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スピリアルナイト再臨
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ヴァスタークロウズ 神界の財宝
序 章 〜太古に大いなる力あり〜
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ヴェスターランド、その世界には治乱興亡が幾多の年月、幾世代もの人々の血と涙をむさぼる歴史があった。荒れ狂う戦乱の嵐、権力者達の宮廷の権謀術数、そしてつかの間の平和…いつのときにも伝説があった。この世界は太古に大いなる力によりて創造され護られていると。伝説は世界の象をつくり、今なお生を育んでいるという。世界のいたるところの消えかけた碑文、崩れ去ろうとしている遺跡に必ず刻まれている言葉〜太古に大いなる力あり〜は、いつの時代の権力者にも冒険者達にとってもかっこうの興味と好奇心をかきたてずにはいられないものであった。そして今まさに伝説がよみがえろうとしていた…時にヴァスター暦3993年春風駘蕩である。
春暁と収穫
ヴェスターランドの過半を統治する、ブレードニア帝国建国暦873年、この年はヴェスターランドに人類の統治する国家が誕生して以来の正式な通算暦であるヴァスター暦3993年でもある。これ以前は古代歴が幾つかあり、シード歴と最古のものでアカシア歴が5000年近い時を記録し続けている。今あらたな歴史がはじまろうとしていた。
ヴェスターランドの南半球低緯度地帯に位置するブレードニア帝国の帝都プロージットは秋の収穫際のまっただなかにあり、にぎわっていた。そして、300年にわたりだらだらと続いてきた戦乱に終止符がうたれようとしていた。
今宵ヴェスターランドに存在する全ての国家の代表が帝都プロージットに集い、平和友好条約の締結と主に海賊討伐がその役目になるであろう連合艦隊同盟の2つの大きな約定が調印されようとしていた。 宴が始まろうとする頃、ブレードニア帝国が統治するサウザンイースト大陸とは海を隔てたノーザンウエスト大陸、通称玄武大陸島の東部の海岸に面したフラート自由都市同盟が統治するフラート中陸島の帝国に面した海岸の沖合いの絶海の小島ではなにやら怪しげな集団が奇妙な儀式を崩れかけた遺跡のような場所で行っていた。
ヴェスターランド北半球ノーザンウエスト大陸、通称玄武大陸島西部に広がる一大穀倉地帯大平原は、冬の季節から春を迎えようとしていた。
「陛下、今ごろプロージットはさぞかしお祭りさわぎでしょうな」
「うむ、大きな戦いは300年前に終わっていたというに、小競り合いだけは続いておったからな、戦がなくなるのはよいことじゃ」
ものうげにかたわらの大蔵卿ネイザン子爵に返答するのは大平原を統治するシード・ハイランド連合王国国王イークオ12世である。今日は一週間後にせまったシード・ハイランドの一大国家行事である春分祭の出陣の儀が執り行われたために多少お疲れ気味である。
「コーン侯爵もご自分で平和友好条約に署名なさるわけですから安心でしょうな」
とネイザン子爵がイークオ12世の玉座の脇のコンソールに自分のティーポットから紅茶をそそいだ年代もののティーカップを給仕しながら言う。
「そうだの、王国宰相としての責務というよりはライフワークのしあげじゃろ、武門の名門に生まれとりながら、からきし戦がだめじゃったからな、もっとも民のことを考えれば戦などないほうがよいがの」
とネイザン子爵の淹れた王国名産の紅茶をすする国王イークオ12世。
「それにしてもわが国は帝国やどこぞの好戦的な共和国とは違い、農業王国で攻めやすく守りにくい大平原の穀倉地帯だというのに意外と戦上手の武門の名家が多うございますな」
と自らも紅茶をすすりながらネイザン子爵がイークオ12世の言葉に賛意をあらわしながら返答する。
「いみじくも、我が太祖イークオT世がいうたが、大地の恵みを守る民にこそ強兵ありとな、それにしても卿はやりくりもうまいが、紅茶を淹れる腕もヴェスターランド一じゃの」
「おそれいります陛下」とネイザン子爵が微笑しつつ言いおわらないうちに、国王の私的サロンを兼ねた貴族専用の拝謁玉座の間の扉がノックされ、若い軽武装の騎士が現れる。
「近衛百騎長ファイン当夜の勤番申告にまいりました、陛下のご尊顔を拝したてまつり恐悦至極に存じます」
型どおりとはいえ一気に口上し、剣を抜き刃を下にしたまま両手で柄を抱えるようにして眼前にかかげて国王に敵意がないことと忠誠を誓うあいさつを流れるような動作で行い、ふたたび剣を腰にもどす。
「役目大儀、つつがなくつとめよ」
と国王イークオ12世も型どおりの答礼をかえすが、直後に破顔して若い騎士に声を賜る。
「そなたも明日からいよいよ千騎長ぞ、これまでの戦場での働きみごとであった、平和条約が締結される今後は戦もなくなるかもしれぬが国内の安寧のためにもこれからも余に力をかしてもらう」
「はっ、陛下のありがたき御錠を賜り臣ますますの忠誠と忠勤に励まさせていただきます」
とかしこまる。ネイザン子爵が笑顔でやりとりを見守る中、国王も楽しげに若者をみやり
「苦しゅうない、宿営の勤番交代報告が済んだらここに参れ」
「はっ、ありがたきしあわせ、では後刻参上つかまつります」若者らしい軽やかな足取りでファインが拝謁玉座の間から出て行くのを見送るとネイザン子爵も破顔して
「いい若者ですな、あの若さで戦場ではみごとな戦ぶりというのは血筋というものですかな」
「ふむ、それだけではないな、他者をひきつけるオーラというか華があるの、末っ子の三男とはいえヒオ家の一族だけのことはあるの」と戦場での武勇ぶりを回顧する国王に
「分家して一家たてさせてやるおつもりですな陛下」
とネイザン子爵と国王の会話をまだ若き騎士ファインは知らない。
そのころ、サウザンイースト大陸とノーザンウエスト大陸、に挟まれた太平洋の東部にある群島国家連合の統括艦隊総司令官のヤムト提督は、帝都プロージット近くの軍港キーツ沖合いに錨泊中の大型戦闘艦スエズの白兵戦指揮甲板の指揮見張り所で夜天を見上げて眉間にしわを寄せていた。御歳80歳、海のことならまさに生き字引、帝国艦隊や自由都市同盟艦隊や共和国連邦艦隊さらには海賊達にすら恐れられ、連合の艦隊にその人あり。
老練という言葉は彼以外に使うなとまで本気で言われている百戦練磨の海の武人である。今夜帝都プロージットで行われる会議のあとで締結される連合艦隊同盟条約により、各国の海上艦隊で構成される連合艦隊最高司令官に就任が既に決まっている彼にとっても、長い戦乱から平和な海になることは喜ばしい思いであった。
「閣下いかがなさいましたか、明日は就任式ですし、お休みになられては」
とヤムト提督の背後から副官
のディッケル海尉が尊敬するヤムト海大将軍を気遣う。
ヴェスターランドにおいては国家の体制にかかわらず、陸上の軍隊とは別に海の軍隊は独特の共通の階級が存在する。陸上の軍隊の場合は5人一組の長を伍長や兵士長。百人の長を百騎長、千人の長を千騎長と呼び習わし、将軍、参謀長、要塞司令官などの職務別の階級と騎士や男爵や伯爵などの爵位が階級になっていることが多く。指揮権や軍功をめぐってのトラブルも多い。陸上戦闘の場合は個人の武勲が主なものなのでやむおえない面もある。
これに対して海の軍隊の場合は、船の大小を問わず船全体の指揮者が長となり、船自体の運航の上手さと船の操作を行う人間の統率力の優劣が武勲に影響するために、階級も実力に比例する形になっている。また、役割分担もすすんでおり。役割によっては最終階級も違ってくるという、ある意味かなり合理的になっている。海の武人はまず、個人的には白兵戦を戦う力量があることと、船をいかに操れるかということが重要視されている。しかしながら船を操る能力と戦う、白兵戦をする能力を両立させることは極めて難しく。どこの国の海の軍隊も実質的には陸上の軍隊を船に乗せて戦うか、船は移動手段と化しているケースがほとんどである。10隻の艦隊があれば9隻は兵士や物資の輸送船であり、船を操りながら自在に相手の船に乗り移って戦える戦闘艦は1隻くらいしかないのが普通であり。陸上にくらべて大規模な海上戦闘はめったにない。
ヤムト提督の凄さは戦闘艦を護衛として使うのではなく、戦闘艦だけで行動させた最初の司令官である。そして船の行動に陸上と同じ隊列という概念をもちこんだことも彼の軍歴を輝かしいものにしている。
海の軍隊の階級は海兵にはじまり海曹・海兵長・海曹長・海士・海士長・海尉・海佐・とあり各階級で上下の二段階合計16段階あり、トップの海将軍には海大佐の上の准将と将軍と大将軍がある。敬称も海准将軍となって始めて閣下や提督と呼ばれるようになっている。
このときヤムト提督が眉間にしわを寄せていたのは、水平線から空に向かって奇妙な気配が上がったのを感じたからである。しばらくの間水平線を睨みつけていた老提督であったが、不満気に首を振ると明日の式典に備えて戦闘艦内の自室に副官を従えて立ち去る。
それからしばらくして水平線の一点から光の筋が天高く立ち昇り、中天でしばらく停滞すると、ある方角へ彗星のように尾を曳きながら飛び去っていった。 |