長年生きてきた成果こういうことには鼻が利く

それは誇るべきことではない

何が起こるか知っていても

何なにをすべきかを知っていても

動けなければ意味がない




―――――――Rolling Stone―――――――




たちを助けに行ってから数日後は一日おきにビクトールとフリックに剣の相手をしてもらいつつ、相変わらず一日の大半を書類整理に費やしている。

はじめはビクトールにも強制的に手伝わしたりしたが、色々あってすぐに諦めた。

そのことを素直に悪いと思っているのか、ビクトールもフリックも真面目に打ち合いの相手をしてくれているようだと、本人は満足に思っている。

しかし実際はの剣の冴えに二人とも自分を鍛えるいい場所だと思っているだけだったりするのだが。

そんなこの砦の主要人物三人はよく酒場で同じテーブルについている。

一見珍しそうな組み合わせだが、何のことはない。常に動き回っている隊長と副隊長を確実に捕まえられるのはこの酒場であって、事務を一手に引き受けているが報告や承諾を得るために訪ねてきていたのだ。

もっとも、今ではこの組み合わせを不思議に思うこともないほど日常の光景になってしまったが。


そんなわけでその日も三人は同じテーブルについてジョッキを傾けていた。




「そういや、今日は静かだったけど、ナナミは?」

「ん?あいつらならトトまで仲間集めに向かったぞ?」

「トト・・・・?」




は三人の中で唯一アルコールの含まれていないジュースの入ったカップを持ちながら何気なく聞くと、眉を寄せる。

たちに仲間集めを依頼したり、お使いを自然と頼むようになったのは主にビクトールの扱いからだったが、も何かにつけて頼み事をしていた。

だから何故がいぶかしむのかビクトールには気になった。




「なんかまずいことでもあるのか?」

「いや・・・多分大丈夫でしょう・・・・」




歯切れの悪い返事に、考え込んでいる表情。とても信じる気にはなれない。

さすがにフリックも気になってきた。




「なんか心配事でもあんのか?」

「なんていうか・・・考えすぎな気がしないでもないんですが・・・」

「いいから言ってみろよ。気になるから。」

「はぁ・・・・」




は言い難そうにしながらも話し出す。




「先に言っておきますが、俺の妄想としか言えないような事ですからね・・・?」

「いいから言えって。」

「まずですね、ユニコーン少年隊の一件、あれって同盟都市のせいになってますよね?それって、ハイランドが侵略してくる絶好の口実を作るため、ですよね。」

「そうだな。」

「つまり、近いうちに必ず侵略をしてくる。それこそ数日中に。でないとうわさの利用価値が落ちてしまいますから。
じゃぁ、何処から来るのか。問題はそこになります。
フリックさん。何処だと思いますか?」

「そりゃぁ、同盟都市の中心であり、もっとも大きな都市であるミューズを潰したいだろうなぁ・・・・」




フリックは少し酔った頭を回転させながらの問に答える。

はその答えに頷きながら続ける。




「そうでしょうね。では、その為にはどのルートを通るか・・・俺は多分この砦をミューズを叩く前に陥落させようとするんじゃないかと思ったんです。」

「・・・・・なるほど。確かにハイランドにとってこの砦は目の上のたんこぶだからなぁ・・・」

「そうです。そうすると砦とハイランドの途中にある村や町が危険にさらされますね。」




やっとの言いたいことが分かったのだろう。二人はすっかり酔いが覚め、を厳しいか顔で睨んでいる。




「・・・・・・・・お前そこまで分かっていて何もしなかったのか」

「まさか。無論行動は起こしました。勝手とは思いましたが、黙ってミューズへ書簡を送り、村人の避難を要請しました。俺個人や、砦の人間が喚き立てても村人が動くとは思えませんでしたので。」

「ならいいが・・・・」

「良くないですよ。」

「え?」




は初めて苛々したように木のカップを握り締めている。

荒っぽい傭兵たちが使うカップは丈夫にできているが、の持っているものはピシピシと悲鳴を上げている。




「・・・無理だったんですよ。」

「は?」

「だから、可決されなかったんですよ。住民の避難要請。」

「なんで!?」




悔しそうなに思わずフリックはガタッと立ち上がる。

ビクトールは不愉快をあらわに「そういうことかよ・・」と呟いている。




「なんだって・・・・!?」

「何処の町にも腐ったやつらは居るって事ですよ。」




フリックは忽ちビクトールのように不機嫌な顔になると黙って座る。

ミューズは凄腕のアナベルが仕切っているが、その才能ゆえか反対勢力も存在していた。その反アナベル派はアナベルと仲のいい傭兵砦も目の敵にしている。

いつもならうまく立ち回ってくれるアナベルも、今回の話は根拠がないため強く出られなかったのだ。

は自分を落ち着けるようにカップの中身をあおると元の調子に戻り話を元に戻す。




「その前に砦の人間を何人か配置しておきたかったんですけど・・・」

「わかった。すぐに何人か行かせよう。」

「お願いします。あと、何か切り札になりそうなものは・・・・?」

「火炎槍がある。」

「何でドワーフの武器なんて持ってるんですか・・・・?」

「ホントに良く知ってんなぁ。お前・・・」

「知識には自身ありです。」




キュピーンと目を光らせると薄笑いしながら自信満々に言い放つ。

ビクトールも先ほどの不快感を忘れたかのように不敵に笑いあう。

だが、フリックには悪役の定番シーンのように見えた。




「・・・・・ビクトールよ?」

「何だ?相棒。」




そのままのノリでフリックのほうを向くビクトールに『お前は子供か!?』と突っ込みたいのをこらえつつ疑問をぶつける。




「いつの間に持ち出したんだ?」

「フフフフ・・・戦争が終わった後ちょこっとな・・・・・」

「・・・・・・・・・・・手入れは?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」




フリックの問に固まるビクトール。

やっぱりかと溜息を漏らすと「確認してこい」と言おうとしたが・・・・・・・・




「ビクトールさん」

「・・・・・・・はい。」

「使えなかったら意味ねぇだろ。この熊。
さっさと確認して来い。」

「・・・・・・・はい。」




爽やかなの笑顔に言葉が出なかった。

ビクトールは逃げ出すように地下の倉庫へと走っていく。

その背中を見送るとはポツリと洩らした。




たちには出来ればトトに配置が終わってから行って欲しかったなぁ・・・」



たまたま聞いてしまったフリックは、その呟きは悲しそうと言うよりも己の無力さに腹が立っているようだとは思った。







長年生きているせいかこういうことには鼻が利く

だがそんなのは誇りではない

翻弄するように

嘲笑うかのように

抵抗を 努力を 幸せを

すべてを

押し流していく激流

無力さを 非力さを 小ささを

俺に思い知らせる重い楔












□□あとがきと言う言い訳□□

最初のほうの『色々あって〜』ってのは短編のLast Restを読んでいただけたら分かりやすいです。

あと、設定のほうにも書いたのですが、主人公不老不死です。

それについて詳しいお話を書く予定も無ければ、重要なことでもあまり無いので、

さらっと流しちゃってください。