分布 |
国内: |
北海道、本州、四国、九州。島嶼では伊豆諸島、沖縄諸島以南を除く南西諸島。やや山地性の傾向を示すが、平地~山地まで垂直分布はやや汎い。 |
県内: |
市街地を除きほぼ全域に棲息するが、県北部では少なく、県南部に比較的個体数が多い。 |
国外: |
朝鮮半島、沿海州、樺太、台湾、中国大陸~インドシナ北部に分布する。日本産は分布の東限にあたる。原名亜種は中国大陸~日本本土産をさし、標式産地は「広東」。 |
変異 |
形態: |
非常に顕著な地理的変異が知られる。八丈島産(ssp. hachijonis Matsumura, 1919)と吐喝喇列島産(ssp. tokaraensis Fujioka, 1975)、奄美諸島産(ssp. amamiensis (Fujioka, 1981))はそれぞれ別亜種とされる。それ以外の各地にも顕著な変異があるがクライン現象を呈しているため、亜種区分はなされていない。 |
季節: |
やや不明瞭。大きさは明らかに異なるが、斑紋にはあまり差がない。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。 |
性差: |
異型。♂は前翅表亜外縁に暗色の性標をもつ。 |
生態 |
環境: |
食樹の自生する樹林内や渓流沿い、林縁などやや薄暗い環境を好む。 |
発生: |
通常年2回。4月下旬頃に姿を現す。一般にミヤマカラスアゲハより1週間程度遅い。寒冷地では1回で春型のみが現れ、暖地では3回。 |
越冬: |
蛹。食樹の枝やその周辺の、雨の当たらない場所に付着している。 |
行動: |
昼行性。飛翔は敏速で、♂は樹林内などの薄暗い場所に蝶道をつくって飛ぶ。♂は日中に樹木の茂った山頂などを緩やかに飛んで占有し、他の♂や同様の性質を持つ他種を激しく追飛する。夏季の日中には樹林内で休息していることが多い。 |
食性 |
幼虫: |
食植性/葉。ミカン科のコクサギとカラスザンショウが主。他にはイヌザンショウ、サンショウ、ミヤマシキミなど。ちなみにサンショウ、カラスザンショウ、イヌザンショウが混生する袖ヶ浦市内の同一の丘陵斜面での観察では、カラスザンショウのみから卵が確認され、他の樹種からはみつからなかった。また、千葉市内におけるカラスザンショウを欠く同一の丘陵斜面では、イヌザンショウのみから卵が確認されている。 |
成虫: |
食植性/花蜜。訪花性は強く、アザミ類、ツツジ類、ユリ類、ヤブガラシ、ムクゲ、ネムノキ、クサギなどさまざまな花で吸蜜するが、特に赤色系の花を好む。夏型の♂は湿地でよく吸水し、ときに大集団を形成することがある。春型の♂にも弱い吸水性がある。 |
類似種: |
ミヤマカラスアゲハと似るが、翅の色調が相違する。 |
保 護: |
指定されていない。 |
その他: |
分布は連続し全国に普遍的だが、いずれの産地も個体数は多くない。 |
天敵 |
捕獲: |
幼虫はアシナガバチ類やスズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は大型ヤンマ類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類。造網性クモ類など。 |
寄生: |
幼虫に寄生する、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のムラサキアゲハヒメバチ(Trogus lapidator lapidator (Fabricius, 1787))、ヒメキアシフシオナガヒメバチ、アゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Psilomastax pyramidalis Tischbein, 1868)、前蛹期に産卵するアオムシコバチなどのコバチ類が知られ、いずれも蛹から脱出する。他にはヤドリコバチ類。終齢幼虫から脱出するマダラヤドリバエなど。 |