魔法の使い方〜旅は道連れ6〜
チラチラと燃える焚き火の前で、ティナたちは持っていた非常食を分け合っている。
「いよいよ、明日には到着ですわね」
 ルルカが乾パンをコリコリ食べつつ、疲れたように呟いた。
 普通であれば、町の宿屋などに泊まるところである。ティナたちも、それを予定して路銀は用意してきていた。ただ、予定外の出費があったため、一行はここまで野宿だけで旅を続けてきた。
 実は旅の最初の夜、ティナはあろうことかマジカルオーブの創造をしようとしたのだ。そのための器具は小さい物だし、練習を兼ねてのものだった。が……その宿屋は吹っ飛んだ。その修理費や賠償金などで全員の路銀も吹っ飛んだ。足りない分はフェアリー学園に請求がまわる始末。生徒全員に渡されているバッジがなければ、今ごろは皿洗いでもしていたのだろう。
 旅を続けるためにわずか残しておいたお金を、少しでも節約しようとした結果がこれである。
「お姉さまのせいで、楽しい旅って感じじゃなくなっちゃいましたもんねぇ〜」
「まったくですわ……身の程をわきまえていただかなくては」
 道中このようなイヤミが幾度言われたことか。
「いー加減しつこいわね、2人とも。何度も謝ってるんだから、勘弁してよぉ」
 さすがのティナも言い返すことはできなかった。
 ティナは今回のことで、またまた自信をなくしていた。
 そして、やはり学園をやめようかと思うようにもなっていた。
 ウイント導師の手助けをしたい──
 それは、ウイント導師の言葉により、粉々にさせられている。これ以上学園にいても、ただ無意味な時間の流れを漂うだけ。それなら潔く、別の道を探すのも勇気だと。
 ティナはそう結論づけていた。
 本当は、逃げ出したい、という感情もあったが……それは考えたくなかった。認めたくなかった。
 ただ、やめるにしても、ウイント導師の最後の頼みでもある今回の旅だけは、最後までやり遂げよう。そう決心したのだから。
「それで、ゴッドガーデンって、ボクたちも入っていいんですか?」
 アクスが話の流れを変えてくれた。さすがにティナに想いを寄せるだけあって、いい判断である。多少弱気ながらも、ティナは随分と助かっていた。
「ああ……言い忘れてたわ。ウイント導師がね、ゴッドガーデンには、わたし1人で入れって言ってたのよ。だから、中には……」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁでぇぇぇぇすぅぅぅぅ!!」
 ブンブン首を振って絶叫したのはメイプル。
「お姉さま1人を、そんな危険な所に行かせるわけにはいきません! このメイプル、必ずやお姉さまの死に目を見守ります!」
「私も、骨は拾ってさしあげたいですわ!」
「あんたらね……」
 助ける、という発想はないのか?
 突っ込みたいところだが……ぐぐっとこらえて。ぐぐっと。
「とにかくね……推薦状は1枚しかもらってないの。これがないと入れないんだから、どうあがいても無理なものは無理よ」
 ピラッと懐から取り出したそれは、ウイント導師のサインが入った、ゴッドガーデン入所許可推薦状。まるで1等が当たった宝くじのように輝いて見えた。少なくとも、ルルカとメイプルには。
「そ、そんなぁ……」
 落胆の色は隠せない。
 アクスも、非常に残念そうにしている。
 と、そのアクスが口を開いた。
「何か、こっそり入る方法は、ないんですか!?」
「アクスくん……?」
 初めて見るアクスの顔。その思い詰めた真剣な表情に、ティナはなんだかロットが重なって見えた。
 昔は、よくティナを守ってくれたロット……そんな時、彼はいつもこんな顔をしていた。
「無理。あそこのガードは半端じゃないわ。ウイント導師でも、こっそり入るのは難しいって聞いたことがある」
「ウイント導師が、ですか?」
 愕然とルルカが叫ぶ。ウイント導師で難しいというのでは、ここにいる4人の力では、どうなるものでもない。
「そう。それほど厳重なの」
「でも……でも、何かあるんじゃないですか? 完璧なものなんて、この世にはないんですから」
 諦めたくないのか、珍しくアクスは引き下がらない。
「どうしたのかな、この弱虫坊主?」
「恋する少年の、悲しい性ですわ」
 小声でやりとりする2人。しかし、アクスと想いは同じである。不本意ではあったが、全員でその方法を模索することになった。
 ティナも一緒に突破口がないか考えてみる。
 3人寄れば文殊の知恵。4人になれば、文殊の父親ぐらいにはなるかもしれない。
 しばらく後、もっとも陰険な考えを持ったルルカが、ポンと鼓を打つ。
「そうですわ! ティナさん、ウイント導師からマインドオーブを預かったって言ってましたわよね?」
「確かに預かったけど…………まさか、ルルカ……」
「ええ!」
 ルルカは大きく頷いて、自らの案を発表した。
「ティナさんがマインドオーブを持ち、魔法使いだと偽り、推薦状は3人のうち誰かが持って入ればいいんですわ!」
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