魔法の使い方〜ゴッドガーデン3〜
しばらく登ると小さな町に出る。
 この町ブレスは、全ての住人がゴッドガーデンの壁を守る警備隊や魔法使い、そしてその家族だけ。それ以外の人間が来る場合は、ゴッドガーデンの試練を受けにきた魔法使い志望者か、お使いにきた見習い魔法使い、物資の運搬業者ぐらいなものである。全員が顔見知りの家族みたいなこの町に、知らない人間がいれば目立って当然というもの。
「誰かのお使いで来たのかい?」
「ゴッドガーデンに入るって? すごいな、その若さで魔法使いになる資格を持っているのか」
「フェアリー学園? あそこの生徒は優秀だからなぁ」
 会う人会う人そういう話になった。
 ただ、ほとんどティナとルルカに話しかけるので、メイプルはなんだか面白くない。
「やはり、みなさん見る目がありますわね」
 悦に入ったルルカは、自慢の黒髪をサラリとなでた。
「あたしが美しすぎるから、声をかけづらいだけよ」
 メイプルの反撃は、少し肌寒い風のごとく無視された。いじけて手のひらに『の』の字をかいている。
 町からは、ゴッドガーデンの白い壁が見えている。ここからだと、30分もあれば到達できるという話だった。
 草も木もない岩だらけの山道を、前屈みになりながら歩いていく。
「なんだか……さみしい山だね……」
 アクスの見解には、さすがに全員が納得した。
 時折、岩の陰にある枯れかけた草を除けば、あとは岩や石や砂ばかり。春だというのに、色鮮やかな花もなければ、小動物の1匹も見あたらない。殺風景を絵にかいたような、全体的に白っぽい色しかない山だったのだ。
 ティナたちは実際に見たことがなかったので、イメージのギャップに驚いた。なぜこんな場所がゴッドガーデンなどと呼ばれているのか……不思議である。
「実は、壁の中だけ花畑、なんて展開はありかな? この前、あたしが見たような」
「どうだろねぇ……」
 メイプルがどんな花畑を見たのか知らないが、高くそびえ立つ白壁により、ここから山頂を望むことはできなかった。ただ、青空が広がっているだけだ。
 クネクネと曲がる山道を汗だくになって進んでいくと、やがて目の前に巨大な門が現れる。これがゴッドガーデンへの入口だ。あの白い壁に入ることができる唯一の場所。
 門と言っても柱にかこまれた空洞があるだけで、扉があるわけではない。来る者は拒まずという感じだ。4人は難なく壁の中へと足を踏み入れる。
 そこは、とてつもなく広いロビーになっていた。
 正面には装飾を施した大きな扉が行く手を遮断していて、いかにも重要な場所だという雰囲気が漂っていた。その手前には、こちらはごく普通の扉がいくつか並んでいる。左右を見るとゆるやかにカーブした廊下が伸び、そこに立ち並ぶいくつもの扉。上層へと上がる階段もあった。
 どうやら、この壁そのものが一種のお役所となっているらしい。
「あなたたち、その格好は魔法使いよね? 何か用ですか?」
 カウンターの中で様子を見ていた受付嬢が、ティナたちに声をかけてきた。妙齢の小柄な女性で、どうやらこの人も魔法使いらしきローブを身にまとっている。
「あの……わたしたち、フェアリー学園から来たんですけど……」
「フェアリー学園?」
 何か思い当たるフシでもあったのか、受付のお姉さんは驚いたようにティナの顔をまじまじと見つめている。
「……じゃあ、あなたが……いえいえ、何でもありません。ということは、中に入るのをご希望なんですね? ゴッドガーデンに……」
「どうしてご存じなのかしら? ウイント導師から、何かご連絡でも?」
「そういうわけじゃないですが……それに近いかもしれないわね」
 狼狽気味な態度に、4人は不審な目をその女性に向ける。
「と、とにかく! 手続きをしますから、奥の右手の部屋に行ってくださいね」
 お姉さんはティナたちに行くべき扉を示すと、小走りにどこかへ行ってしまった。
「へんなの」
 首をかしげながらも、とりあえずティナたちは言われた扉に向かうことにした。
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