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          1−1

          「――じゃあ、やっぱりポイントは」
          「そうね……あなたが挙げた中なら、A橋と、T公園かな」
          オフィス・アワーを過ぎた街。某ビル三階にある、『あなたのハッピーな未来を占う・KKハッピー
          フォーチュン企画』のデスクでは、若い男女が都心の地図を挟んで、何やら話している。
          ここは、まだ若く麗しい外見ながら若干オヤジ入っている、売れっ子占い師・涯見雪の仕事場。
          「トオル君、今日これから行くの?」
          雪はデスクに片肘ついて、目の前に座っている自分と同じ、二十歳前後の青年に尋ねた。
          まだ新米ハリキリ社員といった感じがみなぎっている倉橋トオル君は、オカルト雑誌の駆け出し記者。
          そして熱心なオカルティストであり、雪の大ファンでもある。
          「えぇ。特集といっても忙しくて、ギリギリ進行な企画で……」
          地図をたたみながら彼が答えると、雪は、
          「それで、手早く私に場所を選ばせた――と」
          「す、済みません、このお礼は必ずします! 今度、食事でも……」
          トオル君が焦って立ち上がろうとすると、雪はチョット眉を上げて、にっこり。
          「良いのよ、大したことじゃないし。――ただ、写真が、あの雄生じゃねぇー。 絶対、何も
           撮れないわよ。トオル君が撮った方が、まだ『何か』が写る可能性は高いわ」
          「そうですか?」
          雪は大きくうなずいて、
          「だーってアイツ、掛け値ナシの霊感絶対値ゼロって、私も初めて見る天然記念物だもの!
           よっくオカルト誌でクビにならないわねー」
          「そ……それは……」
          一応センパイのことなのでかばいたいのだが、基本的に雪のファンなので、反論はできない。
          「これから行くなら気を付けてね? 雄生はヘーキだろうけど、あなたなんて、憑かれないように
           しないと。――ね、雄生だけ行かせれば? 別に、モノが写ってなくても良いんでしょう?」
          不意に雪が、誰もいないのに、人の耳をはばかるように、ヒソヒソッと囁いた。
          「は……あ……」
          「大体、アイツの使い道なんて、それくらいっきゃないでしょう! だまくらかして、アイツ独りで
           行かせなよ。ね、ね?」
          「えっ、あのそれは……いえ……はい……」
          バタン。
          事務所のドアの開く音にビビッて振り返ったトオル君は、引きつって立ち上がった。
          「す、すーさん!」
          雪の方はビクともせず、それどころか自慢の脚を大胆に組み替えて、スリットからはガーターベルトがチラリ。
          「あら椙本さん、ごきげんよう。女運の悪さをどうにかしてもらいにいらしたの?」
          「う、る、せぇ〜っ……!!」
          椙本雄生、オカルト雑誌『OH! かると』配属のカメラマン。元熱血甲子園球児だが、不本意にも
          ゲーノー誌やオカルト誌をタライ回しにされた経歴を持つために、仕事には熱意のカケラも
          持ち合わせてはいない。
          「さっきから聞いてりゃあ、好き勝手なこと言いくさってぇ〜」
          「え? まあ、立ち聞き? はしたないわぁ〜ん」
          「あの、すーさん……?」
          雄生はズカズカ室内に入ってくると、トオル君をキッとにらみ、
          「おまえもよぉー……俺があれだけクソミソに言われてるのを、そのまま言わせておくかぁー?」
          「だ、だって、すーさん、」
          「ホントのことだものねぇ」
          「オマエは黙ってろ!」
          雄生に怒鳴りつけられても、雪はツーン。
          「仕事にプライドってもんがねーのか! 外部の人間から情報もらったりしてよぉ」
          「じゃ、すーさんはプライドあるんですか?」
          「おーよ。如何にオカルトやら何やらがデタラメでインチキかを立証するのが、俺様のこの冷徹な
           キャーメラの眼だ! それが俺の仕事にかける情熱だ!」
          「……」
          トオル君も雪も呆れた。
          「トオル、お前なぁ、こんな女の口車に乗せられて、言いなりになってたら道を誤るぞ?」
          「こぉーおんなーオンナにー、誰がした〜♪ てか」
          「雪っ、トオルを巻き込んで、洗脳する気か!?」
          茶々を入れる雪に向かって雄生が怒鳴ると、雪は、「アホらしー」と頭をポリポリ。何とかフォローで
          両方を立てようとするトオル君は、気苦労が絶えない。
          「すーさん、涯見さんはただ、僕がお願いして、次の号に載せる『都市のミステリー・スポット』について……」
          「だーから、オレたちゃメッチャ忙しいんだろぉ〜? んー?」
          問答無用で、雄生はトオル君の胸ぐらをつかんで、
          「そのミステリー何とかで、バッチバッチと写真を撮りまくったら、そのアシでFテレビの、くっだらねぇ特番の
           収録の取材に行くって、おまーも知っとるだろぉーっ!」
          「はいいっ!」
          「ちょっと雄生、いたいけな後輩をシメ上げるのはよしなさいよ。そーゆう性格だから女運ないのよ」
          「ほっとけ!!」

          「あらあら……お取り込み中?」
          不意に背後から、背中をなで上げるような、ハスキー・ヴォイス。細面にサングラスをかけた、切り下げ髪の、
          戸口に寄りかかっていた人物と目が合う。
          「あら、新顔ね」
          ハスキーというより、「野太い」に近いような声だが、サングラスを外してウインクされると、雄生はドキッ。
          「ハルミじゃないの……何か用?」
          「ご挨拶ね雪。あーなたのベスト・フレンドがデートの誘いに来たってのに」
          「――あ、あの涯見さん、本当に有り難うございました! お礼は、後日必ず!」
          突然トオル君に引っ張られて、初対面の美形に見とれていた雄生は、転がるように事務所から出て行った。
          「――お邪魔だった?」
          「とんでもない」
          雪は笑うと、トオル君が座っていた席を勧めた。


          * * * *

          『OH! かると』の記者二人は、これから「都市のミステリー・スポット」の写真を、一時間でバシバシ撮る。
          心霊写真が撮れれば、めっけもんだが……カメラマンは雄生だ。
          「お前が撮るか?」
          「とっ、とんでもないですぅ!」
          ぶすっとして車のハンドルを握る雄生に、トオル君はブンブン首を振った。フツーに乗ってるだけでも
          怖いようなボロ車なのに、ドライバーの機嫌が悪くては、命が惜しい。
          「涯見さんも、冗談で言っていたんですよ、やだなぁー、すーさん」
          どうせコイツは雪の手下――と思ってるから、雄生の機嫌は良くならない。
          「それにしても、お前さっき、何で慌てて俺を引きずって出てきたんだ?」
          助手席(死亡率ナンバーワン)でビクビクしているトオル君に、まだムクれたまま雄生が聞くと、
          彼は突然、キッと振り向いて、
          「知らないんですか、すーさん!」
          「知るって……あの美形か? 雪の知り合いだろ。何でオマエが知ってるんだよ」
          「妙見青海(みょうけんはるみ)ですよ! ウチでも記事になったじゃないですか!」
          「……んなこと言ったって」
          雄生は大のオカルト嫌いだから、『OH! かると』の新刊が出たからって、目を通すものではない。
          「何だ、じゃあアレも占い師か?」
          相変わらず発想は貧困なままだった。トオル君はもどかしそうに、
          「だから、妙見教の関係者……というより、妙見教教主の血縁で、あの人自身、有名な霊能力者ですよ!
           おそらくは次期教主というような人です。……すーさん、まさか妙見教も知らないとか言わないで
           くださいよ?」
          「うっせーなぁ、名前は……聞いたことある……けどよぉ」
          どうせ聞かれても分からないくせに、一応見栄を張る。できた後輩は、ただ溜息をついて解説。
          「妙見教は、現在数ある新興宗教の中でも、初代新興宗教の中で五指に入る、歴史のある教団ですよ。
           すーさん、聞いてるんですか!?」
          隣の雄生が、「んなこと知らねくったって死なねーよ」だの、ブチブチ言っているので、スイッチ入った
          トオル君が詰問してきた。
          「聞ーてるよー」
          雄生は舌打ち。

          ――トオルの奴、普段は大人しいくせに、こーゆー話になるとマジだからよぉ……。

          可愛い後輩は、徹夜明けハイのように眼を爛々と輝かせて、結構コワイ。
          「あの明治大正の帝国主義政府による大弾圧をも乗り越えた数少ない教団で、」
          「“あの明治”って、オマエ生まれてねーだろうが」
          「知らないんですか、すーさんっ!!」
          「わっ!!」
          いきなり肩をつかまれ、ぐ〜らぐら。
          「明治政府の神仏統制で、多くの熱心な信者を持つ教団は、徹底的な弾圧に遭ったんです。
           それはスターリンの血の粛清、中国の文化大革命さながらに、近代日本史における血塗られた
           一ページとして……!!」
          「わーった、アブネーから手ぇ離せっ!」
          そんなの学校で教わらないだろう!というツッコミをしている状況ではない。
          「……とにかく、妙見教は由緒ある教団なんです。結局、その破壊的な弾圧に耐え、かつ現在も
           残っている教団とういのは、多くの信者たちの支持、そしてそれを支え得た教主たちの、
           圧倒的な指導力があったとういことなんですよ」
          「……」
          突然コロッと冷静になるところが、またコワイ。だからオカルト・マニアは……と、雄生の偏見が更に広がった。
          「――そっか。あの女もオカルト人間か。どーりで、ちょっとアヤシイと思ったよ。まぁ、割と良い女
           だったけどな……」
          ワケの分からん造語(「オカルト人間」)を呟いて、雄生が深い失望の溜息をつくと、トオル君は澄ました顔で、
          コホンと咳払い。
          「あの……すーさん。一言、言っておきますけれど」
          「あん?」
          「あの人……妙見青海さんは――オトコです」
          ぶっ!!
          丁度、赤信号でブレーキを踏むと、雄生はハンドルにのしかかってしまった。
          「お、オトコぉ!? で、でもあの顔で、女コトバ……」
          「……オネェさんだというウワサです。あくまで、『ウワサ』ですけどね」
          どろげろ。
          「何か僕、それで怖くなって……さっき、急に出てきちゃったんですよ。まさかすーさん、あの人に……」
          へーんな目で見られて、雄生はムズ痒い。トオル君は、はぁっと溜息ついて、窓にもたれた。
          「そういや、すーさんって、あれだけ美しくて魅力的な女性を、女性と感じていないみたいだし……」
          「雪のことかぁ? んなもん、あんなアバズレ……」
          「そのワリに、涯見さんの弟さんとは、やたら親密だし」
          「けっ、螢君が何だって!? おかしなこと言うんじゃねぇっ、螢君は俺の『心の泉』だっ!」
          「美少年ですもんねー。僕には、そういう趣味はないから分かりませんけど。――でもすーさん、
           いくら女性に手痛い、イヤな思い出が多いからって、」
          「ナニ勝手なこと抜かしてんだテメーは!!」
          果たしてこんなんで現場にたどりつけるのであろうか。



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