魔法の使い方〜旅は道連れ1〜
自分が受けている講義が終了すれば、生徒たちは思い思いの生活へと戻っていく。単位が必要なわけでもないし、期間も決まっているわけではない。実力が全ての厳しい世界である反面、自分のペースで学習できるのは嬉しいものだ。
「それは災難でしたねー」
 学園の裏にある魔法庭園。ティナの特等席である。
 ここは、主に魔法材料の栽培を目的としているため、視覚的には他の庭より劣る。木には蔦が巻きついていたり、腐った大木がころがっていたり……手入れしていないように見えるかもしれないが、そんなことはない。蔦にできる実や、腐った樹木にしか生えないコケが魔法材料になるので、わざと放置しているだけなのだ。
 ティナも1つ前のメタリアルテルだった頃には、この庭園の手入れをよくやっていたものだ。特等席はその時に見つけていた。ただ、今はティナ以外にも、メイプルとルルカも集まってくる。
「ホントですわ。なにも、私まで巻き込まなくても……自爆するのなら、自分だけでやってほしいですわ」
 自分で煽動しておきながら、そんな責任は川に置いてきたとばかりに文句をたれるルルカ。まだ少し焦げている黒髪を、いとおしそうに指でさすっている。
「あんたが、やろう、って言ったんでしょ? 責任を勝手に放棄しないでくれる?」
 全責任をティナに転嫁しようするルルカに対し、ティナは心外とばかりに反論を投げかけた。
 が、ルルカがそれで屈するはずもない。
「あら、私は『創ってみませんか?』と言ったんです。文法で言えば問いかけですわ。つまり私は、全ての判断をティナさんに委ねたわけですから、それをそのまま真に受けてマジカルオーブを創り出したティナさんが悪いんです。それを私の責任だなんて……どこかの大手企業の管理職が部下に責任をなすりつけるようなことを、ティナさんがおっしゃるなんて……」
 屁理屈にも取れるそのセリフ。だが、実際その通りの言葉を交わしてその通りの行動があったのだから、どうにもこうにも反撃の糸口が見あたらない。ルルカ相手に屁理屈合戦して勝てるヤツがいたら教えてもらいたいほどだ。
 追及の気をそがれたティナは、大きく長い息をはき出した。
「それで、そのマジカルオーブはどうしたんですか?」
 メイプルが好奇心溢れる瞳をティナに送っている。
「今、持ってる」
 ポケットから取り出した紅球を、メイプルの眼前に差し出した。
「へえー…………売ってるヤツと変わりませんねー……」
 素直に述べた感想に悪気はないのだろうが、ティナはなんだか面白くない。
 同じなのは当然なのだ。創り方が全く同じなのだから。でも、やっと創ることのできたティナに対して、もっと言いようがあるではないか。
「もう、使ってみたんですか?」
「まだよ。講義とかもあったし…………ガーダ導師の説教もあったし……」
「じゃあ、ここで使ってみたら? お姉さまの魔法習得の1発目を、あたしがちゃんと見守ってあげる!」
「それでしたら、私もご一緒させてもらってよろしいですか?」
 ルルカも自分のマジカルオーブを取り出す。
 断る理由は、特にない。
「そうね……少しでも使っておいたほうが、早く体に馴染むわよね」
「じゃ、決まりだね!」
 メイプルは嬉しそうに飛び跳ねた。
 この魔法は小さな魔法だ。魔法練習場に足を運ばずとも、周囲に注意していれば危険はないはず。もし何かに引火したとしても、近くに泉もある。大丈夫だ。
「それじゃ……あ、ルルカ。呪文は覚えてるわよね」
「はい、もちろんですわ」
 呪文はマジカルオーブを発動させるために必要なものである。完全に体に馴染ませ習熟した魔法になれば、呪文もマジカルオーブも必要なくなるが、それまで呪文は必要知識として君臨するのである。
 澄んだ空気の中に、2人の呪文が見事にハモる。
『灼熱の紅き輝き、我が手指に宿れ!』
 2つのマジカルオーブが淡い輝きを放つ。
 その光は指先に収束し、小さな炎がゆらめいた。
 マジカルオーブにこめられた基礎の力が、こうして姿を現すのだ。もちろん基礎の力が尽きてしまえばマジカルオーブの色は落ち、使用不能となってしまう。そして、再びマジカルオーブの基盤として使われることになる。リサイクルは完璧だ。
 とりあえず、魔法が発動したことにホッとする2人。
 発動に関しては買ったマジカルオーブでも成功しているので、特に心配はしていなかった。だがやはり、自分で作ったマジカルオーブでは初めて。やはり、どこか緊張していたのだろう。
「良かったですね、お姉さま、ルルカさん!」
 パチパチと手をたたきながら、メイプルも嬉しそうにはしゃいでいる。
「良かったね、ティナ」
 突然、ここにいないはずの人間の声が聞こえ、3人は同じ方向を振り返る。
 石畳の道から芝生へと足を進めるロットが、こちらも嬉しそうに向かってくる。
「聞いたよ、マジカルオーブ、成功したんだって?」
 ロットはいつも通りの笑顔を絶やすことなく話す。女生徒たちを虜にしてしまうこの笑顔は、ルルカやメイプル、そして、今のティナには通じなかった。
「ありがと」
 そっけないティナの返事。
 その態度に訝しく思ったのだが、ロットは用件を伝えることにした。
「あのね、ウイント導師がティナを呼んでいたんだ。何か重要な話があるって言ってたけれど……すぐに行ったほうがいいと思うよ」
「わかった……」
 やはり気の抜けた返事を残し、ティナはさっさとロットの脇をすり抜けてゆく。
「あ、それと、ティナ……」
 まだ、ティナに話したいことがあった。
 しかし、ティナは振り返ることもなく、学園の校舎に向かって足早に去っていく。
 ティナの姿が木々の間に消えてしまうと、ロットはやはり不思議そうにしている2人の少女に尋ねてみた。
「ティナ、何かあったの?」
「さぁ……」
「私たちにも、よくわからないですわ」
 いくら首を捻ってみても、回答は転がり出てこなかった。
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