河野勲の岩国ノート

 〔23〕静かな空 1984/3/25

この静かさが戦争への道

 いま、岩国の空は静かである。岩国基地の米軍機がすべて、チームスピリット84に出撃しているからだ。
 三月十三日の中国新聞は、「ジェット音消える、岩国基地。米軍機、韓国演習へ」の見出しで、岩国基地の米軍機のほとんどが、韓国へ出撃していることを報道した。
 きょうは二十一日。岩国の空はまったく静かである。時どき残留のOA4スカイホークか、沖縄から飛来するC130かC141が飛び立つだけだ。
 昨年の八月から十月まで約三ヶ月間、基地は滑走路南半分を修復するために閉鎖した。ジェット機は、沖縄、韓国、フィリピンへ移駐し、プロペラ機だけが残された北半分を使用した。
 各新聞やテレビは、「返ってきた岩国の空」を報道した。とくにNHKは、基地にもっとも近い川下中学校が、二重窓(岩国の小中学校は爆音を防ぐため窓が二重になっている)を開いて、授業をおこなっている風景を写した。
 私も何人かの人に、「最近なにか感じませんか?」ときいた。
 しかし返ってきた言葉は「何かといわれても・・・別に」だった。
 「いま基地の滑走路の工事をやっているから静かでしょう」というと、「あ、そういわれれば静かですね」と、初めて気がついたような返事がほとんどだった。
 生活に追われている市民は、毎日つづく米軍機のごう音に関心を持つ余裕はなかったのだろうか。それとも基地の街四十年は、本来静かであるはずの岩国の空を忘れさせてしまったのか・・・。
 いま、チームスピリット84は、沖縄の海兵隊の揚陸、米本国からの兵力投入へとエスカレートしている。チームスピリットは、米軍と韓国軍の合同演習で、一九七六年より毎年おこなわれてきた。
 演習は、戦争の準備である。満州事変、日中戦争、第二次世界大戦、この進行には治安維持法、大政翼賛会など国民思想の統制が伴った(私も当時、一兵士として死ぬことを覚していた)。
 いま・・・トマホークの日本配備、政党法の制定のたくらみ。いま岩国の空は静かである。その静かさは、米軍機がチームスピリット84に参加しているための、仮の静かさである。この静かな空が戦争への道。しかも核戦争への道の一歩、一歩ではないか。

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