―――――――051:創世の神話―――――――







「それで、何で君は神話の本なんて取り出しているのさ。」




書庫で寝ていた彼を起こした時に目に付いた本を読みふける。
其処に書いてあったのは、聞いたこともない世界の創世の神話。
無駄に詳しい彼ならばよく知っているだろうが、神話を知りたいというわけではなかった。
俺も、彼と同じ。
知りたい事があっただけだ。




「なぁ、何で神話と歴史は違うんだろうな。」
「・・・・・・・相変わらず脈絡が無いな。」




呆れたように溜息を吐く―――いや、多分本当に呆れている。
別に突飛な考えというわけでもないのだが。
時々思う。

何故人は歴史と神話を区別するのか。
何故歴史は非難され、神話は神聖視されるのか。

別に答えがあるというわけでもない。
単なる夢想と同じ。
それでも、時間が有り余る―――本当に腐るほど有り余る俺には丁度いい疑問。
無限回廊のように忘れてはふとした拍子に思い出され悩まされる。
そしてまた消える疑問。
彼はココアを作りながら、淡々と答えてくれた。




「分りきった事だろう?
 歴史は証拠や事実がある。
 神話にはそれが無い。それだけだ。」
「夢が無いよ。君。」




その通りだが、見も蓋も―――それこそ夢が無い。
ガックリと肩を落とすと、出来上がったココアを持ってきてくれる。
拗ねたようにココアをひったくると、ゆっくりと口をつける。
思った通り、ぬるい。
猫舌の俺を気遣ってくれたのだろう。
甘い飲み物に頬を緩めながら、また本に目を落とす。




「そんなに夢が欲しいのか?」
「いや、夢が欲しいわけじゃないけどね。
 何かそれじゃ納得できないんだよ。」
「そうか。」




そう言うと、彼も持ってきた本に目を落とす。
多分彼が持っているのは、魔道書。
彼は暇さえあれば、ありとあらゆる魔道書を読み漁る。
何か目的がある為らしいが、詳しくは知らない。




「でもな・・・・・・・」




彼の傍にいるのに




「俺から言わせて貰うと・・・・・・」




彼のことを知っている必要は無い。




「神話そのものが―――――」




彼はその一言で俺を




「――――――“夢”の象徴だと思うがな。」




無限回廊から引きずり出してくれるから。





044:歴史に戻る。後書きに続く。