考えてみればこれが初陣で

いきなり時の流れに巻き込まれた気がする

この時から既に全ては始まっていたのだ

いや

もっと想像すら出来ない前から始まっていたのかもしれない・・・・・・・・



―――――Start History―――――――





「おい、起きろよ!!」




ガンガンガン!!と戸が壊れるんじゃないかと思うほどノックをしながら叫ぶビクトール。

まだ叩こうと振り上げた瞬間戸がすっと開き、やけににこやかなが顔を出す。




「うっせぇよ。ビクトール。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




笑顔で切れているようだ。常に少しおかしな使い方をするが、基本的にはですます口調で丁寧なのに、今は殺気すら込められている。

ヤバイ、とも思ったが、そもそもの用事を思い出し、勇気を振り絞って言う。




「た、大変なんだ!捕虜がもう一人の生き残りと一緒に脱走してハイランドへ向かってる!」

「ああ。そう。」

「・・・・・・・・・・・」




緊急の話を『ああ。そう。』の一言で片付けられてショックを受ける。

がっくしと肩を落としているビクトールを尻目にはさっさと荷物を取り出してくる。

その様子を不思議そうに見ているビクトールに、ファストはあくびを交えつつ不機嫌そうに言う。




「ほら。さっさとあんたも用意したらどうなんだ?」

「用意?」




ショックで頭が回っていないのかと、苛立たしげに考えながらゆっくりと子供に言い聞かせるように話す。




「ビクトールさんは、その二人が心配なんですよね?」

「ああ・・・・・・」

「で、すぐにも追いかけたい」

「もちろんだろ!」




勢いを取り戻してきたように目を輝かせて言う。

は深々とため息を吐きながら最後の質問をする。




「で、何の用意もなしに山を越えるんですか?」

「すぐに用意してくる!」




そう言うが早いか、走り出していく。

その背中を見送ると、再び深いため息を吐く。








その後すぐに門のところに行くと、既にフリックは用意をして待っていた。

さすがにそのくらいは判断できたらしい。

の姿を見ると、少し意外そうな顔をすると駆け寄ってくる。




「なんだ?お前も行くのか?」

「ええ。砦のことならポールに頼んできました。」

「そうか。それにしても珍しい気がするな。お前のその格好を見るのは。」




は今、マントから始まり上着、バンダナ、ブーツ、篭手それら全てが深緑だった。かろうじてズボンやインナーは違う白っぽい色だったが、はっきり言って深緑ずくめだった。

そんな自分の姿を見下ろして似合っているかどうか少し気になった。




「似合ってませんかね?」

「いいや。すごく似合ってると思うぜ?」



何馬鹿なことを言ってんだかと、苦笑するようにフリックは肩をすくめる。

実際の瞳は深緑で、肌の白さと黄土色の髪によく似合っていたし、均整の取れた利発そうな容姿には落ち着いた色の服が一番似合っていた。

さらに言うなら・・・・




「何となくイメージはその色だしな。」

「どんなイメージですかそれは・・・・」




やれやれと肩をすくめると、ちょうどビクトールも駆け寄ってきた。用意も済んだようだ。

も同行すると言うと、「そういや初めてだな」と言ってしげしげと格好を眺める。




「さっさと行って、さっさと帰ってきましょう。長引くと手遅れになるし、面倒なことに成りかねません。」

「そうだな急ぐとしよう。」




そういうと、三人は運命に巻き込まれる少年達を助けに歩き出す。









「何だかんだ言って、結局俺の出番なんて有りませんでしたね・・・・」



何度かモンスターなどが襲ってきたりしたが、そのほとんどをフリックとビクトールであっさり倒していく。砦の隊長、副隊長を務めているのだから当然と言えば当然なのだが。



「確かに。お前も援護したり、率先して前出て行ったら俺だって楽だったのに。」

「最初はそうしようとも思いましたけどね。でも、見てたらそんな必要なかったみたいですから良いじゃないですか。
それに、紋章で傷治してあげたでしょうに。」



不服そうに文句を言うビクトールには悪びれもせず、傍観に徹したことを認め、さらには恩着せがましく治療の事を持ち出す。



「紋章を宿しているなんて知らなかったな。」

「使う機会もあまりないんですけどね。元々魔力弱いんで水の紋章だけ宿しておいたんです。そうすりゃ一人旅にも便利ですから。」

「まあ、妥当だよな。」

「二人ともそろそろ黙っといたほうが良いぜ?見えてきた・・・・・」



フリックの言葉に二人はおとなしく黙る。

茂みに隠れていると処刑場の様子が聞こえてきた。




「うっわ〜馬鹿丸出しがいるよ・・・・」

「静かにしとけよ・・・・・」




元ユニコーン少年隊の元隊長ラウドの様子を見て思わず素直な感想を漏らすに苦笑しつつフリックが嗜める。

そうこうしているうちに処刑場からラウドが出ていき腐れ縁が突っ込んでいく。




「元気だな〜二人とも。」



フリックとビクトールが聞いたらすかさず『お前のほうが若いだろ!』という突込みが飛んでくる台詞をのほほんと呟きながら二人の支援に回る。

二人だけでも十分だと思ったが、それなりの人数がいたので逃走経路確保のために入り口にいる兵士を片っ端から剣の腹で叩いて手際良く気絶させていく。

すぐにそれも片付いてしまい入り口に寄り掛かって四人を待つ。



「感動の再会ってやつかな?」

「何言ってやがる。また今回も後ろで見てやがって・・・・・」

「何だお前たちは!?」

『!!』



ビクトールとフリックが無事助け出してきたのを迎えて軽口を叩くが、いなくなったはずのラウドが帰ってきていた。おそらく戦うつもりが無いのだろうこちらを少し離れた所から指を指してわなわな震えてる。



「おや?お早いお帰りで。」

「なっ・・・何者だ!」

「芸の無いセリフだねぇ・・・・・」

「何を言って・・・・・・・!
 ともかくお前らのことをルカ様に知らしてやる!!」



などという子供染みたことを言い捨てるとあっという間に走り去っていく。

は『やっぱり馬鹿だなぁ・・・・・』と呟いていた。



お前その口調はおちょくってたのか?」

「いや〜?そんなつもりは無かったんですがねぇ?
 あ、もしかしていけませんでした?」

「いや、そんなことは無いがよ。
 ともかくさっさと出るぞ!ルカが来るかも知んないからな!」

「ま、待てください!」



早々にずらかろうとした俺達に赤い服を着た少年が待ったをかける。



「姉がまだ牢屋に繋がられてて・・・!」

「ん、じゃ寄ってこうか。」

「あっさり言うなぁ。」

「じゃあ、ビクトールさんは見殺しにするんだ?」

「まさか。もちろん行くぜ?」

『ありがとうございます!』



素直に喜ぶ二人に思わずは『かわいらしい子供たちだなぁ〜』なんて考えて微笑んでしまう。








そして意気揚々として来てみたが、着いてみるとびっくり。
兵士達を一人の少女と一匹のムササビが追い回していた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれがお前の姉か?」

「助けに来た必要は無かったのかもな。」

「元気だね。君のお姉さん。」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』



フリック、ビクトール、の台詞に何も言い返せずに二人は黙ってしまう。

すると、『どいてどいて!とジョウイを助けに行くんだから〜〜〜!!』と叫びながら兵を追い立てて近づいてきた。



「良いお姉さんじゃない?」

「はぁ・・・・・」



どかどか走り回りながらこっちに気づいたようで、何人かふっ飛ばしながら走り寄ってきてそのままの勢いで二人に抱きつく。



「良かった無事だったのね!?私これから二人を助けに行くつもりだったんだよ?どっか怪我してない?」

「大丈夫だよナナミ。フリックさん達が助けてくれたから・・・・」

「僕もも怪我してないよ・・・・」

「ホント?良かった〜」



勢いに押されながらも互いに笑いあう三人。

気を利かせてすぐには割り込まずに頃合いを見計らってビクトールが声をかける。



「すまねぇが、ゆっくりはしてらんねぇ。すぐに此処を出るぞ。」

『はい』



六人はすぐにその場を離れ敵の目を掻い潜りながら何とかキャロの外へ出た。

ふと、ナナミが足を止める。

なんだか真剣な様子でキャロの町を見つめている。

その様子は脆く感じて皆不安になる。



「どうしたのナナミ?」

「ねぇ・・・・いつかは帰ってこられるかな・・・・・?」

「ナナミ・・・・・・・・」



キャロは彼らの生まれ住んだ故郷だ。もちろん沢山の思い出が詰まっている。

だが、これからハイランドを出ようとしている。そうすれば此処にもいつ戻ってこられるかなど誰にもわからない。

ナナミはキャロに戻ってこられるか不安なのだ・・・・・



「今のまんまじゃ無理だな。」

「君!!」



あっさりと無理だというをジョウイがきっと睨む。

ナナミは泣きそうな顔で俯いてしまう。



「おいおい、俺は何も絶対に無理だって言ってんじゃないぞ・・・?」

?」

「だから、今のまんまじゃ無理だけど、濡れ衣が晴れたりすれば戻ってこれるだろうって言いたかったんだがな?」



『早とちりし過ぎだ』と肩を竦める

ナナミとジョウイはきょとんとしている。

そんな二人にが笑顔いっぱいに言う。



「大丈夫!絶対戻れるよ!!」







この時俺の耳には軋んだ歯車の音が聞こえた気がした

それはもちろん幻聴なのだけど

それでもやはり

俺には始まりの合図に聞こえたんだ

またひとつ運命の歯車が揃い

さまざまな思いを巻き込み

さまざまな思いを撒き散らす

新たなる星の動きが加速する・・・・・・・・・









□□あとがきという言い訳□□

実は今回すごく困ったことが。
ラウドの名前が思い出せなかった!!
だって・・・私ゲームしてないし・・・・
っていうか、だったら夢なんて書こうとするな!!