冥王神話 NEXT DIMENSION
「Part1 童虎とシオン」 感想
(2006年8月3日発売・週刊少年チャ○ピオン36・37合併号掲載)



■1.はじめに

 えー、個人的に、今回はキャライメージが破壊されましたどうも…。

 とりあえず、今週号もまた袋とじでした。そして、また8ページでした。8ページで250円ってことは、もう1ページにつき30円分以上くらいはツッコミ入れないと元が取れません!次回も8ページだったら許さない!

 ……という理由だけじゃーないですが、今回も長いです。本当に気持ち悪いオタクですみません。(笑)




■2.例の爆弾発言について(1ページ目:最初の2コマ)

 今回も1コマ目からモノローグが入ります。「地上暦一九九〇年の聖戦から二百四十数年前」。微妙に説明口調。「二百四十数年前」が微妙にアバウトな割に、やっぱり「一九九〇年」にはこだわりがあるようです。

 とか思った0.0000001秒後くらいに、2コマ目で再び衝撃が走りました。

 「青銅の若き聖闘士!シオンに童虎よ!」

ギャアアアア!
(この突然の爆弾発言の破壊力に、オタクはのけぞり、もんどりうった!)

 いやあ、あまりにも思いがけないものに遭遇すると、人は大笑いしてしまうものなんですなあ。おまえらなんで青銅聖闘士になってるんだよ!思わず大爆笑してしまいました。あはははは!

 というわけで明らかになった、衝撃の事実。シオンと童虎は、なんと元々は青銅聖闘士で、そこから黄金聖闘士に昇格した、いわば転職コースの聖闘士だったのです。

 この展開には文句を1000行ほど書きたい気分ではいるのですが。

 しかしながら、実はそういう昇格制度が存在している「可能性自体は」今までの原作からも読み取れていた(と思う)ので、個人的にはこの「設定自体には」それほど違和感は無かったりします。

 もちろん、7歳で黄金聖闘士になっていたムウとかシャカとかアイオリアとかは、修行後にいきなり黄金聖闘士になった、いわば非・転職コースの人々かと思われます。
 しかし、「Aが存在している」ということは、「Bが存在しない」ということを証明したことにはならんのです。「AもBも存在する」という可能性が残っているのです。(つまりここでは「非・転職コースも転職コースも両方存在する」という可能性がまだあるのです。)
 そして、よく見るとジャンプ連載時の原作には、転職コースをきちんと否定するような描写は、はっきり言ってどこにも何ひとつ書かれちゃーいないのです。それどころか、青銅が黄金に出世できそうな雰囲気さえ、既に示されていたりするのです。

 例えば十二宮編の前に日本の星矢をアイオリアが襲撃に来た場面。星矢と戦ったアイオリアは、射手座の聖衣が星矢から離れるのを見て初めて、「残念だがあの黄金聖衣は別におまえを真の所有者とみとめたわけではないらしい」と言っている。
 これは逆に言うとつまり、もし聖衣が勝手に星矢の体を離れなかったら、星矢はその場で射手座の後継者と認められていたかもしれない、ということになるわけです。 (ちなみにアニメ解説本とかは読んでないのでよく知りません。でも多分車田脳内とは別物だからあまり参考にならないと思うのですよ原作を論ずる上では。)

 もっとも、聖衣が変わるんなら守護星座はどうなるんだ!という当然の疑問というかツッコミは沸いて出て来ますが、……まあその辺は車田漫画だからこの先いくらでも理由づけが可能だと思います。だって私ですら何個か思いつくもの。
 例1:「守護星座は実は人間側の変化に応じて変わることがある」
 例2:「実は最初から守護星座は牡羊と天秤だった(青銅時代は神が与えた試練だった説)」
 例3:「AからBへという変化も含めた全部が星の導きなんだ!」
 このようにいくらでも誤魔化しようはあるのです。(そしてこれこそが車田漫画の車田漫画たる所以なのです)

 そういう理由で、「青銅→黄金」という転職コースが存在するという設定自体には、私はそれほどには驚きません。なので「物語全体を支える根底的な世界観」の方は、今回はそれほど破壊されたとは思わなかった。

 しかし。

 私見を述べさせていただくと、この設定、何がって適用の仕方が大変まずかったと思います。何でまたよりにもよってシオンと童虎に使わねばならなかったのだろう。

 正直、違和感ありまくりです。

 なぜならば今回の青銅設定によって、ジャンプ連載時の原作における彼らのキャラの立ち具合までもが、破壊されてしまったような気がするからです。ぶっちゃけ原作崩壊です。アイデンティティ・クライシスです(悪い意味で)。

 そもそも既存の原作において、シオンや童虎というキャラクターは、戦闘能力的にも存在的にもあらゆる意味で、特別ポジションとして位置づけられていたと思います。
 例えば、うろたえるな小僧にしろ、筋肉の力だけで廬山百龍覇のダメージパアアアンにしろ、弟子土下座にしろ、長生きすぎる生命力にしろ、寿命の割に元気すぎる健康状態にしろ、脱皮にしろ、脱皮にしろ、脱皮にしろ、原作の様々な描写を見る限り、「聖闘士星矢」というマンガの中のシオンと童虎は、実力的にも、言動的にも、存在論的にも、そりゃもうありとあらゆる意味で最強な、非凡な、ヘンタイなキャラクターだったわけです。
 読者だってアレコレ色々とツッコミながらも、なんだかんだでそういう2人のキャラを楽しんでいたと思うのです。

 しかし、やはりそのキャラ立ちを最も根本的なところで支えていたのは、彼らの特殊な年齢設定もさることながら、何よりも前聖戦の頃から二人に備わっていたとされる「圧倒的な強さ」や「強烈な実力」だったと思うのです。しかも原作では「肉体年齢18歳=最強な時代」という設定が何度も繰り返し明記されているので、シオンと童虎が本人比で最も強かったのは、どう考えても前聖戦の時だったはずなのです。

 まあ一応、「そんなえげつない妖怪どもも昔はちゃんと若かったんだぜ!」みたいなのが書きたかったんだ、という製作意図は理解できます。だから別にキャラが青くても未熟でも経験値たりなくても、(ちょっとくらいなら)文句言いません。人間なんだから(多分)、若い頃はちょっとくらいアホでも結構。意外に下積みの苦節をやってたってかまいません。

 しかし。

 青銅設定までやっちゃうと、そりゃあまりにもヘタレになりすぎだと思うのです。ぶっちゃけ原作での描写と既に矛盾しまくりです。この青銅設定だと、シオンも童虎も最強どころか、現代の黄金聖闘士よりはるかに才能も実力も劣っていた人々にしか見えません。(何せ現代のヤツらは7歳とかでいきなり黄金になっている。)
 かといって、この先の展開でエピソードを細かく積み上げて、シオンと童虎の本当の強さを別の仕方できちんと表現していけるかと言えば、現状ではそんなページ数も余裕も、はっきりいって無いと思うし。

 このままだと、連載終了時には、「この2人、どこが伝説の聖闘士だったんだよ!」状態になっていかねません。そしてシオンと童虎の強さについては、全く読者を説得できないどころか、むしろこの少ない枚数の中で無理して2人を描写しようとすることで、逆にしょぼくしてしまうんじゃないかという気がしてなりません。
 キャラ立ちの一貫性っていうのは、特にこのマンガではものすごく重要だと思うので、個人的には非常に残念です。原作の一輝の描写とか見ていたら、キャラ立ちと実年齢は明らかに無関係だし。

 ただ、御大ご自身の意図としては、この設定をこの2人に適用することで、「こいつらは弱かったんだぜ!」と言っているつもりは全くないんじゃないかと思います。一応2ページ目の柱にはシオンと童虎のことを「最強と謳われた黄金聖闘士」というふうにわざわざ表現しているし。(柱の言葉を決めるのには原作者の意向も関わっているはずだ)(もうワタシはその意図だけ汲み取って、あとは見なかったことにしようかな…)




■3.ファッションチェック(1ページ目:2〜3コマ目)

 上記延々と書いてしまったことと比べるとインパクトしてはとても薄いのでアレなのですが一応突っ込んでおきます。シオンと童虎、何気に例のあのスニオン服を着ています。

 カノンとおそろいです。

 もしかしたら、聖域にいる聖闘士の普段着ってこの服なのでしょうか。1巻の星矢の服も防具を外したらこんな感じになるような気もするし。……いや、しかしそれじゃあ1巻で恥ずかしい雑兵ルックしてたアイオリアは、いったい何の罰ゲーム中だったんでしょうか。
 ……謎が謎を呼びます。




■4.黄金聖衣の授与のされ方があまりにもショボイ点について(1〜4ページ目)

 まだ今週号のわずかに1ページ目なのですが、青銅発言に衝撃を受けているうちに、ストーリーの方もあっという間の急展開となります。

 「シオンに童虎よ!」
 「はっ教皇」
 「今日は何事のお呼びでしょうか」
 「おまえたちふたりにこれをさずけよう」
 「そ…それは!」「牡羊座と天秤座の…」「黄金聖衣!!」

 (※以上これ全部、はじめの1ページ半の間の出来事)

 いや!ちょっと待て!

 何だよこのあまりにも唐突かつ適当すぎる黄金聖衣の授け方は!雑魚キャラの敗北シーン並みだよ!天敗星トロルのイワン並みだよ!黄金聖衣なんていうあまりにも重要でドラマチックなブツの受け渡しの瞬間が、こんな適当でいいのかよ!

 しかもこれ、教皇がめっちゃ気まぐれにテキトーに、勝手な思いつきで決めてるように見えます。第三者が一切不在の不健全な感じが漂ってます。黄金聖衣が授けられるに当たって、あらかじめ何らかの試験とか試練とかがあった様子が全くうかがえません。

 いや、普通に、他に競争相手とか誰もいなかったのかよ……
 (星矢の時みたいにさー)
 (言っとくけど運命に導かれたっていうのと競争相手が誰もいないってのは全く別の問題だからなー)
 (重要ポストに就くに当たって競争が全くない組織ってのはものすごく不健全なんだからなー)




■5.シオンの外見について(1ページ目〜)

 ところで私の気のせいでなければ、我らがシオン様はどうやらイメチェンをされてしまったようです。
 一応、原作の回想シーンでは聖戦当時、シオン(18歳)は長髪だったはずなのだけど、きっとこれから聖戦までの間に伸びるんですよね?シオンだしね?頼むからそうだと言ってくれ?(切実)

 ちなみに金髪なのは個人的な予想通りでした。原作はだいたいこのカラーリングだから。目の色が青なのも予想通りです、車田王道パターン的な意味で!(可哀想なオタクは短髪を完全に見なかったことにした模様!笑)

 でも、麻呂眉の色が髪の色とおそろいだったのは色指定ミスだといいなと思います。だってシオン、あの形で天然眉って、ちょっとキモイと思うんだ……。確か昔のムウのカラーでは、あの眉は髪と違う色(濃い目の赤茶)だったような気がするんだけど。白黒ページでも麻呂眉だけは黒っぽく塗られていたし。

 ちなみに童虎さんは黒髪に赤目でした。赤が少し意外。黒か茶色だと思ってた。(追記:後の連載では茶色の目になってた。今回の赤は特殊効果だったのかも?)




■6.前教皇様のセリフ色々について(4〜5ページ目)

 「先輩十名の黄金聖闘士に負けることなくこれまで以上に地上とアテナを守るために精進するがよい」

 というわけで、シオンと童虎は前聖戦の時の黄金の中では最年少(もしくは最もヒラ)だったらしいことが判明しました。冒頭の「青銅の若き聖闘士!」というセリフからも、作者の人はシオンと童虎が「若いのだ」ということを、かなり強調しているように思えます。

 ちなみにこのページの右側の柱部分にはこんなことが書いてあります。
 「若き黄金聖闘士シオンと童虎の似顔絵を描こう!」
 やっぱり若いのは重要らしい。シオンの短髪もそういう意図があるのだろうか。

 あと、なんか「前聖戦から250年…」とか言われてました。つまり前々聖戦から前聖戦までの間隔は、250+数年ということなのか。




■7.ハーデスらしき少年の情報について(6〜7ページ目)

 場面変更。十二宮の火時計の近く。

 「なに ハーデスが!!」
 「はっ エリシオンという所にいるようです」

 十二宮のどっかの場所で雑兵の報告を聞くシオンと童虎。「エリシオン?」と尋ねる童虎に、その雑兵が答えます。

 「まるで冥界のユートピア エリシオンのように 花が咲き乱れた場所なので 地元ではそう呼ばれているようです そこにいつも 草花を摘みに訪れる少年が…」

 ……よく考えるとツッコミどころが100個くらいありますこの一連のシーン。全部ヒラ打ちすると日が暮れるので箇条書きで以下云々。

・この雑兵、雑兵のくせにそんな重要な情報をどうやって入手したんだよ
・ていうか地元ではそう呼ばれてるっていったいどこの地元だよそんなの
・しかもそんなワケワカラン場所に花摘みに訪れる少年の存在なんか誰がどうやってチェックしてるんだよ
・その上その少年がハーデスだっていうのは一体どうやってわかったんだよ
・聖戦始まってないんだから、その少年ってハーデス降臨前じゃないのかよ
・誰がどうやって気づくんだよ
まさかそこの地元の人かよ
・仮にそうだとしてもどうしてそれが一雑兵のお前に伝わるんだよ
・ていうかそもそも誰がどこに草花を摘みに来たとかそんなことまでいちいちチェックしてんのかよ聖域の情報網はよ
ストーカーかよ
・しかもそんなあやふやなソースで本当に正しい情報なのかよそれ
・ていうかよく見てみたら「いるようです」ってなんでそんな自信なさげな伝聞の助動詞使ってんだよこの雑兵
・もしかして断定の助動詞も使えないくらい適当な情報なのかよ

つーかそんな不確かな情報を聞いて1秒で信じるなよ童虎

・しかも「わかった このことはまだ誰にもいうな」って何の権限があって自分のところで情報ストップしてんだよ童虎
・普通そこは「一刻も早く教皇に知らせろ」じゃないのかよ童虎
(ちなみにこのシーンのシオン、童虎のことをものすごーく不審そうなまなざしで見てるように見えます爆笑)

 どうやら諸々の描写から、このシーンは一応聖戦の直前ではあるけれども、まだ108の魔星は復活しておらず、ハーデスの魂もまだ地上の肉体に降臨していない時点での出来事だ、ということが見て取れます。
 ……あ、そうか!だからきっと、これから聖戦本番が始まるまでにシオンの髪が伸びるんだな!なんか変な妖怪とかに取り付かれて30秒くらいでブワーって髪伸びるんだな!(もう何とでも言ったれ)

 しかしまあ、そんなハーデスが地上の一般人に降臨する前の時点である(と思われる)にもかかわらず、童虎が言い放つこのセリフによって、読者の目は点になるのです。


「きまっているだろ ハーデスの居場所がわかった以上
首をとりにいくのよ



老師ーーーーー!!!(号泣)


 老師!その少年はまだ今はハーデスじゃない(可能性が高い)です!一般人です!アナタがやろうとしてるのは完全に、民間人の虐殺です!

 「バカな!勝手なことはよせ まずは教皇や他の黄金聖闘士にはかるべきだ」と、当然の正論を吐いて止めるシオン。
 当たり前です。ここで止めなかったらアホです。
 (ちなみに私が見た原作シオンは確かに存在論的レベルで規格外の非常識な生物ではありましたが、おバカではありませんでしたので、このアホなお友達を止める行動はワタシ的にはOKです)




■8.千日戦争について(7〜8ページ目)

 「どけ」という童虎に「どかぬ」というシオン。
 当たり前です。
 むしろそのアホを止めてやってください。
 ちなみにこの「どかぬ」と言ってるシオンの横顔はちょっとかっこよいです(私情)

 しかし、やはりシオンも車田キャラだったのでした。

 「どうしてもというのなら… このシオンを倒してから行け」

 いや、アンタ!そこでケンカ始める前にまずは問答無用でさっきの雑兵に命令しなよ!教皇に知らせて来いって言いなよ!(爆笑)

 そんで、童虎が「きさま…無二の親友のこのわしに…千日戦争をしかけるつもりか!!」とキレて、今回は終わります。シオンは目を閉じたりしてスカして余裕かましてる感じですが、童虎、どうみてもマジ切れです。余裕なさすぎです。(あ、童虎は10代の時から一人称が「わし」でした!広島弁みたいですね!ははは)

 しかし、この緊迫のはずのシーン。なんかいきなり千日戦争の読み仮名が間違ってます。それは「せんにちせんそう」じゃありません。「ワンサウザンドウォーズ」です。
 チャ○ピオンの編集の人にはちゃんと作者のミスにも気がつくことができるように、もっと16年前の原作を読み込んでほしいものです。




■9.今後の展開の予想

 たぶん次回連載中に前世ペガサスが出現して2人を止める。
 このカシオミニを賭けてもいい。

 ちなみに次点:2人を止めきれずに追いかけていったペガサスがその花畑でハーデス少年と出会ってお友達になる
 大穴:本当に童虎とシオンが千日戦争に突入し、その罰として教皇様から精神と時の部屋に入れられて100年分くらい修行させられている間に聖戦が始まってほとんど終わる(その間にシオンは髪が伸びる)





■10.その他

 次号予告によれば、次号連載では「更に激震の重大発表」があるらしい。
 もうここまでくるとイヤな予感しかしない。
 (一体これ以上何が破壊されるというのだろうか……)




■11.総括

 個人的な感想を言うと、今回は、聖闘士星矢という作品の根底を支える世界観というよりは、主にキャラについて、大事な部分を思いっきりブチ壊されたっていう印象でした!

 あと、今回何となく感じた御大による裏テーマは「若さ」です。
 「若き」という言葉が8ページの中に2回も出てきた上に、シオンと童虎の2人は当時の黄金の中で一番年下だったという新設定の出現。
 そして、シオンと童虎の描写における、ジャンプ連載時との差異の強調。(童虎=性格、シオン=髪型)
 うーん、若さを意識するのは別にどっちでもいいんですが、意識しすぎなのか、結果としてなんか2人のキャラが軽くなりすぎているような気がするのです……。見せかけの若さがそんなにうれしいかよう……

 あれこれ言いましたが、自分としては「青銅だった」ということ自体よりも、それ(+α)によってキャラ像が揺らがされている(ように見受けられる)部分のほうが、本質的には気になっています。
 ぶっちゃけ、現代の青銅聖闘士(13〜15歳)よりも軽くなってるような気がします。それが一番つらいです。

 次回もたぶん……続きます。


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Written by T'ika /2006.8.12