ルリタテハ

瑠璃蛺蝶 (タテハチョウ科)


2002/3/21 15:10 山武郡大網白里町金谷郷 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 中型のタテハチョウ。ビロードのような光沢をもつ紺色の翅に、水色のストライプ、前翅には白い肩章をもつ。裏面はキタテハと同様地味な木肌模様だが、銀白色の文字はない。英語圏ではその色彩から"Blue Admiral (青い提督)"と呼ばれているという。春先の暖かい日には地上にとまり、触角をぴんと立て、翅をぺたりと広げて日光浴する姿を見かけることが多い。
 写真は、山武郡大網白里町で3月下旬の午後3時頃、林縁で日光浴する秋型の♀である。夏型は前翅端の縁毛に白色部があり、裏面と脚が明色となるほか、外縁の凹凸が弱い。性差は斑紋に表れず、♀が♂より大型で、翅形がやや丸みを帯びる程度なので区別は結構難しい。
 飛翔は敏速、人の気配にはきわめて敏感で近寄るのは至難の業だが、春先の日光浴のときはかなり近づいても逃げないことが多い。訪花性はほとんどなく、クヌギやコナラなどの樹液によく集まる。成虫越冬で、木の洞や岩陰などで単独で冬を越すことが多く、市街地では家屋内に潜り込むこともある。越冬中でも暖かい日には活動する。ただ、キタテハと違って、春先に産卵を終えた個体はすぐに死滅するので、初夏に夏型 と秋型が混在することはない。♂は晴天時の午後に林縁などの開けた地上や低木上に翅を開いてとまって占有性を示し、領域内に侵入した他の♂を激しく追飛する。幼虫は日本産のタテハチョウでは唯一の単子葉植物食で、幼虫は野外では主にユリ科のサルトリイバラを食べる。街中では庭に植栽されたホトトギスにつくことも多い。タテハチョウの中で最も都市部に進出している種のひとつである。天敵であるコマユバチ類の寄生率はかなり高く、2本の食樹から採集した10頭以上の中齢幼虫の全てが寄生されていたこともある。



ルリタテハ 日本本土亜種 (タテハチョウ科 ヒオドシチョウ亜科 ヒオドシチョウ族)
Kaniska canace nojaponicum (von Siebold, 1824)
分布 国内: 北海道(北部と東部を除く)、本州、四国、九州。 島嶼では利尻、礼文、奥尻、佐渡、伊豆大島、隠岐、対馬、壱岐、五島列島、屋久島、種子島、吐喝喇以南の南西諸島全域。
県内: 市街地を含めほぼ全域に棲息する。
国外: 朝鮮半島、台湾、中国(中南部~西部)~インド、ヒマラヤ、インドシナ、マレー半島~スマトラ、ジャワ、ボルネオ、フィリピン(北部)に分布する。原名亜種はシッキム、アッサム~中国南部産。日本産は分布の北東限にあたる。
変異 形態: 吐喝喇以南産は別亜種(ssp. ishima  (Fruhstorfer, [1899]))とされる。
季節: 比較的明瞭。翅形と斑紋が相違する。夏型(第1化)と秋型(第2化~)が知られる。
性差: ほぼ同型。一般に♀は♂より大型で翅形が丸みを帯びるが、個体差も大きいため不明瞭。正確な判定には腹端の精査が必要。
生態 環境: 各種樹林とその林縁、公園。日当りのよい林縁的環境を好む。
発生: 通常年3回。新成虫は5月下旬頃に出現する。寒冷地では年1回~2回、奄美諸島以南では2月~11月に見られ、4回~5回以上と考えられる。
越冬: 成虫(秋型)。 観察例は少ないが、さまざまなものの隙間で、単独もしくは数頭の小集団で越冬する。特に大木の洞や木陰などに多いようだ。
行動: 昼行性。飛翔は非常に敏速で、一旦飛び立つとなかなかとまらない。人の気配に敏感であるため近づくことは難しいが、越冬後の日光浴中は近づいてもあまり動かない。卵は食草の新芽や若葉などに1個ずつ産付される。
食性 幼虫: 食植性/。 平地~低山地ではユリ科サルトリイバラ属サルトリイバラが主、山地ではシオデ属のシオデ。都市近郊では植栽されたホトトギス類がその代わりになっていて、主に初秋から姿を見せるようになる。タテハチョウ科では例外的な単子葉植物食である。2齢までは葉の中央から食べて独特の食痕を残すが、3齢以降は葉の縁から食べる。
成虫: 食植性/樹液腐果花蜜。夏型は訪花性はほとんどなく、主に樹液や腐果に集まる。秋型は越冬後にダイコンやアセビなどで吸蜜することもあるが基本的には、クヌギ、コナラなどのナラ類、ヤナギ類などの樹液やカキ、イチジクなどの腐果を好む。
類似種:
保 護: 指定されていない。
その他: タテハチョウ科で最も都市部に進出している種。比較的個体数も多い。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類、スズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類、ハナグモ類。成虫は、ヤンマ類、トンボ類、ヤブキリ、ウマオイなどの捕食性キリギリス類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類、ハナグモ類など。
寄生: 幼虫に寄生し終齢幼虫から脱出するタテハサムライコマユバチ、蛹から脱出するヒメバチ類。ヤドリバエ科のノコギリハリバエ(Compsilura concinnata (Meigen))、Drino (Zygobothria) atropivora Robineau-Desvoidy、マダラヤドリバエ(Sturmia bella (Meigen))などが知られる。

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