聖幽戯館〜自然の理想3〜
深夜――
 雨はまだ振り続いていた。
 それでも、青い光だけは、いつもと同じように光を従えている。
 聖幽戯館の周囲だけに広がる青い光は、今日も静かに、そして厳かに輝く。
 小さな光の玉が、フワフワと飛び散っては、また青い光の中に消える。
 この光は、結界から外には漏れない。
 この場所だけで見られる、特殊な光景。
 光の玉舞う聖幽戯館の屋根の上に、2つの人影が立っていた。
「ひとつ、聞いていいか?」
「何?」
 、大地と水、2人の母神。
 天から降り注ぐ雫など意に介すことなく、言葉のやりとりをしている。
 普段、屋根に出ることなどないが、ときどきこうして気分を変えることもある。また、大事な話がある時にも……学校の屋上に呼び出す行為に近い。
「美樹ちゃんのことだ」
 に目を向けず、ただ静かに前方の光の大地を見つめている
 長い髪に当たった雫は、中へと染み込むことなく、髪を伝い流れ落ちる。よく見れば、服もそうだ。これも、母神特有の力なのだろうか……。
「彼女が何か?」
 予想はしていた。が、あえてとぼけるような言葉で返した。
 一方、のほうも、その返答を予想していたらしく、すぐに本題へと話を進めていく。
「いや……あの時、お前の言動に疑問があってね。やろうと思えば、床から壁から刃物で串刺しにできたハズだろう? この聖幽戯館は、本来、お前が作ったもの。お前の意志があれば、聖幽戯館も応えてくれたはずだ。それを、わざわざ自分で……それも、わざとミスしたように思うんだけどな」
 普段から軽い性格のだが、見るところは見ているようだ。
 は、視線をへと向ける。
「そう……には解ってしまったようですね」
「やっぱり、そうだったか」
 予感的中に、してやったりの。ニヤリと、口を動かした。
 は、特に焦るふうでもなく、相変わらず落ち付いた態度。
「しかし、美樹の命を想って、というわけではない。理由は、別にあります」
 再び、視線は光の大地へ。
「その理由は……話すつもりはなさそうだな」
 の言葉から、そう読み取る。
「えぇ。今言ってしまっては、意味がなくなってしまう」
 ヤレヤレ、とばかりに、は肩をすくめた。
 呆れた、というより、まいった、という感じに。
 いつもこうなのだ。言っていることとは別の何かを考えている。しかし、それをハッキリ問いただしたことは、過去1度としてなかった。は、母神を統括する存在であり、それだけ信頼もされているから。に限って間違ったことはしないと、母神の間にある暗黙の了解。
「まぁ、私はかまわないけどね。美樹ちゃんは素直そうだし、今までここに来た人間とは少し違う。私としても、新鮮でね。ただ……」
 その後に続くべきセリフは、にもわかる。
ですか」
 確かに、この母神に限っては違うだろう。頭から人間を嫌っているだけは。
「あいつが、あそこまで人間を嫌っている理由、お前が知らないわけじゃないだろう?」
「もちろん知っています」
 は、質問にすぐに答える。それほど、固い意志の上で、美樹を生かした……そういうことか。いうならば、頑固。
 そういうことなら、この先何を尋ねても、まともな答えはかえってこないだろう。
「自然は、私たち母神の理想通りに育った……それが、人間の存在が変化をもたらした。それだけは事実」
「……何を考えてるのか知らないが、後で説明はしてくれよ?」
「もちろん……ただ、。あなたは、私が説明するまでもなく、一番最初に気付くと思います」
 ある意味『説明はしない』と言ったようにも取れる。だが、今はこれで納得しておくほかなさそうだ。
 もまた、光の大地に視線を落とした。
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