アカタテハ

赤蛺蝶 (タテハチョウ科)


2003/5/16 12:25 千葉市緑区 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 中型のタテハチョウ。和名とは裏腹に赤い部分はヒメアカタテハより少ないが、配色の妙か、逆に赤い部分が非常に鮮やかに目立つ。ちなみに英語圏では"Indian Red Admiral (インドの赤い提督)"と呼ばれている。人の気配には非常に敏感で、近づくのは至難の業。一旦飛び立つとなかなかとまらず非常に機敏に飛ぶので、見失うこともしばしばである。
 写真は、千葉市緑区で5月中旬の正午過ぎ、地上で日光浴する個体である。多化性だが季節変異は知られていない。地理的変異もないようだ。一般に♀が♂よりやや大きいことを除き、外見上は完全に雌雄同型で、性差は斑紋や大きさ、翅形などに表れないので外見で区別することは不可能 。写真の個体も性別は不明である。
 飛翔は敏速で、一旦飛び立つとなかなかとまらない。訪花性は強く様々な花で吸蜜し、稀に樹液などにも飛来するが、地上で吸水したり汚物に集まる性質はない。温暖な地域では幼虫で越冬することもあるが、県内ではほとんどが成虫越冬 。単独あるいは2頭~3頭で木の洞や岩陰などで冬を越すことが知られている。ただ、ルリタテハとは異なり、冬でも暖かい日には活動することがある。ただ、本格的に活動するのは4月にはいってからで、越冬明けはキタテハやルリタテハなどよりやや遅いようだ 。またこれらの種より個体数は少ないが、食草の生育状況からか夏以降に個体数がぐっと増える。



アカタテハ 原名亜種 (タテハチョウ科 ヒオドシチョウ亜科 ヒオドシチョウ族)
Vanessa indica indica (Herbst, 1794)
分布 国内: ほぼ日本全土。平地~低山地が中心だが、標高1,500m前後の山地まで分布する。
県内: 市街地を含めほぼ全域に棲息する。
国外: 旧北区冷温帯域のほぼ全域と、東洋区北部亜熱帯地域の全域。原名亜種はインド以東の地域のものをさし、それ以西は別亜種とされる。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: 知られていない。
性差: 同型。外見での判別は不可能であり、前脚の構造と腹端の精査が必要。
生態 環境: 食草の多く自生する草原や、日当りのよい林縁的環境を好む。
発生: 多化性。暖地では5月中旬~6月上旬に出現し、以後10月上旬まで発生を繰り返すが、回数は不明。夏以降に個体数が増える。
越冬: 一般には成虫。暖地では幼虫などでも越冬する。成虫の越冬状態ははっきりしない。
行動: 昼行性。吸水性はない。飛翔は敏速で、一旦飛び立つとなかなかとまらない。人の気配には非常に敏感なので近づくのは難しい。♂は日中から日没直前まで占有性を示 し、領域内に侵入した他の♂を追飛する。
食性 幼虫: 食植性/。県内ではイラクサ科カラムシが主。他にはナンバンカラムシ(ラミー)、アカソ、コアカソ、ヤブマオ、イラクサ、ホソバイラクサなどが知られる。稀にニレ科のケヤキ(ケヤキ類)で卵や幼虫が見つかることがある。
成虫: 食植性/花蜜樹液腐果。訪花性は強く、ウメ、サクラ類、キブシ、アザミ類、ウツギ、イボタノキ、クリ、イタドリ、シシウド、オカトラノオ、コスモス、セイタカアワダチソウ、キク類、ヤツデなどさまざまな花で吸蜜するほか、クヌギやコナラ(ナラ類)、ヤナギ類などの樹液やカキ、イチジクなどの腐果にも集まる。
類似種: ヒメアカタテハに似るが、斑紋が相違する。
保 護: 指定されていない。
その他: 都市部にも進出しており、個体数も多いが秋季のヒメアカタテハよりは少ない。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫に寄生し終齢幼虫から脱出するコマユバチ類、蛹から脱出するヒメバチ科ヒラタヒメバチ亜科のコキアシヒラタヒメバチ(Apechthis capulifera (Kriechbaumer, 1887))、チャイロツヤヒラタヒメバチ(Theronia (Theronia) atalantae gestator (Thunberg, 1822))、ツマボシヒメバチ、ヤドリバエ科のノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))、カイコノクロウジバエ(Pales pavida (Meigen))が知られる。

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