ヴェネツィアで最もポピュラーな乗り物は、「ヴァポレット」と呼ばれる水上バスです。朝夕は通勤客でいっぱいで、観光客もよく利用しています。
路線や乗る時間帯によって車窓からの風景が異なり、様々なヴェネツィアを見ることができます。
水上バス(中央)がリアルト橋の駅に着くところ。
左側は水上バスの駅。
水上バス・1 駅
黄色いラインが目印となっている水上バスの駅は、プレハブ小屋のような粗末なつくりです。運河に少し突き出した格好で浮いているので、いつもわずかに揺れています。
注意したいのは、自分が乗る水上バスの駅を間違えないことです。というのも、日本では反対方向に向かうバスの停留所は道路を挟んで向かい側にありますが、ヴェネツィアの水上バスの駅は同じ側に2つ並んでいることが多く(1カ所のこともある。)、よく注意して乗らないと目的地と反対方向に向かってしまいます。駅の外にある、路線を書いたプレートで行き先をよく確認することが大事です。
プレパブ小屋が水上バスの駅です。
この駅も停留所が2つ並んでいます。
サンタルチア駅前のフェッロヴィーアの停留所にて。
また、駅内の水上バス乗り口は、簡単な鉄柵か鎖を渡しただけで、非常に開放感(?)があり、夜に多少酔ってたりすると運河に落ちるのではないかと心配です。そういえば、カナルグランデにも柵なんて見かけません。
水上バスが駅に到着すると、係員が「サンマルコ〜!」などと行き先を叫びながら、鎖を外して乗客を船内へと誘導します。
イタリア人は自動車だけでなく、船の操縦にも荒っぽいところがあります。私が乗っていた時は、最後の乗客がまだ片足しか乗船していないのに、早くも発車していることすらありました。
水上バスが駅に到着する時は、音もなくピタッと留まる場合もありますが、大抵はゴツンと、時にはバーンと派手に停留所に衝突します。水上バスは、なかなか面白い乗り物なのです。
水上バスに乗るなら、1度は外の最前列に座ることをおすすめします。風をもろに受ける席なので季節によっては寒いかもしれませんが、眺めの良い特等席です。
水上バスの最前列に座るとこんな感じ。
もうすぐリアルト橋の下を通ります。
水上バス・2 カナルグランデ
カナルグランデは交通の大動脈というだけではなく、かつては、大邸宅や教会の表玄関でもありました。中世以降はカナルグランデ沿いに邸宅を構えることが、上流階級のステータスだったそうです。
両岸には歴史的な宮殿や教会が数多く残されています。でもほとんどの建物が道路一つ挟むことなく運河に面している(正確にいうと、運河に面した玄関口に数段の階段があり、運河の水位が変わっても入れるようになっている)ので、歩いてこの街並みを眺めることのできる場所は限定されています。
カナルグランデの街並みを楽しむなら、やはり水上バスに乗るのが良いと思います。水上バスに揺られ、ガイドブックと照らし合わせながら有名な建物を探すのも楽しいものです。そんな時は、カナルグランデを縦断する1番の路線(各駅停車)に乗ることをおすすめします。急行の82番よりスピードが遅いので、ゆっくり風景を楽しむことができます。約40分でローマ広場からサンマルコ広場に到着します。
ゼラニウムの花を飾っている家。
蚊を寄せ付けない効果があるうえ
とてもきれいです。
水上バスからカナルグランデを見ていると、乗るたびに新たな発見があります。はじめは有名な建物や教会に目を奪われがちですが、何度か乗るうちに、蔦や花で飾られた家や壁にモザイクの装飾が施されている屋敷など、細部に目が留まるようになります。
また、これらの建物は、夜になるとライトアップされ、昼間とは異なった幻想的な表情を見せます。
ライトアップされたグラッシ館
水上バス・3 その他の路線
水上バスには、カナルグランデを通ってローマ広場とサンマルコ広場を結ぶ路線のほか、ヴェネツィア本島とムラーノ島やブラーノ島を結ぶものなど、いくつかの路線があります。船の大きさも3種類あるそうです。
ローマ広場から、離島行きの水上バスの駅となっているフォンダメンタ・ヌオーヴェに行く路線(52番)は、カナルグランデを途中で左に逸れて、ヴェネツィア本島の北側に抜けていきます。ここでは手押し車で買い物に行く女性や風に揺れる洗濯物など生活感のある風景を見ることができます。フォンダメンタ・ヌオーヴェが近くなると、あちこちで花屋が目につくようになります。すぐ近くにサン・ミケーレ島という、墓地の島があるためです。
カンナレージョ運河に架かる、トレ・アルキ橋。
3つのアーチ(tre archi)という意味です。
フォンダメンタ・ヌオーヴェに向かう途中にあります。
水上バスは移動手段として使うだけでなく、休息時間にも利用できます。私は今回、乗り放題のチケットを購入していたので、水上バスにガンガン乗りまくりました。船に乗って窓の外を見ながら休み、次の目的地に向かうなんて一石二鳥だと思います。
私が乗った路線で船内が割とすいていたのは、次の2つです。
☆ フォンダメンタ・ヌオーヴェ → アルセナーレ → サンザッカリア(52番ほか)
☆ サンマルコ → ジューデッカ運河 → ローマ広場(82番ほか)
どちらの路線も30分以上かかるので休憩にピッタリでした。水上バスはスピードを出して進み、車窓からの景色もカナルグランデとはかなり様子が違います。
ジューデッカ運河を通り、ローマ広場に
向かう水上バスの車窓から。
長く連なっているのはヴェネツィア本島と
本土のメストレを結ぶリベルタ橋です。
水上バスでの・・・事件
これは、私が水上バスに乗っていた時の恥ずかしいエピソードです。
私たちは混んだ水上バスから降りるところでした。人に通路を開けて欲しい時、イタリア語では「Permesso(ペルメッソ)」と周りの人に声を掛けます。当時は付け焼き刃の丸暗記だったので、私はその言葉をド忘れしてしまいました。下車する駅に着いても一向に思い出せず、頭の中は真っ白に。
車内は混んでいるので夫とはビミョーな距離があるし、こんな時に限って私の周りの人は降りる気配がありません。「Scusi(スクーズィ、イタリア語ですみませんの意)」は おろか、英語をろくに話せない私は「Sorry(ソーリー)」さえもぶっ飛んでしまいました。
降りることを必死でアピールしようと、とっさに私が発したのは、日本人の常套句「どうも」を直訳した「Thank
you」という言葉。それも「センキュー」ではなく、思いっきり日本語英語の「サンキュー!サンキュー!」と発音してしまい、手刀を数回切るというアクションのおまけ付き。…って、オヤジかよ!
言葉が通じたとは思えませんが、乗客の皆さんは「手刀サンキュー女」のために通路を開けて下さり、私は無事に水上バスから降りることができました。