9. 悲鳴をあげながら勢いよく跳ね起きて、ふと気がつけば、そこは見慣れた聖域の緑陰だった。青葉の心地よいこの季節、どうやらうたた寝をしていたらしい。 「ゆ、夢か……」 大粒の汗を拭いながらぜえぜえと喘いで、ミロは深いため息をついた。すぐ脇にある聖域の闘技場では今も聖闘士候補生たちが熱心に訓練を続けており、時おりアイオリアが檄を飛ばす声がする。 どうやら候補生の訓練が退屈なあまり、自分はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。 「大丈夫か、ミロ。随分うなされていたようだったが」 隣の木陰からカミュの声がした。常日頃から変わりない、淡々とした冷静な語り口である。 「ああ、少々夢見が悪くてな……」 何となくほっとした気分になって、一気に脱力感を覚えたミロは、両目をゴシゴシと擦りながら、正直に言った。 「そうか。それは災難だったな」 「いや、まったくだ。夢で良かった。実にひどい体験だった。ひどすぎて未だに眩暈がする。オレは疲れた」 「そうか」 「何であんな夢を見たのか、さっぱりわからん」 「フッ、そんなにひどい夢だったのか。いったいそれはどんな内容だったのだ」 「おお、聞いてくれるか、カミュ。オレは夢の中で、変な世界に迷いこんだのだ。そこではみんながおかしくなっていて──」 しゃべりながら何気なく隣の木陰のほうを見たミロの表情は、その瞬間、再び凍りついた。 「うむ、それで?」 「それで……みんな、変な格好を……」 「ほう。それは一体、どんな格好だったのだ?」 そう尋ねてくるカミュの格好は、どこからどう見ても、変な格好だった。まず身につけているのがいつもの修行服ではない。スカートだ。十九世紀ヴィクトリア朝の瀟洒なワンピースを着ている。その髪はきちんと結い上げられ、可愛らしい小花とリボンで飾られている。そうして木陰で本のページを繰りながら、なぜかお姉さん座りをしてこっちを見ている。 淡々と。 「どうした。何をじろじろ見ている、ミロ。ひどい夢を見たのは気の毒だが、そろそろお茶の時間だぞ。このままでは遅刻を──」 「ぎゃあああああああ!」 こうして、ミロの悪夢はもうしばらくだけ続くのだった。めでたし、めでたし。 <完> ***** もうはるか昔の前世紀のことになるのですが、高校の古文の授業の単語テストで 「あやし」の現代語訳が「不思議だ」というのがなかなか覚えられなかったので、 オタクの友人たちと一緒になって「あやしの国のミロ」というネタを考えたのが このアホ小説の元ネタです。 大事なとこの配役はほとんどセンス抜群の友人が考えたんですけど(天才かと思った) 細かいところは仕方ないので後日改めて私が考えました。 そして2004年くらいに1年でサパッと書き終えるつもりが、なぜか2022年4月末なうです。 でも個人的には楽しかったので満足。書きながらすごく懐かしかったです。笑 |
Written by T'ika /〜2022.4月