―――――――044:歴史―――――――








「まぁた、こんな所で寝てる。」
「・・・・・・・・・?」




目を開けると、黒髪の少年が怒ったように、腰に手を当てて立っていた。

――――――誰?

そう思ったのが口に出たのか、彼は呆れたように溜息を吐く。




「俺はでもでもないよ。
 ちなみに、シュウ・フリック・ビクトールと言った名前でもない。
 更にはナミ・ラウル・レイスといった女性の名前でもないからな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」




もしかしたら、今挙げられた名は以前間違えた名前なのだろうか?
いや、多分その通りだ。
彼の名前は・・・・・・・・




「――――――。」
「フルネームで呼ぶなよ。君?」




彼は仕返しのつもりなのか、フルネームで呼び返す。
取りあえず、起き上がろうかと体を起こすと、反対に今度は彼が座り込んで、本を漁りだす。
大体はパラパラと捲ってそのまま横に置くだけだが、一つだけ手にとってじっと見ていた。
その本は古い神話の本だった。




「今更神話なんか読むのか?」
「それを言うなら、君だって今更何で歴史モノなんて読んでるの?」
「・・・・・・・・・分らない事があったから。」
「ふぅん。」




そう言うと、彼はその本を持って立ち上がる。
漁った本はそのままに。




「片付けとけよ。」
「後でまとめてやるよ。」
「そういって、片付けるのはいつも俺だろ。」
「俺がやる前に、君が片付けちゃうからだろ?」
「ああ言えばこう言う・・・・・・」
「君がそう言うから、こう言いたくなるんだよ。」




反省の色無く歩いていく彼に溜息を吐くと、彼は前を向いたままこう言った。




「探し物は見つからなかっただろう?」




余計なお世話だと思う。
彼風に言えば『超ビックな余計なお世話』。
でも・・・・・・・




「当然だよ。何せ――――――」




それでも不思議なのは




「君が求めているのは“歴史”じゃない。」




彼の一言が




「君が求めているのは――――」




あまりにも簡単に―――




「――――――人生そのものさ。」




―――――――俺を救ってしまう事。





051:創世の神話に続く。