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9 周軍撃退

F:場所を陶謙老の執務室に移しますね。公孫続は、袁家の残党がどうにも活発で、呉の領土でも被害が出ている。そこで、共同でこれを鎮圧したい……と持ちかけてきました。
陶双央:鎮圧するから兵を出せ、と? でも、徐州の兵は三千にも満たない……。
F:「あー、いえ……実を申し上げれば、我々だけでも鎮圧は可能です。ただ、連中の本拠地がこちらの領土ですので、勝手に兵を入れて軍事活動を行うのは、両国の友好関係からして思わしくないだろう、と」
趙二英:通訳すると「お前らがだらしないからアタシたちが討伐してやる」って云ってるわよ。
F:はい、この場にいないヒトは口を出さないように。
趙二英:ふん。
F:「いくらか兵を派遣していただければ、共同で鎮圧したという名目も立ちます。物資などはこちらがもちますので、皆さまは来ていただくだけで充分ですが、いかがでしょう?」
陳小理:その場にはいないだろうっすけど城内にはいる身として口を出すと、話がうますぎないっすか?
陶双央:とりあえず、黙ってるね。
F:では、老公は思案顔で双央さんを見ます。「どう思うね、陶書記?」
陶双央:そう来るよね……。「先ほど申し上げたように、この徐州にある兵は三千にも満たないものです。わたしなり曹豹将軍なりが兵を率いて出陣し、手薄になったところを襲われたらひとたまりもないのでは?」
F:「まずこちらに我が方の兵3000を駐留させましょう。その上で、書記殿なり将軍殿なりが兵を率いて呉まで来ていただければ、軍での交流も活発と賊は警戒し、動きを控えましょう」
陶双央:うーん……千単位の兵が往来すれば、確かに賊は手を出しかねるだろうし、三千の兵が駐留していれば、城にこもって援軍が来るのを待てるか……。
楊花玉:その場合の食糧は?
F:「無論、持参いたしましょう」……って、だからねー。
楊花玉:はいはい。
陶双央:「……そうまでして、袁家の残党を討ち果たしたいと?」
F:「すべては世の安寧のためと、主は申しております」
陶双央:「続さんに伺います。その主とは、どなたのことです?」
F:っ……!(しまった、という表情)
陶双央:(ニヤリ)
趙二英:あえて口出しするわ。あの顔、演技よ。
陶双央:え?
F:……って、コラ。
趙二英:前回もおなじことやってたでしょーが。表情と反応にだまされない(注1)の。
陶双央:ということは、続さんがどう応えても周瑜の配下と考えるのは早計ってことかな?
趙二英:そういうことになるわね。
陶双央:だと、孫権さんが本心で賊を鎮圧したいと持ちかけてきたことになるンだけど……。
趙二英:……あれ?
陳小理:どういうことっすか?
楊花玉:『恋姫』の孫呉は、守勢の立場から北郷軍との関係を重視する孫権と、大陸制覇の国是にのっとってむしろ対決姿勢を取るべきという周瑜との意見対立があるの。双央さんは、公孫続がどっちの派閥か見極めようとしたンだけど、千さんがいらんこと云ったせいで状況が判らないのよ。
趙二英:いらんこと云うな! でも、あの表情が演技なら、公孫続は周瑜じゃなくて孫権の配下で……?
陶双央:少なくとも自分から関係悪化に動こうとはしないことになるよね。
楊花玉:じゃぁ、純粋な好意なのかしら?
陳小理:でも、戦功を譲ったらたぶんシナリオ的には失敗っすよね?
4人:……うーん。
F:老公は、双央さんが悩んでいるのを見て「いや、お話は伺ったが、すぐにはお答えしかねるね。配下の者たちと相談して決めるので、使者殿にはひとまず別室でお休みいただこうか」と云いだしました。
陶双央:うん、そうしてくれると……ん?
F:なぜここで悩むか。
陶双央:……ごめん、ちょっと時間くれるかな。考えをまとめないと。
F:いや、だからまとめる時間のために一時解散をですね。
陶双央:この場でないといけない気がする……(エアそろばん開始)
F:では、砂時計で(サイコロ1個)5ターンですね。
陶双央:んー……(ちょいちょい、ちょい)
楊花玉:……ひとりで悩むなって云えないのがアレよね。
趙二英:アタシたちが口出すのは逆効果だろうしね。
陶双央:(ちょいちょい、ちょい)……現有の兵力で少なく見て4万の兵と戦うにはどうすべきか……
趙・楊・陳:無理よ(っす)!
F:……オレ、土下座していいか? 何でこの情報量で正確な兵士数が算出できる?
趙二英:正確って何よ!?
陶双央:(ちょいちょい、ちょい)やっぱりそれくらいだね……じゃぁ、こちらが取るべきは……?
F:はい、1ターン経過ー(砂時計を裏返す)。
陶双央:(ちょいちょい)……ん?
趙二英:あ、とまった。
陶双央:……いま、刺史さんの執務室だよね?
F:いかにも。
陶双央:で、公孫続を名乗るひともそこにいる。
F:……います。
陶双央:じゃぁ陶謙さんに「反対する理由はありませんが、北の主殿に報告すべきかと」と……?
陳小理:……何で土下座するっすか、師匠。
F:こちらの想定している範囲で、最良の選択肢だ。オレの負けが確定した。
趙二英:なに? どーいうこと?
F:そのままだ。「あぁ、その通りだね。では使者殿、お話は受けるが、その旨成都の北郷殿に報告し、その後でということにしてもらおう」と陶謙さんは云います。
陶双央:使者さんの表情は?
F:割と平然と拱手した。「承知しました。しかし、成都までとなりますと、往復で1ヶ月はかかるかと……」
陶双央:「それは大丈夫でしょう。先日の戦闘で顔良に重傷を負わせましたので、賊もしばらくは動きを控えるはず。明日趙二英を使者に出しても、戻ってくるまで賊を防ぐのに不都合はありません」
F:趙二英、との名に公孫続は反応します。「おぉ、先の戦で功を上げられた御仁は、趙殿と云われますか」
陶双央:「ええ。大斧を振るう頼もしい武人です」
趙・楊:……はい?
F:「では、1ヶ月後にまたお会いしましょう。その日を楽しみにしております」と、公孫続は退出します。
陶双央:城門まで見送りに出るね。小理ちゃんもおいでー。
陳小理:うぃっす。……ていうか、あたし状況がまるで判んないっすけど。
陶双央:大丈夫だよ。
陳小理:……すっげぇ不安っす。
F:で、どこまで見送ります?
陶双央:城門まで。小理ちゃんとふたりでね。
F:では、公孫続の乗った馬は、街道にそって南へと走っていきました。やがて見えなくなります。
陶双央:それを見届けて小理ちゃんを動かすね。東へ向かって、花玉たちに合流するように。その後、二英は隠れて戻ってくるように、と。
陳小理:あ、急いで戻ってくるようにっすね? おーらいっす。
陶双央:気をつけてね。手は出さないだろうけど見張りがいるから。
陳小理:何でっすか!?
F:『直感』で難易度14。
陳小理:……端数も使って(ころころ)ちょうど14で成功っす。
F:じゃぁ、遠巻きに見張られているのに気づくな。近づいてくる様子はないが、確かについてくる。
陳小理:何が起こっているっすか?
楊花玉:ワタシたちも急いだ方がいいのよねェ?
F:そーですね……まぁ、処理の都合で、出会えたことにしましょうか。小理ちゃんが馬を走らせていると、食糧を買いつけてきた花玉さんたちが前方から近づいてきます。
陳小理:すぐに花玉姉さんに抱きつくっす。「二英姉さん、ご無事で何よりっすー」と有無を云わさず。
楊花玉:これは何かあったと判断して「はっはっは、この趙二英にそんなに会いたかったのー?」と話を合わせるわね。
趙二英:本物は、荷車の中にでも隠れるわ。
陳小理:おーらいっす。「双央姉さんが、早く帰ってきてほしいそうっす」
楊花玉:「了解。よぉーし、今日中に徐州城に入るわよー!」と聞こえるように声を上げるわね。
F:では……"交渉"で平目。見張りと対抗判定です。
楊花玉:端数も使って(ころころ)……出目は9だから、16ね。
F:こっちは(ころころ)3!? あー……見張りはこそこそと立ち去り、苦力たちは嫌そうに「うへーい……」と応えました。すっかり騙せたようです。
楊花玉:コレは、いったいどういうことなのかしら?
趙二英:合流してから考えるっすよ。あたしはただ、云われたように皆さんを導いてるだけっすから。
F:では、日が暮れる直前くらいに、徐州城に食糧を搬入できます。双央さんは?
陶双央:花玉に近づいて「ご苦労さま、二英」と親しげに。
楊花玉:「ただいま戻りました」と礼儀正しく。
陶双央:「食糧を倉庫に運んだら、今日は休んでいいわよ」と軽く云って引き揚げるね。
楊花玉:双央さんのお部屋にでも集まればいいのかしら?
陶双央:そういうこと。ちょっとした策があるンだけど、それを成し遂げるには花玉の『超絶能力』が必要なの。
F:では、双央さんの私室に皆さんが集まりました。太守の孫にして書記なので、警備は厳重です。
陶双央:外から聞かれる可能性は低いね。じゃぁ「たぶん一両日中に、賊が攻撃をしかけてくるはずだから、それまでに策を弄しておかないといけないの」と切り出す。
趙二英:……大変じゃないの。
陳小理:というか、まず状況を説明してほしいっす。
陶双央:つまり、この徐州と呉が結託したら、賊は困るでしょ? だから、呉が動かないうちにこっちを叩こうとするだろうってオハナシ。数が少ない方から叩くのは兵法としては常道だから。
楊花玉:なるほど……。じゃぁ、ワタシは『超絶能力』で、その矛先を変えなければならないのね?
陶双央:そういうこと。具体的には、賊を徐州じゃなくて呉軍に向けさせたいのね。
F:それができそうな能力がありましたか? もう『万犬実を伝う』はありませんが。
陶双央:小理ちゃんに『流言飛語』してもらう。具体的には、北郷軍の正規部隊がこっちに向かっているという噂を流すの。『樹上開花』を授ければ、さらに効率は上がると思うけど。
 計略としての『樹上開花』は「策を用いてこちらを強く見せる」という効果があります。
F:使い方としてはちょっとスタンドプレイ入ってますが……いいでしょう。小理ちゃん、『流言飛語』で行為判定。難易度は16で、成功したら『樹上開花』と相まって、城下にそんな噂が流れます。
陳小理:上げておいてよかったっす。端数も使って(ころころ)10だから……合計19っすね。
F:困った仔だね、まったく……。夜の間にそんな噂が広まったことにしますか。
陶双央:もう一計。今度は花玉に『おお、突然助けてくれる人が』を使ってほしいの。必要なのは書家で、夏侯淵の筆跡を真似できる誰かを探し出して。
F:夏侯淵!?
陶双央:で、矢文を射ち込む。夏侯淵の言葉なら顔良は従うだろうし、顔良を動かせれば袁紹も動くから。
F:ちょっと待ってくれますか。シナリオの黒幕と知恵比べをしてもらいます。
陶双央:何で?
F:偵察が事実上失敗していながら、シナリオとしてはほぼ完璧なコースを進ませるには、情報上の裏付けがないので、僕としては承服しかねます。システム上、誰かのしかけた計略を見破るには『情報分析』での行為判定をしてもらうことになっているので、今回はこちらの黒幕との対抗判定で決します。
陶双央:あえて名指しするけど、周瑜と知恵比べしろって云うの?
趙・楊・陳:周瑜!?
F:……完全にシナリオ読まれてるなぁ。そう口にしましょう。周瑜の『計略』と、双央さんは『情報分析』で対抗判定です。
陶双央:失敗したら、4万の兵に攻められるの?
F:いや、今後のあらゆる判定に、出目の差のペナルティを加えます。
陶双央:――このときのために"知力"を71に……80にしておいたンだからね。いいよ、相手になってあげる。
F:先に云っておきましょう。周瑜の"知力"は95、『計略』は5段です。が、策を弄していたのは一連の戦闘の前ですので、その時点では双央さんを警戒していたとは考えにくい。端数を使うことはないでしょう。
陶双央:唯一の救いかな。では、こちらはなけなしの端数を使って"知力"80……
陳小理:サイコロどうぞっす!
陶双央:いや、それはえーじろに渡してあげて。
F:オレは使いませんからね!
陶双央:じゃぁわたしが使う。(ころころ)……5ゾロだね。10だから、合計21。
F:周瑜はすでに14なので、7以上ならこっちの勝ちですが、さて(ころころ)……6かよ。
陶双央:えくせれんと♪
陳小理:いえー♪(ハイタッチ)
趙二英:何が起こってるのよ?
F:あとで説明する。では花玉さん、"交渉"と何らかのスキルで行為判定を。出目に応じて見つかるヒトのランクが決まりますので。
楊花玉:じゃぁいちばん高い『説得』に端数も使って……
陳小理:サイコロどうぞっす。
楊花玉:ありがと。えいっ(ころころ)よしっ、11! 合計で22よ。
 21〜24は「州一番の達人と称される(函谷関をよじ登る、三ヶ月分の事務を一日でこなす)」というレベルです。
F:……いいでしょう。夏侯淵の筆跡がほしいンですね?
陶双央:うん。
F:では花玉さんは、近くの宿に泊まっている女性が達筆らしいと思いだします。そのヒトは、できればひと目は避けたいとのことなので、皆さんが出向くことになります。
陶双央:うん、行くよ。
楊花玉:『有朋遠来』した方がいいのかしらね?
F:難易度25でいいなら引き受けますよ。
陶双央:出そうか?
F:出そうとしないでください!
楊花玉:……あれ? 難易度が高いってことは、実史の武将さん?
陶双央:あ、そうなるか。どなた?
F:「初対面でそう聞かれても困るな」と、前髪で右目を隠した女性は苦笑します。
陶双央:……え?
楊花玉:ちょっと、何で……?
趙二英:……そういうことか。最初にやった『知敵知己』はどういうことかって思ってたけど、ここでつながるのね。
F:あぁ、覚えていたか。そういうことだ。

 ――ヒトを騙すときは本当のことを云え。(F・フースキー)

陳小理:どういうことっすか?
楊花玉:……ま、それはワタシが関与することじゃないわね。「アナタが達筆と聞きまして、徐州を救うためお力添えを願いたいのです」
F:「私はただの旅人だ。過度な期待をされても困るが」
陶双央:事情を簡単に説明するね。かくかくしかじかで「賊の動きを封じるためには、顔良と親しい夏侯淵将軍の筆跡が必要なのです。代筆していただければと思う次第でして」
F:「そうか……」彼女は少し考えたものの、やがて軽く溜め息を吐きました。「私の筆が役に立つというなら、わずかばかりの助力をしよう。ただ、効果のほどは期待しないでもらいたい」
陶双央:「ありがとうございます」
F:「して、文面は?」
陶双央:「『超来々』それだけでいいです」
F:馬超来たる……ですか。「……いいだろう」複雑な表情で苦笑して、彼女はさらさらと書きつけました。『超来々 淵』と書かれた紙片を差し出してきます。「これで、よろしいのかな」
陶双央:「充分です。ありがとうございます」
F:「礼には及ばん。……だが、しっかり戦われるといい」
陶双央:「厚かましいことですが、もうひとつお願いできましょうか」
F:「……聞くだけは聞こう」
陶双央:「もし、この策が実らずにわたしたちが全滅したときは、わたしたちに代わって北郷殿に急を知らせていただきたいのです」
F:……彼女は少しだけ辛そうな表情をして、眼を逸らします。「……それは、私にはできないことだ」
陶双央:「失礼しました」退出しましょう。
楊花玉:「いいの?」
陶双央:ええ。……きっと。
趙二英:……「それにしても、無茶な策を思いつくわね? 夏侯淵が死んだってことが知られてないといいンだけど」
陳小理:「え? 死んでるっすか?」
趙二英:「成都から脱走をはかって、馬超将軍に殺されたわ。そんな噂……アンタ知ってる?」と彼女に。
F:聞かれた彼女は「いや……知らないな」と苦笑しました。
陳小理:……どういうことっすか?
F:18歳未満には見せられんオハナシ。どうしても知りたいなら『医術』で判定して。
陳小理:うぃっす? (ころころ)……20っす。
F:彼女は、妊娠している。
陳小理:……なるほど、というところっすかね。
 詳しくは『妙才謀殺』参照。(注2)
陶双央:ともあれ、準備は整ったから先手を打って夜の間に賊を動かすよ。花玉が表立って兵を動かす準備をしている間に、本物の二英は賊の本拠地に矢文を射ち込んで。
趙二英:間諜の衆目を花玉に集めて、その隙にアタシが動くワケね。でも、アタシに夏侯淵の弓勢を真似しろっての?
陶双央:みんな成功してるンだから、ここで失敗したら笑いものだよ〜?
趙二英:やかましいわ。えーっと……接近から?
F:いや、それは上手くいく。間諜や見張りは偽の二英さんを監視していて、他のひとを偵察できる人数は入っていないからな。近づいてからの『投射』判定だけでいい。
趙二英:さりげなく1レベルもっておいてよかったわ。
F:しかも、ただ射こむだけだからなぁ。文面からして誰かが見つければ顔良に届けるだろうから……難易度13で。
趙二英:(ころころ)出目10だから、あっさり成功。18よ。
F:じゃぁ、本陣近くまで矢は飛んで、顔良のところに直接届いたことにしてもいいな。
陶双央:驚くだろうね。文面もそうだけど、本物の……あ、いや、もとい。
F:うん、そこから先は口にしないように。
陶双央:ともあれ、その状況で『隔岸観火』と『借刀殺人』を重ねれば、袁家の残党は、たぶん近くまで来ている呉軍に攻めかかるよね。
 『隔岸観火』は「敵が内部崩壊から自滅するのを静観して待つ」、『借刀殺人』は「敵を巧みに利用して離間策を講じ崩壊に導く」という、いずれも「同士討ちをさせる」効果をもつ『三十六計』。
趙二英:同士討ち?
F:……つまり、だ。北郷軍に対する意見対立から、周瑜は孫権を見切って自分で呉を率い天下盗りに乗り出す……というのが、『恋姫』における歴史の推移だ。
陶・趙・楊:それは知ってる。
陳小理:っすか。
F:では知ってる3人、というか双央さんも抜いてふたり。呉と北郷軍が直接戦火を交えるに至った原因は?
趙二英:国境の都市が襲われたのよね? 北郷軍が駆けつけたら、呉軍が攻め入った形跡があった。ところが孫権はそれに関与していなくて、むしろ「北郷軍が無断で国境に兵を集めた」と孫尚香が出陣してしまう。
楊花玉:周瑜さんの謀略に天下が踊らされた瞬間だったわね。
趙二英:……国境の町?
F:要するに、そういうシナリオだったンですよ。周瑜の謀略で袁家の残党と周辺の賊が徐州の南に集められ、一大勢力を為す。放っておけずと徐州軍がこれと対戦すれば、勝とうと負けようと損害は出る。そこで、共同で賊を討とうと持ちかけて、徐州に兵を入れる。
陶双央:入ったら、内部からはその三千の兵が、外からは一万の賊が攻撃して、徐州を攻め滅ぼす。完膚なきまでに叩き潰して呉の仕業だと細工すれば、『恋姫』の通りの展開に持って行けるというわけね。
趙二英:……共同軍の名目で、兵を呉に派遣するよう求めてきたのは?
陶双央:徐州軍の主力を城から離すのが目的じゃないかな。たぶん呉の……というか周瑜軍の本軍に攻撃されて、全滅させられると思う。
楊花玉:じゃぁ、断ったら?
F:第一に、陶謙にしてみれば断る理由がない。賊は独力で対抗できる兵力ではないのが偵察で判ったンだから。第二に、呉からの申し出を断れば、本心はどうあれ表面上の友好関係を悪化させることになる。これらの事情から、双央さんがどう云っても、老公は最終的には申し出を受けていた。
陶双央:そして、宮仕えのわたしには、刺史さまの決定に背く権限はありませんのだ。
趙二英:二重に罠は張りめぐらされていたワケね……。
F:よって、公孫続の申し出を受けていたら、皆さんは兵を率いて誘い出され、3万(注3)からの軍勢に叩き潰される。その場を何とか逃げおおせても、徐州城はすでに陥落しているワケです。それをどーやって克服するのか……というシナリオを組んでいましたが、こちらが想定していた最良の選択肢を選んでもらったようです。
楊花玉:そうね……事前に共同で賊を討つと報告していて、それでも徐州城が壊滅したら、呉の謀略だったと疑われるものね。兵を動かした形跡は隠せないでしょうし。
F:厳密に云えば形跡はあってもいいんです。ただ、それを孫権に知られてはならない。北郷一刀には知られても実害はない……というか、兵を動かしたと知られた方が都合はいいです。ただし、孫権がそれと知ったら周瑜との意見対立もあって、自ら北郷くんのところに釈明に乗り込みかねない。周瑜が排斥されるか孫権を殺すか、どちらにせよ呉を割る選択しか残らなくなります。
陶双央:でも、その兵士数がこの場合は好都合になるね。顔良が動けないとはいえ、1万の賊でなら相手にできない数字じゃない。北から馬超が来ると聞いて、文醜たちはどう動くか(注4)
F:呉に逃れようとしますね。というワケで、徐州城の南で袁家残党軍と周瑜軍が戦闘を開始しました。袁家の側にいる公孫続を名乗るヒトが、必死になって「そっちじゃない! そっちじゃない!」と叫んでいるのがいっそ憐れ(注5)です。
陶双央:では、頃合を見計らって出陣し『釜底抽薪』を用います。「強大な敵の気勢をそいで骨ぬきにする」計略だけど。
F:使用条件は「敵を不安にさせる誤情報を思いつく」ですよ?
陶双央:「超来々! 超来々!」と叫んで回る。
F:……えげつないなぁ。では、戦闘中の両軍はその偽報にだまされて、両軍とも動揺します。
趙二英:攻撃すればいいの?
陶双央:やめておこうよ。ね?
F:では、徐州軍が高みの見物を決めていると、どこかから飛んできた矢が公孫続を射抜いて、袁家残党軍が潰走します。散り散りになる軍勢の中で、おかっぱ頭が矢の飛んできた方向に向かって一礼していました。
陶双央:そのひとにたぶらかされて袁家復興のため動いていたけど、顔良はその気じゃなかった……ってところかな。
F:返事はしませんよ。(注6)
陶双央:じゃぁ、二英は下がって。花玉とふたりで周瑜さんにご挨拶に行くね。
F:火に油注ぐの大好きですね、アンタ。えーっと、呉軍からも周瑜さんが進み出てきます。
陶双央:「徐州で書記を張る陶双央です。このたびは戦勝おめでとうございます」
F:この野郎、と思いながらも周瑜は不満を顔には出しても口には出しません。「いきなり賊が南下してきたときはどうしようかと思ったが、大過なく退けられて幸いだった。……それはそうと、馬超将軍が来られるというのは本当か?」と不審そうに聞いてきます。
陶双央:「はい、戦況を覆すべく言を弄しましたが、馬超将軍がこちらに向かっているのは事実です。先遣として夏侯淵将軍がすでに参られています」
F:……どうしてくれよう、このアマ。
趙二英:でも、軍勢がいないと判ったらこのまま攻め込んでくるンじゃない?
楊花玉:だからアナタを残したンじゃないの?
趙二英:……なるほど。
陶双央:ちっちっちっ。ふたりとも甘いなぁ。わたしがその程度の考えで、二英と花玉の入れ替えをしたと思ってる?
F:……何をたくらんでいらっしゃいますか?
陶双央:ここぞとばかりに『おお、信じてください私を』を使う!
F:根に持ってやがりましたかっ!?
 「悪魔的な話術をもって相手に自分の言うことを信じさせる。相手はどんなとんでもない嘘でも信じてしまう。ただし目の前からあなたが消えた時点で気づく」という『四海同胞』のひとつ……と、先に云いましたね。
陶双央:ん? いや、怒ってはいないよ。ただ、アレがあのタイミングで使えてあーいう効果が得られるなら、こっちがこのタイミングで使っても問題ないよね?
趙二英:……何が不満なのかまるで判んないけど、怒ってるじゃないのよ。
陶双央:センセ、怖いっす……。
F:……では、周瑜は花玉さんが見えている間は、馬超が来ると本気で信じます。信じています。
陶双央:「ところで」
F:アンタが云うな! アンタが!
陶双央:無視するね。「徐州を救っていただいたお礼を呉王陛下に言上させたいので、この趙二英を呉にご同道させていただけましょうか?」
F:どこまで狡猾なんですか、アンタは!?
楊花玉:ということは……?
F:花玉さんが呉まで行って帰ってくるまで、美周郎ともあろう者がだまされていると気づかないことになります……。理由と事情が正当だけに、来るなとは云えん。
趙二英:むしろ、何で義姉さん呼んだのかアンタに聞きたい。
F:ここまで完璧にシナリオを……こちらの策を看破されるとは思ってなかったからなぁ。公孫続の誘いに乗っておびき出されれば、周瑜じゃなくて曹豹や夏侯淵と戦闘して、廃墟と化した徐州城を呆然と眺めやることになっていたのに。どこから失敗したンだろう?
陶双央:わたしを呼んだところだと思うな。
F:うーん……
陶双央:ともあれ、一件落着かな?
F:……そうですね。花玉さんは周瑜に従って呉に赴き、しばらくは帰ってきませんが、大半の賊が逃げ散った徐州周辺はしばらく平穏になります。共同軍をもって賊を平らげたことで、北郷軍と孫呉の友好関係が天下に知られることになり、周瑜の陰謀はしばらく影をひそめることになるでしょう。
楊花玉:徐州を救って周瑜の陰謀を討ち果たしたンだから、ワタシたちの完勝かしらね?
趙二英:完全に謀略戦と化してたから、アタシの出番がまるでなかったけどね。
F:あぁ、用意していたシナリオならいくらでも武勇の奮いどころはあったンだが、どっかの謀略家のせいで台無しだよ……。お前にだけは悪いことをしたとは思うが、小理ちゃんはむしろ失敗していい結果に誘導したのかな? あそこで偵察が成功していたら、むしろ事態を混乱させていた可能性もある。
陳小理:お医者さんとしては役に立てなかったっすけどねー。
F:まったくだ。夏侯淵と相対していざ戦闘という場面で、妊娠していると発覚させて攻撃の手を緩めさせるつもりだったのに。
陶・趙・楊:えーじろ!
F:妊婦相手に戦闘できる面子じゃないでしょうが、アンタらは。だから、泰永がこの場にいないンですよ。僕やアイツは相手が妊婦でも戦闘できますけど、それができない面子をそろえたのに、まさか戦闘までもっていけないとは思わなかったな。
陶双央:結果としては万全だけど、ちょっと見損なう発言だよ?
F:反省しましょう。では、ぐだぐだになりつつあるので締めますね。かくして、徐州周辺の安寧を勝ち取った皆さんは、再び喝采を浴びて徐州城に凱旋します。
陶双央:やー、どうもどうも。
趙二英:アンタの独り舞台だったモンね。
F:今度は出迎えなかった陶謙老のところに顔を出すと、老公は思いつめた表情をしています。
陶双央:「このたびは、一兵も損なうことなく徐州の安寧を得ましたが、ご不興を買いましたでしょうか?」
F:「……いや、お前の謀略が確かなものだと判って、むしろ不安になったのさ。切れすぎる剣は持ち主を傷つけるというからね」老公は、溜め息交じりで近づいてきて、双央さんに小さな包みを握らせました。
陶双央:……印璽を?
F:「あたしももういい年だ。お前に徐州を任せるよ……民を思って、しっかりおやり」
趙二英:(真顔)「あえて申し上げます! そのような決断は国家人民のためになりません! どうかご再考を!」
陶双央:こらー!?
陳小理:(必死)「そんなことしたら徐州は大変っすー! 逃げの一手あるのみっす!」
楊花玉:(冗談ヌキ)えーっと、思いとどまらせられる『超絶能力』って残ってたかしら……?
F:口々にいさめられて、さすがに陶謙さんも「……やっぱ、まずいかね?」と渋りますが。
陶双央:「いーえっ! この双央に任せてもらえば、きっとよりよい徐州を作ってみせます! ご安心ください、おばあ様!」と、刺史の印璽をしっかり抱きしめるね。
F:「あぁ、うん……制してくれる者がいるのはありがたいね」と、複雑な表情で、老公は双央さんの肩を叩きます。「しっかりおやり、双央」


 ――『恋姫』の歴史に、徐州は現れない。戦乱の舞台とはならなかったが、表舞台に取り上げられることもなかった。
 これは、そんな徐州であったかもしれない、小さな賊討伐と、大きな陰謀劇。
 その後、陶双央に率いられることとなった徐州がどんな外史を遺すのかは、また別の物語となろう。

私釈三国志2周年企画 三國演技 終幕



注1 『1 角色扮演』で、僕の表情と反応にだまされたのはお前だ。
注2 ……とは云えないのかな? 夏侯淵が成都から脱走し馬超に殺される、『妙才暗躍』の続き。実際はこういう事情で国の混乱を避けるため、賈駆の手引きや馬超の協力で本郷の下から身を引いたのだが、そこへ馬岱が現れて……というオハナシ。露骨に18禁なのでオンラインでは非公開。
注3 「1万からの賊を討つという名目で集める兵なので、多くても3万くらいしか動員できないはず。いくら周瑜でもそれより多くの兵を集めようとしたら、孫権の認可が必要になろうから、いらぬ詮議を受けかねない」と考えてこの数字にしたのだが、この辺の考えまで見抜かれて、正確な数字を算出されていた。
注4 やっぱり判っているとは思いますが、『恋姫』で本郷領に攻め入った文醜・顔良が敗れたのは、馬超の北郷軍参戦が主たる要因です。
注5 いちばん憐れなのは、けっこー頭使って考えたシナリオをあっさり看破された僕という気もするが。
注6 実は、小理ちゃんの逃走イベントで10ターンめに現れる騎兵は公孫続(と名乗るこの武将)の予定だった。


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