ミカ「雲衣さん、おはようございます。」

友晴「あぁ、おはよう」

熾亜「あ、トモ君おはよ〜」

友晴「おはよう、熾亜。」

美央「トモ君・・・? 熾亜・・・?」


いつもどおりの朝・・・のはずなのだが、美央はその中の違和感に気づいた。


美央「熾亜、雲衣君、ちょっと・・・」

熾亜「え?」

友晴「な、なんだよ・・・」

美央「もう一度、お互いに呼んでみて。」

友晴「なんで・・・」

美央「いいからっ!」


二人は顔を見合わせ、少し恥ずかしそうにお互いを呼ぶ。


熾亜「トモ君・・・」

友晴「熾亜・・・」

美央「・・・そーかそーか。いつのまにか二人はそんな仲になってたのか〜w」

熾亜「美央・・・最近またちょっと性格変わってきたよね・・・」

友晴「そんな仲って、別に・・・付き合ってるってことは知ってたろ?」

美央「でも、今までずっと苗字で呼んでたじゃない。
   で、どうなの? どこまでいったの?」

友晴「どこまで・・・って?」

美央「もうキスくらいした?」

熾亜「き、きききき・・・キスぅぅぅ!?」

友晴「なな、何言ってるんだ空野!」

美央「え? まだなの?」

熾亜「まだだよ〜・・・デートだって今度が初めてなのに・・・」

美央「ほぉ〜・・・デートねぇ・・・」

熾亜「っ・・・」


熾亜は、しまったという表情で口をつぐむ。


美央「初デートで初キス・・・それもアリねぇ・・・」

友晴「煽るなっ!」

美央「ちょっとくらいいいじゃない。私には経験がないことだから、
   友達のそういうのが楽しくて仕方ないのよ。」

友晴「だからってなぁ・・・熾亜も困ってるじゃないか。」

熾亜「あぅあぅあぅ・・・」

美央「ぁ〜、ごめん、熾亜。それと、雲衣君?」

友晴「ん?」

美央「熾亜に妙なマネして泣かせたりしたら・・・本気で許さないからね。」

友晴「わ、わかってるよ・・・そんなコトしないって。」

美央「それと熾亜、さっき、私の性格が変わってきたって言ったけど・・・」

熾亜「うん・・・」

美央「熾亜の性格も、ずいぶん変わってきてるよ?」

熾亜「そう?」

美央「うん。しおらしくなったって言うのかな・・・
   元気娘〜ってのがちょっと抜けて、女の子らしくなった。」

熾亜「あんまりわかんないけど・・・」

美央「ミカさんはどう思う?」

ミカ「そうですね・・・たしかに以前のような活発さは、ない気がします。」

美央「熾亜も、恋する乙女ってコトね〜・・・」

熾亜「それは・・・反論できない・・・」

美央「まぁなんにせよ、デートがんばんなさい。応援してるから。」

熾亜「うん。デートの日、晴れるといいね、トモ君。」

友晴「あぁ、晴れてほしいな。」

熾亜「あ、そういえば・・・」

友晴「ん?」

熾亜「何時にするか、決めてない・・・」

友晴「あぁ・・・でも上映時間とか決まってるだろうし、あとで調べてみるよ。」

熾亜「うん。またメール送ってね。」

友晴「了解。」


そして、待ちに待ったデート当日。
プラネタリウムは、小高い丘に建てられた科学館の中で上映される。
その科学館の入り口で待ち合わせているのだが、上映開始10分前になっても熾亜は到着していなかった。


友晴「・・・遅いな・・・」

熾亜「トモく〜〜ん!!」

友晴「熾亜!」

熾亜「はぁ、はぁ・・・」

友晴「どうしたんだ、熾亜・・・」

熾亜「ご、ごめんなさい・・・はぁ・・・ちょっと」

友晴「理由はあとで聞くよ。もうすぐ始まっちゃうから、早く行こう。」

熾亜「うん。」


急いで入場券を購入して場内に駆け込み、なんとか上映時間に間に合うことができた。
開いている席を探して座ったとたんに場内が暗くなっていき、二人の頭上に満天の星空が輝く。

”皆様、本日のご来場、誠にありがとうございます。本日の上映プログラムは季節の星座となっております。
 どうかお静かに、最後までごゆっくりお楽しみください。”

映像を切り替えながら、この季節に見ることができる星座や、
それにまつわる話などを丁寧に解説するアナウンス。

”・・・以上で、本日のプログラムを終了させていただきます。
 本日のご来場、誠にありがとうございました。”

場内に明るさが戻り、ざわめきと共に外に向かう客。
それに混じって二人も外に出る。


友晴「わ、まぶし・・・」

熾亜「薄暗いところから外にでると、ちょっと目が痛いよね・・・」

友晴「でも、スグに慣れるさ。」

熾亜「そうだね。」

友晴「ここで立ち話も何だし、展望台のほうに行くか。」

熾亜「うん。」


科学館から少し離れたところにある階段を上れば、街を一望できる高台に出る。
ベンチや自販機なども設置されており、ちょっとした憩いの場となっている。
空いている場所を見つけ、座り込む二人。


熾亜「きれいだったね〜・・・」

友晴「そうだな。プラネタリウムなんて何年ぶりか・・・」

熾亜「私も、すごく久しぶりな気がする。」

友晴「そうだ、熾亜、ノド乾いただろ? なにか買ってくるよ。」

熾亜「あ、うん。私、あったかいカフェオレがいい。」

友晴「わかった。」


自販機で二人分の飲み物を買い、戻ってくる友晴。


友晴「お待たせ。」

熾亜「うん。あつっ!」

友晴「だ、大丈夫か?」

熾亜「あ、うん。ちょっとびっくりしただけ。」

友晴「そっか。」

熾亜「うん・・・」

友晴「・・・・・・」

熾亜「・・・・・・」


会話が途切れたとき、美央に煽られた内容が二人の脳裏をよぎる。


友晴「・・・熾亜?」

熾亜「え? あ、何?」

友晴「飲まない、のか?」

熾亜「そ、そうだねっ!」

カシュッ

熾亜「あ、あれ?」

カシュッ カシュッ

熾亜「あれれれれ・・・」

友晴「熾亜、あけようか・・・?」

熾亜「だ、だいじょぶ・・!」

カシュッ

友晴「いや、でも・・なんか手ぇ震えてるし・・・」

熾亜「な、なんでもなっ!」

ガッ コン コロコロコロ・・・

熾亜「ったたた・・・」


焦った熾亜は、勢い余って缶を落としてしまった。
友晴は急いで缶を拾い上げる。


友晴「平気か? 変な音したけど、ツメとか割れてないか?」

熾亜「うん、大丈夫みたい。ちょっと指痛いけど・・・」

友晴「あ〜・・・砂ついちゃったな。」

熾亜「でも、飲むとこにはついてないみたいだし・・・」

友晴「そうか・・・」


友晴は手で砂を払い落とし、缶を開けて熾亜に手渡す。


熾亜「ありがとう。」

友晴「いや。」

熾亜「あ、いい具合に冷めてて、飲みやすい・・・」

友晴「こういうのってさ・・・”あったか〜い”って書いてある割に、中身ムチャクチャ熱いんだよな・・・」

熾亜「そうだよね。私もスグには飲めなくって・・・ヤケドしちゃうw」

友晴「だよな。」

熾亜「うん。」

友晴「・・・」

熾亜「・・・・・・」

友晴「あ、あのさ熾亜・・・」

熾亜「え?」

友晴「あ、いや・・・」

熾亜「・・・やっぱり・・・意識、しちゃうよね。」

友晴「え?」

熾亜「美央に、言われたこと・・・」

友晴「空野に・・・」

熾亜「だから、キス・・・とか・・・」

友晴「あぁ・・・」

熾亜「したほうが、いいのかな? トモ君はどう思う?」

友晴「別に、どうでもいいんじゃないか?そういうの。」

熾亜「どうでもいいって・・・?」

友晴「今じゃなくてもいいんじゃないか?てこと。俺たちのペースで・・・さ。
   そのうち、二人がそういう気分になって・・・そのときに、すれば。」

熾亜「でも、そういう気分にならなかったら?」

友晴「ならなかったら、そのように付き合えばいいだけさ。違う?」

熾亜「うん、そうだね。」

友晴「なにも焦る必要はないんだよ。俺たちのことなんだし。」

熾亜「・・・うん。」

友晴「さって・・・これからどうする? まだ日も高いし」

熾亜「じゃぁ、ちょっとお買い物に付き合ってもらっていい?」

友晴「いいけど、何買うんだ?」

熾亜「ちょっと、服とか見たいな〜って。」

友晴「よし、じゃぁ行くか。」

熾亜「うん!」


二人は手を繋いで歩き出した。


熾亜「トモく〜ん、これなんかどうかな?」

友晴「似合うと思うけど?」

熾亜「じゃ、こっちは?」

友晴「それよりは、さっきのほうが合うと思う。」

熾亜「そっか。」

・・・
・・
・

熾亜「あ、あのブローチかわいいw」

友晴「さっきの服に合うんじゃないか?」

熾亜「トモ君もそう思う?」

友晴「ああ。」


1件、また1件と、洋服・アクセサリ・ファンシーを見て回り、歩きつかれた二人は近くに喫茶店に入り込んだ。


友晴「疲れたな〜・・・」

熾亜「でも、楽しかったね〜w」

友晴「たしかにな〜」

熾亜「最近、あんまり服とか見てなかったから・・・」

友晴「そうなのか?てっきり空野たちとよく行ってると・・・」

熾亜「手芸部あるし。入部前はたまに行ってたけど。」

友晴「そっか。じゃぁ近いうち、4人でどこか行くか?」

熾亜「それだと、美央とミカさんが気ぃ使っちゃうとおもうから・・・」

友晴「そっか・・・それもそうだな。」

熾亜「でも、同じ手芸部だし・・・私もみんなでどこか行きたいとは思う。」

友晴「今度、話してみるか。」

熾亜「うん。」

友晴「っと、もうこんな時間か・・・」

熾亜「ほんとだ・・・もう日が沈みかけてる・・・」

友晴「よっぽど歩いたんだな、俺たち。」

熾亜「そうみたい。」

友晴「そろそろ帰ろうか。家まで送っていくよ。」

熾亜「ありがとうw」


熾亜の家の前で別れを告げ、友晴も寮に戻る。
しばらくすると、熾亜からメールが届く。

−今日はありがとうございました。
 デート、とても楽しかったです。
 また二人でどこかに行きたいですね。−

−こちらも、今日はとても楽しかったです。
 今度は、映画でもどうですか?
 また連絡します−

次の日が日曜だったため、二人ともゆっくり疲れを癒した。
そして月曜日・・・


美央「二人とも〜!!」


朝から、美央が食いついてくる。


美央「デートしたんでしょ?しちゃったんでしょ??」

友晴「た、たしかにしたけど・・・なぁ・・・」

美央「で・・・どうなの? なにかしたの? どこまで進んだの??」

熾亜「な、何もしてないよ・・・ね?」

友晴「あぁ。」

美央「その様子だと、ホントに何もなかったみたいね。」

友晴「なぁ、空野・・・どうしてそんなに俺たちを煽るんだ?」

美央「・・・二人見てると、じれったいのよ。両思いだってわかってから付き合うまでもそうだったけど・・・
   二人が付き合い始めてもうどのくらい経ったかわかってる? 普通ならもうキスの一つや二つ・・・」

友晴「空野・・・」

美央「なに?」

友晴「俺たちには俺たちのペースがある。普通と違ったって、俺たちさえ良ければ、いいじゃないか。」

美央「・・・そうよね。」

熾亜「でも、美央のアドバイスには助けられたよ?」

美央「・・・ありがとう。これからはもう、あんまり口出さないようにするわ。」

友晴「あ、いや・・・わかってくれれば、いいんだけどさ。」

熾亜「美央も、悪気があったわけじゃないのは知ってるしw」

友晴「これからも相談役になってくれれば、ありがたいけどな。」

美央「恋愛経験皆無の私に相談しなきゃいけなくなるような事態にならないのを祈るわ・・・」

友晴「・・・ごもっとも。」


こうして友晴と熾亜の初デートも無事に終わり、美央に煽られるという悩みも解消。
二人は、本格的に自分達のペースで付き合い始める。


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