冥王神話 NEXT DIMENSION
「Part11 ぬくもり」ツッコミ
(と少し考察)
(2007年12月6日発売・週刊少年チャ○ピオン1号掲載)




■はじめに

 今回のお話ですが、あまりにもピンク色の衝撃が走り抜けすぎて、私は初読の最中に思わず「バタン!」と雑誌を閉じました。ウワーッハハハ。
 御大はいつからジャンルを変えたんだ?




■内容以前の感想

 表紙には天馬とアローンの背中合わせの横顔が描かれています。眼を閉じて下を向いている厳しい顔のアローンがちょっとシャカっぽいです。

 そしてあおり文句は「ひび割れた友情、砕く時。

 待て待て待て待て!砕いていいのかよ!ふつう少年誌で友情がひび割れたら修復しようと努力するもんじゃないのかよ!ひび割れた分を取り戻すために今から頑張って戦うんじゃないのかよ!そんな方針でいいのかよチャンピオン!
 それともこれは「友情・努力・勝利」を目標に掲げる某雑誌に対する完全な決別宣言と受け取るべきなのだろうか。
 ……今回も表紙からツッコミどころが満載です。

 ちなみにこれ以外のアオリ文句は「血戦!」「かつての盟友、今は敵!」「天馬VS冥王!!」でした。
 いやあ、ものすごく激しい戦いが待っていそうですね。わくわくしますね。すごそうですね。




■論点その1
――「オレがアローンと出会ったのは数年前の猛吹雪の夜だった」の回想シーンがあまりにも猛吹雪すぎる点について。(p.1)

 いやここ一応、フィレンツェの近くのはずなんだけど、まるでアルプス山脈の標高3000メートル地帯みたいな状態です。いったいフィレンツェに何があったのか。
 そして非常にどうでもいいツッコミなんだけど、天馬くんの足もとに転がっているでかいシカのアタマの骨、天馬くんは「もう少しでこいつの仲間入りするところだぜ」とか言ってるけど、吹雪で死んでも骨だけにはならないと思う。そのシカ、絶対にこの猛吹雪で死んだやつじゃないと思う。




■論点その2
――幼年時代のアローンが神の子だった件について。(pp.2-6)

 天馬が避難所(小屋)の中に入ると、そこにはアローンが座っていました。初対面でした。

 なのに、アローンを一目見た瞬間に「神の子…!?」って思う天馬くんは、さすがに一目で見抜きすぎだろうと思います。
 しかしアローンもアローンでいきなりバックに大天使とクリオネを飛ばしまくってていやおまえも一目で人間じゃないってわかりすぎだろうという感じです。瞬も依代だったけどさすがにここまでじゃなかった。

 あと自己紹介シーンの「オレは天馬 ペガサスとも呼ばれてる」っていうセリフを読んで、天馬くんはかなり前に「ペガサスは馬の名だ」って怒ってたけど、別にペガサスでも良かったんじゃん!って思いました。(笑)あの馬どうなったのかなあ。

 なお、凍える天馬のためにアローンが自分の絵の道具を燃やすくだりは、瞬の「ウサギは自らの身を犠牲にして」のエピソードと少しかぶるんですけど、どうもこの連載のアローンの描写を見るに、御大は「無垢な美少年」というものに心の底から萌えていらっしゃるのだなあ……と思いました。
 個人的には、ジャンプ連載時にもその傾向はあったかなとも思うのですが、さすがにここまでわかりやすく描かれてはいなかった気がする。今回はジャンプ連載時よりもご自身の萌えをナマのまま提示していらっしゃる感じなので、あまりにも萌えがわかりやすくてモジモジします。読者が。




■論点その3
――幼年時代の天馬が野盗だった件について。(pp.7-8)

 「へっお人よしめ オレがその野盗だよ」

 いや、その年齢の子供が、暴力も使わず、衣服もはがさず、ナイフも突きつけず、アローンが眠った隙に夜闇にまぎれてこっそりと荷物を盗んで逃げ出しているだけなんだから、それって野盗じゃなくてどう見てもただのコソドロなんだが
 もしかして夜盗って言った方がかっこいいって思った?(笑)




■論点その4
――水鏡先生の登場シーンについて。(pp.8-12)

 まじめな話、アローンの荷物を盗んで逃げる天馬を捕まえたのが水鏡先生で、捕まえた天馬を「殺すとするか」とか言い出してるところを、アローンの必死の懇願によって天馬が命を救われた、という設定自体は、すごく深みがあって良いと思いました。
 それで、「おまえはこのアローンという少年に大きな借りができた おまえはアローンを一生かけても守りぬかねばならぬ」という水鏡先生のセリフにつながるあたりは、なんであんなパラサイトフレンドを天馬が一生懸命世話し続けていたのかという我々読者の長年の疑問を氷解させてくれる上に、二人の友情についても深く掘り下げる、極めて奥の深いテーマだと思います。
 ……うん、ただちょっと前後のシーンが恥ずかしすぎてモジモジするけど。




■論点その5
――水鏡先生が二人の子供をカラダで温める今回の話のクライマックスシーンが、あまりにもピンク色でありすぎる点について。(pp.13-15)

 論点その2でも触れたように、今回の話はなんとなくモジモジ度が高いなあと思っていたのですが、まさかここにきてそれを凌駕するピンク展開が待っていようとは、思ってもいませんでした。
 ……いや、もちろん、火が燃え尽きているから暖めあって生き延びるのだとか、確かにおっしゃる通りなんですが。心が荒み切ってコソドロになってしまった子供に人間のぬくもりを教える必要があるというのも、確かにその通りだと思うんですが。
 なんかこう、そのぬくもりが、妙にカラダのぬくもりを強調してるように見えるのは気のせいだろうか。もうちょっと小宇宙とかを強調する形じゃだめだったんだろうか。しかもなんでそこで画面全体が突然肌色になる必要があるのだろうか。しかもなんでそこで肌色の水鏡先生にキラキラが飛び始めるのか。しかもなんでそこで2人の子供が水鏡先生の胸に頬と手をそっと当てるのか。しかもなんでそこで肌色の水鏡先生がにっこり笑い出すのか。しかもなんでそこでアローンと天馬が泣き出すのか。いやもちろん演出の意図はわかる。人間のぬくもりが表現されてるというのはよくわかる。しかしなんでこんなに読んでて恥ずかしいのか。いや、服は着てるんだけど。

 そして盛り上がったところでクライマックスシーン。

 「あ…あなたの…あなたのお名前をおしえて下さいませんか」
 「水鏡 杯座の水鏡だ」


 そして大ゴマで抱き合う3人。子供達を光る懐に抱き入れた水鏡先生の全身像が、まるで聖母像というかむしろ何か孕んだようにも見えます。

 なんかはずかしいです。

 いや演出的に「温もり」を表現したかったのは良くわかるんですけど、でもそれ、ここまでカラダの温もりを全面に出してくる必然性って、あったのだろうか。
 つーか、魔鈴さんとかダイダロス先生とか老師とかカミュ先生とか、みんな弟子のことを「厳しいけど温かく指導してくれた」人たちばかりですけど、絶対、こんな直接的なことやってないと思う。(笑)

 ……つーかぶっちゃけ、ベッドシーンの演出だと思うんだけどこれ。「母さんが夜なべをして手袋編んでくれた」レベルを遥かに突き抜けてしまっていると思うんだけどこれ。




■論点その6
――そんな水鏡先生が何故ハーデスの軍門に下ったかという件について。(pp.16-18)

 というわけで、回想シーンが終わります。フェルメールにぶっとばされた天馬・シオン・童虎が「うう…」とか言いながら伸びてます。
 ……申し訳ないですがワタクシ、今の今まで、こいつらの存在、すっかり忘れてました。さっきまでのインパクトがあまりにもすごすぎて、そもそもハーデス軍との戦闘中だったんだってこと自体、綺麗さっぱりアタマの中から消えていた。
 というか、今回の話の冒頭からあまりにも違う話が始まりすぎてて、そもそも前回までのお話と同じ話の続きだったんだってことすら、今の今まですっかり忘れてた。


 「あ…あの日からオレに人として男としての正義を教えてくれた先生がどうして…どうしてハーデスの手下なんかに…」
 「ハーデス様こそ このくさりきった地上を浄化される偉大なる神だからだ」

 うむ。確かに今までの展開だけを見ると、明らかに水鏡先生の方が正しいように思えるな。
 だってアテナ軍って今んとこ、行き倒れそうになってたところを助けてくれた友達の持ち物全部奪って逃げた天馬と、まだハーデスが降臨していない段階の何の罪も無い一般人をぶち殺すって言い出した童虎と、その童虎になし崩し的に巻き込まれて全然存在感を発揮していないシオンしかいないし。しかもこの黄金2名、天馬を苦しませずに殺してやろうと一生懸命頑張っていたスケルトンのひとたちを、自分の業績稼ぎのためにボロ雑巾みたいに一瞬でぶち殺してたし。(笑)
 その一方でハーデス軍のメンバーはというと、驚異の包容力で天馬を更生させた水鏡先生に、自分の大事な絵の道具を天馬のために燃やしたアローンである。アローンなんて、自分の大切な荷物を盗んだ天馬のために命乞いまでやってる。

 明らかにハーデス軍の圧勝である。

 むしろ、これで水鏡先生が裏切った理由が正当化されたんじゃなかろうか。(笑)




■総括

 「Part2」の感想で、私は「冥王神話の今後の展開がチョウになるかボウフラになるかは、アローンとペガサスをうまく描けるかどうかで決まると思う」みたいなことを書きました。しかしその後の感想では、アローンが天馬に依存しすぎてて、ただのパラサイトフレンドのようにしか見えない、というような意味のことを書きました。
 けれども今回の展開は、それを見事に覆しました。
 アローンは単に天馬に依存してるだけの人ではなく、かつて天馬の罪を許し命を救ったことのある友なのであり、それは天馬にとっては一生かけて返さなければならないほどの大きな大切な借りだったのだ、という設定が入ってくることによって、いままでビニール袋くらいうすっぺらかった二人の「友情」が、まぐろの切り身くらいには分厚くなって、上質な味と奥行きが出てきた感じがします。

 しかし残念なことに、それを示すためのエピソードがあまりにも恥ずかしすぎて、初読後は爆笑と悶絶の嵐でした!ぶははは!ごめんなさい!
 いったい、今回の話のどこが、「血戦!」なんだ!
 外で読まなくてほんとによかったぜ!この!ピンク!ピンク!どピンク!



<完>


多分続く

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Written by T'ika /2008.1.5