◆ 伽羅

【3】

「兄さ・・」
瞬の唇は、途中で言葉を失っていた。
口づけに奪われて、言葉も心も・・。
幾度も幾度も、離してはまた口づけられて、次第に次第に濃厚なものになっていくそれに、瞬が戸惑いがちに舌で答える。
兄の腕に力強く引き寄せられると、着物の裾が乱れ、細く白い両足が膝あたりまでを覗かせた。
口づけられながら無意識に、その乱れを整えようとする瞬の手を、一輝が掴み引き寄せて遠ざけると、代わりに尚もそこを開かせる。
そして、いきなり強引に、閉じられた腿を割って、その奥へと手を差し入れた。
「あっ・・・」
何1つ纏っていないそこを、いきなり兄の手にふれられて、瞬が頬を染めて小さく悲鳴を上げた。
唇を離して、その手に抗う。
だけども一輝は許さずに、瞬の背中をもう一度きつく抱き寄せると、さらに巧みにそこを煽った。
一輝の太い指に翻弄される快楽に、瞬が朱に染まる頬を兄の胸に押しつけ、腕を挟み込んだ膝立ちのまま、白い腿を打ち震わせる。
「あ・・・あぁ・・・・・っ」
何を言おうとしていたのかさえ、言い出しかけた言葉すらも、もう思い出せない位に頭の芯が痺れている。
一輝の腕が崩れそうになる瞬を支え抱き上げると、静かにその身を、こぼれた桜の花びらが色成してつくる薄桃色の絨毯の上へと横たわらせた。
はだけた白い布の狭間から、片方の膝頭が覗き、兄がそれを手のひらに包むように撫でると、ぴくり、と身をふるわせる。
それに合わせるように少し強めの風が吹き、花吹雪はなおいっそう激しくなって、天使の羽毛のように二人のまわりに降り注いでくる。
瞬の白い着物にもそれがこぼれ落ち、薄い朱の柄を落とすように彩った。
一輝がその上に身を重ね、弟の顔を見下ろすと、少しだけ開いた唇にそっと口づける。
そして、静かに弟の身体を腕の中へと抱きしめた。
その暖かな腕に抱かれながらも、瞬が、一度煽られ熱を帯びてしまった己の身体が、もっと兄の激しい愛撫を求めようとするのを持て余し、その羞恥に身を捩る。
白くのけぞる喉元に口づけながら、兄の手は瞬の着物の裾を大きく割って、足首から脹ら脛を撫で、そのまま膝頭を撫で上げる。
その手が太股の外側に這い上がると、たくしあげられた布によって、瞬の片方の脚は完全に覆う衣を奪われ露にされた。
そうされて初めて、着物姿で抱かれることの恥ずかしさを思い知り、瞬がきゅっと唇を噛む。
いつもより激しい兄の動きに微かに怯えながらも、助けを求める先は兄より他は知らないので、震える指でその身体にしがみついた。
腿を撫でていた手がさらに這い上がり、何も纏っていない裸の腰を手のひらで味わう。
そして、もう一度、瞬の快楽の花芯へと指を絡め、もう一方の手で胸を開かせた。
両のうすい肩が衣を落とされ剥き出しになって、兄の口づけにそ滑らかな肌をゆるやかにうねらせる。
「ん・・・・・ あ、あぁ・・・・ぁっ」
兄の指にきつく絡みつかれ高みに引き連れられていきながら、瞬が吐息のような声で鳴いて、耐えるように苦しげに朱に染まった頬をその身の下に敷きつめられた桜色の絨毯に押しつける。
落ちていた花弁らが、その切ない呼吸にふわり・・と舞った。
苦しげに嬉しげに、くっときれいな眉を寄せ、呻き喘ぐ瞬の声に呼応するように、桜の樹が嵐のような風に巻かれ、こぼれるように花びらが次から次へと、その枝を離れ、天空へと舞い上がっていく。
一輝は花びらと同じ色に次第に染まっていく瞬の肌を、肩口から胸へと愛おしんでいきながら身をずらし、白き衣を瞬の身にどうにか引き止めている細い帯をやり過ごすと、下肢へと辿り降りた。
ふるえている両膝を手を添えて開かせると、両足の外側に手を這わせながら、その衣の裾をゆっくりと腰までたくしあげた。
瞬が下肢のすべてを裸に開かれ、兄の前に無防備に剥き出しにされている自分の恥態に、気を失いそうになって思わず唇を噛みしめる。
「あぅ・・・!」
兄の顔がもう充分に潤んでいる腿の奥へと埋められると、びく!と大きく全身を波打たせた。
戦慄が指の先まで、つまさきまで、髪の一本一本までにも駆け巡り、瞬は身をのけぞらせ、髪を打ち振って悲鳴を上げた。
懇願するように、ひきつる両手の指を兄の髪へと滑らせる。
が、それは聞き届けられることなく、瞬は花芯だけでなく、いずれ兄と己とを繋ぐ、まだ固い蕾までもをたっぷりと、蜜を塗り込むようにして愛された。
足の先から皮膚がめくれあがってくるような、いたたまれないほどの苦しい悦楽が、瞬の身体中を這い上がってくる。
はずむ息が絶え絶えになり、悩ましく美しく歪む顔が、しっとりと汗に濡れていた。
そして、戒めのようにその身に残されていた帯がついに解かれ、袖から腕が自由にされると、瞬は息をつめて、その時を待った。
きっちりと胸と胸を合わせて。
腕に、互いを深く抱いて。
そして兄弟は、痛いほど強く、きつく、一つへと繋がった。
熱く激しく瞬を求める一輝に、瞬が受け入れる痛みも忘れ、四肢を張りつめ、兄を快楽へと誘うように締め付ける。
ザアアァ・・・ッと、桜嵐はもうこの世界を覆い尽くさんばかりの勢いで吹き荒れて、睦び合う兄弟に降り注ぎ、むせかえるような甘い芳香を投げかける。
白い胸の上にはらはらと散らばり落ちる桜色のそれは、まるで口づけの跡のよう。
その花弁のやわらかな爪先で、愛撫のように背を撫でられ、腰をなぞられて、瞬が投げ出された手に落ちてきた小枝をぱき・・!と手折った。
兄に支えられた腰が奥深くまでもを求められて、全身に花が咲き開いたような歓びに打ち震えわななく。
その腰から背が、ひときわ美しく大きな曲線を描いてのけぞった。

―そうして、ゆっくりと。
引き上げられては落とされて、
抱かれては投げ出されて・・。
兄の与える、たぎる業火のような灼熱に、
ゆすられながら、
うなされながら、
瞬は、
兄とともに、最後の大きな波へと昇りつめた。




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