―――――――For what purpose does it pray?―――――――






「こんにちはぁ〜」
「お久しぶりだね。少佐。」





東方司令部のロイ=マスタング大佐の部屋をノックの返事も聞かずに開けて入っていくと、何時ものようににこやかな笑みを貼り付けたまま、大佐は正面の机に座っていた。
その横には何時ものようにホークアイ中尉が立っている。
俺は笑いながら前に進むと、今の今まで中央に行っていた報告書を提出すると、席を勧められてもいないのにソファーに腰掛ける。
だが、大佐も中尉も何も言わない。きっと俺の気ままな行動になれてしまったんだね。
慣れって恐ろしい。
大佐は持っていた書類を置くと、俺の前のソファーに座ると、ホークアイ中尉にお茶をお願いする。
もしかして俺の分もあったりするのかな?




「お久しぶりですね。三、四ヶ月ほど中央に呼び出し食らってましたからねぇ。」
「まったく、何で君が昇進できたのか不思議で仕方ないよ。」




大佐はこの一年で一階級昇進している。
大佐の年では少々異例だ。だが、実績は下手な大佐や将軍とは比べ物にならないほどだから、妥当と言えば妥当だと思う。
とか言う俺も実は昇進している。無論、大佐の横にいるリザ=ホークアイ中尉もだが。
だが、俺の場合この二人とは違って目立った功績も成果も挙げていない。
まぁ、俺の役職で目立った功績を挙げられるわけは無いんだけどね。
でもそれでも俺の昇進は信じられないものが多い。
はっきり言って何で昇進したのか俺でも時々疑問だ。
苦労して大佐に上り詰めた男は、目の前にいる何も特に野望のない男を見ると、頭痛がしてきてしまう。
何だか世の中って不公平って感じかな?





「昇進したくてした訳じゃないですよ。
 どっちかというと、降格して図書館勤めに左遷して欲しいです。」
「それを直々に言ったらどうかね。」
「っていうか、実際に言ったし。」
「言ったんですか?(中尉)」
「なるほど。君なら言いそうだ。(大佐)」
「言いましたとも!大総統に直談判。」
「大総統に言ったのか!?」
「はい。そしたら、『そんな人事の事までは分らんのでな。はっはっはっ!』と去っていきました。」
『・・・・・・・・・・・・』
「そしたら逆に昇進してしまいましてねぇ・・・・・・
 困ったモンです。」
「・・・・・・・・・なんと言うか、相変わらずだな。」
「そんな感想でよろしいのですか?」
「他に言い様があるかね?」
「・・・・・・・・・・・・」





大佐、その言い方に少々疑問が浮かぶのは気のせいにしたほうがいいのですよね?
ホークアイ中尉も沈黙したところで、俺は早速本題に入る。
中央から戻ってきたのはこれが目的だし、一応仕事はしないと税金泥棒になってしまうからね。
革張りのソファーの上で悠然と足を組みかえると、単刀直入に話を切り出す。





「ところで、大佐。」
「何だね?少佐。」





流石はマスタング大佐。俺の微妙な変化をかぎつけてニヤリと笑う。
もしかしたら俺の用件もばれているのかな?
大佐は向かいのソファーに座ると、足を組んで肘を突く。
余裕の構ってか?





「噂によりますと、近々国家錬金術師に推薦しようとしている人物がいらっしゃるとか?」
「ふっ、噂とはよく言う。まだ何処にも発表していないはずだが。
 噂というのはそっち方向の噂かね?」
「噂に其方も此方も無いでしょう。
 垣根無く広がるからこその“噂”ですよ。」
「そうか。そうかも知れんな。」





なんとも意味の無い会話だろう。狸の化かし合いですらない。
単なる言葉遊び。
別にそれほど面白いわけではないが、まぁ飽きはしない。
その程度のもの。
俺も大佐も笑顔を張り付かせたまま、こんなやりとり続けたが、先に音をあげたのは俺のほうだった。





「ぬぁ〜〜まどろっこしい!!
 結局推薦するヤツが来るんですね?」
「その通りだが、こんなので音をあげていていいのかね?」
「何度も言うように、俺は左遷希望なので願ったり叶ったりですよ。」
「全く。やる気は無いという事か。」





深々と溜息をつく大佐。心なしか残念そうなのは、俺とのやり取りを楽しんでいたからだろうか?
俺にしたって楽しくないわけじゃないんだが、何かこう・・・『言いたいことははっきり言え。』って言う正確だから体質的に合わないのだ。
俺は全身の力を抜いてだらけると、投げやりに質問をする。





「で、結局大佐が推すのは一年前に訪れたリゼンブールのエドワード兄弟?」
「ああ。正確には兄のエドワード=エルリックだ。」
「一年前に11才って事は、現在12才って事ですか。
 本当に最少年国家錬金術師って事ですね。」
「まだ受かると決まったわけではなかろう?」
「いいえ。」
「ほう?何故かね?」





俺は起き上がると、大佐の顔を見て、ニヤリと笑う。
大佐も答えを予想しているように、ニヤリと笑っている。





「大佐が受かるかどうかも分らない、平凡なやつなんで連れてくるわけが無いじゃないですか。」







































『軍の狗になる心構えは出来ているのかね?』

『いいだろう。君を案内しよう。セントラルへ。』



階段の手すりの横、俺が見た彼は一年前に見た車椅子の少年だった。
驚いた事に彼は自分の足で立ち、歩いていた。
足音の違いからすぐに機会鎧である事が分ったが、アレの手術はかなりきついと聞いたが、彼は一年で使いこなせるまでにしている。
前を見つめる目。
迷いの無い歩み。
そして大佐へのあの言動。
どうやらこれはからり面白そうだね・・・・・・・・・

彼らに同行してセントラルへと向かう途中、自己紹介を兼ねて色々話をした。
初めはあからさまに『何だこいつ』という目をされていたが、段々とそれもなくなってきた。
思ったよりも優しい人間なのかもしれないね。エドワードは。
その際彼に『アンタは錬金術は?』と聞かれたが、何となく言葉を濁しておいた。
知られても構わないはずなんだけど、何でだろうね?
自分でも不思議だった。

そういえば気になった事もあった。
あの鎧の人。
彼は一体どうしたのだろうか。いくら機会鎧で自立歩行が出来るようになったとはいえ、車椅子を押してもらっていたということは、かなり親しい人物のはず。
でも、一年前に姿を見ていたのは内緒だから聞くことはできなかった。
それにもう一つ。彼の弟アルフォンス=エルリックはどうしたのだろう?
付いてきてもよさそうなものだが。


色々と気になる事や面白そうな事はあったが、取りあえず順調にセントラルへの旅は続いた。