河野勲の岩国ノート

 〔14〕爆薬処理 1984/1/22

火炎と黒煙、砂が舞う姫子島

 基地の東側は瀬戸内海に面している。いわゆるデルタの底辺である。沖合約四キロメートルのところに「姫子島」という優しい名前の島がある。面積は約一千平方メートル。私が子どものころは頂上に松が茂り白い灯台が立っていて、後ろの甲島と広島県の黒神島を背にして内海の美しさをひきしめていた。
 この島が今では見る影もなく破壊され赤茶けた地肌をむき出しており、島の大きさも五十分の一くらい小さくなったのではないか。最近この島を取材した中国新聞のI記者は「まるで戦場のよう」と書いた。
 なぜかわいい名の「姫子島」がこんな哀れな姿になったのか。
 基地の沖には日米安保条約の地位協定のもとづいて米軍に提供している約二十一平方キロメートルの水域がある(基地の約四倍)。この水域は一般の船舶は航行が禁止され禁漁区にもなっている。
 この水域の中に「姫子島」が入る。したがって米軍の許可がなければ上陸できない。いわば日本の領土であって日本のものでないのだ。
 一九五八年、核搭載機A4Dスカイホークが岩国に配備された。スカイホークは「姫子島」を標的にロケット射撃や爆弾投下を始めた。美しい島影はみるみるうしなわれ赤肌をむき出してきた。占領行政の余韻(よいん)の残る市民の中にも反対の声が高まり爆撃は中止された。しかし、爆撃にかわって島の岸辺で爆弾処理が始まった。
 岩国基地には数ヵ所に弾薬庫がある。また広島県の江田島の秋月、呉市の広の黄幡、東広島市八本松には本土最大の米陸軍の弾薬庫がある。弾薬は一定の期間がたって性能が落ちてくる。性能の落ちた弾薬をこの島に船で運ぶ砂をかけ導火線を引き、爆発させて処理をする。火炎と黒煙と砂が島の二倍も高く立ち上がり、しばらくして、ドドンと地響きが伝わってくる。基地の沖の一角に市の施設があるが鉄筋コンクリートのひさしが落下したこともあった。
 岩国市の新日本婦人の会が基地の紙芝居を作ったが、その中のひとコマに「可愛そうな姫子島」というのがある。このまま放置しておけば近い将来海中に姿を消すかもわからない。

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