そこは、どこまでも暗い闇の中。
宇宙に渦巻くブラックホールのように、一片の輝きすらない、闇。
自分が何者なのか、それすらも理解できない。
そこで、ゆらゆらと闇のゆりかごに揺られているだけ。
だが、決して孤独ではなかった。
自分を暖かく包み込むような世界。
そう、今はこの狭い場所が、自分の世界なのだ。
その外側から聞こえてくる音に気づいたのは、いったいいつのことだろう。
ある時は優しく、またある時は悲しく、その声は未発達な自分の耳に届いてきた。
まるで、自分を呼んでいるかのような声に、小さく体を動かしてみる。
最初はできなかった。それすら難しかった。
やがて、自分を包み込んでいる暖かな壁を、弱く叩いていた。
誰とも知れぬ、姿なき声に応えるために。
そして、なぜか分かっていた。
いつか出会えることを。
理性とは違う。自分で考えたわけではない。心がそう言っていた。
そして、試練の時はきた。
周りの壁が急に萎縮を始めたのだ。
体が圧迫されて、とても苦しかった。
しかし、その苦しみから逃れようとは思わない。
誰かの声が、自分を導いている。
その声に逆らうことなく、自分がやるべきことを完遂した時……光は見えた。
今まで経験したことのない、光の世界。
試練を乗り越え、命として生まれ出た瞬間──
その喜びを、初めての声として歌った。
そこに待っていたのは、1人の女性の顔。
外で聞こえていた声が、彼女であることはすぐに分かった。
いつも呼びかけてくれていた声が、自分の耳元で囁かれる。
「ごめんね……」
その言葉の意味を知ることはできなかった。
しかし、その声の悲しみは、はっきりと心に刻まれる。
理性が芽生える前の記憶は、理性により思い出すことはできない。
心だけが知っている、心だけの記憶──
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