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「あぁ……『OH! かると』の記者さんか」
妙見青海はクスッと笑うと、デスクの上の灰皿に、煙草の灰を軽く落とした。
「あたしも取材受けたこと有るわ。結構マジメに目を通してれば、それなりに同業者の
情報収集に役立つわよ。そうそう……雪が載った号も読んだけど、凄いわねぇ。
女神様みたいな書かれ方。写真が載ってない分、好奇心を煽るわね」
「――さっきの、シメ上げられてた方の子が書いた記事よ」
「ふーん……彼、あなたのファンね」
にやにや笑う青海に、雪は溜息。
「健気なファンね。ファンの人が、みんなあれくらいに素直で可愛げの有る人なら良いのに」
「相変わらずモテるのね……。で、さっきの、シメ上げてた方は、カレ?」
「じょーっ、だん、じゃないわよ青海」
雪は、今ついたばかりの溜息を遥かにしのぐ大溜息。
「何処をどう見たらそういう推断ができるわけ?」
「あら、あんたには似合いだと思うけどね。彼、霊感ゼロでしょ」
青海の能力、そして人脈による情報収集の力量はハンパでなく、雪も彼だけには、隠し事を
するのも放棄している。
「えぇ……初めてよ、あれだけの『ニブ』は。あいつ私の顔見れば『女ペテン師』とか『インチキ
占い師』呼ばわりよ? あんなのとそうしょっちゅう一緒にいるのはごめんだわ」
「ふーん?」
青海の口元は、に〜やにや。
「ま、あんたには、ダブル“けい”もいることだものね」
――これだから……と、雪は頭痛。彼女が自分から弟の螢や、従兄の慧のことを話したことなど、
一度もないはすだった。
「でも、陰陽師の汀家の当主とアタシの恋じゃ、ちょっと波乱を起こしそうね〜」
「何ふざけてんのよ……」
「となると、やっぱ『買い』は螢君? あたし、あんまり年下は趣味じゃないんだけど」
「螢の方は……素質あるかもね。雄生――さっきのシメ上げてた方の男と、やたら仲良いのよ。
今日も仕事後に会うとか言ってたっけ。……全く、私みたいな完璧すぎるオンナが当然のように
側にいると、そこらの女性には興味持てなくなっちゃうのかしら〜」
ほぅ……と雪が嘆かわしそうに呟くと、青海はケラケラと笑った。
「よっく言うわよー! そういうアンタこそ、本命はどうなの」
「ハルミが知らない、ってことは、『いない』ってこと。分かるでしょ?」
「へ〜え?」
青海は、何か言いたげなくせに、わざと追求をしない様子。そして、全てを忘れたかのように、
話題を変える。
「ところでさっきのボーヤ達は、何しに来てたの?」
ボーヤと言ったって、確かに青海は雄生よりは随分と大人びて見えるが、年は同じくらいだろう。
「あぁ。次号からシリーズで、『都市のミステリー・スポット』っていう特集をやるんですって。それで今回は、
何処にするか選んでほしいっていうから。――彼、トオル君っていうんだけど、熱心だから、まだ新米
なんだけど、結構自由に任されてんのね。今度もはりきってた」
「それで、選んでやったの?」
「……安全な所をね」
二人、顔を見合わせて、クスッと笑った。本当に危険な場所であれば、それこそ心霊写真撮れまくり
にはなるが、人や物に念が取り憑く危険性が高くなる。興味本位で人が近づいても危険なので、
雪は、そんな場所は外していた。
「ま、確かに、そんな場所はゴマンと有る。というか、爆発的に増えてるわね。無理もない話だけれど」
青海は煙草を消すと、デスクに肘をついた。
「近年の乱開発で、長年ここいらを邪霊の侵入から守護してきた結界が、ことごとく破壊されてるもの。
寺社仏閣は動かす、神木は伐(き)る、墓は無闇に動かす……。祟ってくださいと、拡声器で怒鳴ってる
ようなもんだわ。劣悪な生活環境と霊の障(さわ)りで、日本人の体は、どんどん蝕まれてゆく……」
「精神の支えを求める人々の波があふれ、私らは商売繁盛、と」
「ちょーっとソレは不謹慎な発言じゃなくって? 雪」
また顔を見合わせて笑う。
「あたしもこの間頼まれたのは、そんなミステリー・スポットじみた場所の霊視だったわ」
青海が、思い出したように話し始めた。
「あれも、ヘタな墓の移し方をしてね。工事をしてた業者が、『とにかく急いでたもんだから』なんて
言い訳してた。それで障りが有れば、工期が遅れるどころじゃないのに。地鎮祭までの日程を、
勝手に圧縮しちゃったり、多いみたいよ? 最近」」
ふんふん、と雪が聞いていると、不意にデスクの上の電話が鳴った。「ちょっとゴメン」と受話器を取る。
「……はい、涯見です」
「――如何お過ごしでしたか? 雪さん」
何だ……と、雪は肩が落ちた。電話の主は、影小路透麗。彼女はすぐに背筋をピンと張って、
「何か御用?」と、尋ねる。顔の見えない相手に、何を澄ましているのかと可笑しくなるものだが、
相手に合わせたとでも思ってもらおう。
「いえ。お仕事が終わられた頃かと思ったので、お電話してみたんですよ。おや……お客さんかな」
雪はハッとして、思わず青海のことを見てしまった。青海は、ん?と目を上げて、雪にヒラヒラ〜と
手を振って笑う。
「それも……男性らしい」
「まぁ、そうね(一応)」
どうして分かったかなんて、尋ねるだけバカらしい。
「となると、今夜はリザーヴ済みでしょうか」
「えぇ。あなた以外にも、色々と付き合いがあるから。お誘いいただくつもりでしたら、ごめんなさい?」
「いえ。またの機会にします。――つれないあなたも、私は好きですから」
――何言っとんじゃコイツは。
気取ってんだかマヌケなんだか、よう分からん。どちらにしろムカムカするのは、いつも雪の方。
見えない相手に、にっこり笑顔を作って別れの言葉を告げた後は、キーッ!となって、受話器を
叩き付ける。
「今のが……本命のカレね」
青海の言葉で、ハッと我に返り、雪は顔を上げた。一瞬絶句したが、さっきの雄生の件どころでは
ない剣幕で、ばんっ!とデスクに両手をつくと、青海の方に身を乗り出して、
「じょ――――――っ、だん、じゃ、ないわよぉっ!!」
「……顔が崩れてるわよ」
スゴい顔の雪にもビビらず、青海は冷静に言った。言われた雪は、ハッと硬直。そして、ビシバシッと
顔を叩いてほぐした。
「悪い冗談はやめてよ、青海……マジで」
「おやおや……」
青海は新しい煙草を取り出し、火を付けると、ゆっくりと息を吐いた。
「あやしーなー……。クールな雪さんを手玉に取っちゃう悪いオトコは、何処のどいつかしら。
よく通るテノール。女殺しの声だわね」
「あのねぇ、ハルミ」
「あたしをダシにヤキモチ妬かせる魂胆は、ちょぉーっとムリが有ったんじゃぁない?」
「そんなんじゃないわよー」
ムキになって怒れば、まるで肯定のサイン。だから雪も、ひとりで静かに澄まし返る。
「ふ……何とでも言ってくださいよ」
どうせ、今の相手が何処の誰とも知らないんだから――と、強気になって、ふふんと余裕で開き直ると、
青海が、「ふーん……?」と、例のイヤな笑い。その表情に見覚えがあった雪は、「えっ……」と息を呑んだ。
青海は、口元に笑みを浮かべたまま、またポケットからサングラスをかけて立ち上げると、ツカツカと、
雪の背後の窓ガラスに向かった。雪は、何だか、やーな予感がして、振り返ることができなかった。
「なるほど……あんたの相手としちゃあ、不足はない化けモンだわね。元男爵家の麗しの貴公子、
影小路透麗。――現在、超高級会員制クラブ、神をも恐れぬ退廃の館、“薔薇龍”の店主」
「ハルミぃ〜……?」
雪は、ふるふると震える拳を握りしめながら、夕日をバックに背負ってる青海を振り返った。
「あんたとは、いっぺん話をつけとかないといけないと思ってたんだけどね……」
「言っておくけど」
立ち上がって詰め寄る雪に、青海は一本指を突き出して、「ストップ」。もう片方の手は、優雅に
煙草をふかす口元へ。
「あたしの情報源は、人間。のぞき見じゃないわ」
ホントかよ――と思いつつ、それでもご機嫌ななめ。既にコイツには、色々握られてるんだろうなとは
思っていたが、とにかく地獄耳。
「ま、そんな秘密の一つや二つで壊れる友情じゃないでしょ? あたし達」
小首をかしげてシナを作る青海に、雪はどーっと疲れた溜息。
「えぇ……とっくに絶交しててもおかしくないのに、いまだに付き合ってるものね」
よく続いてるもんだと、自分でも不思議になるが、一度も強請(ゆす)られたこともないし、一応、
信用しているのだろう。
「やぁねぇ。あたしだって、エチケットくらい心得てるわ。特に雪なんか、本気で怒らせるとコワイもの」
「そんな大人げないことしないわよー」
「大人げないくせに!」
わいのわいのと、本当に女同士の口論みたいに騒いでいると、またプライベート・フォンが鳴った。
「ほら、またカレかもよ?」
「ぅるさいっ!」
からかう青海を無視して、雪は受話器を取った。
「はい、涯見……あ、螢?」
超無愛想な声がコロッと変わって、青海に笑われる。雪が足癖悪く蹴りっ!とすると、青海は
「きゃん!」と逃げる。
「あ、えぇ、何だって?」
「雪さん、今日、夕食は? 家で食べる?」
家事万能少年の螢は、雪の予定が朝までにハッキリしないと、こうして学校の後に、夕食が
要るか要らないかの確認に、電話をかけてくる。
「あー、そうねぇ……」
雪は、脚が届かない部屋の隅に避難した青海を、チラと見やると、
「私は友達と出かけるけど、あんたも一緒に来る? あ、雄生と約束してたんだっけ」
「うん」
「じゃあ、あんたは雄生とご飯食べれば」
「分かった。雪さん、帰りは何時になりそう?」
「10時くらいまでなら、電話くれれば、あんたも拾って帰るわ」
電話を切ると、青海が甘ったるい声で、
「どうして螢君も誘ってくれなかったの? 会いたかったのに」
唇をとがらせ、すねたようにぶちぶち。
「未来有るいたいけな少年を、オトコと一緒に夜遊びさせるなんて、どうかと思うわ」
「誘ったじゃない。先約なんだからしょうがないわよ。大体、あんたよか、雄生の方が安全だと
思うけどね。未成年の弟の貞操は私が護ります」
「んまっ。……じぃ〜ぶんだってまだ処女のくせに、よー言うわ。――わーっ!! これはトップ・シークレット
だったー!?」
「ハルミ〜!!」
「きゃー、怖いっ!」
オネェ様と女王様は、オフィスの中を、ぐるぐるぐるぐる追っかけっこを始めた。
やはり……大人げない。