オオムラサキ

大紫 (タテハチョウ科)


2002/6/16 13:40 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 わが国最大のタテハチョウ。1957年に日本昆虫学会で決定されてから我が国の国蝶として有名だが、日本特産種ではなく、中国大陸や朝鮮半島に別亜種がいる。和名は♂翅表中央の深い青紫色に由来し、英名も"Great Purple"。日本の雑木林を代表するチョウで、かつては通常郵便切手の図案にも採用されたことがある。しばしばゴマダラチョウと混生するが、開発などによって雑木林が狭くなるとすぐに姿を消してしまう。
 写真は、千葉市緑区で6月下旬の午後、クヌギの樹液を吸う♂である。♀は♂よりはるかに大型で翅が丸みを帯び、翅表中央の地色が黒褐色なので区別は簡単。国内での亜種区分は認められないが、裏面の地色は東日本では黄白色のものが多く、西に行くほど銀白色の個体が増える。県内は黄白色の個体のみだが、南部には黄色が強い個体群が分布する。そのほか、他県では後翅肛角部の赤色斑紋を欠くスギタニ型という遺伝的変異型が知られる。
 年1回の発生。県内では6月中旬から姿を現し、♀は8月下旬頃まで見ることができる。飛翔は敏速で、あまりはばたかずダイナミックに飛ぶ。訪花性はほとんどなく、主にクヌギやコナラ 、ヤナギ類などの樹液に集まるほか、ヤマグワ、イチジクなどの腐果に集まる。♂は汚物や地上で吸水する性質が強い。樹液での序列は高く、特に♀はカブトムシやクワガタムシ類に次ぐ地位を示すことがあり、スズメバチを追い払うこともある。晴天時の午後から夕方にかけて、♂はエノキの梢の上で翅を広げて占有行動を示し、侵入した他の♂のみならず、小鳥さえも追飛するが、最近はエノキが大木ばかりになって観察するのが難しくなってしまった。越冬態は中齢幼虫で、幼虫は秋になると食樹を降り、その根元の落葉の裏にしがみついて冬を越すが、越冬幼虫はゴマダラチョウより一回り小さい。



オオムラサキ 原名亜種 (タテハチョウ科 コムラサキ亜科)
Sasakia charonda charonda (Hewitson, [1863])
分布 国内: 北海道(南西部)、本州、四国、九州。島嶼では佐渡のみ 。平地~低山地が分布の中心だが、産地は一般に局地的。
県内: かつては安房地域南部を除く全域に広く分布していたが、北総地域では極端に減少し、絶滅した産地も多い。
国外: 朝鮮半島、中国(東北部、中部~西部)、台湾山地にそれぞれ別亜種が分布する。原名亜種は日本産で、本亜種は日本固有。
変異 形態: 比較的顕著な地域差が認められるが、亜種区分には至っていない。後翅肛角部の赤色斑紋を欠く遺伝型と考えられる斑紋変異型(スギタニ型 :f.-sugitanii Matsumura)が知られるほか、房総半島南部では裏面が極端に黄化する個体群が知られる。裏面の色調や大きさの個体変異は比較的大きい。
季節:
性差: 異型。翅表中央付近の地色は♂が青藍色、♀は暗褐色。♀は♂より一回り大きく、翅形が丸みを帯びる。
生態 環境: 落葉広葉樹林や二次林(里山)。比較的日当りのよい林縁的環境を好むが、棲息地は比較的広い面積を有する樹林周辺に限られる。
発生: 年1回。6月下旬~7月ごろが最盛期で、♀は8月下旬ごろまで見られる。 ただ、飼育環境では10月頃第2化を生じることから本来は多化性であった可能性が高い。
越冬: 幼虫(4齢)。生育の遅れた個体は3齢で越冬することもある。食樹の根際の落葉の裏で見つかる。特に樹の北側に多い。
行動: 昼行性。飛翔は敏速で、はばたきと滑空を繰り返しながら食樹の樹冠付近を雄大に飛ぶ。午後から夕刻にかけて、♂は枝先にとまって占有性を示し、領域内に入った他の個体や、ときに小鳥までも激しく追飛する。樹液を訪れる昆虫における序列も高く、オオスズメバチを追い払うことさえある。♀は比較的不活発だが、高空を広範囲に移動することもある。ゴマダラチョウと混棲することが多いが、樹林が狭くなると本種はすぐに姿を消す。
食性 幼虫: 食植性/エノキエゾエノキなどのニレ科エノキ属各種。飼育下ではリュウキュウエノキ(クワノハエノキ)でも生育する。
成虫: 食植性/樹液腐果汚物。訪花性はなく、主としてヤナギ類、クヌギやコナラ(ナラ類)の樹液や腐果などに集まる。♂は吸水性が強く、湿地で吸水するほか汚物でも吸汁する。時に集団を作ることもある。
類似種:
保 護: 環境省:NT、千葉県:、千葉市:、東京都:(区部・北多摩)/(南多摩)、神奈川県:、埼玉県:VU(大宮台地/EX、荒川以西・中川・加須低地/CR、山地帯~丘陵帯/NT1)、栃木県:注目、群馬県:NT
その他: 発によって個体数が減少しつつある種。本種の生息にはまとまった面積の食樹を含む落葉広葉樹林が必要とされる。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 卵にはキイロタマゴコバチ、オオムラサキタマゴヤドリコバチ。幼虫に寄生し蛹から脱出するシロコブヒメバチ、アゲハチメバチなどのヒメバチ類のほか終齢幼虫から脱出するヤドリバエ類、コマユバチ類などが知られる。

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