「お帰りなさい、なかなか似合ってるわよ」
3日後、ティナたちはフェアリー学院に戻ってきた。全員一緒に。
学院は、いつもと変わらぬプログラムが進んでいて、ゴッドガーデンに行って来たということも遠い霞の中に紛れてしまいそうな程だった。
その翌日になり、ティナは1日自主休講をした。
他の4人は受講していたが、ティナは少し気持ちを整理しなくてはならない。気分を入れ替えようと、ロットが買ってくれた服を初めて着て学院の中を散歩する。すると、ティナの珍しい私服姿に、生徒達は何かとウワサを始めていた。たまたま出会ったミスティだけが、このように声をかけてくれたのだ。
少しうしろめたい気分だったが、ティナは素直にお礼を言った。
この時は少ししか話せなかった。
ミスティは忙しそうだったし、ティナにはまだ、やらなくてはならないこともあった。
きっと、ウイント導師の方から、またコンタクトを取ってくるだろう。
ティナはその時を待った。
それは、その日の夜……4日遅れのティナの誕生パーティーの中で訪れる。
ささやかではあったが、ティナはその気持ちだけでも充分だった。本当ならば、祝ってくれる人などいないはずのティナを……ウイント導師に育てられた恩は、やはり消せるものではなかった。
ロット、ミスティ、ルルカ、今年初めて参加するメイプルとアクス、なぜかガーダ導師までいた。
ガーダ導師は、いつものような硬い表情でいたが、どことなく雰囲気が違って見えるのはなぜだろうか。普段よりも優しく見える。
「どうして、ガーダ導師が?」
ルルカがティナに耳打ちする。
「さぁ……何かの記念日とか? 微妙に嬉しそうだし……」
「記念日? でも、なぜティナさんの誕生日にいらっしゃるのでしょう?」
「そ、そんなこと知らないわよ」
「ティナさんに関係ある記念日なのかもしれないですわ」
「わたしの……?」
横目でチラリと見てみれば、懐かしそうにティナを見つめるガーダ導師の姿。
過去の記憶のパズルが、1枚の絵画になりかけて……
「ティナ。プレゼントは気に入ってくれましか?」
ウイント導師が声をかけてきたのは、その時だった。
未完成のままになったパズルは、再びティナの記憶の中に埋没する。
「プレゼント……?」
今年はウイント導師からプレゼントはなかった。ティナは少しだけ考えて、
「……あ、そうか…………はい!」
「いい旅だったようね」
あれがウイント導師からのプレゼント…………ゴッドガーデン行きを急がせた理由が、今やっと分かった。ティナの誕生日に間に合わせたかった……そういうことなのだろう。
そして、ウイント導師の顔に、少し真剣味が加わる。
「……約束は、覚えていますね?」
「はい……」
「では、改めてもう一度尋ねます。学院に残るか、別の道に進むか……?」
ティナは、床に視線を落とす。
今まで自分が頑張ってきたのは、誰のため……?
ウイント導師に恩を返すため……?
ロットとつり合いを取りたいため……?
ルルカやメイプルと早く離れたい、という想いもあったが……
だが、それらは結局、自分に言い訳していただけかもしれない。
自分自身で選んだ道に後悔したくない……それがティナの想い。
そして、目標は今、ハッキリと示されている。
たった一時の触れ合いに終わった、ティナの母……そして、見たこともない、自分の父親……
今のティナでは魔力が足りないが、もっと魔法が使えるようになれば、きっと会うことができる。
ティナの懐にある2つの心と触れ合うことができるはず……
1度は諦めかけた道……しかし、ティナが進む道はここしかない。
ウイント導師、ロット、ミスティ。うるさいけれどもルルカもメイプルも。そしてきっと……きっと両親だって……
こんなに期待してくれている人がいるのだから……
自分で決めた。自分の道なのだから。絶対に後悔はしない。
ティナは、真っ直ぐウイント導師の瞳を見つめた。
「わたし……わたし、魔法使いになります!」
〜お・わ・り〜 |