ゴマダラチョウ

胡麻斑蝶 (タテハチョウ科)


2002/5/12 9:20 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 やや大型のタテハチョウ。和名のとおり、黒褐色の地色に純白の胡麻斑模様。モノクロームのオオムラサキといった趣きであるが、オオムラサキよりひとまわりもふたまわりも小さい。生態もオオムラサキと似ていて、混生することが多いが、本種のほうが環境の変化にはやや強く、開発に取り残されたような狭い雑木林などにも棲息し続けることがある。
 写真は、千葉市緑区で5月上旬の午後、エノキの梢上で休息する、羽化したばかりの春型の♀である。季節変異は比較的明瞭。春型は夏型より小型で、裏面の白色部が大きい。いずれの場合も♀は♂よりやや大型で翅が丸みを帯びるが、性差が斑紋に表れないので見分けるのは結構難しい。最近、隣の神奈川県で発生して話題になったアカホシゴマダラに似るが、後翅外縁の赤斑を欠くので区別は簡単である。
 生態はオオムラサキとよく似ていて、訪花性はほとんどなく、主にクヌギやコナラなどの樹液に集まり、♂は地上で吸水することも多い。ただ、汚物に飛来することは少ない。夏型が晴天時の日中、タマムシと共にエノキの梢の上を♀を求めて敏速に飛び回る姿をよく見かける。越冬態は亜終齢幼虫で、幼虫は秋になると食樹を降り、その根元の落葉の裏にしがみついて冬を越すが、下草の少ない場所だと強風で飛ばされたり、幼虫がまだ目ざめる前に活動を開始するアリやサシガメ、クモに襲われることも多く、生存を賭けた過酷な冬となる。幼虫の天敵であるヒメバチ類の寄生率はきわめて高く、昨シーズン及び今シーズンに10本以上の食樹から採集した越冬幼虫合計40頭のうち、実にその9割以上にあたる38頭が寄生されており、無事羽化したのは2頭に過ぎなかった。



ゴマダラチョウ 原名亜種 (タテハチョウ科 コムラサキ亜科)
Hestina japonica japonica  (C. et R.Felder, 1862)
分布 国内: 北海道(南西部)、本州、四国、九州。島嶼では奥尻、佐渡、隠岐、対馬、壱岐、五島列島。北日本では産地は局地的で個体数も少ない。関東以西では普通種。
県内: 市街地を除き、ほぼ全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島、中国(南部~西部)、ヒマラヤ。原名亜種は日本産で、本亜種は日本固有。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: 比較的明瞭。斑紋が相違する。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。
性差: ほぼ同型。斑紋に差はないが、♀は♂よりやや大きく、翅形が丸みを帯びる。
生態 環境: 広葉樹を中心とする各種樹林とその林縁。日当りのよい林縁を好む。
発生: 通常年2回。5月中旬~6月下旬、7月下旬~9月下旬に見られる。温暖な年には10月に第3化が現われることがある。
越冬: 幼虫(4齢)。多くは食樹の根際の落葉の裏で見つかり、オオムラサキと混生することもある。食樹の途中に洞などがある場合、そこにたまった枯葉の裏で見つかることもある。食樹が幼木の場合、小枝の先に吐糸して枯葉と綴り合わせ、その中に潜む例もあるという。
行動: 昼行性。飛翔は敏速。特に♂は活発で、晴れた日の日中に、はばたきと滑空を繰り返しながら♀を探して樹冠付近を飛ぶ。時に枝先にとまって翅を半開し、占有性を示すことがある。
食性 幼虫: 食植性/新芽エノキエゾエノキなどのニレ科エノキ属各種。飼育下ではリュウキュウエノキ(クワノハエノキ)でも生育する。越冬直後は新芽、それ以外は葉を食べる。
成虫: 食植性/樹液腐果汚物。訪花性は弱く、主にクヌギやコナラ(ナラ類)、ヤナギ類などの樹液やヤマグワ、カキ、イチジクなどの腐果に集まる。♂は湿地で吸水したり汚物で吸汁するが、その性質はそれほど強くはない。
類似種: アカホシゴマダラと似るが、県内には棲息しない。
保 護: 指定されていない。
その他: しばしばオオムラサキと混棲する。ただ本種は比較的環境変化に強く、樹林が狭くなるとオオムラサキはすぐに姿を消すが、本種は生息を続けることが多い。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫に寄生し蛹から脱出するヒメバチ科ヒメバチ亜科のゴマダラヤドリヒメバチ(Ichneumon australis (Uchida, 1926))、シロコブアゲハヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)、ムラサキアゲハヒメバチ(Trogus lapidator lapidator (Fabricius, 1787))、ヒラタヒメバチ亜科のコキアシヒラタヒメバチ(Apechthis capulifera (Kriechbaumer, 1887))などが知られる。特に越冬幼虫の寄生率は高い。

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