Front Mission (vol.2)

 

 

 

「どう思われますか。」

「確かに…怪しい以外、何もあったもんじゃないネェ…」

 

アスランからの質問に、アスランと同じようにオーブのモルゲンレーテにおいて、その実戦知識を活かし、協力を続けているアンドリュー・バルドフェルドも溜息をついた。

 

「ここモルゲンレーテも、地球上のエネルギー物質の不足に対しての研究機関として活かされてはいるが、決して自分からの攻撃をするための武器は作らない…違うかね。」

「当たり前だろ!」

バルドフェルドの言葉に、カガリは噛み付いた。

「…しかし…一切の非武装なんて…この時期に何を考えているのか…」

たまりかねたらしいキサカも同じく溜息を漏らす。

 

「『非武装』を訴えながら…実はどこかで巧妙に兵器を作っている…とか?」

「まさか!?」

(そんな…それじゃあ以前のヘリオポリスと同じ―――!?)

「僕は只、『木を隠すなら森』って事を言ってみたかっただけさ」

金の瞳を大きく見開かせ、驚くカガリに、バルドフェルドは呟いた。

 

「今、大きく分けて、大戦の処理施設は、ここオーブ付近の大西洋連邦管轄組織化にある島国と、ザフトのカーペンタリアで行われている。停戦処理の際、プラントは地球上の主だった兵器はカーペンタリアで行っていることを公に公開した。だが、実質全面武器の処理は行っていないことは伝えてきている。・・・プラント内でも何処まで武器の処理が行われているのかわからない。

地球軍は公にして入るものの…本当に兵器の全撤廃なんてするのか? もし相手がまた牙をむいてきたら…その時は…」

キサカの説明に耳を傾けていたカガリが、突然口を割った。

 

「その、全撤廃を言ってきているヤツって…何物なんだ?」

「コープスという元連合軍外務省補佐だ。」

 

「とにかく―――だ!」

不安の過ぎる一同の前で、カガリは胸をはって答えた。

 

「明日になったら、元大西洋連邦の代表なんかも集まってくるし、こっちから問い詰めてやるさ!」

 

*        *        *

 

「大西洋連邦の武装放棄はロード・ジブリール氏の意の下、全面的に進みつつありますよ。

ご安心ください。何をそう疑問に思われるのです? アスハ代表。」

 

ロード・ジブリール―――新たなブルーコスモスの盟主と聞いた。そんな男が本当に非武装など行う気だろうか?

 

「我々も、早くあなた方オーブのように中立の手本となるべき国家をつくり上げたいのですよ。」

ベルトン・コープスは嫌味ない言い方で、カガリより下手に出るような態度で答えた。

 

「…本気でそんなこと言っているのか…?」

カガリは退かない。

「じゃあ、もし、ここで停戦協定が破られて、プラントが攻めてきたら…お前はどうする?

 

これは嘗て、カガリの父ウズミが地球軍から突きつけられた問題。

その時の父は一切の協力要請も出さず、受けず、第3の道を選んだ。

 

―――この男は・・・どう答える?

 

カガリはオーブの獅子の娘として、真っ直ぐなその金の瞳をコープスに向けた。

周りの重鎮たちは及び腰の姿勢だというのに。

(・・・只の御輿ふぜいが何を強気な・・・)

(・・・流石はあのアスハの娘・・・)

 

周りが驚嘆と不信の目で探る中、コープスは簡単に答えた。

「もちろん、こうしますよ。」

コープスは両手を挙げた。

「もし此処でナチュラルの誰かが撃たれたとしたら、それは停戦協定に反し、世界中の、いや宇宙中の非難を浴びます。そんな重圧を背負ってまで戦おうとする人間がいますか?」

 

カガリは黙った。

そのカガリをみると、今度はコープスが口を開いた。

 

「百聞は一見にしかず…処理現場を見に行かれますか? アスハ代表。」

 

*        *        *

 

「危険だ! やめるんだ! カガリ!!」

アスランが心配していた事が起きてしまった。

カガリのことだ。周りからの情報を集める前に、自分が真っ先に動く事をあの男はとうに見抜いたに違いない。

「だから行くんだ…私は…」

何時も通りの真っ直ぐな瞳を向け、カガリはアスランに言った。

「前にも言ったろ。…すべきこと…やるべきこと…皆同じさ。」

「…カガリ…」

「誰かがやらなきゃならないんだ。もし誰も真実を知らないままだったら…そうしたらまた平和なんて遠くなる。」

アスランは黙ったままだった。

カガリの言うことは尤もだ。

だが、此処でもし敵の輪の中に入るような事であったらどうなるだろう。

「…そんな心配な顔するな!」

カガリが急にアスランの顔を両手でピシャリと叩くと、一息ついていった。

「もし、私に何かあれば、余計に今の連邦政府に不信が募る…そんなことしてまで馬鹿な真似はしないさ。連中だって。」

「…ならば俺も行く。」

「アスラン!?」

「俺はお前の補佐だ。お前の身を護る事が俺の仕事だ。それに―――」

「・・・? それに?」

アスランの頬がフッとカガリの唇を掠める。

カガリがたちまち赤くなると、掠めた唇は横を通り、耳元で囁いた。

 

「…約束しただろ…『君は俺が護る』って…」

 

*        *        *

 

同日の午後、3機のヘリコプターがオーブを発った。

1機にはカガリがアスランと、2機目にはコープスと同じ高官のダイアンと言う人物。そして3機目には同じく連邦所属の高官たちが搭乗した。

 

現場はカガリが指定したが、時間はコープスが指定した。

官僚としての時間のなさの中からの急な提案であった事。そして早急の方が隠しごとも出来ない…すなわち『抜き打ち検査』といったところか…。

 

「心配すんな! ちゃんと見てくるって!」

笑顔で乗り発つカガリに、キサカが空を見上げて不安げにいった。

 

「雲行きが怪しい…スコールでもきそうだな…」

 

 

*        *        *

 

空中に滞空するヘリからカガリは、連邦の兵器処理が行われていると言う、とある小さな諸島群をスコープでのぞいていた。

確かに見える範囲では淡々と溶鉱炉に兵器を要れ、溶かしきったものを別の所に流し込むシステムが、上空からありありと見える。

ちっぽけな島には山と詰まれた兵器の残骸と、溶鉱炉のシステムだけで、何か兵器を作るような施設は見当たらない。

(事前に衛星で周囲の様子を探ったが・・・他に怪しいところは今のところ…)

出掛けにキサカが耳打ちしていった。

 

(考えすぎか…。)

 

黙って考え込むカガリに、無線が入った。コープスからだった。

<如何ですか? 何か不穏な点でも見当たりましたでしょうか??>

「いや、別に…」

黙るカガリにアスランはふと上空を見上げ、不安な面持ちになった。

 

―――酷く揺れる―――

 

ヘリにしては横揺れが厳しいのは…天候の所為か…?

 

「カガリ…視察はこの辺にして、早く戻った方がいい。…どうやら雲行きが良くない―――」

アスランが言いかける間もなく、スコール直前の強い横風がまた機体を揺らした。

「うわぁっ!」

ヘリの一同が揃って急に変わり始めた天気に、引き返すことを促そうとしたその時―――

 

(チュ―――ン)

 

アスランの耳に小さい何かが飛んでくる音が聞こえたかと思うと―――

<パキーン>

『グワヮヮヮ』

「な、なんだ!?」

大声をあげるカガリを他所にパイロットが声を上げた

「わ、わかりません!! 急にバランスが崩れて―――わぁぁぁぁ!」

 

アスランは瞬時に悟った―――

 

―――『サイレンサー』―――消音銃の音―――

 

何かが割れる様な音は恐らくヘリのバランスを崩すよう、プロペラか何か狙ったのだろう。

この横殴りの風ではバランスを崩したら最後、ひとたまりもない!

 

「キャァ―――っ」

「カガリ! 聞くんだ!! これを着ろ!!」

「こ、これって、エアジャケット!? どうしてこんな・・・?」

「このままだとヘリごと海に叩きつけられる! その前に飛び降りる!!」

「と、飛び降りるって!? お前!?」

 

 

カガリの返事も待たず、アスランはきりもみに落下していくヘリからカガリを抱くと、そのまま荒れ狂った海に飛び込んだ。

 

・・・to be Continue.

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