冥王神話 NEXT DIMENSION
「Part16 愛あるかぎり」ツッコミ

(2009年2月26日発売・週刊少年チャ○ピオン13号掲載)




(注意)
このツッコミはネタです。実在の人物・団体等とはいっさい関係ありません。
・強度のツッコミが苦手な方は閲覧の際に副作用として痒み・発疹・アレルギー反応が出ることがありますので十分ご注意ください。





■内容以前の感想

 今回の雑誌の表紙はリアル女性の半裸写真(露出度95%)がメインで、星矢の顔はものすごく小さく右上の方にしか載っていません。そんで「永遠の銀河伝説!!爆熱カラー!!」と書かれてます。いや、カラーなのは扉絵だけなのだが。

 一方、NDのページのその扉絵では、沙織お嬢様が見返り美人の構図でこちらをガン付けておられます。短い茶髪に青目。ただし残念なことにアテナの聖衣を着ていらっしゃるので、露出度はだいたい1%くらいじゃないかなと思います。

 しかしこの某チャンピオソ、以前から某ジャソプに比べてエロ写真とかエロ漫画がやたら多いなあと思っておったのですが、さすが御大。例のマルチアングルデュアル連載漫画すらもがパンドラ様あたりをガツガツとエロ絵にして男性読者に媚びまくる中、髪の毛一筋ほども読者に媚びようと思っていないその姿は、まさに真の勇者と呼ぶに相応しいものがあります。

 では以下、内容の方に入って行きたいと思います。論点別に、笑いながらツッコんで参りましょう。




■論点その1
 ――聖闘士星矢ってどんなオハナシでしたっけ!



 さて、日記で予告していた通り、私は今回御大をけなします。
 どこをけなさなきゃならないかって、まず、ここです。扉絵です。めっちゃ1ページ目からです。

 先ほども述べたように、表紙には沙織さんがアテナの聖衣を着て、見返り美人の格好でこちらをキリッ!と睨みつけています。おお、なかなか凛々しい目付きはありませんか。私、個人的にこういう女子は好きです。強くて凛々しくてクールでカッコいいアテナ、ぜひとも読みたいです。

 だが次の瞬間、読者の目は、表紙のど真ん中に書かれた、超巨大フォントの文章に釘付けになるのです。


「愛のために、わたしは闘う!!」


そして、「Part16」のタイトル!



「愛あるかぎり」!!



………。




………………。





ポワトリンかよ!!!!!




 なんか違う漫画になった!
 つーか沙織さんがなんか違う人になった!


 とりあえず、「地上の平和のため」と「地上の正義のため」が一体どこへ消えたのか、非常に気になるところです!(以下本編へ続く)




■論点その2
――後生だからタイムマシンネタはやめとけ!!!



 「死はもとより覚悟の上で参りました」
 「ではこのアルテミス自らがアテナ あなたを成敗します」

 どうでもいいんですけど「この○○自らがお前を成敗してくれる」っていう言い方、どう見ても聖闘士星矢で良く見る王道パターンですよね。例えばカミュ先生とか。でもたいてい本心は違うんだけどさ。はっは。

 なので、この期に及んでいきなり「その前にお願いがございます」とか言い出す沙織さんに、アルテミス様はいくぶんキレ気味の様子です。

 「願い?」
 「はい 星矢というペガサスの聖闘士が間もなく命を絶たれようとしています」

 「それがどうしました」

 だから沙織さん!聖闘士星矢の王道パターンからしたら、身内の人が「この○○自らがお前を成敗してくれる」って言いだした場合、その人は明らかにアナタと二人だけの世界を築き上げたいんですから、そんな時に完全部外者の星矢の話題を持ち出すなんて、野暮にもほどがあるってもんですよ!アルテミス様、相当イラッときてるに違いないよ!

 しかし沙織さんの「お願い」の内容は、そのような読者のツッコミを忘却の地平の彼方に追いやるほど強烈なものでした。


「お姉様のお力をお借りしたいのです お姉様と お兄様のアポロンは 月と太陽の神 すなわち地上の時間を監視なされているお二方」
「バカな あなたは…あなたは時をさかのぼって過去へ行き ハーデスの剣を失(な)き物にしようというのですか」
「それ以外…それ以外に星矢を救う方法は見出せません


 いや、うそだろ!
 
絶対探せば他にもあるだろ!

 というか、そもそも「時をさかのぼって過去へ」行ったりなんかできるんだったら、むしろ13年前のサガの乱の直前とかに行ってあげたらどうなのか。
 そしたら教皇も黄金聖闘士も白銀聖闘士も死なないし、城戸光政も100人の子供を聖闘士候補生にしなくてすむし、そのうちの90人も行方不明にならなくてすむし、星矢も星の子学園で星華ちゃんと美穂ちゃんと一緒に楽しく暮らして、ちょうハッピーエンドで終わるんですけど!
 ていうか星矢以外の聖闘士関係者は誰一人として救済の対象に入らないのだろうか。カシオスとかちょう可哀相じゃんか。助けてやれよ。


 ……とまあ、こんなふうに、タイムマシンネタというものは、要するに何でもやれるようになってしまうのです。「だったら他のことも、ついでに過去に行って変えちゃえばいいじゃない」という話に、どうしてもなります。「前世」以上に「なんでもあり」の世界になってしまいます。下手をすると、今まで物語を支えてきた色んな過去話とか設定だとかの重みも、説得力も、喜びも、哀しみも、全部なくなってしまいます。

 これはちょっと、やめといた方がよかったのではないかと、個人的には思いました。




■論点その3
――天界編の映画のラストってそういう意味だったのか…



 さて、ここにきて姉妹ゲンカの争点は、「人間の救済価値」という哲学めいたものになって参りました。

「チリあくたのごとき人間の命など救ってなにになる!(略)人間などもはや滅ぼす時にきているのです!」

 おお、これはポセイドンもハーデスも主張していたお馴染みのマニュフェストですね!いささか懐かしい気もします……が、今回のコレ、文脈的に、絶対に、今までのと一緒にするわけにはいきません。
 なぜなら、今回アテナが「救う」と言っている人間の命は、人類全般の命では全然ないからです。
 ここ、大事なので強調しときます。
 今回アテナが「人間の命を救う」と称しているのは、実は「人間一般」のことでは全然ありません。
 ぶっちゃけ星矢ただひとりです。
 めっちゃ個別具体的な、超おひとり様限定のお話です。
 むしろ、人類一般どころか、星矢以外の聖闘士の生死ですら、完全に沙織さんの興味の外なのです。(Part14参照)
 ……あのさ、それ実は、単なる私情だよね? ちょっと指摘しづらいんだけどさ、これ、ぶっちゃけ、「世界と星矢どっちが大事?」って聞かれて、即刻「星矢!」って答えてるようなもんだよね?


「た…たしかに人間はおろかです ウソもつき盗みもし 殺し合いまで平気で続けてきました でも人間には愛というものがあります(略) その愛があるかぎり…わたしは人間を信じます」

 いや、うん、私も、沙織さんが、せめて星矢以外の聖闘士の生死とかももうちょっと気にしててくれたりしてたら、もうちょっと素直に感動できたと思うんですけどね?
 その愛、めっちゃ、選り好みされてるからね?
 それって救済の対象が星矢ただひとりであるという時点で、もはや全く神様の愛(アガペー)じゃないからね?
 ぶっちゃけ沙織さんの超個人的な愛(ラブ)でしかないからね?
 めっちゃ私情ですからね?


 と思っていたら、どうやらアルテミスお姉様も似たような感想を持ったらしく、「おろかな!」と叫んでブチ切れて、とうとうアテナに剣技で勝ちました。
 待って!戦いの女神ってアテナのほうでしたよね!?(笑)


「あなたは長いあいだ人間と接してきて人間のおろかさがうつってしまったようですね(略) これ以上人間に関わることはおやめなさい さもないと…
いずれ天帝のお怒りをまねき あなたは神から人間に堕とされることになりますよ」

 なにい?

 なんか今のアルテミス様のセリフの中身、ものすごーくどっかで聞いたことがある設定なんですけど。
 ぶっちゃけこの設定、名前を言ってはいけない例のあのT界編の中でも、とりわけ最も意味のわからなかった、あのラストの全裸シーン&記憶喪失シーンに、ものすごく酷似してる気がするんですけど。
(注:私個人的にあの映画のことは今のところ9割くらいの比率で無きものとして扱っておりますので、好きな方には大変申し訳ないのですが悪しからずお願いいたします)

 そうか…あの天界編の映画って、実は「人間(というか星矢個人だけ)を愛しすぎた沙織さんが、ついに神落第になって、人間に堕とされてしまいました」っていう話だったのか。今ようやく伝わったよ。ていうかこんなところで理解できてしまうとは思わなかったよ。
(いや、しかし、ということはあのラストシーン、原作者が原案出してたってことなのか…?)(……………。)

 しかしこれ、「アテナを人間にしますよ!」って言われて、なんか瞬も沙織さんもすごくショック受けたり泣き出したりとかしてるんだけど、ぶっちゃけ、別にいいんじゃないか、それで? 実はめっちゃハッピーエンドじゃないか、それ?星矢のことだけ愛せるし。神様やめられて、地上の平和とか正義とかアガペーとか、そんな七面倒臭いこともう二度と考えなくて済むし。良いじゃん。フツーにめでたしめでたしじゃん。


 ま、その場合、聖闘士星矢は完全に終了しますけど。(色んな意味で)




■論点その4
――なんかすげえ大御所来た!



 「わたしはそれでも人を信じたい」って言って超どアップで泣き出したアテナを見て、どうも残念ながらアルテミスお姉様は心ほだされてしまったようでした。(救済の対象が星矢限定でさえなければ、私も一緒に心ほだされることができたと思うのですが、残念だなあ!)


「妹よ…あなたは思いちがいをしています アポロンの兄上もわたしも時を制することなどできません ただ時の運行を見守っているだけなのです
そんなことができるのは十二神ではなく それを超越したただひとりの神…」
「そ…それは…」

「時を司る者…時の神クロノス!!」


 うおお!なんかすげえ大御所出てきた!


 クロノスということは、ゼウス・ポセイドン・ハーデスの一世代上。もはや神々の中ですら伝説になってるようです。
 ……しかし、ちょっと気になるのは、十二神を「超越してる」ってことは、このクロノス、尊格的には十二神よりも上の神ということになるはず。つまり、「天帝」がゼウスだった場合、クロノスよりは「天帝」よりも上の神ということになるはずです。でも、もしゼウスより偉い神が存在するんなら、神(アテナ)をクビにする権利をゼウスが持ってるのって、そもそもおかしくないだろうか?

 ……ナゾがナゾを呼びます。




■論点その5
――バアさん若返りすぎだろ!(爆笑)



「クロノスは形のない神 どこへどう行けば会えるのか誰も知らぬ
わかりましたね妹よ あなたの願いが不可能だということが…」


 そう言ってアルテミスお姉様は、沙織さんと瞬をきちんともとの場所(ヘカーテと別れたところ)に戻してあげるのでした。
 なんだお前!ツンデレだな!何気にやさしいじゃないか!


「沙織さんお怪我は? もう ヒヤヒヤしましたよ」

 そうか……先ほどから私はキミたちの世界観が崩壊するような爆弾発言を随分とたくさん聞いてしまったような気がするのだが、瞬よ、キミにかかれば「ヒヤヒヤしました」の一言で全部終了するのだな……ツッコミ人もまだまだ修行が足りぬようだ。
 っていうか、なにげに今回の展開もぜんぶ、車田御大にかかったら、「どうだヒヤヒヤしただろう!」で終了してしまうのかもしれない……とも一瞬思った。今までの私の脱力感を返してほしい。ええいコノヤロウ。(笑)


「フッ さすがにお姉様 簡単にはいきませんでした
でもこれではっきりしました 星矢を救うために時を超える方法が…」


 おまえ、ほんとはさっきの、ウソ泣きだろ!絶対そうだろ!!
 なに「フッ」とか言って何事もなかったかのようにスカした笑み浮かべてんだヨ!謝れ!アルテミスお姉様に謝れ!(笑)


 さて、クロノスに会いに行きたいけど、その方法がわからんぞ、と言っている沙織と瞬のところに、なにやら高いところからお声が。

「おしえてやろうか」
「あなたは?」
「さっき会ったばかりじゃないか もう忘れたのかい フフッ
あたしは月の魔女ヘカーテさ」


 って、子供ー!?


 なんか貴鬼レベルの幼児になっとる! ってそりゃまあ一本で百年若返るっていう髪の毛、何千本もカツアゲしてたから無理もないけど……
 というか、むしろよくぞ胎児にまで戻らなかったものです。ヘカーテさんのために心の底から祝福したい。




■論点その6
――アルテミス様ツンデレすぎだろ!



 そんなふうに、妹たちがのほほんとクロノス探しの旅に出ようとしているまさにその瞬間、お可哀相なアルテミス様は泣いておりました。

 ……いや、ちょ、デレるの早すぎだろ!
 カリストさん超ショックそうな顔してるよ!(笑)

「けなげな妹よ あの子は本当に人間を愛してしまった
自分にいかなる災いが降りかかるかも知らずに」


 えーっと、私の記憶に間違いがなければ、神話の時代からアナタ方は全員、大量に人間を愛しまくって、特に何の問題もなく子孫を大量に発生させていたように思うのですが、何か?

 いや、しかし見事なまでに、車田漫画の「顔で怒って心で泣いて」を王道で行きましたね、アルテミス様!個人的に私、こういう愛情表現の形式は嫌いじゃありません。特にアルテミス様はコワい時が尋常じゃなくコワいので、いっそこのくらい極端な方が人間離れしてていいと思います。(笑)




■総括


 というわけで、全体としては大いに楽しみながらノリノリでツッコミさせていただいたわけですが、でもちょっとだけマジメな心配もすると、やっぱり今回の「愛のために」っていう展開については、私個人としては完全に反対です。
 なぜなら、沙織さんが「愛のために闘う」って言ってるのが、全人類的なものじゃなくて、思いっきり個人的な愛のために闘うっていう話になっている(ように見える)から。作者がそういう意図を持ってやったかどうかは知らないけど、少なくとも今回の連載分の描写からだと、そのようにだけしか読めません。

 もちろん、ところどころには、今回の沙織さんの「愛」がまるで「全人類への愛」の話であるかのように見せかけるセリフも、ちりばめられているとは思います。
 しかしながら、「そもそも沙織さんが今回の行動を取っている理由が星矢のためだけである」「しかも星矢以外の人々に対して最低限の興味すら持とうとしていない(生死の確認とか)」という、これまでの色んな前フリと合わせて読むと、やっぱどう見てもダメだろこれ。

 これはツッコミ人の個人的な見解ですが、アテナこと城戸沙織さんの魅力というのは、星矢が好きだとかいう一少女としての感情を、一生懸命、ギリギリのバランスで自重して、「それでも」やっぱりアテナとして闘うのだと決意する、その強さとか健気さとか切なさとか、そういったものだったと思うのです。
 だから、思いっきりラブに走る城戸沙織とか、ぶっちゃけ全然別人だと思うんですけど。全然別の漫画になっちゃうと思うんですけど。
 色んな意味で聖闘士星矢終わると思うんですけど。

 もちろん人の考え方には個人差があるので、そういう終わり方もありといえばありかもしれないけど、でもそれ、私個人としては好みではありません。明らかに路線間違ってると思います。それ以外にもいくらでも、もっと違ういい形で終わらせる方法があるだろうと思ってしまいます。

 というわけで、今回の連載を読んでの感想を一言でいうと、

 あの天界編映画の中でも、特にアレだった方向に、今さら突き進む気だというのかー!

 と、思ったことであるよ。詠嘆。


<完>


多分続く

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Written by T'ika /2009.9.8