ナミアゲハ

凡揚羽蝶 (アゲハチョウ科)


2002/05/21 14:10 袖ケ浦市吉野田 / NIKON F100 + AF MicroNikkor ED200mm F4(IF) /Kodak Kodachrome PKR64

 中型~大型のアゲハチョウ。日本で最も普通に見られるアゲハチョウで、ただ単に「アゲハ」とも呼ばれる。周辺離島を含めた日本全土に分布するが、人里近い環境に多く、山地や原生林的な環境には少ない。サンショウ類、キハダ、ハマセンダンなどのミカン科の野生種のほかに植栽されたミカン類やカラタチなども食べるので、市街地でも比較的手軽に観察することができる。食樹さえ手に入れば飼育も結構容易なので、夏休みの自由研究などに本種の飼育を経験した人も多いことだろう。特に本種に限らず、チョウの羽化は、子供たちには是非見てもらいたい感動の瞬間である。
 写真は、袖ケ浦市吉野田で5月下旬の午前中、林縁に植えられたムシトリナデシコで吸蜜する春型の♀である。性差は斑紋と大きさに表れ、♂は後翅表中央の基部付近に黒色の性標をもち、♀は♂より大きいので区別は容易。季節変異は明瞭で、夏型は春型よりはるかに大きく、翅表の黒色部が発達する。一見するとキアゲハに似ているが、前翅の基部付近の斑紋の形状が異なり、これより地色が薄いので簡単に見分けられる。
 ツツジやアザミ類など赤色や紫色系の花を好むが、実際には白や黄色など多くの花で吸蜜する。ただキアゲハと比較して樹木の花を好む傾向が見られるようだ 。飛翔は比較的敏速で、♂は林縁や日蔭に蝶道をつくって飛ぶことが多く、クロアゲハと違って明らかに陽性の環境を好む。吸水性は夏型の♂によく見られるが、黒色系のアゲハチョウのように集団をつくることはない。アゲハチョウの中ではキアゲハと並んで最も春早くから姿を現す種で、県南部などでは遅くとも3月中旬、県北部でも3月下旬には出現する。第2化以降の夏型ははっきりした周期を示さずにだらだらと発生を続けるため、その回数はつかみにくいが、県北部~県央部では4回~5回、南部では6回程度世代を繰り返すものと考えられている。



ナミアゲハ 原名亜種 (アゲハチョウ科 アゲハチョウ亜科 アゲハチョウ族)
Papilio xuthus xuthus   Linnaeus, 1758
分布 国内: 周辺島嶼を含め、ほぼ日本全土。平地~山地まで汎く分布するが、平地~低山地が中心となる。
県内: 都市部を含め全域に棲息するが、深山にはむしろ少なく、人里に近い地域に多い。
国外: 朝鮮半島、沿海州、中国大陸~インドシナ北西部、台湾、フィリピンのルソン島北部に分布する。ルソン島北部産はベンゲットアゲハ(ssp. benguetana Joicey et Talbot)と呼ばれる別亜種。それ以外の地域のものが原名亜種とされる。標式産地は「広東」。
変異 形態: 国内での地理的変異は知られていない。
季節: 明瞭。斑紋が相違する。春型(第1化)と夏型(第2化~)が知られる。
性差: 春型はほぼ同型、夏型は異型。春型では不明瞭だが、♀は♂より大型で、♂は翅表の黒色部が発達し、前翅表に黒色の性標をもつ。
生態 環境: 日当たりのよい林縁的環境を好み、人家周辺にも多く生息するが、草原にも進出することがある。
発生: 多化性通常年4回5回 。県内で3月下旬、暖地では3月中旬、寒冷地でも5月中旬には姿を見せる。
越冬: 。通常は食樹の幹などで見つかるが、食樹を離れて直射日光や雨の当たらないさまざまなものに付着することも多い。なお、越冬蛹は大多数が褐色型で、野外では緑色型はほとんど見当たらない。
行動: 昼行性。飛翔は敏速。♂は林縁などに明瞭な蝶道を形成し、比較的低い位置を飛ぶことが多いが、樹冠などの高空を滑空することもある。 求愛・交尾は午前中~正午前後が中心で、産卵は午後に行われることが多い。
食性 幼虫: 食植性/ミカン科サンショウカラスザンショウイヌザンショウ、キハダ、ハマセンダン、 フユザンショウが主。他に栽培ミカン類やカラタチでも発生する。稀にキバナコスモスやコスモス、シャクヤクなどでも卵や幼虫が見つかることがある。サンショウ、イヌザンショウ、カラスザンショウの混生する 袖ヶ浦市内の同一の丘陵斜面での観察では、いずれからも卵が見つかっており、特に顕著な嗜好性の差は見られなかったが、日当たりのよいカラスザンショウの幼木でやや多くの卵が見つかっている。
成虫: 食植性/花蜜。訪花性は強く、アブラナ、アザミ類、ツツジ類、ユリ類、ヤブガラシ、ムクゲ、ネムノキ、クサギ などさまざまな花で吸蜜するが、紫色もしくは赤色系の木本の花を好む傾向がある。また夏型は特にヤブガラシやクサギを好む。夏型の♂は湿地で吸水することも多いが、黒色系のアゲハとは異なり集団を形成することは稀。
類似種: キアゲハと似るが、翅の地色と翅表基部付近の斑紋が相違する。
保 護: 指定されていない。
その他: 飼育は容易。
天敵 捕獲: 幼虫はアシナガバチ類やスズメバチ類、サシガメ類、クチブトカメムシ類、ハエトリグモ類。成虫は大型ヤンマ類、オオカマキリ、チョウセンカマキリなどの大型カマキリ類。造網性クモ類など。
寄生: 幼虫に寄生する、ヒメバチ科ヒメバチ亜科のムラサキアゲハヒメバチ(Trogus lapidator lapidator (Fabricius, 1787))、ヒメキアシフシオナガヒメバチ、アゲハヒメバチ(Holcojoppa mactator (Tosquinet, 1889))、クロハラヒメバチ(Quandrus pepsoides (Smith, 1852))、ヒラタヒメバチ亜科のヒメキアシヒラタヒメバチ(Pimpla disparis Viereck, 1911)、マイマイヒラタヒメバチ(Pimpla luctuosa Smith, 1874)、クロフシヒラタヒメバチ(Pimpla pluto Ashmead, 1906)、前蛹期に産卵するアオムシコバチなどのコバチ類が知られ、いずれも蛹から脱出する。他にはヤドリコバチ類。終齢幼虫あるいは蛹から脱出するヤドリバエ科のブランコヤドリバエ、マダラヤドリバエ、カイコノウジバエ(Blepharipa sericariae (Rondani))など。

メイン