Front Mission (vol.1)

 

 

南国特有の明るい日差し―――

しかし窓から入り込んでくる風は穏やかで、部屋の空気を柔らかなものにしている。

 

尤もそう感じているのは―――『彼』だけなのかもしれない

 

日当たりの良い執務室の一角で、翡翠の瞳の『彼』が見つめている金髪の『彼女』は、先程から抱え込んでいる大量の資料の山に、ウンウンと頭を悩ませているようだ。

 

その一生懸命な様子が微笑ましくて、濃紺の髪を揺らしながら穏やかに笑うと、それに気付いた金の瞳の彼女が、ムッツリと顔を上げた。

 

「…なんだよ…なんか可笑しい事でもあったか?」

多少茶目っ気を含みながら、翡翠の瞳の彼が答える。

「…いいえ…『アスハ代表』におかれましては、随分とお悩みなご様子で…」

ついに可笑しくてクスクスと笑みを零すと、金の瞳が意地になって答える。

「なんだよ! そういうお前はそっちの資料、片付いたのかよ!! そんな山のような資料――――」

「どうぞ、お受け取りください。」

運ばれてきたそれは見事に片付き、几帳面な彼の性格らしく、順番までカガリが見やすいように、綺麗に整頓されている。

「〜〜〜〜っ///」

言い返す言葉が見つからないカガリが再び顔をあげると、翡翠の瞳をワザとキョトンとさせ、首までかしげながら微笑むアスランがそこに立っていた。

「だぁぁぁぁ! もういいっ!! 暫く休憩!!」

 

カガリがそう言うと、アスランは笑顔でディスクの上の受話器をとり、マーナに2人分の紅茶をたのんだ。

 

*        *        *

 

停戦協定から間もなく2年になろうとする。

 

あの戦争のあと、アークエンジェルとエターナル、クサナギの搭乗員たちは、それぞれ思い立った見の振り方をしていた。

尤もクサナギを含め、アークエンジェルのクルーもオーブ出身者が多かったこともあってか、停戦後、ホムラ代表をはじめとするオーブの元重鎮達を筆頭に、必死に太平洋連邦から取り戻した今のオーブにいる。

また、エターナルのクルーでも、穏健派が台頭したプラントに戻るものもいたが、中にはアンドリュー・バルトフェルドのように、

「俺はこの地球産のコーヒー豆と空気が好きでね…」

と、地球に降りたつ者もいる。

 

カガリが尤も心配する唯一の肉親―――キラはラクスの勧めの元、マルキオ導師の祈りの庭で、精神的な苦痛を癒している。

正規の軍人だったアスランとは違い、一般人だった少年がいきなり銃を取り、人の命を奪う事になったのだ。

それ相応の精神的覚悟がないと、ダメージも大きい…

時折、アスランと尋ねることは有るが、ラクスの献身的な対応のお陰か、少しずつだが気力の回復に兆しが見え始めていた。

 

その一方で―――キラとは違う立場を歩み始めたのは―――アスラン―――

 

父の汚名から、プラントにいることに躊躇いをもった彼が決めた道

―――それがオーブでの復興の助力だった。

 

表向き公には『ザラ』の名を危ぶみ、偽名を名乗ってはいるが、オーブから『ジェネシスの脅威から地球を救った勇敢なる姫君』と、半『御輿』的に首長に納められたカガリの補佐を、自主的に行っている。

 

*        *        *

 

「…それにしても何をそんなにお悩みだったんですか? 『アスハ代表』?」

「休憩の時、それは止めろって約束だろ!? アスラン!」

 

    ―――当初、どんな場であっても二人共、おたがいの名を呼び合うことは止めにした方が

       いいと思っていた。

 

       だが、カガリは

 

   ―――「そんなことしたら、お父さんとお母さんに貰ったお前の名前、呼んでくれる人、
         いなくなっちゃうじゃないか! そんな寂しい事ないぞ! だから…二人きりくらいのときは、
       ちゃんと私がお前の「本当の名前」忘れないように呼んでやるからな!」

 

       カガリらしいといえばそれまでだが・・・

   

       そのお陰か、この広すぎる執務室が、とても心地いい空間にアスランにはなりつつあった。

 

「わかった。…で、なに『ハツカネズミ』になっていたんだ? お前。」

「…今度は遠慮なさ過ぎだぞ。 お前。」

 

ああいえばこう…負けず嫌いが板につきすぎて、カガリとこうして話が出来るのが、アスランにとっては不思議だ…他の人間にはこんなに自分の思うことを伝える事は出来ないのに。

アスランの心はますますカガリをからかいたくなる。

 

「で、その悩みは何だ?…まさかまた、マーナさんに言われたドレスを着るのが嫌だ…なんてオチじゃないだろう?」

思わず紅茶を吹き出しかけたカガリが、懸命に言い返す。

「ちーがーうっ! なんでこのミルクティーのようになれないのかな…ってさ。」

「…はぁ…?」

白いティーカップの中の琥珀色をしたミルクティーを眺めながらカガリは続けた。

「紅茶とミルクはこうして簡単に混ざり合う事が出来るのに、ナチュラルとコーディネーターはなんで分かり合えないのかなって…」

 

真剣な面持ちのカガリをみて、アスランも答える。

「だから、こうしたオーブのような中立国家が必要なんじゃないか? こうした国家が姿勢を見せれば、自然とそれに習ってくるものじゃないか。」

「そりゃそうだが…」

 

まだカガリは不穏な面持ちだ。

たった2年で「分かり合え」と言うほうが確かに無理だろう。

しかし、こうしてナチュラルのカガリとコーディネーターの自分が、自然と先の話をしているのは不自然な光景だろうか…?

 

「それに…」

カガリが再び口を挟む。

 

「気になっていたのは…この前から出ていた会議の議題だ…」

「“この前”というと…」

流石のアスランも真剣な目つきに変わった。

 

 

「そう―――『地球軍の軍事用機器の一切の放棄』についてだ。」

 

*        *        *

 

切の非武装―――ようやく停戦までこじつける事が出来たが、以来まるっきり戦闘が行われなくなった…とは言い切れない。

あちこちでゲリラ的な小さな争いは続いている。

そしてそれはプラントでも同じ事だった。

 

「…だから、『核エネルギーでの稼動一切の放棄』まではこじつけられたが、鎮圧の為の武装は完全に解ききっていないのが現状なのに…おかしいとは思わないか?」

 

―――確かにカガリの言うとおり、まだ平和といってもかりそめに過ぎない…

   この状況で、『一切の放棄』とは、何を意味しているのだろう…?

 

 

「明日また会議がある。この議題の続きだ。どう考えたっておかしいぞ。だからちゃんと理由と証拠を問い詰めようと思っているんだ。」

 

 

真っ直ぐ見据えた金の瞳―――

       その小さな方に担った『未来』

 

 

       アスランは「命に代えてもこの少女を護ろう」と改めて誓った―――

 

 

 

・・・to be continue.

                                                 →

 

>そんな訳で、色んな皆様から『アクション書いてください』とリクを受けまして、種Dとの間の話を自己解釈補完中。

 本編始まったらどう転ぶかわかりませんが、始まるまでの時期物としてよんでいただければ

 幸いです。

 一応本編前には終わらせたいですが…ちょっと長編になりそうですv

 

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