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パソコンから弟が出てきた。
何を寝ぼけたことを、と言われそうだが、それはまったくの偽らざる事実で。
しかも、パソコンから出てきた弟は、なぜか3年前の姿だった・・・。








その日、石田ヤマトは、重い溜息をつきながらパソコンのモニターを睨んでいた。
実の弟とその仲間の「選ばれしコドモたち」が、現実世界からデジタルワールドに乗り込んでから、既に数時間が経過している。
何かあったらメールをよこすと言っていたが、実際連絡用に使えるのは光子郎のノートパソコンだけで、自分はただこうしていても直接連絡を受け取れるわけじゃない。

けど、心配なのだから仕方がない。

いつもは夕食前に戻ってくるのだが(3年前は行ったきりだったことを考えれば、悠長な話といえなくもないが)、今回は本腰を入れて調べなくてはならないことがあるから、めずらしく今夜は帰らないという。
それぞれの家へのアリバイ工作もあって、自分たちは仕方なしに現実世界に残っているのだが、何かあったら・・と思わずにはいられない。
しかも自分たちのデジヴァイスでは、もう今はゲートを開くこともできないのだ。
ゆえに、こうして無事を祈ることしか出来ない。
それが、もどかしい。


スイッチをいれたまま、宇宙空間のスクリーンセイバーになっているモニターを、今や旧式となってしまった自分のデジヴァイスを片手に恨めしげに眺めていたヤマトは、ふいにその宇宙空間の向こうにいる誰かと目が合ったような気がした。
「?」と思いつつ、画面を凝視する。見覚えのある、大きな瞳。



「え?」



思った瞬間、それは唐突にモニターから転がり出て来たのだ!



ヤマトの腰掛けるキャスターのついた椅子が、思わずその勢いにさーっと部屋の壁際まで後ずさる。
はっきり言って、机の引き出しからどらえもんが出てきたって、こんなに驚きはしないだろう。



な、な、な・・・!
なんで、なんでなんでなんで・・・・・・?????



頭が同じ事をぐるぐる繰り返す。
部屋の隅で固まっているヤマトをまったく目も入らない様子で、それはきょろきょろと辺りを見回すと唐突にうわーん!!と泣き出した。



「ココ、ドコ――――!!?? おにいィィいぃちゃああーぁぁん! うわあああああ・・・・・ん」



あまりの号泣に、度肝を抜かれ、ヤマトが恐る恐る椅子の上から、部屋の床にへたり込んでいるソレを凝視する。


見間違え・・・てなことは・・ない・・よな?
つか、見間違えるはずもないけど。
けど、どうして、どうして、今、ここにいんだ・・・?


怖がらせないように脅かさないように、できるだけそっと声をかけた。



「タケル・・・・?」



ぴく・・と泣くのをやめて、声の方に向きを変えながら、涙を拭って顔を上げる。

「おにいちゃん・・・・・?」
「タケル・・?」
「おにいちゃん・・・・・・・・・・・・・・だれ?」


だ、誰ってなあ――!!


思わず叫びそうになって、慌てて口を押さえた。
こっちにしてみればよく見知った姿かたちだが、よくよく考えれば、相手にしてみれば自分は初対面と言っていい人間なのだし。
そう、モニターから出てきた弟は、確かにヤマトの最愛の弟にちがいはなかったが、姿は3年前の冒険の時の、8さいのタケルだったのだ。

じっと見つめたまま、思考を混乱させるヤマトに、小さくなってしまったタケルは、涙の溜まる瞳でヤマトに訴えた。


「・・・ぼく、おにいちゃんとはぐれちゃったぁ・・・」


















「・・・・!」



何か妙な感じがして、びく!とタケルは思わず歩をとめた。


「おい、タケル! ぐずぐずすんなっ!」
そう大輔に怒鳴られて、「ああ、ゴメン」と、デジタルワールドの森の中を慌てて皆の後を追う。


「ねえ、なんか変な感じしない?」
「そお? 私は別に何も感じないけど?」
「どうしたんですか?タケルさん?」
「あ・・いや、今何か・・・・こう、ぐわっと空間が歪んだような」
「はあ? 何寝ぼけたこと言ってんだぁ? おまえ、歩きながら寝てたんじゃあねーのかあ?」
「あ、でもあたしも感じた。何か、デジタルワ―ルド全体が一瞬だけ歪んで、元に戻ったっていうか」
「僕も感じたよ。光子郎さんが調べて欲しいって言ったことと関係あるのかもしれないね。チンロンモンの力が急速に弱まったために、デジタルワールドの均衡に影響が出て、空間と時間軸にひずみが出たかもしれないって」
「そか、ヒカリちゃんや賢がいうなら、そうかもしんねえな」
言って大輔が、ちらとタケルを見る。
じゃあ、僕が言うとどうなのさ!という来るべきはずのツッコミが来ない?

タケルは、森の中にあるテレビを、瞳を見開いて凝視していた。

「タケル?」
呼ばれても、じっとそれを見つめるタケルに、おい!と大輔が肩に手をかけ、はっとなったように振り返る。
「どうしたよ?」
言われて、テレビの画面を慌てて振り返る。けれど、その画面にそれが映ったのは一瞬で、今はもうただの砂嵐がざーっと一面を覆っているだけだった。
「俺たちがいつも帰る時に使うテレビだろ? それがどうしたんだよ?」
「あ・・・うん・・。なんでもない。ただ、ちょっと」
「ちょっと・・どうしたの?」
心配そうに尋ねるヒカリに、我に返ったようにぱっと笑顔になってそれに答える。
「あ、ごめん。なんでもないよ。いや、何か一瞬映ったような気がしたんだ。でも、見間違えだったみたい。ごめんね、みんな。さ、行こう」
言いながら、そこを離れようと皆の背中を促すタケルに、大輔が「なんだよー変なヤツ」とか言うけれど、タケルはとにかくそこに長くいたくなかった。
見間違えかもしれなくても、2度とみたくない光景だった。





だけど。
今のは現実世界で本当に起こっていることなのだろうか?



だとしたら。
ここにいる自分はいったい?







――そして。



自分はいったい、何処に帰ればいいんだろう・・?











novelニモドル 1