友晴が熾亜に告白してから数日・・・


美央(雲衣君・・・本当は告白してなかったとか・・・?)


美央はたしかに友晴から告白したと聞いた。
しかし、二人は一向に進展を見せない。
どうしたものかと悩む美央に、熾亜が相談を持ち込んできた。


熾亜「美央〜・・・」

美央「どうしたの?情けない声出しちゃって・・・」

熾亜「ねぇ美央、どうしよう・・・」

美央「どうしようって、何が?」

熾亜「あれからいろいろ考えたんだけど・・・」

美央「だから、何?」

熾亜「この前、美央とミカさんが買出しに行って部活に遅れ日、あったでしょ?」

美央「うん。」

熾亜「来る前に・・・雲衣君に好きだって言われて・・・」

美央(それは雲衣君から聞いて知ってるんだけど・・・)

美央「良かったじゃない! 即OKしたんでしょ?」

熾亜「そのことなんだけど・・・」

美央「その場で返事しなかったの・・・?」

熾亜「うん。」

美央「なんで? 熾亜も雲衣君のこと好きなんじゃないの?」

熾亜「たしかに、私も雲衣君のこと好きだし、雲衣君も好きだって言ってくれて、すごく嬉しいんだけど・・・
   告白されるなんて初めてだし、好きとは言われたけど付き合ってほしいとまでは言われてないし・・・
   友達としての”好き”だったらどうしよ〜・・・」

美央「・・・アンタって子は・・・」

熾亜「私、すっごい空回りしてるみたいで・・・」

美央「いい、熾亜。人に気持ちを伝えるのってね、ものすっごく勇気がいるんだよ?
   それだけ勇気を出して言うことなんだから、とっても大事なことに決まってる。
   友達同士で”好きだよ〜”なんて言うのとは重さが違うの!」

熾亜「うん・・・」

美央「いつまでも返事待たせるのも・・・失礼だよ。」

熾亜「そうだよね・・・」

美央「私から言えるのは、それだけ。あとは熾亜次第。」

熾亜「わかった。近いうちに返事、するよ。」

美央「そうしなさい。」

美央(あっちも、もう一押ししといたほうがいいかなぁ・・・)


最近の美央は、熾亜と友晴の間を行き来してばかりである。


美央「雲衣く〜ん」

友晴「あぁ、また空野か。」

美央「またって何よ、またって。」

友晴「いや、最近よく来るな〜と思って。」

美央「いろいろアドバイスしてあげてるんだから、少しはカンシャしてよね」

友晴「そりゃ、ありがたいけどさ。」

美央「今回もイイ情報持って来たんだけど〜・・・どうする?」

友晴「どうする?って・・・」

美央「あとで一括請求ね。」

友晴「今まで一度も請求されてないのが気になるけど・・・わかった。」

美央「熾亜ね、もうちょっと踏み込まないとダメかも。」

友晴「・・・どういうことだ?」

美央「好きだってのは伝わってる。けど、それで雲衣君はどうしたいのか・・・ってこと。」

友晴「言ってる意味がよくわからないな・・・」

美央「ここからは、自分で考えて。」

友晴「・・・なんとかしてみるよ、ありがとう。」

美央「ど〜いたしましてぇ〜」


美央は、やるべきことをした後のような満足げな表情で去っていった。

その日の手芸部・・・


友晴「今日はここまでにしようか。」

美央「ホント、もうこんな時間・・・」

ミカ「空が赤いです。」

熾亜「それじゃ・・・」

友晴「あ、天仲だけはちょっと残ってくれないか?」

熾亜「私・・・だけ?」

友晴「あぁ。」

ミカ「それじゃ熾亜さん、私と美央さんは先に帰ってますね。」

美央「二人とも、また明日〜」

熾亜「うん。」

友晴「あぁ、またな〜」

熾亜「と、ところで雲衣君・・・用事・・・」

友晴「もう少しだけ・・・待ってくれ。」

熾亜「うん・・・」

友晴「時間的に、そろそろのはずなんだ。」


夕方の薄暗い部室内。
電気もつけずにただ時間が過ぎるのを待つ・・・
そのときだった。


熾亜「わぁ・・・」


薄暗かった室内が、だんだん明るくなっていく。
やがて、まるでライトで照らされているかと思うほど、部屋全体がきれいな茜色に染まった。


熾亜「すごい・・・」

友晴「この時期、日が沈みかける少しの間だけ・・・こうなるんだ。
   太陽の角度とか、部屋においてある物の配置の関係だと思う。
   俺しか知らない、特別な時間。」

熾亜「すごくきれい・・・こんなの、はじめて・・・」

友晴「天仲・・・あのさ」

熾亜「なに?」

友晴「このこと・・・秘密にしておいてくれないか?」

熾亜「え?」

友晴「俺たちしか知らない・・・二人だけの秘密。」

熾亜「・・・うん、いいよ。」

友晴「それから・・・なんかこう、改めて言うのも恥ずかしいんだけど・・・」

熾亜「?」

友晴「俺と・・・付き合ってください。」

熾亜「え・・・と・・・」

友晴「ごめん。俺、待ってるって言ったのにな。
   今日はもう帰ろう。」

熾亜「あ、その・・・」

友晴「ん?どうした?」

熾亜「私、返事・・・まだしてなかったから・・・」

友晴「あぁ、待ってる。」

熾亜「だから、今・・・」


熾亜は呼吸を整える。


熾亜「私も・・・私も雲衣君が好きです!」

友晴「・・・え?」

熾亜「お付き合い、させてください!」

友晴「本当に・・・?」


熾亜は無言で・・・しかし、力強く首を縦に振る。


友晴「ありがとう、嬉しいよ、俺。」

熾亜「大事に、してくれますか?」

友晴「もちろん。」

熾亜「・・・ありがと。」

友晴「さ、日が沈まないうちに帰ろう。送ってくよ。」

熾亜「・・・うん!」


お互いに手を取り、薄暗くなりはじめた学校を後にする。


熾亜「どうしよう・・・こんなキモチ、はじめて・・・
   私ね、今すっごくドキドキしてるよ。」

友晴「そんなの、俺だって同じだよ・・・」


お互いに、はじめての”好き”
そして・・・はじめての、帰り道。
はじめて、一緒に・・・居たい。
握られたその手は、熾亜の家に着くまで離れることはなかった。
それからというもの・・・


友晴「お〜い、天仲〜」

熾亜「なに〜?」

友晴「ちょっとそこの7番の抜き型、こっち投げてくれ。」

熾亜「はいは〜い、それっ!」

友晴「サンキュ!」

ミカ「最近、とっても仲がいいですね、あの二人。」

美央「うまくいった・・・ってコトでしょ。」

ミカ「二人とも、もう悩んでないみたいですしね。」


二人が付き合い始めてから毎日、友晴は熾亜の家まで送っていった。
しかし、ミカも同じ家に住んでいる以上、二人きりになることはな滅多にない。
友晴が生活している寮には、ロビーに共同の電話がひとつあるだけ。
二人だけで会話できる機会があまりにも少ないことを不便に感じる友晴と熾亜。
そんなある休日、寮に友晴宛の電話がかかって来る。


??「もしもし、雲衣君?」

友晴「・・・いや、もう何も言うまい。今日は何だ?空野。」

美央「なにそれ・・・何か困ってるんじゃないかと思って電話してあげたのに。」

友晴「今回は情報提供じゃないのか。」

美央「情報提供と言えば、情報提供なんだけどね〜・・・」

友晴「なんだよ・・・」

美央「雲衣君って、携帯とか持ってる?」

友晴「いや、持ってないけど・・・」

美央「あのね、私の行きつけの携帯ショップが、今キャンペーンやってるのよ。」

友晴「それで?」

美央「でね、今すご〜く安く買えるから、どうかな〜と思って。」

友晴「俺には必要ないよ。」

美央「ホントに? 私も熾亜も持ってるよ?」

友晴「天仲も・・・?」

美央「あ、ちょっと興味出てきた?」

友晴「あ、いや・・・」

美央「そうと決まれば、今から早速GO!」

友晴「ちょっと待て!まだ買うって決めたワケじゃ・・・」

美央「あ、そうそう。今ケータイ買うと、とってもかわいいグッズがもらえるんだけど・・・
   雲衣君はいらないだろうから、それは私にちょうだいね。情報料と思ってさw」

友晴(・・・ホントはソレ目当てなんじゃねぇの・・・?)


結局、美央に引きずられるようにして、友晴も携帯ショップに入る。
一番安い機種とプランを選んでいる間、美央は嬉々としてグッズをバッグにしまい込んでいた。


美央「あ・と・は・・・番号なりアドレスなり、交換するだけね。」

友晴「そうは言うけど・・・」

美央「大丈夫。舞台は整えてあげる。」

友晴「・・・ホントかよ・・・」

美央「・・・ということで、喫茶店に行こう!」

友晴「ちょ、ちょっと待てって! どういうことかさっぱり・・・」

美央「いいからいいから!」


今日は美央に引きずられてばかりである。
喫茶店に着くと、入り口前に熾亜とミカが立っているのが見えた。


美央「熾亜〜、ミカさ〜ん!!」

ミカ「やっと来ましたね。」

熾亜「美央、おそ〜い! って・・・」

友晴「よ、よぉ・・・」

熾亜「雲衣君も一緒だったんだ。」

友晴「あぁ、ちょっと空野に引きずられ・・・もとい、誘われてな。」

美央「手芸部一同、たまには一緒にお茶でもどうかって思っただけよ。」

熾亜「とりあえず、中入ろう。」

ミカ「そうですね。」


席に座って注文を済ませると、美央が話を切り出す。


美央「私から誘ったのに、遅れちゃってゴメンね〜・・・」

熾亜「別にいいよ。私たちも早く着いちゃったし。」

美央「実はね、さっきまで携帯ショップにいたんだけど、そこで偶然雲衣君と会ってね。」


美央が友晴に視線を送る。
話をあわせろ・・ということなのだろう。


友晴「あ、あぁ。俺、携帯とか初めてだから、どんなのがいいか空野に相談してたんだ。」


”これでいいのか”と、美央に視線を送る。
”おっけー”と、ウィンクで友晴に答える。


ミカ「そうだったんですか。」

美央「で、結局どんなのにしたの?」

友晴「あぁ、これなんだけど・・・」


ポケットから買ったばかりの携帯を取り出し、テーブルに置く。


美央「これって、熾亜と同じ機種じゃない?」

熾亜「あ、ホントだ〜」

美央「やっぱり、メモリーは真っ白ね・・・」

友晴「買った直後にここに来たんだし、当たり前だろ・・・」

美央「ねね、私のアドレス登録していい?」

友晴「あぁ、構わないけど?」

美央「・・・これで良し。熾亜も登録しておいたら〜?もう、お付き合いしてるんでしょ?。」

熾亜「そ、そうだね。って、えぇぇぇぇ!?」


熾亜はいきなり大声をあげる。


熾亜「み、美央・・・知ってたの?」

美央「知ってるも何も、相談されたし・・・何より、あんな風だったのに突然仲良くなってるしねぇ・・・
   いつも一緒に居て、気づかないほうがおかしいと思うけど?」

ミカ「・・・・・・」

友晴「一人、いたみたいだな。気づかなかった人。」

熾亜「そうだね。」

美央「いいから、とっとと登録しちゃいなさい。」

熾亜「う、うん。」


熾亜は手早く登録し、友晴に携帯を手渡す。


友晴「観神はいいのか?」

熾亜「ミカさんね、持ってないの。」

ミカ「はい、私には必要のないものですから・・・」

友晴「そっか、持ってたら手芸部の緊急連絡もしやすいんだけどな。」

美央「それなら、熾亜の携帯に送ればいいじゃない。どーせ一緒の家にいるんだし。」

友晴「それもそうか。」

美央「よかったね、お二人さん。誰にもジャマされずに二人だけのお話ができるようになってw」

友晴「空野、からかうなよ・・・」

美央「まぁまぁ、事実なんだからいいじゃない。寮の共同電話だとやりづらいでしょ〜?
   あ、そうそう雲衣君・・・ここのお代ヨロシクね。」

友晴「えぇぇ!?」

熾亜「そんな、悪いよ・・・」

美央「いいのいいのw 今までの情報料の一部・・・ね。」

友晴「・・・わかったよ。」

熾亜「情報料?」

美央「あ〜、なんでもない。こっちの話よw」


せっかく携帯を手に入れた友晴。
しかし、登録してある相手とはクラスも部活も同じ、さらには一緒に帰っているということもあって、
あまり便利さは感じていなかった。
数日後、部活中に友晴の携帯に一件のメールが届く。
送信者は・・・”天仲熾亜”

−こんにちわ、突然のメールすみません。
 割引券をもらったので、今度のお休みに、プラネタリウムを見に行きませんか?−

−大丈夫です。楽しみにしています−

そう返信し、携帯を閉じた直後にまたメール。

−お休みというのは土曜日です。私も楽しみにしています。−

それは、二人にとって初めてのデート。
否応なく、胸が躍る。

その帰り道、いつもどおり熾亜の家までついていく友晴。


ミカ「いつも送っていただいて、ありがとうございます。」

友晴「いや、俺が一緒に居たいだけっていうか・・・その・・・」

熾亜「私も一緒に居れて嬉しいよ?」

友晴「あ、あぁ、ありがとう。」

ミカ「それでは、また明日。」

熾亜「あ、ミカさん。先に入ってて。」

ミカ「はい?・・・わかりました。」


ミカだけを先に家に入れて友晴に向き直る熾亜。


熾亜「トモ・・・君」

友晴「え?」

熾亜「トモ君って呼んじゃ・・・ダメかな?」

友晴「あ、いや・・・別に構わないけど、ちょと恥ずかしいな・・・」

熾亜「それと・・・」

友晴「ん?」

熾亜「私のことも、”熾亜”って名前で呼んでくれたら・・・嬉しいな。」

友晴「・・・わかった、そうする。」


熾亜からの突然の提案を受け入れる。


熾亜「それじゃ、また明日ね、トモ君。」

友晴「あぁ、またな、熾亜」


二人の仲は少しずつ進展しているようだ。


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