友晴と幸せな日々を送る熾亜。
しかし、ぬぐえない不安がある。
それは、ある事故がきっかけで、熾亜が天使として覚醒し始めているということ。
そのせいで、今の生活がいつか突然終わってしまうかも知れない。
友晴といるときだけは、その不安から開放される・・・
熾亜は、休日はできるだけ友晴と一緒に過ごすようにしていた。
 
 
ミカ「熾亜さん!」
 
 
ある日、めずらしくミカすごい剣幕で熾亜に話しかける。
 
 
熾亜「どーしたのミカさん・・・そんなに慌てて・・・」
 
ミカ「わかったんです!」
 
熾亜「何が・・・」
 
ミカ「熾亜さんの天使化を止める方法です!!」
 
熾亜「うそ? ホントに!」
 
ミカ「はい。ただし・・・」
 
熾亜「ただし・・・」
 
ミカ「やはり、多少犠牲になってしまうことが・・・」
 
熾亜「なに・・・?」
 
ミカ「まずひとつ・・・熾亜さんのそれは、一種の呪いのようなものに変質しています。
   それを解除するにはさらに強力な力が必要になるんです。
   もともと熾亜さんに送り込んだ私の力は、それほど強いものではありませんでした。
   しかし、熾亜さんが天使への覚醒を始めたときを境にその力がどんどん強くなっていたらしくて・・・」
 
熾亜「そうなんだ・・・私、ぜんぜん気づかなかった・・・」
 
ミカ「その呪いを解くためには・・・私の持つすべての力を使う必要があるみたいです。」
 
熾亜「すべての力を使う・・・?」
 
ミカ「はい。」
 
熾亜「ちょっと待って? ミカさんは今、自分の力を使って、その姿を作り出してるワケよね?」
 
ミカ「そうです。」
 
 
そう、ミカは今、自分の力の一部を使って、地上にその姿を留めている。
 
 
熾亜「ミカさんの力がなっくなっちゃったら、ミカさんはどうなるの?」
 
ミカ「・・・天使とは、もともとエネルギーの集合体のようなものです。
   それを全て失うということは・・・つまり、存在の抹消を意味します。」
 
熾亜「・・・ミカさんがいなくなっちゃうってこと?」
 
ミカ「はい。」
 
熾亜「そんなのって・・・!」
 
ミカ「・・・もしくは・・・」
 
熾亜「もしくは?」
 
ミカ「この姿で、普通の人間としてココで生活することになるでしょう。」
 
熾亜「どっちになるかわかんないの?」
 
ミカ「前例がないので、やってみなければ・・・」
 
熾亜「そっか・・・」
 
ミカ「それと、二つ目ですけど・・・」
 
熾亜「二つ目・・・?」
 
ミカ「その呪いを解除したとき、熾亜さんの記憶の一部が失われる可能性が、非常に高いです。」
 
熾亜「私の記憶が?」
 
ミカ「はい。もっと正確に言うと・・・あの日、覚醒開始以降の記憶・・・すべて。」
 
熾亜「すべて・・・?」
 
ミカ「はい。」
 
熾亜「全てっていうことは・・・手芸部でみんなと過ごしたことも?」
 
ミカ「はい。」
 
熾亜「トモ君とお付き合いした記憶も?」
 
ミカ「全て・・・です。」
 
熾亜「そんな・・・」
 
ミカ「それでも、解除しなければ熾亜さんは地上にとどまることはできません。
   熾亜さんの大切なものすべてを置いていくことになります。
   私は、一緒に天界に戻りますけど・・・」
 
熾亜「なくした記憶は、もう戻らないの?」
 
ミカ「わかりません。なんらかのきっかけがあれば、あるいは・・・」
 
熾亜「大切なもの全てを失くすか、大切な記憶を失くすか・・・」
 
ミカ「地上に存在はできなくても、天界から見守ることはできます。記憶も、そのまま残ります。
   どちらにするか・・・決めるのは熾亜さんです。」
 
熾亜「トモ君と過ごした記憶も、とっても大切・・・だけど、私は美央やトモ君と離れ離れになるなんて嫌!」
 
ミカ「わかりました。ほんのわずかですが・・・記憶を失わない可能性もあります。
   それに賭けましょう。」
 
熾亜「でも・・・そのこと、説明しないと・・・」
 
ミカ「そうですね。 私が天使であることも、熾亜さんの呪いのことも・・・
   すべて正直に話すしかないですね。」
 
熾亜「正体、バレちゃってもいいの?」
 
ミカ「特に大きな問題はありません。もともと、あまり騒ぎ立てられないようにするために隠していただけですから・・・」
 
熾亜「そっか。」
 
ミカ「熾亜さん・・・」
 
熾亜「なに?」
 
ミカ「記憶・・・なくならないように祈ってます。」
 
熾亜「ありがとう。それから、ごめんなさい・・・」
 
ミカ「な、なんで謝るんですか?」
 
熾亜「どっちにしても、ミカさんは何かを犠牲にすることになっちゃう・・・」
 
ミカ「・・・もともと、熾亜さんに力を送り込んだのは私ですから、その責任です。
   気にしないでください。」
 
熾亜「・・・うん。」
 
ミカ「では明日、美央さんと雲衣さんに話しましょう。」
 
 
ミカは、自分が天使であること、熾亜の事故のこと、そのときのせいで、
熾亜が天使化しようとしてることを説明した。
 
 
美央「ミカさんが、天使だったなんて・・・」
 
ミカ「今まで隠していて、すみません・・・」
 
美央「どうりで、完璧超人なワケよね・・・」
 
友晴「で、解決策はあるのか?観神。」
 
ミカ「はい。」
 
友晴「そうか。なら大丈夫だな。」
 
ミカ「しかし・・・」
 
友晴「しかし?」
 
ミカ「いくつか問題があるんです。」
 
美央「問題?」
 
ミカ「はい。」
 
 
ミカは、起こりうる2つの問題を説明した。
 
 
美央「そっか・・・ミカさん、消えちゃうかもしれないんだ・・・」
 
ミカ「はい・・・」
 
友晴「そのうえ、熾亜の記憶まで・・・]
 
 
熾亜は、ミカの説明が始まってからずっと俯いたまま口を開かなかった。
 
 
友晴「熾亜、どうした?」
 
熾亜「トモ君・・・」
 
 
熾亜はいきなり友晴に飛びつく
 
 
熾亜「トモ君、トモ君・・!」
 
友晴「し・・・熾亜!?」
 
熾亜「イヤだよ! トモ君との思い出、忘れたくないよ!!」
 
友晴「熾亜、まだ忘れるって決まったワケじゃない。覚えてる可能性だってあるんだろ?
   俺は、大丈夫だって信じてる! 熾亜が信じてないでどうするんだよ!!」
 
熾亜「トモくん・・・うん、そうだよね。 ゴメン。
   私・・・私も、信じる!」
 
友晴「あぁ、そうだ。本人が信じてなきゃ、可能性も薄くなっちまうだろうしな。」
 
熾亜「うん、ありがとう・・・トモ君。」
 
友晴「観神、その儀式はいつ・どこで? 俺達が様子見に行ってもかまわないか?」
 
ミカ「お二人は私たちの秘密を知っていますので様子を見ていても問題はありません。
   熾亜さんさえ良ければ、今ここで始めることもできます。」
 
熾亜「ここは・・・先生来るかも知れないし、どこか別のところで・・・」
 
ミカ「では、どこがいいでしょうか・・・」
 
美央「できるだけ、人の来ないところ・・・」
 
友晴「あの、さ・・・俺の寮じゃ、ダメかな?」
 
熾亜「トモ君の寮?」
 
友晴「うん。俺、寮で一人暮らしだし、寮生の友達もいないし・・・
   あ、でも男子寮だから、出入りさえ誰にも見つからなければ・・・
   4人入ると、ちょっと狭いかも知れないけど。」
 
ミカ「私はかまいませんが・・・お二人は?」
 
熾亜「私も、大丈夫。」
 
美央「他にいい場所もなさそうだし・・・いいよ、行こう。」
 
ミカ「決定ですね。では、いつにしますか?」
 
熾亜「今からにする。善は急げって言うし。」
 
友晴「わかった。じゃぁ案内するから、ついてきて。」
 
 
3人は友晴に案内されるがままに、寮に向かう。
幸い、ロビーには誰もおらず、友晴の部屋まですんなり行くことができた。
 
 
ミカ「では、始めます。いいですか?」
 
熾亜「トモ君・・・」
 
友晴「大丈夫だ、信じろ。」
 
熾亜「うん・・・」
 
美央「ミカさんも・・・」
 
ミカ「はい?」
 
美央「自分が消えちゃうなんて、考えちゃダメだよ?」
 
ミカ「もちろんです。みなさんと一緒にいるのは楽しいですからw」
 
美央「うん。」
 
ミカ「では、始めますね。」
 
熾亜「うん。」
 
 
熾亜は目を閉じる。
ミカは熾亜の額に手を当て、なにか聞き取れない言葉を発し始める。
ミカの体が光に包まれたかと思うと、それはゆっくり熾亜の体のほうに移っていった。
光がすべて熾亜の体に移ってしばらくすると、熾亜の体からも光が消えた。
次の瞬間
 
 
友晴「うわっ!」
 
美央「きゃぁ!」
 
 
一瞬にして、目を覆ってもなお眩しいほどの光が、爆発するように広がり、そして消えていった。
視界はしばらくぼやけていたが、時間とともにハッキリしてくる。
そこには少女が二人、立っていた。
 
ミカ「・・・成功です。熾亜さん、もういいですよ。」
 
熾亜「ん・・・」
 
 
ゆっくりと目を開ける熾亜
 
 
熾亜「ミカさん! 大丈夫だったの?」
 
ミカ「そうみたいですね。 それより熾亜さん、調子はどうですか?」
 
熾亜「・・・特に変わったところはないみたい。」
 
ミカ「そうですか・・・」
 
 
熾亜は、友晴のほうをじっと見つめる。
 
 
友晴「熾亜・・・?」
 
 
呼びかけに、スグには答えない。
友晴の心に不安が募る。
 
 
熾亜「・・・トモ君っ!」
 
友晴「うわぁっ!」
 
 
突然、友晴に飛びつく熾亜。
 
 
友晴「し・・・熾亜?」
 
熾亜「トモ君、私、覚えてる・・・覚えてるよ!!」
 
友晴「覚えてる? そっか、ハハ・・・良かった! 本当に良かった!!」
 
熾亜「トモく〜ん!」
 
美央「よかったね、熾亜」
 
熾亜「ホントによかったよ〜・・・」
 
友晴「不安だったろう? これでもう、熾亜は本当に大丈夫だw」
 
熾亜「うん・・・うん!」
 
友晴「さ、熾亜・・・今日はもう家に戻って休んだほうがいい。」
 
熾亜「うん、そうする。」
 
友晴「なんなら、送っていこうか?」
 
熾亜「ううん、美央も、ミカさんもいるし、大丈夫。」
 
友晴「そうか。じゃぁまた明日、学校でな。」
 
熾亜「うん。」
 
ミカ「では、失礼します。」
 
美央「また、明日。」
 
 
意気揚々と寮を出て行く3人。
 
 
友晴(これで、あとは俺のほうか・・・このままならいいんだけど・・・)
 
 
熾亜の問題は解決した。
しかし、友晴にはまだ不安要素があるのだった。
 



 
 
第6話へ  第8話へ→