魔法の使い方〜いつかあなたと3〜
その日は、ゴッドガーデンを守る壁の城に宿泊することになった。
 全てが個室ということで、5つの部屋を取る。お金はロットがたくさん持ってきていたので、野宿という選択は記憶の彼方である。
 寝泊まりするような客は少ないらしく、部屋は手入れが雑で多少ほこりっぽかったが、値段の割には満足のいくものだった。
「ふぅ……」
 ベッドにもたれて、窓から外を眺める。
 サールンの灯が静かにティナを見上げていた。
 メイプルたちと再会して、事の説明やらいつものドタバタ劇やらを食事しながら繰り広げ、自分の感情をまとめるヒマもなかった。部屋に入って、ようやくその時間が取れたところだ。
 17年……長い時間を隔てての出会い……そして、早すぎる別離。
 親子として過ごすこともできなかった。
 後悔だけが残っていた……
 いや、違う。
 後悔の中に、一筋の別の感情が見えている。
 それが何なのか、まだはっきりとは分からない。
 でも、ティナはそれを信じたかった。
「ティナ……いいかい?」
 部屋のドアがノックされ、ティナの思考を現実へと引き戻す。
「うん…………」
 声でわかる。入ってきたのはロットだ。
「何?」
「今日は、ティナの誕生日だろ?」
 ロットは持ってきた包みをティナに手渡す。綺麗に包装されたそれは、プレゼント以外には考えられなかった。
「こ、これは……」
 その見覚えのある包みに、ティナは絶句した。
「ティナ……ってさ、普通の服、持ってないじゃないか。悩んだんだけど、ミスティに相談して、やっと決めたんだよ。似合うと思うんだけど…………」
 間違いない。あの時、ロットが買っていた白い服の包み。
 少し震える手で包みを開く。
 薄暗い部屋にまばゆいスポットライトでも照らされたかのような、純白のサマードレスが現れる。
 その眩しさに、目頭に熱いものがこみ上げてきた。
 あの時の会話は、ティナに対するものだった。
 勝手に勘違いして嫉妬心を抱いた自分に笑い、ミスティに申し訳なく思い、またロットの言葉に嬉しく思い…………そこで何かが弾けた。
 安堵した心の中から、今まで我慢していたあらゆる感情が爆発した。
「ティナ……大丈夫?」
 気が付けば、ティナはロットに抱きついていた。
「ご、ごめんなさい…………ごめん……」
「え、な、何が?」
「……なんでもないの……だから、もうちょっと……」
 ロットの前で初めてティナは泣いた。

「う〜ん……割り込む余地、ないなぁ……」
「いくら私でも、ここで邪魔をするような野暮なことはしませんわ」
「む〜む〜!」
 ドアの陰からそっと見守るメイプル&ルルカと、足下でさるぐつわされてもがくアクス。
 邪魔しようと現れたものの、あまりにいい展開だったので、ついつい見入ってしまったのだ。アクスだけは飛び込みそうな勢いだったので、2人で縛り上げたが。
「でも、勝負はまだまだよ!」
「ええ! いつの日か、私がティナさんをゲットいたしますわ!」
「む〜む〜!」
 ティナの17回目の誕生日は更けていく……
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