始めた彼を見たのは大佐がまだ中佐だった頃。




響きがちょっと変だけどこれは本当。




そして




俺が始めて彼の練成を見たのはその一年後。














―――――――For what purpose does it pray?―――――――






















リゼンブールにロイ=マスタング中佐に付いて行ったのはほんの気まぐれ。
もともと中佐と少尉だけが行く予定だったんだけど、中央からの指令で俺は中佐の監視を仰せつかった。
無論断っても良かったんだが、中央にいて色々小言言われるよりマシだからな。そんな適当な理由で中佐と少し距離を置いて付いていってみた。
もちろん中佐には知らせないで。
これが彼らと俺を結びつける始まりだったのだろう。

ともかく付いていくと、そこは田舎らしく広い土地に広い屋敷。これが中央ならどれだけマルが付く事だろう?
ぼんやりとやる気無く監視を続けていると、中佐が顔を顰めて大股で出てきた。
どうしたのだろう?何かあったのか?
屋敷に入って調べたい気もしたが、屋敷は逃げない。今は取りあえず彼を追ってみた。
すると、たちの駐在に案内され、別の家に入っていった。
もちょっと近づいてみようかな・・・・・・・・・

そろそろと、裏から回ろうとすると、いきなり犬がぴんと耳を立ててキョロキョロとする。
う・・・なんて番犬に適した犬だ・・・・・・・・・
盗み聞きするのを諦めると、家から離れて木の陰で寝に入る。
こう仕事を全うする事が出来ないんじゃぁ、寝るしかないよな。




「・・・・・・こんな所で昼寝とは、中央も随分と暇のようだな。」
「む?」
「おはよう。准佐。」
「おはようございます。ロイ=マスタング中佐。」





おや、見つかってしまいましたか。これじゃぁ、諜報部員失格ですかね?
熟睡していたらしく、まだボーっとする頭を掻きつつ、不真面目な挨拶を返す。
中佐は呆れたように溜息を吐くと、俺の隣に腰を下ろした。
っていうか、少尉はどうしたんだ?何時も一緒にいるのに。





「マスタング中佐、リザ=ホークアイ少尉はいかがされました?」
「それは仕事としての質問かね?」
「イエ。単にいないなぁって思っただけです。答えなくってもいいっすよ。」
「君はやる気はあるのかね?」
「何を、です?」
「・・・・・・・・」





取りあえず仕事の事ははぐらかしておく。もうとっくにバレてるけどね。
中佐は勘がいい方だろう。何度か足を運んだだけでもう一つの仕事がやりにくくなった。
特に人間関係を使った防御線はお見事といったところだ。
会う人会う人に色々と挨拶されたり、尋ねられたりと、動きにくいのだ。
まぁ、それが返って『何かありいます。』と力いっぱい語っているのだが。
どっちにしろ明確なものが掴めないのだ。

と、いきなり中佐が深々と溜息をつくと、話しかけてくる。





「全く何故君が俺の監視役になったのか分からんよ・・・・・・」
「はぁ。」
「大体君は向いていないんじゃないのかね?今の役職に。」
「まぁ、なりたかった訳じゃないですしねぇ。
 出来るなら、国立図書館で事務の仕事とかしてたいですねぇ・・・・・・」
「確かにそちらのほうが向いているな。」
「ですよねぇ。なぁに考えてるんだか。軍は。」





はぁ、と溜息をつくと、良く晴れた青い空を見上げる。
高いビルも、隙間無く詰め込まれた建物も無い。
広く、蒼く、まるで空に落ちてさえいきそうな、深い空。
く〜〜〜〜っと伸びをすると、今度は俺から質問をする。





「で、今日はどなたに会ってきたんです?」
「錬金術師さ。国家錬金術師に推薦しようかと思ってね。」
「ふ〜ん。こんな田舎にねぇ・・・・・・
 で、どうです?中佐のお眼鏡には適いましたか?」
「ああ。近いうちに必ず来るな。」
「・・・・・・来る、ですか。」
「ああ。」
「お名前を聞いてもよろしいですかね?」
「構わんさ。時期に知れ渡るだろう。
 今日会ったのはエルリック兄弟。
 兄はエドワード=エルリックで、弟はアルフォンス=エルリックという。」
「ふ〜ん・・・・・・」
「ちなみに兄が11歳で弟は一つ下だそうだ。」
「おや。最少年の国家錬金術師の誕生ですか?」
「・・・・・・驚かないのか?」
「何で?」




年なんて錬金術にはさほど関係が無い気がするけどねぇ。
だって結局は発想力・理解力・構築力がものを言うからね、発想力なんて幼い子供のほうがありそうじゃない?
それに俺も10代で国家資格取ったし?同じじゃん。
あ、もしかして俺、中佐に言ってなかったかも。俺も国家錬金術師だって。
・・・・・・まぁ、いいか。





「さて、そろそろ行くぞ准佐。」
「へ?」
「帰ると言ったのだよ。ホークアイ少尉も待たせてあるからな。」
「そうですか。お気をつけて。」
「何を言っているんだ。君の一緒に帰るのだよ。。」
「えぇ!?」





そういうと、何も言わせず、中佐は俺の襟首を引っ張ってズルズルと引き摺っていく。
う〜〜こんな事になるんだったら、寝てる間にあの屋敷調べとくんだった!!
エドワードってのにも会ってみたかったのに!!
・・・・・・・・・まぁ、仕方ない。中佐の言葉から少し情報が入ったし。

『近いうちに必ず来る』

これはつまり、とりもなおさず

『今はまだ来る事が出来ない事情があり、その解決には時間を要する。』

ということだ。
エルリック兄弟・・・・・・何だか複雑な事情がありそうダネ。
でも、そうだね。人には何かしらの事情ってモノはあるものだよね。
俺も、中佐も少尉も大総統も。
そんな点では誰もが本当に平等なのかもね・・・・・・



























































俺が中佐に連れられて馬車まで行くと、少尉は当然のように何の動揺もしなかった。
もしかして俺ってバレバレだった?
中佐は猫を被っているように、にこやかに駐在さんと話をしていて、少尉は沈黙したまま。
居心地は悪くないんだが、何となく手持ち無沙汰になって、ぐるりと周囲を見渡す。
すると、先程の家からやたら大きな鎧を着た人と、車椅子に乗った男の子が見えた。
こんな田舎に鎧?いや、もちろん今時鎧を着ている時点で怪しすぎるんだけど。
それに何で車椅子なんだ?内乱に巻き込まれる年齢じゃないよなぁ?
不思議になってじっと見ていたら、流石に大佐に見咎められた。





「何を見ているんだ?。」
「中佐、私、摩訶不思議なものを見てしまった心境であります。」
「意味が分らんのだが?」
「いや、何だか微妙に俺か相手の神経を疑うような光景に出くわしまして、ひとしきり感慨にふけっていただけです。」
「そうか。
 ちなみのそのような場合には、お前の神経を疑ったほうが賢明だ。」
「貴重な御意見ありがとうございます。」
「冗談はそのくらいにして、何を見ていらしたんですか?」
「あっちのほうに鎧を着た人と、車椅子少年を見てました。」





あっち、と指差すと、中佐が眉を顰めて、そちらを見る。
少尉も同じく目をやるが、こちらは表情の変化は無い。
だが、どちらにしても直ぐに顔を戻して訝しそうに言う。





「私には何にも見えないのだが。」
「私にも見えませんでした。」
「おや、残念。」
「それより、何も見た限りそれらしい影すらなかったのですが、どの位離れていましたか?」
「ざっと400mといったところでしょうか?」
「君の目は鷹の目かね?」
「俺はあんなに目つき悪くないです。
 むしろ、クルクルお目目がチャームポイントですよ。」
「何と比べて悪くないのかは知りませんが、人外の能力並ですよ。」
「お褒め頂き光栄ですよ、少尉。」
「褒めているわけではありませんが。」
「細かい事はどうでもいいのです。」





そういうと、また目を向けるが、流石にもう見えなくなっている。
もうちょっと表情とか見たかったんだけど、仕方ないか。顔は覚えたし。
やれやれと、伸びをすると、また眠気が襲ってきた。
さっきは中佐に邪魔されたし、駅までは軽く馬車で一日近くはかかる。
特にする事も思いつかなかったから、寝てしまおう。うん。いい考え。
馬車の荷台に落ちないように体制をとると、堂々と目を閉じるが、今度は中佐も何も言わなかった。
中佐は何だかんだ言って優しいからネ。
おかげで俺はその日、久しぶりにゆっくりと寝る事が出来た。
・・・・・・・・・・・・体は痛くなったけど。