Flont Mission (vol.4)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

カガリの無事は、早急にオーブ国民に伝えられ、国中が安堵の息に包まれた。

その一方で苦虫を噛み潰していた男達が居た。

<…まさか、あの状況で助かるとはな…>

「くそっ。確実にしとめたはずだったのに…」

<やはり“事故”を装った擬装ではダメだ。今度は確実に仕留めにかかる。>

「…判った。」

 

そうして男達の通信は切れた。

 

*        *        *

 

「…間違いないですね。これは微品とはいえ、サイズからしてMSのものに間違いありません。」

エリカ・シモンズが無人島でアスランが見つけた金属類―――

それを錆や、傷から丁寧に分析した結果、これはごく最近製造されたものであることがわかった。

「やっぱり、アイツ、嘘ついてたんだ!」

カガリの怒りの矛先は、元外務次官『コープス』に向けられていた。

「こうなると、どうして疑問が二つ出てきますね。」

アスランがいつものように冷静に分析した。

「一つは何故『武器一切を放棄する』と言いながら、どこか・・・大方あの無人島近辺となると、バルドフェルドさんが言ったとおり、多分、あの廃棄処理場になにかありそうですが、そこでMSを作っているのか。・・・確かに今は停戦です。世論は平和に向けて動いているはずなのに矛盾した行為を行っているか。

そしてもう一つは、何故カガリを狙ったか…他の外交ではなく、オーブ首長国代表を狙う理由はどこか…と言うことです。」

「…確かにそうなるな。」

アスランの分析に、キサカも頷いた。

「となるとです。平和を推進する我々としては、如何な動きを取るべきでしょうか? アスハ代表?」

バルドフェルドが茶目っ気に、カガリに向き直って言った。

 

「当たり前だ! まずはコープスとっ捕まえて、MS何処で、何で作っているのか問い詰める!

ついでに、あの状況でスコールだけでわたしを偶然事故に見せかけたんだったら、アスランの言うとおり、何で私を狙ったか。それも問い詰めてやる!」

自身を持って言うカガリに、バルトフェルドがからかうように言う。

「やる気満々のところで申し訳ないんですがね。姫君…」

「何だよ!」

「もし、MSの部品を見せて問い詰めても、コープスが『知りません』の一言でも言えば、それでヤツを吐かす事なんて出来ませんよ。」

「…う…」

カガリは振り上げた拳の行き場が無い。

「それにだ…」

キサカも続く。

「カガリのヘリを狙ったのが仮にコープスだとして、海に沈んだヘリを引き上げて弾痕を調べてみても、今更ヤツの方で、銃は処理しているに違いない。」

「…。」

カガリのシュンとなった顔を見て、バルトフェルドが顔をあげた。

「そこで…だ…」

 

*        *        *

 

「俺は反対です!」

アスランが誰よりも真っ先に声をあげた。

だが、バルトフェルドが逆に問い返す。

「ならばどうする? ヤツラの狙いは姫君だし、まさか君が正体を明かして突っ込んでいく訳にも行かないだろう? それこそ公に外交問題に発展しかねない。」

「・・・っ!」

アスランの苦渋の表情に、カガリはアスランの肩に手を置くと、安心しきった顔で言った。

「私なら大丈夫だぞ。それに…」

「それに…?」

「…いや、今は、いいや…」

軽く頬を染め上げ、カガリは途中で言葉を切った。

「―――で、決行は?」

 

*        *        *

 

大西洋連邦外交主催の親善パーティー…

宛名にしっかりと『オーブ首長国代表様』と書かれた招待状。

カガリは2名ほどの随行員を従えて出席する旨を伝えた。

そのなかに―――アスランはいない。

 

「カガリ、本当に大丈夫なんだな?」

薄い生地のエメラルドグリーンのドレスに身を包み、自室で待機していたカガリに、アスランはたまらず声を掛けた。

「何言ってるんだ。今更。・・・ヤツはエサは私でなきゃ食いついてこない。」

「しかし…」

カガリから視線を逸らすと、アスランは言葉に詰まった。

「どうした?」

「いや…」

 

(…言おうにもいえない…只でさえ危険な目に会う可能性があるのに…そんな身体の線が透けて見えるほどのドレス…違う意味で危険な目に会わないか、なんて…)

 

カガリの金の瞳はキョトンとアスランを見ている。

「だーいじょうぶだって! お前、心配しすぎると、頭禿げるぞ!?」

カチンと来てアスランも言い返す。

「コーディネーターに禿げの遺伝子は入ってないから大丈夫だ。」

その表情を見て、柔和な表情に戻るとカガリは視線を外していった。

「それにだな…その…言っただろ…お前…」

「…?」

「…私を…『護る』…って」

真っ赤になりながらおずおずと言うカガリが急に愛らしくなって、アスランはカガリを抱きしめた。

「あ、アスラン!?」

「そうだ…君は何に変えても…俺が絶対護る…」

 

そういってアスランは一枝のハイビスカスを差し出すと、カガリのドレスの胸につけた。

淡い緑のドレスにオレンジのハイビスカスは良く映えていた。

 

 

「絶対護るから…」

 

*        *        *

 

パーティーではこれ見よがしにコープスがカガリを歓迎した。

「いや、アスハ代表…あの嵐の中良くぞご無事で…」

「あぁ、お前もな。」

 

さり気なく横を通り過ぎようとした際、カガリはコープスとぶつかってしまった。

そして、持っていたバックから―――

<カチャン、チャリン>

「・・・!? アスハ代表。・・・これは?」

「あぁ、これか? 私が『視察で行った島』から『そんな離れてないところ』で助けられた時に、落っこちていたんだ。なんの部品か気になったから、ついでにパーティーにくる、この手の詳しい分野の人間に聞こうと思ってさ。いい機会だから。」

 

そう言ってコープスの横を通り過ぎていったカガリ―――

 

反対にコープスの顔からは、冷汗が浮んでいた。

 

*        *        *

 

パーティーは滞りなく始まっていた。カガリもまた、首長国代表として、各国代表にあいさつ回りをしていた。

 

 

―――そこに近づく足音―――

 

 

 

オーブの随行員がカガリの姿を捉えられなくなり、警備兵に尋ねた。

「おい、アスハ代表を見なかったか?」

「アスハ代表でしたら、先程気分が悪いとかで、コープス元外務官が自ら病院にお連れすると・・・」

 

 

 

オーブのキサカの元に、カガリがコープスといなくなった、との連絡が入ったのは間もなくだった。

 

 

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