2002年 ヴェネツィア (10)

  広場の話 

建物が密集するヴェネツィアでは、街のいたる所に「カンポ(野原)」と呼ばれる広場があります。唯一サンマルコ広場だけが、広場を意味する「ピアッツァ」と呼ばれています。

四方を海に囲まれたヴェネツィアでは流れ込む河川もないことから、水道が整備される以前は雨水を貯めて飲料水にしていたそうです。カンポはその貯水槽が置かれていた場所で、現在は市民や観光客の憩いの場となっています。

曲がりくねった狭い路地を歩き続けた後に急に視界が開け、カンポが現れます。そこではベンチに腰掛けて休む人やバールでコーヒーを飲んでいる人、立ったままジェラートをなめている人、おこぼれに預かる鳩、三輪車に乗ったりボールを蹴ったりしている子供などがいて、少しホッとします。

とはいっても、カンポはほとんど四方を建物に取り囲まれています。閉鎖された空間であることに変わりはなく、ほんの数日いるだけで息苦しくも感じるこの街の雰囲気から完全に解放されるわけではありません。

カンポの大きさは様々で、そこにくつろぐ人もほとんどが観光客であったり、また、地元の人だけの場合もあります。土産物屋などが並んで比較的賑やかなところもあれば、街の歴史に名を刻んだ人の銅像や噴水があるだけで非常に静かなところもあり、それぞれ異なった表情を見せてくれます。

船上の八百屋さん
サンバルナバ広場。船上の八百屋さん。
夜には明かりをつけて営業します。




私の好きな広場は、宿泊したホテル(ローマ広場近く)からアカデミア橋に行く途中にあるサンタ・マルゲリータ広場です。
ここは細長い形をした比較的大きな広場で、観光客の姿はほとんどなく、私たちはプラタナスの木陰のベンチで広場の様子をぼんやり眺めたり、ジェラートを食べたりしました。地元の人たちは本を読んだり、おしゃべりやひなたぼっこを楽しんだり、うたた寝をしたりしています。
また、午前中から店を開いている露店の八百屋は、夜も明かりを煌々と照らして営業を続けていました。

アカデミア橋の近くにあるサント・ステファノ広場では、広場から目的地へと続く道を探すため、自分の現在地と建物の位置を地図上で何度も確認する観光客の姿をよく見かけます。

サン・ポーロ広場はリアルト橋からフラーリ教会に向かう途中にあり、蔦の絡まる屋敷などに囲まれた瀟洒な広場です。
観光客の往来が多いのですが、広場の端を通り過ぎて行くだけで広場の中にはほとんど入ってこないので、あまり気になりません。おしゃべりに興じる市民やサッカーボールで遊ぶ子供達の姿を見かけることもあり、一休みできるバールもあります。 

地図…サンタ・マルゲリータ広場ほか

サン・ポーロ広場
サン・ポーロ広場のオープンカフェ



広場では、楽器のパフォーマンスに出くわすこともあります。リュートを弾く男性や打楽器を派手に鳴らして注目を集めているオネエチャン達、その一方で、あまり裕福そうではない女の子(年齢は10歳くらいでしょうか。)が、アコーディオンで壊れたレコードのように何度も同じ旋律を繰り返す光景にも出会いました。


ヴェネツィアを離れる日に、その女の子の前にあった缶の中に残っていた小銭を入れたのですが、弟らしき男の子との会話に夢中だったその女の子は、無愛想に、軽く「グラッツエ」と言っただけでした。別にドラマのような光景(例えば女の子の瞳が悲しげだったとか…)を期待していた訳でもないのですが、結構ドライな感じで拍子抜けでした。想像していたやや悲観的な将来像もただのカタルシスに過ぎず、彼女は案外たくましく生きていくのかもしれません。

それから、リュートを弾いていた学生ですが、夫はその場の格調高い雰囲気に惑わされて、その男性の自主制作のCDを買ってしまいました。でも、日本に帰ってから聞くと、何かイマイチでした。
夫の名誉のために言うのではありませんが、リュートの音はあまりボリュームがないので、狭い広場などでは周囲の壁に適度に反響して心地よく聞こえます。確かに、その場の雰囲気はなかなかのものでした。

また、通りすがりの観光客を相手に、あやしげな賭けトランプをしている人もいました。
カードが10枚くらい裏返しに並べてあり、選んだカードを見せてからもとに戻し、素早くカードの位置を変えて、選んだカードがどこにあるのかを当てさせる簡単なゲームです。掛け金は50ユーロ(6,000円くらい)と結構な金額なのですが、傍で見ていると、手さばきは目で追えないほどでもないのに、参加している人は3回に2回くらいの割合でハズしています。ほとんどがサクラなのでしょう。

サント・ステファノ広場
サント・ステファノ広場の花屋さん

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  ベニスの商人 4号 

サンマルコ広場の周辺にはブランドショップが軒を連ねています。大胆にも、その店の真ん前で偽物(主にバッグ)が売られていました。売っているのは、例外なく長身で体格のよい黒人男性です。道端に布を広げて、ヴィトン、グッチ、プラダなどのブランド品を破格のお値段で売っています。

ブランド店の前で何ら悪びれることなく偽物を売る男達と、報復が怖いのか、全くノーリアクションの店側。本物は本物として品よく、偽物は偽物として少し凄みをきかせて商売が成立しているようで、お互いに適当な距離があれば、これでも別に悪くはないなあと思いました。

目つきも鋭いその男達は、「そんなにたくさん金を払って買わなくたって、偽物だけど、ほら、見栄えはほとんど変わらないし、なによりこんなに安いんだぜ。」という感じの表情です。敢えてキッチュに手を出してみたくなる衝動を抑えるのに少し苦労しました。
ちなみに、成田空港では持ち込んだブランド品が偽物だとバレると、没収されてしまうそうです。

警察の巡回でもあるのか、男達は時折、広げていた大きな布で商品をひとまとめにして何処かに消えてしまいます。でも、しばらくすると、またどこかのブランド店の前で店を開いています。おそらく、この引っ越しや、時には逃走あるいは格闘に相当な体力が必要なので、「長身かつ屈強」が販売員の資格となっているのではないでしょうか?

ヴェネツィアの街でサンタクロースのような大きな包みを背負っている人を見かけたら、その中には、かなり高い確率で偽物のバックが詰め込まれていると思っていいでしょう。

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  街の物価 

ヴェネツィアは物価の高いところだと言われていますが、街の中の価格には相当バラツキがあります。

500mlのミネラルウオーターの価格を比較してみると、サンマルコ広場のバールでは2.0ユーロでしたが、路地を1本入れば1.6ユーロになり、ローマ広場のそばのスーパーでは0.55ユーロでした。ブラーノ島も2.0ユーロでしたが、これは島への輸送費を考えると、むしろ安いかもしれません。
ちなみに当時のレートは1ユーロ123円です。

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ホテルの宿泊代金は、当然、ホテルや部屋のランクなどで大きく異なります。
私たちが宿泊したのは、ローマ広場近くの「アルレッキーノ」という3ツ星ホテルです。部屋は運河沿いの眺めの良いツインで、1泊24,500円(9月の場合)でした。同じ条件でサンマルコ広場やリアルト橋近くのホテルに宿泊すると、最低でも3万円を超えます。メストレのホテルになると、当然、運河の景色は楽しめませんが、2万円弱で宿泊することができます。

ヴェネツィアに宿泊するのなら、やはり運河に臨む眺めの良い部屋を選びたいものですが、眺めの良い部屋は料金が高く、しかも数が少ないので、ホテルは眠るところと割り切ってメストレに宿泊するのも手かもしれません。

ヴェネツィアで宿泊したホテルの話はコチラ

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買い物をするなら、アカデミア橋やサン・ポーロ広場周辺もおすすめです。この辺は、サンマルコ広場やリアルト橋周辺より全体的に低価格で、ブランドショップこそありませんが、手触りの良い生地で仕立てられた洋服や斬新なデザインの革製品、豪華で妖しいマスケラなどを売る店がいくつも並んでいます。
こぢんまりとした店のウインドウには、多くの商品が一枚の絵のようにディスプレーされており、見ているだけでもワクワクしてきます。  

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  客引きをするトラットリア 

ホテルの近くには数軒のトラットリアがあり、Webで紹介されていた1軒に入ってみると、客はほとんど地元の人で、魚介類のフリットがとても美味しい店でした。

ところが、その店が混んでいた時に入った近くのトラットリアは大失敗でした。
運河に面したテーブルで料理を待っていると、その店のカメリエーレ(ウエイター)が客引きをしているではありませんか。ガイドブックに「味の良い店は客引きなどしなくても客が集まる」と書いてあったのを思い出し、少し不安になりました。
案の定、魚のソテーは表面の焼きが中途半端で味もボケた感じ、その他の料理も美味しいと言えるものはありませんでした。更に、カメリエーレはぶっきらぼうで、食器を下げた後は、手にしたテーブルクロスで軽くパパ〜ンと払っておしまいというお粗末さでした。食事をする店はガイドブックなどで良く選んだ方がいいと思います。

また、ある店では日本語のメニューが用意されていましたが、これには手頃なセットメニューしか載っていませんでした。食べてみたいものは事前に決めておいて、イタリア語でメモしておくと便利かもしれません。

アカデミアのトラットリア
アカデミア橋のそばのトラットリア
(この写真は上の文章とは別の店です)



  メストレのスーパー 

街には地元の人が買い物をするスーパーもあり、これは是非覗いて見た方がいいと思います。スーパーの食品売場は空港の売店などとは比較にならない程品揃えが豊富で、しかも安いからです。

私たちは、帰国の前日、昨年宿泊したホテルの隣にあるメストレのスーパーに買い物に行きました。(本島のスーパーも行ってみたのですが、メストレの店の方が大きかったので足を伸ばすことにしました。)

このスーパーではレジ用のカートを有料で借ります。買い物が終わってからカートを所定の位置に戻すと、コインも返金されるという方式になっています。東洋人の観光客など1人もいない店内では好奇の視線も感じますが、私たちがカートの借り方がわからず、まごついていると、声をかけてくれる人もいたりして(片言のイタリア語と身振り手振りでなんとか理解できた。)、結構楽しい買い物ができました。パルミジャーノ・レッジャーノやアンチョビー、トマトソース、オリーブなどの瓶詰めのほか、夕食用にリゾット、サラダ、プロシュート、ワインなども買いました。

スーパーPAM(AM9時〜PM8時)はホテル・アンバシアトリの隣にあり、ローマ広場から4番のバスに乗って約15分で店の前の停留所に着きます。明るく大きな店内には食料品を中心に、日用品が豊富に揃えられています。

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ホテルに大量の食料品を持ち帰り、部屋で夕食をとると、もう外出する元気は残っていませんでした。連日早起きして、1日平均25,000歩以上歩き回った疲労はすでにピークに達しており、私たちは、ラストチャンスだった教会のコンサートを諦めることにしました。ヴェネツィアでは教会やパラッツィオ(宮殿)で毎晩のようにコンサートが開かれており、街のあちこちにはそのポスターが貼ってあります。是非行ってみたかったのですが、とても残念でした。

明日でイタリアともお別れです。
翌朝でも間に合うのですが、気の早い私は、眠たがる夫をせきたてて荷物をまとめることにしました。
大量に買い込んだ食料品などをトランクに詰め込むのには小1時間ほどかかりましたが、結果的には、前日に荷づくりを終えていたことが功を奏することとなりました。

夜のゴンドラ
夜のゴンドラ



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