魔法の使い方〜旅は道連れ2〜
ティナが理事長室に入っていくと、ウイント導師とガーダ導師、2人の姿が認められた。
 この部屋には、だいたいこの2人しかいないのだが。
 しかし、ガーダ導師はティナが入ると同時に、さっさと部屋を出ていってしまう。
 残されたのは、ティナと、ウイント導師の2人きり。
 いったい何の話なのか……ティナは少し緊張していた。
 以前、この部屋の前で聞いた会話を思い出す。
「ティナ、マジカルオーブの創造に、成功したようね」
 ウイント導師は、このように切り出した。
「は、はい……」
 よくよく考えてみれば、あの時2人は『できない』とは言っていなかった。『つまづく』と言っていたのだ。そういうことならば、もしかしたら褒められるかもしれないと、ティナは密かに期待をかける。
「そう……では、なぜできたのか、その理由はわかるかしら?」
「え? そ、それは……」
 突然そんなこと聞かれても困る。ティナには全然わかっていないのだから。
 いや、むしろ完全に失敗だと思っていた。あれよりも完璧だったこともあるのに、成功はしていない。
 それに、その直後にしでかした大爆発のこともある。
「……わからないのね?」
「…………はい…………」
 そこで、どちらも言葉が途切れる。
 ティナはチラチラとウイント導師の様子を見ていたが、彼女はティナをジッと見つめたまま何かを考えているようだ。
 やがてウイント導師は、壁の暦書きに視線を移す。
「もうすぐ、ティナの誕生日ね」
「えぇ? そ、そうですね……」
 急に話の方向が変わった。意表をつかれたティナは、思わず間の抜けた声をだしてしまう。
(いったい、何の用なの……?)
 ウイント導師の心意がわからず、少し不安になった。
 プレゼント……いやいや、毎年当日まで秘密にしている。パーティーでも開いてくれるのだろうか?いや、毎年やっている。としたら……
 一瞬、退学という2文字がよぎる。
 ティナはドキドキしながら次の言葉を待った。
 なかなかウイント導師は口を開かなかったが、ついにその言葉を口にする。
「実は……あなたに行ってもらいたい場所があるの」
「どこに、ですか?」
「ティナも知っていると思うけど…………ゴッドガーデンに」
「ゴッドガーデン!?」
 それは、見習い魔法使いの憧れの地。
 魔法使いになるために、最終的にクリアしなければならない試練がそこにあるという。
 しかし、それが何かは誰も知らない。
 いや、正確には、魔法使いとなった者たちが、誰1人として語ってくれないのだ。
 その周囲は高い壁に囲まれ、空中にも魔法の壁が張り巡らされている。一般人が間違って迷い込むのを防いでいるのだが、それほど厳重に管理されていた。
 その中に入れるもは、魔法使いと、その推薦状を持つ者だけ。
 中に入り、そこから生還してきた者は、すでに魔法使いになっているというが……その確率、2人に1人だと言われる。
 半数の人間は、入ったまま出てくることができないのだ。
 そして、生還したものが必ず携えているのは、魔法使いの証であるマインドオーブ。
 どこで手に入れたのか、それも語られていない。
 もう1つ共通していることと言えば、念願の魔法使いになったはずの者たちは、なぜか憂いの表情で帰還するということだ。
 それは、かなり厳しい試練があったことを物語っている。
 そのためか、正式な魔法使いとなる手前で独立する人間がほとんどなのだ。
 実際、このフェアリー学園に在籍している生徒たちでも、大抵の者は魔法使いまでいく予定はない。
 材料の販売が許されるマジカルリサーチ。依頼を受け報酬を取れるマジカルエージェント。魔法関連のアイテム販売が許されるマジカルドクター。職業として魔法の指導ができるインストラクション、グレードマスター、コンプリートマスター。
 これらの免許取得を、ほとんどの生徒が目標としている。
 ま、世間一般では、この辺りのランクも一括して『魔法使い』と呼んでいるが。
「そこに……お使いですか?」
 いくらなんでも、一般的にも魔法使いとして見られないティナが、中にまで入ることは考えられない。入口を守備している魔法使いや守備隊に何かを届けるとか、そんなところだと思った。
 だが、ウイント導師の答えは違った。
「いいえ。ティナ、あなたにはゴッドガーデンの中に入ってきて欲しいのよ」
「はぁ!?」
 おかしな声をあげてしまったが、それぐらいティナは驚いた。
 ウイント導師は、しかし、真剣な顔をしてティナを見ている。どうやら冗談ではなさそうだった。
「え……あ……で、でも、どうして……?」
 ティナも話に聞いただけだが、ゴッドガーデンはかなり危険な場所。多彩な魔法と冷静な判断力が身についていなければ、絶対に出てこられないと言われている。もしティナが入ったら、1分もしないうちに骨も残らないような……そんな場所なのだ。
「理由は……行けばわかります。とにかく、行ってきてください」
 魔法の学習というのは、自分で考えてその意味を理解していくのが決まり。その意味については誰も教えてくれないのが普通だ。
 その癖なのだろう。ウイント導師は、ティナが何かを聞いても、ほとんど答えてくれなかった。
 少し、不安そうなティナ。
 そんなティナに、ウイント導師は机の引き出しを開き、銀色の台座に鎮座する1つの宝石を差し出した。
「これを持っていきなさい」
「え……これは……」
 魔法使いにとって、命よりも大切なマインドオーブ。
「きっと、あなたの役にたつでしょう」
「でも……」
 いくらなんでも、これを預かるわけにはいかなかった。
「そんなもの持ってたら……どこかに落としちゃったら、大変です。それに、帰ってこられる保証も、ないわけですから……」
「大丈夫。心配はないわ」
 何か確信したような笑顔。そして、
「でも……ゴッドガーデンを往復すると、こちらで誕生パーティーはできないわね。それは、残念だけれど……」
 4日後にはティナの誕生日が訪れる。ゴッドガーデンまでは、往復で6日かかる道のりだ。
「あの……誕生日が過ぎてからじゃ……?」
「明日には出発して欲しいの。それから、旅は誰かと一緒でもかまわないけれど、ゴッドガーデンには1人で入ることを約束してくださいね」
 どこから出したのか、推薦状をティナに渡しながら言う。
 ウイント導師は、何が何でもティナを行かせたいようだ。優しい言葉の中にも強引さが伺える。
 ティナは、この学園を追い出されるような……そんな感触を覚えた。
「それから、ティナ。帰ってきた時に、あなたに1つの質問をします。その答えも考えておいてね。質問は『学園に残るか、別の道に進むか』……2つに1つですよ」
 それは、ある意味、残酷な選択肢だった。
「はい……」
 魂が抜けたような返事を返すと、ティナは理事長室を後にした。

 コンコン……
 返事はない。
「外出しているのか……」
 ロットの部屋の前で、ガーダ導師はうなる。
 どうしても、今日中に伝えておかねばならない。
 廊下の窓から見える空には、夕暮れの色が現れていた。
 仕方なく、ロットが帰ってくるまでここで待つことにする。
「ガーダ導師、なにか?」
 自分の部屋の前に陣取っている学園の大御所に、何事かと帰ってきたロットが声をかけた。意外と早く帰ってきたので、ガーダ導師も無駄な時間を使わずにすむ。
「ちょうど良かった。実は、折り入って頼みたいことがある」
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