□ セカンド・チャンス □
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明かりを消してと切望されて、部屋のドアの鍵も確かめて。
少し開いたカーテンの隙間から入る月明かりを頼りに、ベッドに横たわる弟の唇にやさしくそっとキスをした。
抱いてつれていくという兄の申し出を丁重に(必死の抵抗で)断って、自分の足で兄の部屋に行き、自らベッドに上がって、まるで棺に収まるかのように横たわって胸の上に手を置いて指を組むタケルに、ヤマトがどうしていいやらと困った顔で笑いを漏らす。
まな板の上の鯉と例えるには、ちょっとかわいそうなタケルの必死の顔に、笑ってはいけないと思いつつも、思わず顔がゆるんでしまう。
ベッドに腰かけ、キスを施しながら、胸の上で合わされた手をゆっくりと開き、シーツの上にゆるく押さえ込む。
その指先までぴりぴりと緊張が走るのに、小さく噛み締めた唇から漏れる息はもう早いのに、うすい胸の下でうつ心臓は胸をもう突き破りそうなイキオイなのに。
それでも、健気に無理に微笑もうとするのがいじらしい。
白い頬に手を添えて、深いキスをしながら、3つくらいボタンを外したパジャマの隙間から手を差し入れると、それだけで上体が跳ね上がる。
「ア・・」
兄の手のひらにこすられて、あっと言う間に反応する胸の飾りに、ヤマトが片手で器用にパジャマのボタンをはずしながら、唇をよせる。
軽くついばむようにするだけで、小さく鳴いて、喉をそらした。
まるで医者に見せるようにパジャマの胸を全部開かれて、自分もパジャマの上を脱ぎ捨て重なってくるヤマトの身体の熱さに、タケルの身が小さく震える。
初めての時も、たしかこんな風に、生まれたての雛鳥のようにふるえて兄を待っていたような気がする。
でも、それからのことは、何が起こったのか、何をされたのか、ほとんど頭の中が真っ白になっていて、しばらくは記憶から抹消されていた。
それを、少しずつ何かの拍子に思い出してきたのはごく最近で・・。
1つ思い出せば芋蔓式に思い出されてくる恥ずかしい記憶に、忘れていたことは正解だったとしみじみ思った。
そうでなければ、あんなことのあった後に、普通に、兄と顔を合わせることなんか、とても恥ずかしくてできなかったろう。
この手で、この指で、身体のいたるところを撫で回されて、見せるだけでも恥ずかしい場所まで全部ふれられて、その上唇や舌でまで撫でられたりしたのだから。
「アアア・・・・!!」
喘ぎが悲鳴のようになって、唇から溢れた。
両手を開いたままシーツの上に押さえて閉じられなくしてから、ヤマトの舌が存分に、健気に勃ち上がった胸の小さな飾りを舐め上げては吸い付く。
意識がぼんやりしていくのと同時に、苦しい熱が下半身に集まっていく。
ふれなくても充分に高まっているのがわかるそこを、いきなり兄の手に包み込まれて、タケルが思わず悲鳴を上げた。
「イヤ・・・! お、にいちゃ・・・!!」
「こんなままじゃ、苦しいだろ?」
「や! さわんないで・・・っ!」
「もう、こんなになってんのに?」
「アアッ・・・!」
パジャマのズボンの上から撫で回されて、恥ずかしさと快感に腰が捩れる。
その手が上に戻って、タケルの下腹を撫でながら、また下へと降りていき、パジャマのゴムを過ぎて、下着の中に潜っていく。
「や、や、や・・・! お兄ちゃん! やめ・・・!」
「泣いても、やめないって」
「ふあ・・!」
直にふれられる刺激の強さに、タケルがぎゅっと目をつぶって片頬をシーツに押しつけて、全身を強張らせる。
首筋にキスをされて、痛いほど勃っている胸の突起を指先で刺激されながら、花芯を熱い他人の手によって扱かれる。
その手の動きに合わせるように腰が浮いて、無意識の愛撫を求めようとすることに、タケルの目尻が羞恥に染まる。
ピリリ・・とつま先まできつく張りつめた瞬間。
ヤマトの手の中で、あっけなくタケルは達していた。
白い肌が朱に染まって、息がかわいそうなほどに弾んでいる。
自分の失態を恥じ入るように両腕で顔を隠して、涙に喘ぎまで詰まらせる。
「タケル・・」
やさしい声に呼ばれて、涙を拭った。
「別に恥ずかしいコトじゃないんだぜ? オトコなら普通だし、あたりまえのコトなんだから」
「だって・・」
「俺がおまえに望んでるコトは、つまりこういうことなんだ・・。それでも、いいのかよ? もちろんそればっかじゃねえけど、そういうの切り離してはナイぜ? いいのか? 今だったらまだ・・」
引き返せはもうしないけど、間違いだったと、一時の過ちだとか、はずみだったとか言い訳して、自分の心を誤魔化すことくらいはできる。
けれども、ううん・・と気丈に瞳を開いて、タケルが首を横に振る。
けっこう強情なんだ、とこんな時、つくづくと思い知らされる。
「いいよ・・。わかってるもん・・」
掠れた声でそう言って、あとはもうおまかせしますとばかりに、タケルが、まだ身体中を強張らせたまま、ぎゅっと決意のように固く目を閉じた。
ヤマトがその欲情的なしぐさに、もう押さえきれないものを感じて、タケルの唇に答えのように口づける。
今までとはうって変わった、激しくむさぼるような口づけで。
わななく肩で怯えているのだとわかりはするが、きれいごとを言ってみても、こっちももう限界なのだ。
ずっとずっと、初めての時から後、どれほど欲しかったかわからない弟のカラダを、今好きにしている自分に、本当はすぐにでも溺れてしまいたいぐらいなのだ。
欲望のまま、愛撫も何もかも後回しにして、本当はとにかく喰らいつきたいくらいなのに、その体内の肉に。
「う・・・・」
ズボンを足から抜き取られ、乱暴に下着まで取られて、尚一層固く目をとじてタケルが呻く。
膝を割られて大きく開かされ、白く細い内腿にヤマトの唇が吸い付くと、ああっと一際大きな声が漏れた。
付け根のぎりぎりをさんざんに甘噛みして鳴かせて、あっというまに勃ち上がってきたまだ幼いものが先走りに潤むのを、舌で舐め取り、嫌がるのを強引に口の中で愛撫する。
「いやあぁあ・・・・・っ!! あ・・・あ・・・・っ!」
がくんと一端沈んでから、逃れるようにずり上がる腰を抱き寄せて、慣らすために、滴ってきた先走りの滴を指に取って、固くつぼんだ窪みにあてがう。
長い指が押し入ってくる感覚に、脳天まで痛みと痺れが突き抜けていく。
「はあ・・ああ・・・っ・・・ん・・・あ・・・!・・うう」
限界が近づいたタケルのものを口から解放して、ヤマトはせり上がっていくと、タケルの白い喉元を舐め上げ、荒い息を吐き出しながら言った。
「悪い・・。もう少し慣らして、からにしたいとこ、だけど、もう、俺も限界なんだ・・。おまえが欲しくて、・・」
言うなり、指が抜かれ、代わりに熱いものがそこに押し当てられた。
「たのむから・・・ 力入れずにいてくれよ・・・な。 傷つけねえように加減できる、自信ねえから・・」
言うなり、タケルの激痛が下肢を襲った。
関節がはずれそうなほど、広げられた足が痛い。
それ以上の信じがたい痛みに、気を失ってしまいそうだ。
一度でも受け入れたことがあるというのが奇跡という気さえする、すさまじい痛みに泣きたくもないのに、涙がこぼれる。
「息、しろ・・・ タケル・・・」
痛みを堪えるのに集中するあまり、ぐっと奥歯を噛み締めて呼吸を忘れていたタケルに、ヤマトが苦しそうに言った。
全部をタケルの中に埋めて、ゆっくりと動き出す。
傷つけないようにしたいという思いとはうらはらに、強烈な快感に、我をわすれてただもっと内部を欲して、激しくタケルを突き上げる。
喉が裂けんばかりの叫びを上げかけて、タケルは思わず、ほとんど無意識に枕を引き寄せそれに歯をたてた。
ヤマトの手がなだめるようにタケルのものを扱き出し、快楽と激痛に挟まれるカタチで、タケルの意識は真っ白になった。

・・・・ああ
でも、言わないと・・・。
これが、2度目のチャンス。
そして、次はもうないかもしれない。
最後のチャンスかもしれない。
気持ちを今度こそ、ちゃんと、言おう。
気を失ってしまう前に・・。
伝えたい、伝えなくちゃ・・・。

枕を離して、少しだけ瞳を開いて、兄を見た。
夢中で、自分が与える快楽に酔っていたかのような兄が、僅かに表情を変える。
それに、思いを振り絞るようにして手をヤマトの頬に差し伸べて、カラダを折り曲げられた不自然な体勢のまま、微かに微笑んでタケルが言った。

「僕は・・お兄ちゃん・・が・・・好き、だよ・・・!」

「・・・タケル・・!」

ヤマトが小さく叫ぶなり、タケルの手がヤマトから離れてぱたりとシーツの上に落ちた。
と、同時に、その体内に欲望を放って、ヤマトが荒い息をつく。
「タケル・・・」


もしも好きになった人が、血のつながった兄ではなかったら。
もっと早くに気持ちを伝えていたかもしれない。
それとも。
伝える必要など思いもしなかったのだろうか。
いつか壊れていくカクゴで、それでも今想いをつたえておきたいと、
そうまでは思わなかったかもしれない。
一時の感情だと、どうせなくなるものだからと、冷めた自分でいたかもし
れない。
でも。
お兄ちゃんだったから。
そのお兄ちゃんに好きだと言ってもらえたから。
僕は、臆病者のままではいられなかったんだ。
どうしても、自分のキモチを伝えたかった。



次に目覚めた時は、すっかり息の整った兄の胸の上だった。
とろんとした目のまま見上げると、少し心配そうにヤマトが見下ろしていた。
肩をいたわるように抱いてくれている手が、あたたかい。
「大丈夫か・・?」
「うん・・」
「悪い・・。なんか、俺、夢中でさ」
”夢中で”というコトバが、なんだか気恥ずかしいけれど嬉しい。
そんなに夢中になってもらえるほど、自分の何が?と思うけれど、一時でも兄にそんな風に思ってもらえたんなら、嬉しい。よかった・・。
だって、つまらなかったと言われたら、きっと死にたくなるだろうし。
「タケル?」
「ううん・・。あ」
「ん?」
「合格、おめでとう」
「よせよ・・」
バツが悪そうに笑ってから、いかにもそのためだけみてえじゃん・・と、兄はちょっと渋い顔をした。
その、ちょっとふてくされたような顔が子供みたいで、なんだか可愛い。
クス・・と笑うと、今度は、けげんそうな顔をする。
「まさか、もしかして、「合格祝い」にこれっきりとか?
 次は、大学合格までお預けとか? そんなこと、言わねえよな?」
「ええ?」
兄の発想にタケルの方が驚いて、目を丸くしてしまう。
そんなわけ、ないでしょーと笑って、伸び上がってヤマトの唇に軽くキスをする。
兄の手がくしゃっと髪を撫でてくれ、おだやかに微笑んだ。

「ありがとうな、タケル・・」
「・・え?」
「嬉しかったよ。俺。おまえのキモチ聞けて・・さ」
「お兄ちゃん・・」
「本当に嬉しかった。俺の片想いじゃあ、なかったんだな・・・」
こんなことまでしてて、今さら何を言ってるの?と言いたかったが、ヤマトがあまりに嬉しそうな顔で笑ってくれたので、タケルは言わないことにした。
だって、自分もずっとそう思ってたんだから。
初めて、からずっと、やっぱり僕の片想いなんだろうって。
伝えられてよかった。
コトバにして、やっと伝わることも、やっぱりあるんだ。
よかった・・。



ねえ、ヒカリちゃん?

やさしいことなんか、もともとなくて、
ただ何かをいつもあきらめていただけの僕だったけど。
でも今度だけは、
少々乱暴でも、神様の前髪は掴んで離さなかったよ。

2度目で、チャンスをものにできたよ。
嬉しかった。
こんなに嬉しいものだったんだ。
キモチを伝えることは。
心地よくて。
満たされることだったんだね・・・。







END












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やっと終わったー!
長かったですね、マジで! ヤオイが?(長いわりには大したことやってない・・・)
というか、この3、4だけでもよかったんじゃないかという気もします。
でも自分なりに、かなり一生懸命かけたと思う。楽しかったです! やっぱヤマタケはいいなあv そしてショタ好きな自分も再確認できたし(笑)

いろんな環境の変化の中で、この先兄弟がお互いをどう想っていくのかというのはなかなか難しいテーマですね。 成就した方がつらいことの多い恋、というのも哀しいですが、でもそこは二人で越えてくものだと思うから・・。
1人で苦しいよりは、ずっといいんだと、タケルがそう本当に思えるような、そんな恋になるといいな。
しかし、私がSSを書くたび、タケルの苦手なものがふえていく気がします。
いや、どうもネタにしやすくって・・。
精神的に不器用そうなところが。ごめんねー(笑)

というわけで、ながら〜くお待たせしました2000ヒットキリリク!
(いつの話だよ〜 智ちゃん!! ごめんねーほんとにもう!)
本当に遅くなってしまってごめんなさい! 
そして、今まで待ってくれて、本当にどうもありがとうvvv



 

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