分布 |
国内: |
本州、四国、九州。島嶼では佐渡、五島列島、南西諸島。一般に産地は局地的で食草の分布にリンクする。東北地方では稀で、土着北限は秋田県能代市~岩手県宮古市付近とされる。関東地方以南では標高800m以下の地域に限られる。 |
県内: |
一部の市街地を除き、全域に棲息するが局地的。食草の生育状況から県南部に個体数が多い。 |
国外: |
朝鮮半島、中国大陸に分布し、いわゆるヒマラヤ型の分布型式を示す。原名亜種は日本本土産をさ し、標式産地は「長崎」付近。本亜種は日本固有。 |
変異 |
形態: |
国内で非常に顕著な地理的変異が知られる。本土地域の標記の原名亜種のほか、種子島・屋久島産(ssp. yakushimana (Esaki et Umeno, 1929))、奄美大島~沖縄諸島産(ssp. loochooana (Rothchild, 1896))、宮古諸島産(ssp. miyakoensis Omoto, 1960)、八重山諸島産(ssp. bradanus (Fruhstorfer, 1908))などが別亜種とされる。なお、対馬産は原名亜種とは明らかに異なり、朝鮮半島産と区別できないが亜種名未決定。このほか、後翅の橙色斑が異常に発達した変異型が九州北部で確認されている。 |
季節: |
名亜種では明瞭。斑紋の色調が相違する。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。 |
性差: |
異型。♂の地色は黒色で一様だが、♀は地色が薄く、褐色を帯びる。 |
生態 |
環境: |
食草の自生する樹林。やや薄暗い林縁的環境や林内を好む。竹林やスギ植林地などにも生息する。 |
発生: |
多化性。本州中部以北では通常年2回~3回、4月下旬には姿を現す。本州中部以西では3回以上と考えられるが詳細不明。南西諸島では周年発生しているが冬季には個体数は少ない。 |
越冬: |
蛹。食草から離れたさまざまなものに付着していることが多い。 |
行動: |
昼行性。飛翔は他のアゲハチョウ科の各種と比較して緩やかで、移動性はあまり強くないが夏型の♀は広範囲に拡散することが知られる。♂は林縁の木陰などに蝶道をつくることがあるが、山頂占有性は見られない。盛夏の日中には樹林内で休息していることが多い。 |
食性 |
幼虫: |
食植性/葉。ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属のウマノスズクサ、オオバウマノスズクサ、ホソバウマノスズクサ 、リュウキュウウマノスズクサ、コウシュンウマノスズクサ。また、食草が不足すると、孵化直後の他個体や卵、蛹、果ては他の幼虫から出た寄生バエ(マダラヤドリバエ)の蛹なども食べることがあるという。
ヤマノイモ科のヤマノイモに産卵したという記録もあるようだが、一見すると葉の概形がウマノスズクサ類と似るので誤認かもしれない。 |
成虫: |
食植性/花蜜。訪花性は強く、アザミ類、ウツギ、イボタノキ、センダン、ユリ類、イタドリ、ヤブガラシ、ムクゲ、ネムノキ、クサギなどさまざまな花で吸蜜するが、比較的赤色系の花を好む。地上吸水の記録は極めて稀。 |
類似種: |
オナガアゲハに似るが、腹部の色調と翅の地色が相違する。 |
保 護: |
埼玉県:NT1、群馬:NT。 |
その他: |
有毒植物を食草としており鳥類からは捕食されにくいため、本種の産地ではこれに擬態すると考えられるアゲハモドキ(アゲハモドキガ科)が棲息する。 |
天敵 |
捕獲: |
幼虫はアシナガバチ類やスズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は、大型ヤンマ類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類、造網性クモ類。 |
寄生: |
幼虫に寄生し、蛹から脱出する、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のクロスジヒラタヒメバチ、アゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)、ヒラタヒメバチ亜科のコキアシヒラタヒメバチ(Apechthis capulifera (Kriechbaumer, 1887))、マイマイヒラタヒメバチ(Pimpla luctuosa Smith, 1874)などのほか、終齢幼虫から脱出するマダラヤドリバエ(Sturmia bella (Meigen))などが知られる。 |