことを喜んだのに。
また、キモチは舌の上を素通りして、声にもならず、息がこぼれるばかりだ。
ヤマトがソファを降りて、坐ったままのタケルの前に屈み込む。
下から見上げるように見つめて、小さい子に言い聞かすように頭を撫でながらやさしく言った。
「だから、もう無理はするな・・。おまえのそういう顔みてると、なんか、苦しいよ。俺が、おまえにそんな顔させてるのかと思うと・・さ」
な・・?と笑って、タケルの半乾きの髪をくしゃくしゃっと撫でて言った。
「布団出してくるよ。今日は、おまえ、俺のベッド使っていいから」
「え・・・っ」
「安心しろよ。なんにもしねえから。だから、そう怯えるなって」
まあ、合格祝いはまたなんか考えるからさ、と軽く言って立ち上がろうとする。
「・・・・・・・・・っ!」

お兄ちゃんは、ズルイ・・。
いつも、そうやって、僕の気持ちを先読みする。
先読みして、先回りして、僕の前にとおせんぼをする。
僕は、それで仕方なく、迂回して、通るはずじゃなかった道を通る。
たどり着くはずじゃなかった、答えにたどり着く。

誰かが、
ヒカリちゃんだっけ?
前に言ってたことがある。
チャンスの神様は前髪しかないから、通り過ぎてしまった後では遅いんだって。
前に来た時に、その髪を掴まないといけないんだよって。
でも、タケルくんはやさしいから、髪の毛掴むなんて、できないんだよね?
だから、いつも、チャンスがあるのに、それが通り過ぎるのをじっと待ってる。
微動だにせずに。

・・・本当だ。
さすが。
キミの考察は、いつもとても正しいよ。
でも、それじゃあいけないって、本当はそう言いたかったんだよね・・?

そう思い、考えて、タケルはヤマトが立ち上がって、自分の前に背を向けた次の瞬間。
猫のような俊敏さで、いきなりソファの上に立ち上がり、思い切りその背中に飛びついていた。
ヤマトが一歩歩き出したところだったので、ソファから橋をかけるように、そのカラダが斜めになる。
「うわ」
「お兄ちゃん・・」
「な、なんだよ、おい・・」
「駄目だよ、お兄ちゃん・・!」
「な、何が・・つーか、苦しいって! おい」
「やだ、離さない」
「離さないったって、首締まってるんだけど、タケル!」
「撤回して」
「え?」
「今の! 撤回して! じゃなきゃ、離さないんだから!」
「な、何をだよ」
「全部!! ・・・あ、でも、僕を好きだって言ってくれたのは、できたら撤回しないで」
「・・・は?」
背中から腕を回して、ヤマトの身体にしがみつくようにしているタケルに、ヤマトが自分の首に巻き付いている腕にそっと自分の手を重ねる。
「・・・勝手に決めないで・・よ」
涙にくぐもった声が言う。
「だから、何を、だよ」
「僕の気持ちとか、僕の思いとか、今日これからどうするとか・・! 1人で決めないでよ・・!」
「・・・タケル?」
「お兄ちゃんは、ズルイよ・・! いつも、そうやって、僕の気持ちを置き去りにしてく・・。キモチ汲み取ってくれて、いっぱい考えて思いやってくれて・・・。けど・・・。僕は、そうじゃない・・。僕の答えは、そうじゃないんだ・・・!」
叫びとともに、涙がこぼれた。
その気配が、振り返れないヤマトにも充分に伝わる。
「前も言えなかった・・。今度は言わせて・・。ちゃんと言いたい。キモチ、僕は・・・」
「タケル・・」
ソファから少し踵をのばすようにして斜めになった不安定な体勢のまま、ヤマトの首に後ろからぎゅっとしがみついてタケルが言う。
「タケル・・・俺は・・」
ヤマトが少し、苦しげな表情で言う。
タケルは、小さいコドモのようにかぶりを振った。
「いやだ・・っ。今でなくてもいいなんて、そんなの、いやだ・・! 今じゃなきゃ、僕はいやだ・・。誰かのこと、思っているわけじゃない、お母さんのこと、考えてるわけでもない。これでどうなるかなんて、そんなこと、いいんだ・・!」

散り散りの家族。
戻れない家族。
そんなこと、わかってる。
ほんの少し、夢見ることはまだあるけれど。
写真があったのは、壊れた過去の家族に思いを馳せているからじゃない。
ただ、お兄ちゃんと、そうやっていつも一緒にいられたあの日々が、たまらなく愛おしくて、
そこに戻りたいと、
1人きりで眠れない夜に、
そんな想いの中で、心地よく泣きたいだけなんだ・・。
まだお兄ちゃんが自分だけを想ってくれていた、
あの愛おしい時間が確かにあったことを、思い出していたいだけなんだ。

それに、今じゃない未来に、
お兄ちゃんが他の誰でもない僕を、
何の取り柄もない、痩せこけた猫のように可愛いげのない僕を、
まちがいなく選んでくれるという、そんな保証がどこにあるの・・?

「タケル・・」
「ただ、ほんとに・・・。こわいだけなんだ・・。漠然と、怖いだけで・・・」
だって、本当は求めてはいけない人と、絶対にしちゃいけないことをするのだから。
だけどもそれは、ほんの少し、甘く秘めやかな魅力も持っている。
だから、求めようとするのだろうか・・?
「タケル・・・?」
「それに・・」
「ん・・?」
「・・・・怖いのと、それと、やっぱり・・・。恥ずかしいし・・・」
しんみりとタケルの告白を聞いていたヤマトが、最後の一言に、思わず昏倒しそうになってしまった。
はあ・・・とため息をついて、片手で頭を抱える。
まったくこの弟は・・。
ヒトの耳元で、なんて声で、なんてことを言うんだろう。
確信犯じゃないのはわかっているが、あんまりだ・・。
なんとか今日は踏み止まろうと決心して、気を散らそうと努力したことが、その一言ですべてパーになっちまうじゃないか。
こっちだって、自慢じゃないが真っ盛りな15歳で、頭の中なんてちょっと気を抜けば欲望一色になりかねないと言うのに。
それを押さえつけて、先送りを決めたのは、並大抵の努力じゃないんだぞ。
それを全部無駄にする気かよ?
どうしてくれるんだ。
今ので、一気に下半身に血液が集中してしまった。
「・・・・・あのな。タケル」
「・・・・怒った?」
「・・・ああ、少しな」
「僕、わがまま言ってるから・・」
ヤマトの返事に、少ししぼんだ声が返ってくる。
いや、そういう意味じゃない。
落ち込ませてどうするんだよ。
ヤマトが困ったように笑う。
「おまえのわがままは、まあ可愛いからいいよ。つーか、全然わがままじゃねえし。ただな。正直に言っちまうと、俺、大概無理してんだよ、今。なんでもないような顔してあんなこと言ったけど、本当はおまえと・・・」
「・・おまえ、と・・?」
すげえヤりたくて、というのは単刀直入すぎるか。
コイツ、まだ小学生だし。
「おまえと、寝たいと思ってる」
「・・・・それって、パジャマ、着ないで・・?」
可愛い返事に、思わず吹き出しそうになった。
俺の頭の中身を知ったら、コイツ、すぐにでも靴履いて逃げ帰るんじゃないか?
思いつつ、間違ってはないのでそれに頷く。
「ま、そんなトコだけど・・・。でも、本当は、おまえイヤなんだろ? そんなことしたくないんだろ? さっきだって震えてたし、初めてしてからずっと俺のこと避けてたし・・・。まあ、実の兄に、あんなことされちゃ、嬉しいワケ・・・」
「う、う、嬉しいよ・・! そ、そりゃ、恥ずかしいし、怖いし、それに・・・・い、痛かったりもするし、今だって逃げ出したい気持ちだけど。・・・でも、イヤじゃないよ・・。むしろ、あの・・・。そうされたいって・・・・ お兄ちゃんに・・・」
真っ赤になっているのが、背を向けていてもわかる。
首に巻き付いている腕さえ、熱を帯びてアツイ。
ちょっといじわるく訊いてみる。
「そうされたいって、どう?」
「ど、ど、どうって・・」
「・・こういうコト、かよ?」
絡みついている腕をゆっくりとはがして、そのままヤマトがくるりと自分の身体の向きを返る。
目のまん前にヤマトの顔が来て、タケルがぎょっとしたように真っ赤な頬をなおも染めた。
その唇に、やわらかくそっと口づける。
「おに・・・」
一瞬で離されたそれは、今度は少し斜め下からやってきて舌先でこじ開けるようにしながら、タケルの唇を開かせて、なおも奥へ入り込んでくる。
ひっこめたタケルの舌にそれが絡んで、もう押さえきれない熱を伝える。
長く深く甘い口づけに、タケルの膝がかくりと折れた。
名残を惜しんで唇が離れ、落ちてきたタケルの身体を腕に抱きとめて、ヤマトが抱きしめた細い肩と項に唇でふれながら小さく囁く。
「・・・いいのか? 本当に」
「・・・・うん」
「俺、もう我慢の限界だから・・。あとで泣いてやめてって言っても、もう止められる自信ねえけど?」
「うん・・ いいよ、大丈夫」
それでもまだ微かに腕の中でふるえている弟に、ヤマトがはあ・・とため息を漏らして苦笑する。
「・・・カッコ悪いなー、俺・・」
「え・・・?」
「前言撤回早すぎ・・」
自分に呆れたような言い方に、タケルが思わずくすっと笑った。
「そんなことないよ。僕が、そう頼んだんだもん」
「おまえはね、ちょっと兄貴を甘やかしすぎだぞ」
「お兄ちゃんこそ、僕に甘過ぎだよ」
みんなそう言うよ?特に大輔くんとか・・と言って、タケルがやわらかく、ふふっと笑った。







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