2009年ドラフト総括◇2009年ドラフト会議指名結果
育成枠ドラフト
今年は不作だからね…。 2009年に何度となく聞かれたり書かれたりした言葉だった。しかしこの言葉はこれまで幾度となく聞かれたが、それは春先だけの話で夏を越え秋が近づくにつれ、消えていく言葉でもあった。 2007年の夏、東北に一人の高校生の名前が挙がる。花巻東・菊池雄星。1年生とは思えない180pを超える長身、放たれる145qのストレート。いまでは毎年一人出てくるようになった1年生の145km投手。しかし菊池雄星は左腕だった。怖いもの知らずで投げるストレートはバッターに向かっていく。派手なパフォーマンスはないが勢いと力で向かっていく荒々しい投球スタイルだった。甲子園に出場しそのポテンシャルを見せるもチームは1回戦で敗れた。しかしこの世代をリードする選手として全国に認められた瞬間でもあった。プロの東北担当スカウトは当年のドラフト候補を追いつつも菊池投手をマークしていた。 同じように1年生で注目を集めたのは常葉橘高校の庄司隼人。常葉橘中学では軟式野球で全国大会に出場、144qをマークした。高校入学後春に先発して勝利しそのままエースとしてチームを引っ張る事になる。 野手では横浜高校にまた大物が入学する。和歌山県出身で全国ベスト8に進んだ堺ビックボーイズの4番、筒香嘉智。チームでは30本塁打を放ち、富田林シニアの京田勇貴選手らとともに少年野球の中心選手として注目されていた。横浜高校では紀田彰一以来の1年生での4番打者となった。 大学野球では法政大の武内久士投手が1年生で150qを連発。制球がままならず粗い投球であったものの注目を集めるには十分だった。 ◇2008年 2008年に入り、菊池雄星は球速の魔力に取りつかれる。春に149qまで伸ばしたもののフォームの柔軟さを欠き、1年生の時の球の伸びや思い切り良さを欠いた。そして腰痛により全国の舞台に立つことはできなかった。 そんな中頭角を表した投手が三人いる。一人は清峰の今村猛。1年に秋に140qを突破し夏の大会では140qの速球とスライダーで本格派の投球を見せた。強靭な体格はまだまだ力を秘めている事を予感させた。もう一人は智弁和歌山の岡田俊哉。174pと小柄なながら、左腕からの伸びのある140qのストレートで強豪を撃破した。常葉菊川に敗れたもののプロのスカウトからは「今年(2008年)の選手を含めてもドラフト1位候補」という評価を得た。 最後の一人は、横浜の筒香嘉智は春の大会で腰を痛め、夏の予選大会も極度の不振に陥ったが渡辺監督は甲子園でも筒香選手を起用し、浦和学院戦でホームランを放つと、聖光学院戦では2本塁打、個人記録タイとなる1試合8打点をマークし本物の証明をした。 また秋の明治神宮大会では新たに実力みせた選手がいた。西条の秋山拓巳投手は186pの長身に91sの身体。マウンドが小さく見えるほどのスケールで140km中盤の速球を投げる。打撃でもホームランを量産するパワーヒッターである。鵡川の西藤投手、光星学院の下沖勇樹投手も140q中盤をマークするストレートを見せつけた。その中で注目を集めたのは慶應の白村明弘投手。148qをマークするストレートで次々と空振りを奪い、強豪ひしめく神奈川の代表としての力を見せつけて優勝を果たした。 大学では立命館の藤原正典投手が力を見せる。春の3試合連続完封勝利を見せ防御率1位となり注目を集めると、秋には6勝をマークしチームを優勝に導くとともに自らもMVPとなる。腕を下げ球の出所を見づらくするフォーム改造により、また自信により球のキレが良くなった。この活躍で大学生投手の中心は藤原投手となった。 社会人でも2008年のドラフトで、待ちながらも指名されなかったトヨタ自動車・大谷智久投手がドラフト後の日本選手権で大活躍、3試合に先発し完投勝利、1試合はリリーフ登板でピンチを抑えた。悔しさをばねにしたその活躍でMVPを獲得するとともに、翌年のドラフト上位指名を確定させた大会ともなった。また2008年ドラフトで千葉ロッテから指名を受けながらも入団しなかった大物選手がいる。ホンダの長野久義選手だ。大学時のドラフトで日本ハムの指名を拒否、そして2度目の拒否で巨人入りを目指した。 ◇2009年 2008年のドラフトが終わり、2009年のシーズンが始まる。 まずプロが動いたのは立命大・藤原正典投手だった。阪神はドラフト1位候補に挙げると、初練習詣でには巨人、オリックス、北海道日本ハム、東京ヤクルト、横浜が訪れた。スカウト会議では藤原投手のほかに、法政大の武内、二神投手、そして口をそろえて名前が挙がるのが、花巻東・菊池雄星投手だった。 そのような中、巨人が動く。ホンダの長野久義選手の1位指名を早々と決めた。2008年の大田選手の1位指名もあり、その後何度となく、土壇場で菊池投手を指名するというような噂も流れたが、今年は終始一貫、長野選手1位指名が揺らぐことはなかった。 早春時点での各球団の指名予想
春のセンバツは花巻東の菊池雄星と清峰の今村猛の一騎打ちとなった。菊池雄星投手1回戦で152qをマークし、あわやノーヒットノーランという投球をみせて完封すると2回戦でも完封勝利して復活をみせた。ストレートに加えスライダーで三振を奪える。フォームはややおとなしくなったものの柔らかさが戻り、キレが戻り、制球も安定した。三振を奪うたびに雄たけびを上げる投球に甲子園が酔った。今村猛投手も負けはしない初戦で148qをマーク。投球全体ではスライダーと制球重視のストレートで安打を許すものの、要所では140q中盤の速球がうなりを上げて抑えた。決勝までの自責点はわずか1点だけだった。 そして決勝で両雄の対決。周囲の盛り上がりとは対照的に二人とも淡々と相手を抑えてゆく。試合もどんどん進み、わずか1点を失った菊池投手が敗れた。試合終了後のあいさつで二人は言葉を交わした。「またここで戦おうな。」 大学では法政大の二神投手がブレークする。エースとなった自覚で球速も150qをマーク、制球、スライダーも抜群の安定感で4勝0敗、見事法政大を優勝に導いた。続く大学選手権でも3勝を挙げ日本一となるとともにMVPにも輝いた。春を無敗のまま勝ち上がっていった。 しかし他の大学生選手に目立った活躍は見られない。社会人でも一定レベルに評価できる選手はいるものの、ドラフト1位候補として確実に指名されるような選手の活躍は見られず、冒頭の言葉は夏にも聞かれる事となった。そんな折、2つの衝撃的なニュースが飛び込む。 一つは慶應高校・白村投手が進学というニュース。最終年となる3年生で、春の大会、夏の大会予選ともに思うような活躍を見せられなかった事から慶應高校初といわれたプロ入りを最後まで迷い断念した。慶應大に入り東京六大学で4年後を目指す事となる。 そしてもう一つは菊池雄星、メジャー入り、というもの。かねてよりメジャースカウトがマークし、本人もメジャーリーグの言動が多かったが、国内球団が恐れる事態に向かっていく可能性が出てきた。春の大会による疲れから背中に痛みを感じながらも夏の予選を突破し、ひとまず甲子園後まで結論は延ばされることになる。 予選では千葉に関東NO1左腕と言われた真下貴之投手(東海大望洋)、そして真下と同等の評価を得ていた小川龍也投手(千葉英和)、関東NO1右腕と評された、中村勝(春日部共栄)、センバツ優勝の清峰・今村猛投手、そして横浜の筒香嘉智選手は高校通算69本塁打まで記録を伸ばしつつも甲子園には手が届かなかった。 ◇夏 そして迎えた夏の大会、センバツの優勝投手・今村猛は予選で姿を消し、菊池雄星も不調の中、最後に力を見せたのが明豊・今宮健太と中京大中京・堂林翔太。 今宮選手はセンバツでも149qをマークしていたが甲子園で154qをマーク。またその身体能力で内野手としても俊敏なプレーをみせ、高校通算60本塁打を超えるリストの強さを見せた。堂林選手は中学時代から注目されていた選手で投げても140qをこえるストレートと抜群のキレを見せるスライダーで勝って行けるが、本来はその安定した天才的な打撃に注目が集まっていた。中京大中京の大藤監督も「本来はバッターに専念させたかったがチーム事情で投手をしてもらった」というほどの野球センスを見せていた。3年の春に足を疲労骨折したが、それによって投球スタイルをますますスライダー中心の打たせて取るものに変えてゆき、見事夏の選手権を制した。 注目NO1の菊池雄星は背筋痛もありフォームを崩して、154qをマークするもののホームランを浴び敗れ去った。中学時に注目を集めていた常葉橘の庄司隼人投手も147qをマーク、西条の秋山投手も148qをマーク、昨年も活躍した岡田俊哉も最後の夏を十分戦って締めくくった。 夏時点での各球団の指名予想
◇注目の進路、そしてドラフト会議へ そしてドラフトに向かい、注目は菊池雄星投手の進路に集まる。そしてプロアマやメジャーとの関係をクローズアップさせる問題となっていく。国内球団は菊池投手がプロ野球志望届を出さなければ、高校野球連盟の規定により本人と面談ができないままドラフトでも指名できない状態となってしまう不公平さをアマ側に訴えた。これにより菊池投手側はプロ野球志望届を提出、国内、メジャーの各球団と30分づつの面談を行う事となった。国内球団は長野選手を1位指名する巨人も面談を行い、国内球団入りの働きかけを行った一方、メジャー側も現役選手を面談に同席させるなどの力の入れようをみせた。 そして菊池雄星投手はドラフト直前の10月25日に記者会見を開き、国内球団に進むことを明らかにした。しかし菊池選手の目には涙が光った。これまで何度となく繰り広げられ繰り返されたプロ球団の駆け引きとそれに翻弄される選手の涙、ドラフトや制度が生み出す隙間に流れる溝に流れるが、これまでの国内球団同士によるものからメジャーリーグとのものに変わった。それはいつまで続くのだろう。 そしてドラフト当日10月29日。 ファン1000人をドラフト会場へ招待するという企画も大成功し、会場は一段と盛り上がる。 読売、横浜、広島東洋、オリックス以外の8球団が菊池投手を指名すると予想され、野茂投手と並ぶかと注目される中、1位指名が始まる。 蓋をあけると、千葉ロッテが菊池投手を回避してトヨタ自動車の荻野選手を、福岡ソフトバンクが今宮健太選手を指名し6球団の抽選となる。そして抽選後に声を上げたのは西武・渡辺監督だった。PL学園の清原選手、横浜高校の松坂投手、そして菊池投手。ここぞというときにくじ運の強さに驚嘆させられる。 外れ1位でも抽選が繰り返されるかと思われたが、不思議と各球団指名が重複せず1位指名が終了した。 岡田投手が中日、二神投手、藤原投手が阪神、筒香選手が横浜、今村投手、堂林投手、庄司投手が広島に指名される。秋山拓巳選手は4位まで指名が上がらず、阪神に指名されたものの涙を流した。 ドラフト中位〜下位では地方の大学や社会人、独立リーグの選手が指名され、スカウトの苦労の成果を表した。 ドラフト後に近大の藤川選手が3位以下ならば東邦ガス入りという方針をプロ側に説明をしていたにもかかわらず、阪神が5位で指名したこと、また中日6位指名のホンダ諏訪部投手が指名順位の低さからプロ入りに難色を示した。藤川選手は近大・榎本監督や東邦ガスの配慮もありプロ入りを固めたようだが、諏訪部投手は来年を目指すこととなった。 こうして2009年のドラフトは終了した。冒頭の言葉はドラフト後にも聞かれたのだろうか? ◇あれやこれや 今年のニュースの中ではやはり菊池投手メジャー行きの動きだろう。これまでアメリカに渡った選手はかなりいる。しかしドラフト候補として注目されながらもプロの指名があるかないかの選手であったため、メジャーリーグとの紳士協定があるという雰囲気であった。しかし昨年の田澤投手のプロ拒否によって、ドラフト1位クラスの選手がメジャーに流出するという事態になってその脅威に気付いて紳士協定など無いに等しいと理解された。苦肉の策として場当たり的な対処もした。まだ田澤投手は学生野球ではない社会人野球の選手として、比較的制度上の壁は低かったと言えるが、今年は違った。アマチュア野球でも学生野球は、特に高野連はプロとの間にものすごく高い壁が存在する。プロの関係者とキャッチボールをすることが大問題と言われるほどだ。非常に保守的な組織である。メジャーの干渉があってこれまで放っておいた問題が改めて明らかになったといえる。 保守的な事が良い面もある。伝統にこだわった姿も高校野球の魅力の一つだ。しかし、メジャーリーグはドラフトの対象国を広げることを模索していると言われる。他の様々な問題がそうであるように、国内の問題にとらわれこだわっているようでは、グローバル化とそのスピードにやられる。若い高校生や選手たちはその流れを敏感に受け取り、今後世界でプレーしたい選手がどんどん増えるだろう。その時日本のプロアマが今の状態では太刀打ちできないだろう。いくらWBCで世界一になったとしてもだ。 菊池投手が流した涙を理解し、この問題にどれだけ真剣に取り組むかで今後の日本球界の進む道が見えるだろう。そして、選手が流す涙が減っていくのかもしれない。 最後に1996年からスタートしたドラフトホームページも12年経ち、干支を一回りしました。早いものです。今年は何もないだろう、今年は問題なくいくだろうと思い長、毎年本当に何かしらあるものです。いろいろと考えさせられました。 でも今年指名された選手は本当に活躍してほしい!そして菊池投手は松坂投手のように国内で文句のつけようがない活躍を見せて、堂々とメジャーに挑戦してほしい! そしてまた、今村投手を筆頭に菊池選手のライバルたちがどんな成長を見せてどんな戦いを見せるのか本当に楽しみです。それでは毎年重ねる言葉を。 ドラフトに指名され、プロ野球に入る選手の皆様! おめでとうございます! ただし私たちが見ている夢は、選手の皆さんがプロで活躍する姿です。 プロで活躍し、皆さんが見ていた同じ夢を、今度は将来のプロ野球選手に与えてくれることを期待しています! ドラフトに指名されなかった選手の皆さん、数年後、みなさんの名前がもっと大きくなってこのドラフトホームページに掲載することを願い、候補選手のページにスペースを空けて待っています! 2010年は早稲田の斎藤投手など田中将大世代の選手が大学4年の年になります。高校生も多くの選手が活躍を見せています。 国内球団も体制を整え、すでに選手を追い探し始めています。2010年の秋、どんな選手がどの球団に入っているのでしょうか? 2010年、ドラフトホームページはどうなっているのか? いろいろな思いを抱きつつ、2009年のドラフトホームページを終わりたいと思います。 また1年間、みんなで楽しみましょう!よろしくお願いします。 2009年12月6日 ドラフト会議ホームページ yuki ◇2009年ドラフト候補動画
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