理由は体を動かすだけで良いから楽だと思ったから。

だけどそれは思い過ごしで

今まで通りの文字とのにらめっこ

果たしてこれで休暇になっているのだろうか・・・・・・・・





 ――――Time go on――――
 




鬱蒼とした森の中、傭兵の砦である手作りの城が建っている。

門や 塀の上になどにはそれらしく見張りの兵などもいて、立派な要塞の役割を果たしているようだった.


その様子を暫く木の影から見ている人物がいる。

体格からしてそ れほど大きくもない。少年か少女だろうか。

灰色の外套を纏い、フードをすっぽり被っているため顔は見えない。

というか、見ているのは背後だから見えるわけもないんだが。

さっきからずっと見ているが気づく様子もない・・・





「おい!そんなところで何をしている!?」





剣をまっすぐ不審人物の首元へ向けると、威嚇するような声で聞きとがめる





「・・・・・」



しかし、相手はゆっくりと自然に振り向いてきた。

―――剣を向けながら。



「・・・!?」





その動作が本当に自然で、まったく反応できなかった。

まるで、ふと道で呼び止められて、振り向くのと同じくらい自然に相手に刃を向けられている。

戦士の村で育った人間が剣を向けられるまで何も気がつかなかったのだ。

そんな事は生活の延長として人に剣を向ける暗殺者にもなかなか出来ることではない。

相当の暗殺者か、剣士だ。

(なんなんだこいつは!?)

そんな葛藤に気づいているのかいないのか、目の前の相手は淡々としゃべりだす。





「・・・はぁ。あのですねぇ、いくら傭兵だからといって見ず知らずの相手にいきなり剣を向けるのはどうかと思いますが?」

「・・・は?」





「は?じゃありませんよ。危うく俺まで切りかかるところだったじゃないですか。」





やれやれ・・・といった感じで不審人物は剣を収め、ひょいっと肩をすくめる。

その様子と、先ほどの声からやはり少年だとわかった。

そのことに対する驚きと、先ほど向けられていた剣がしまわれた事で気が緩んで剣先が落ちる。





「っていうか、剣下ろしちゃってもいいんですか?」

「・・・自分から下ろしといて何言ってんだよ。」

「そういや、そうですね。」





何でだろうか?こいつを相手にしていると力が抜けていく・・・

はぁ、と溜め息をつくと改めて目の前の人物を観察する。

フードを相変わらず被っているので顔は見えない。

服装もわからないが、かろうじて緑っぽい色が外套の隙間から見えている。

付け加えて、先ほどの剣。そんなに大きいものでもなく、この少年の体格から考えるとちょうどいい大きさのものだ。

しかし、かなり使い込んであるらしく、扱う様子にも違和感がない。





「差し詰め、少年剣士といったところか?」





ざっと見た目で、そう評価を下ろした。





「まぁ、そう思って頂ければ間違えは無いかと。」

「で、何のようなんだ?
 もちろん分かっているだろうが、さっきから君が見ていたのは傭兵の砦だ。
 観光で通り掛ったなんて通用しないぞ。」





気を持ち直してキツク言う。

何の用も無ければこんな山の中には来ないし、用があったならさっさと中に入っていくはずだ。





「別に用がなくて来た訳でもないんですがね。
 入れない理由がありまして。」





とほほ・・・といった様子で肩を竦める。





「入れない?」

「ええ!皆さんお前を通す訳はいかないと仰いまして。」

「なんで?」

「・・・・・」





困ったように小首をかしげる。

なかなか言おうとしない少年にもう一度尋ねてみる。





「だから、何でなんだい?」

「・・・・・・怪しすぎるからだそうです。」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」





ポツリ、と漏らした言葉に思わず固まってしまい・・・

すぐに理解して爆笑する。





「あはははは!!
 そ、そうか。怪しすぎるか!」

「・・・・・・確かに怪しい感じがしますけどね。」





爆笑されるのを予想していたのか、どこか諦めた様につぶやく。

そんな様子を見て、思わずポンポンと頭をたたいて慰める。





「くくく...っ
 わかった。俺が連れてってやるよ。」

「え?」

「だから、砦に用があったんだろ?俺は結構顔が利くから、口利いてやるよ。」

「いいんですか?」

「いいって!詳しい話は中で聞くから。」

「じゃあ、よろしくお願いします。」





そういうと、足元に置いてあった荷物を持ち上げる。





「そういや、まだ名乗ってなかったな。
 おれは、フリックだ。
それと、取り敢えずフードは取っとけ。そのせいで余計に怪しく見える。」

「俺はです。」





そういってフードを脱いで見えた顔は、凛としてとても整った美しい顔立ちだった。











「それで、って言ったっけか?俺たちの砦に何のようだ?」





中にを案内していくと、熊のようながっしりとした男が出てきた。

どうやらフリックを出迎えに来たらしい。

の事情を聞くと、そのまま執務室に連れて行った。





「俺たちの砦ってことは、貴方がここの隊長ですか?」

「おうそうさ。俺はビクトール。ここで傭兵隊長をやってる。」





それを聞くと、は居住まいを正して話を切り出す。





「では、お願いしたいことがあります。」

「おう。なんだ?」

「俺を仲間に入れてください。」

「なに?」





はっきりとビクトールを見ている目が本気だと伝えている。

しかし、どう見ても子供。戦場に出すには些か抵抗がある。

いつもなら、軽くあしらって家へ帰すところだが、今回は思わぬところから声がかかった。





「いいんじゃないか?俺は賛成だぜ?ビクトール。」





それまで黙っていたフリックがを支持する。

本当に予想外だったため、かなり驚いてそちらを見る。

フリックはのひとつ空けて隣に座っていた。





「おいおい、珍しいじゃねぇか。いつもならお前のほうが俺より猛烈に反対するくせに。」

「さっき砦の前で剣を持っているところを見たが、かなり使えると見た。
 それに、剣を向けられても冷静だったしな。」





そう苦笑しながら話す。

ビクトールはフリックを信用しているらしく、その話を聞くと腕前は聞かずにほかのことを質問する。

その内容もほんの確認のようなもので、仲間に入れることは決定しているようなものだった。





「出身は?」

「すごく遠いところだけど、育ったところはトラン地方です。」

「ふーん?ここで何がしたい?」

「与えたれた仕事は文句言わずにこなすつもりですよ。しいて言えば家事一般以外なら何でも。」

「ってことは、書類整理とかもできるわけだな?」

「ええ。育った村ではいろんな事やってましたから、一応の経験もあります。」





そこまで聞くと、フリックも話に参加してくる。





「じゃあ、この部屋を見てどう思う?」

「・・・・・・・・・」

「遠慮はしなくていい。思ったことを言ってくれ。」

「・・・・・・まあ、片付いてはいないですよね。」

「・・・これでも綺麗なほうだとは思うんだがな」





ビクトールは困ったなといったように頭をガリガリとかく。

フリックは睨むと、少し怒ったように言う。





「俺はこの間、片付けておけって言っといたはずだよな?」

「仕方ないだろ。苦手なんだから。」

「何開き直ってんだよ!少しは努力しろよ!」

「してるって。」

「してないだろ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・あのう。」





子供のような喧嘩になりそうな二人を忘れられていたが申し訳なさそうに止める。





「お楽しみのところ申し訳ないんですが・・・」

『楽しんでなんてない。』

「顔が楽しそうだったですけど?」

『楽しくない。』





キッとを睨む二人。

その様子が証拠だと言いたいのをぐっとこらえて、本題というか、本来の目的へと話を戻す。





「とにかく、結局のところ俺はどうなるんでしょうか?」

「ああ、それならちゃんと考えてあるぜ?」





にっと笑うビクトール。

その笑顔と、先ほどまでの話の内容からして与えられる仕事は・・・





「早速明日から書類整理を頼むぞ!」

「・・・・・・やっぱりね。」





予想はしていたが、こう改めて言われるとがっくりする。

実は、“経験はある”といっていたが、少し前まで常に書類に追われていた。

はっきり言って書類は書きたくなんかない。と言うより、文字を見たくなかった。





「実戦に出させてはいただけないんですか?」

「まあとりあえず様子を見てからだな。」





『まあ、当然と言えば当然だな。』と思うと、さっさと諦めをつけてざっと部屋の様子を見渡す。

部屋はそんなに広くなく、本棚などもあって整理はし易くなっている。

ただ、中央に置かれた机の上には書類と思しき紙切れが散乱しているし、本棚の中もバラつきがあり、よくよく見てみると無秩序に入れられているだけだった。





「・・・・・・・・・・・嵐でもあったんですか?」

「そんなにひどいか?」

「ええ。俺から言わせていただくと。
 まあ、やりがいがあるっちゃあ、ありますけどね。」

「手厳しいな。」





な歯に物着せぬ言い様にフリックも苦笑する。





「とにかく頑張らせて頂きます。」





きちんと頭を下げる。





「ああ、よろしくな。」

「期待してるぜ!
 今日のこの後はフリックから聞いてくれ。お前さんを連れてきたのはこいつだしな。」

言われたフリックもそのつもりだったので、笑って反論はしない。





「おお、そうだった。一つ注意がある。」

「注意ですか?」





は、思い出したように付け加えるビクトールの言葉に、何か規則があるのかと身構える。





「大した事じゃない。敬語は使うな。仲間になったんだから身内に敬語使う必要はねぇだろ。名前も呼び捨てで構わない。」

「わかったよ。ビクトール。
って言うか実は、結構つらかったんですよね。敬語で丁寧に振舞うの。」





はぁーっと息を吐いて力を抜く。





「そうだろ。そうだろ。敬語なんざぁ、肩がこっちまう。使ってても使われてもな。」

「とにかく、気を使う必要はないからな。」

「あー・・・使いませんよ。
 ただ、名前には“さん”をつけさせてください。なんか俺が調子狂いそうです。」

「まあ、そういうことなら。
 じゃあ、明日から早速よろしくな。」

「ええ。お願いしますフリックさん。」











「“捕虜”ですか・・・?」



が砦に来て二週間が過ぎた頃、キャロの町の近くから帰ってきたビクトールとフリックは一人の少年を拾ってきた。

どうやら川に流されていたところを助けたらしい。

そのころ既に砦の事務一般を一手に引き受けるようになっていたは、その子に部屋などの手配をどうするか聞いたところ、『捕虜として扱うため、今のところ、部屋はいい。』と言われてしまった。





「ああ。どうやら少年隊としてハイランドにいたらしい。」





ハイランド、砦の近くにある皇国だ。

現在、同盟都市と条約を交わしたといっていてが、はっきり言って信用は出来ないといってもよい。さらに、つい先日皇国が侵略を受けたという話もある。



「んー・・・でも、川を流れてたって言うし、かすり傷とはいえ怪我もしてましたね?何かあったんじゃないんですか?」

「ああ。それなんだが、どうやらユニコーン少年隊が皇国軍に壊滅させられたらしい。」





回りの様子を気にしつつ、小声で話すフリック。

世間じゃあユニコーン少年隊は同盟都市によって壊滅させられたとなっているし、それを理由に皇国軍は同盟都市への攻撃準備を進めている。

もし、こんな話が皇国の耳にでも入ったら、こんな砦なんて一発で終わりだ。

今部屋には、ビクトール、フリックしか居ないが、周りの様子を気にするのも分かる。





「ああ、やっぱり。」

「驚かないのか?」





そんな話をあっさりと頷くにビクトールが突っ込む。

は平然と書類に目を通しながら、さも当然の如く言ってくる。





「ええ。元々ユニコーン少年隊の件は皇国軍の一部によるものだと思ってましたから。」

「何で?」

「だって、同盟都市には攻撃を加える理由もなければ、そんな愚を犯す程愚かでもないですからね。」

『・・・・・・・・・・・・』

「はっきり言わせてもらえば、ユニコーン少年隊を狙うのはおかしいんですよ。
 いくら強いって言ったって、所詮少年兵です。そんな部隊を壊滅させたって意味がない。
 しかも、皇国からすれば、戦力にも影響がなく、少年というか弱いイメージの者達が条約を結んだ直後に壊滅させられ、正に絶好の口実が出来たって訳ですよ。 怪しいと疑うのも当然でしょうね。
 まぁ、力に物言わせているから民衆も滅多なことは言えないし、その民衆の支持が無ければ同盟都市は強く出られないでしょう。ただでさえ繋がりが最悪と言って良いほど弱い上に、束になったって力でかなうはずも無いですからね。」

『・・・・・・・・・・・・・・』

「さらに決定的なのはミューズのアナベル市長ですね。
 彼女は能力のある市長だと思います。そんな彼女が盟主になっているのだから絶対に攻撃なんてするはずがありません。
 そうなると誰がやったのか・・・・すると、ハイランドの中でもヤバイ噂が流れている皇子ルカじゃないかとなるわけです。」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』





ペラペラと理論整然と言い放つ。

二人が何時までたってもないも言わないおかしく思って顔を上げると、呆然とした様子でを見ている。





「・・・・・・・・・・・・・・・なんですか?」

「いやぁ・・・・・・相変わらず頭いいな。お前。」

「そんなこと考えてたのかよ。その年で。」





どうやら、の発言に驚いていたようだった。

は、しまったと思うと苦笑してごまかす。




「いやぁ・・・村ではいろんなこと叩き込まれましたから・・・・・・」

「いやいや、ほんとにすごい世お前は。書類の整理も一日で片付けちまったし。」

「ハハハ・・・・・・・あれは結構頑張りましたから・・・・・・」





の予想では半日もあれば終わると思っていたが、半端じゃなく汚かったので結局一日かかってしまった。

それでも、見ていた(あまりにも手際がいいので手伝えなかった。) フリックは痛く感動して、握手を求めてきたほどだった。





「まぁ、そういうことなら捕虜じゃなくてもいいと思いますがねぇ?」

「そうも思ったんだがな、本人がキャロ、ハイランドに戻るって聞かないんだよ。」

「どうやら、生き残りはもう一人いて、そいつは親友らしい。
 そいつとキャロで会おうって約束したらしい。それに、そこにいる家族が心配なんだと。」

「ふ〜ん・・・約束ですか。」





は何故かどことなく噛み締めるようにつぶやいた。

そんなの表情を見るのは初めてだった。

常に飄々としたところがあり、何を考えているか分からない感じだった。そのわずかな表情の変化は何故か安心するものだった。

自然とその様子に見入っていた二人は、ふっと目線を上げたとばっちり目があってしまった。





「何人の顔をじろじろ見てんですか。」

「いや〜なんでもねぇよ。」

「・・・?まぁいいですけどね。ともかく、気を付けた方が良いですよ?たぶん脱走しますからその人。」

「そうだな・・・・・・・・」





フリックも深々とため息を漏らす。





だが、その脱走は予想よりも早かった。











星に選ばれた子供たちはまだまだ幼くて

心の向くまま

気の向くまま

獣の領域へと

危険を承知しながらも

突っ走っていく

ああ・・・

どうか

どうか

たとえどんな事が待ち受けようとも

そのまま走っていく勇気を忘れないで・・・・・・









□■□あとがきという言い訳□■□

とうとう始めてしまった・・・・っていうか、字が見にくい!!
夢なのに暫くフリックさんとビクトールさんしか出ない・・・・・夢になってねぇよ!!駄目駄目だよ!!!
私かなりの遅筆なので、いつ終わるかも分かりませんがお付き合いいただけると嬉しいです(土下座)