??「・・・亜、熾亜!」


まだ友晴の来ない手芸部。
誰かに名前を呼ばれ、熾亜はハっとする。


美央「熾亜、大丈夫? なんかボーっとしてたけど・・・考え事?」

熾亜「あ、うんちょっと・・・雲衣君、まだ来ないな〜って。」

ミカ「たしかに、ちょっと遅いですね。」

美央「熾亜、最近さ・・・」

熾亜「なに?」

美央「時間があれば、雲衣君のことばっかり考えてるでしょ。」

熾亜「え、うん・・・だって、ちゃんと普通に話したいし・・・」

美央「熾亜・・・それ・・・」

熾亜「?」

美央「恋・・・ですな。」

熾亜「え? えぇぇぇぇぇえ!?」

ミカ「美央さん、からかうのは・・・」

美央「これは本気。だって熾亜、さっきも雲衣君が来ないの気にしてたし。」

熾亜「それは・・・いっつも4人一緒だから、今日はどうしたのかなって・・・」

美央「でも、私やミカさんとは”話したい”なんて考えないでしょ?」

熾亜「それは、だっていつも話してるし・・・」

美央「じゃぁなんで、雲衣君には私たちと同じように話せないの?」

熾亜「それは・・・」


熾亜は答えに詰まってしまった。
そのとき、まるでそれを見計らったかのように友晴が部室に入ってくる。


友晴「ごめん、ちょっと遅くなった。」

美央「待ってたよ〜? 私たちだけじゃ、まだ何していいかわからないんだから・・・」

友晴「ゴメンゴメン、それじゃぁ・・・」


部室を見回すと、ふと熾亜と目があった。


熾亜「あ・・・」

友晴「よ、よぉ・・・」

熾亜「き、今日は・・・何を?」

友晴「あ・・・そ、染物・・・そう、染物を!」

美央「・・・ダメだありゃ・・・」


美央のアドバイスの甲斐もなく、ギクシャクしたままの二人。
結局この日も、二人が普通に会話できることはなかった。

翌朝・・・


熾亜「美央〜」

美央「おはよう熾亜。ミカさんは?」

熾亜「あ、今日はちょっと・・・」

美央「? まぁいいけど・・・」

熾亜「あのね、昨日の話・・・なんだけど・・・」

美央「昨日の・・・あぁ、雲衣君の?」

熾亜「うん。」

美央「その話が、どうかしたの?」

熾亜「私ね、昨日家で考えてたんだけど・・・
   やっぱり、雲衣君のことが好き・・・なのかな?
   ううん、好きなんだと思う。」

美央「え?」

熾亜「気が付いたら私、家でも学校でも雲衣君のことばっかり考えてて、
   もっと話したいって思うほど、雲衣君のことが頭から離れなくて・・・
   こんなキモチはじめてで・・・ねぇ、どうしたらいいかな?」

美央「それは・・・ますます恋ですな。」

熾亜「うん・・・そうだと思う。私、雲衣君のこと・・・」

美央「いっそ、思い切って告白しちゃったら?」

熾亜「えっ!? で、でも・・・雲衣君にその気がなかったら、余計・・・」

美央「当たって砕けろ! とも言うでしょ? もっとも、
   ホントに砕けちゃったらどうしようもないけど・・・」

熾亜「あうぅ・・・」

美央「とにかく、私もイロイロ手ぇ回すから・・・本気で考えておいたほうがいいよ。」

熾亜「う、うん・・・わかった。」

美央(とは言ったものの、雲衣君のほうをどうするか・・・なのよねぇ・・・)


その日の昼休み


友晴「空野、ちょっといいか?」

美央「雲衣君? どうしたの?」

友晴「あぁ、話してるトコ悪いんだけど・・・
   ちょっと大事な話があってさ。ここじゃ何だから・・・」

美央「う、うん。それじゃ熾亜、ちょっと行って来る。」

熾亜「あ・・・」


友晴と美央は、二人で教室を出て行ってしまった。


熾亜「雲衣・・・君・・・」


友晴は、美央を人気の少ない校舎裏まで連れて行くと、話を切り出した。


友晴「ここでいいかな・・・で、話なんだけど・・・」

美央「まさかとは思うけど・・・私、今から告白されるなんてコトないよね?」

友晴「違う違う!ちょっと相談に・・・」

美央「相談?」

友晴「あぁ、空野くらいしか思いつかなくて・・・」

美央「で、その相談ってのは・・・」

友晴「単刀直入に言う・・・」

美央「うん。」

友晴「俺さ、天仲のこと好きなのかも知れない・・・」

美央「・・・やっぱり。」

友晴「やっぱり・・・って、わかってたのか?」

美央「見てれば、だいたい。そのキッカケ作っちゃったのは私なんだろうし・・・」

友晴「それで、空野っていつも天仲と一緒にいるから、俺のこと何か言ってないかと思って・・・」

美央「そうね・・・」


少し間を置いて、美央は口を開く。


美央「今朝、熾亜からまた相談を受けたの。雲衣君のことでね。」

友晴「俺のことで・・・?それで、何て?」

美央「それは、今私の口からは言わない。言うべきじゃないと思うし。」

友晴「そうか・・・」

美央「ただ・・・好きかも知れないなら、気持ちの整理は早くしたほうがいいと思う。
   本当に好きなのか、そうじゃないのか・・・」

友晴「いや・・・ゴメン。本当は自分で気づきたくなかっただけなんだと思う。」

美央「え?」

友晴「昨日、俺だけ遅れて部活に行ったろ?」

美央「うん。」

友晴「そのときに気づいたんだ。時間があれば天仲のことばかり考えてる俺がいて・・・
   天仲のことが頭から離れなくて・・・それで、俺はもしかして天仲のこと・・・って。
   そのときは、まさかと思て振り払ったけど・・・もう、自分に正直になるよ。
   俺は天仲が好きだ。」

美央「そのセリフ、私じゃなくて、本人に言えばいいのに・・・」

友晴「まぁ、そうかも知れないけど・・・」

美央「踏み切れない?」

友晴「・・・というか、今そう思ったばっかりだし・・・
   いや、でも確かにためらってたからこうなったわけで・・・」

美央「・・・ハァ・・・」


美央はヤレヤレといった感じでため息をつく。


美央「思い切って言っちゃう・・・ってのが、どうもできないみたいね・・・二人とも。」

友晴「二人とも・・・?」

美央「仕方ないから教えてあげる。今朝、熾亜からね、今と同じような相談を受けたのよ。」

友晴「って言うと?」

美央「”雲衣君のことを好きになったかも”ってね。」

友晴「そ・・・か。天仲も俺のこと・・・」

美央「そういうコト。でも、熾亜には雲衣君の気持ちは教えないつもり。」

友晴「どうして?」

美央「教えちゃったら、それで終わりじゃない。せっかく雲衣君にだけ教えたんだから、
   ちゃんと自分で始末つけなさい。相手からも好かれてるってわかってるんだから大丈夫でしょ?」

友晴「あぁ、まぁ・・・安心感はあるけど・・・」

美央「それから・・・」


美央の顔が、とたんに険しくなる。


美央「・・・いつまでもウジウジして熾亜を困らせるようなことしたら・・・許さないから。」

友晴「わ・・・わかった。」

美央「私からは、それだけ。雲衣君は?」

友晴「いや、もういいよ。わざわざありがとう。」

美央「ど〜いたしまして。代償はキッチリ要求するからね〜w」

友晴「え? 代償!?」

美央「あ、もうお昼終わっちゃう! 早く戻らなきゃ!!」

友晴「ホントだ!」


二人は急いで教室に戻った。

その日の手芸部も、滞りなく・・・友晴と熾亜はギクシャクしたままだったが・・・終了した。
その帰りのこと・・・


熾亜「美央・・・?」

美央「ん?」

熾亜「今日思ったんだけど・・・雲衣君ね、美央のこと好きなんじゃないかな・・・」


熾亜からの思いもよらぬ発言に美央は驚きを隠せない


美央「な、なによイキナリ・・・どうして?」

熾亜「だって雲衣君、美央とは普通に話してるし・・・」

美央「ミカさんとも普通に会話してるじゃない・・・」

熾亜「でもお昼・・・大事な話って二人で行っちゃうし・・・」

美央「手芸部の話かもしれないとは思わなかったの?」

熾亜「そうだったら、わざわざ場所変える必要ないと思う。」

美央「たしかにそうね・・・」

熾亜「だから、そういう話なんじゃないかなって・・・」

美央「大丈夫。告白どころか、それらしい話も素振りもなかったし。」

熾亜「そうなんだ・・・」

美央「それより熾亜」

熾亜「なに?」

美央「近いうちに、ビックリすることがあるかもね。」

熾亜「ビックリすることって、どんな?」

美央「それは、そのときのお楽しみ〜」

熾亜「えぇ〜・・・」


それから数日・・・、一向に変化のない二人に、ついに美央がシビレを切らす。


美央「雲衣君・・・?」

友晴「そ、空野!?」

美央「まだ・・・なの?」

友晴「ちょ、ちょっと機会がなくて・・・」

美央「話があるって言って、連れ出せばいいじゃない。」

友晴「クラスのヤツに変な風に思われたらヤだし・・・」

美央「私のときは平気で連れ出したのに?」

友晴「いや、あのときは・・・」

美央「好きな相手だと違うってコトねぇ・・・
   それから、熾亜と雲衣君の態度がおかしいことくらい、みんなとっくに気づいてるわよ。」

友晴「そ、そうなのか・・・?」

美央「そりゃぁね。あの熾亜とあんなにギクシャクしてたら、誰だって不思議に思うわよ。」

友晴「それもそうか・・・」

美央「ともかく! ・・・早くね。」

友晴「わ、わかった・・・」


放課後・・・


熾亜「美央、ミカさん。部活行こ!」

美央「あ、熾亜ごめん、今日は私とミカさん、ちょっと後で行くわ。」

ミカ「え? 私もですか?」

熾亜「どうして?」

美央「う・・・ちょ、ちょっと備品の買出しに。少なくなってきたのがあってね・・・
   それで、ミカさんと行こうかと思って。いいよね?ミカさん。」

ミカ「私は構いませんよ。」

美央「そんなワケだから・・・熾亜、悪いけど雲衣君と先に始めててくれる?」

熾亜「う、うん。早く帰ってきてね?」

美央「りょ〜かい。じゃぁミカさん、行こう。」

ミカ「はい。」

美央(これでよし・・・あとは雲衣君次第・・・)


美央とミカは足早に教室を後にした。


友晴「あ、天仲・・・空野と観神は・・・?」

熾亜「え? な、なんか備品・・・買いに行くって。」

友晴「そ、そっか・・・」

友晴(・・・空野・・・狙ったな。)

友晴「とりあえず、部室・・・」

熾亜「そう・・・だね。」


二人は部室に移動するが、その間、二人に会話はない。
友晴は熾亜に軽く指示を出し、作業を進めるが、黙ったままである。


熾亜「あのっ、ふ・・・二人とも遅いねっ」

友晴「あ、あぁ・・・買うモノ迷ってるのかも・・・」

熾亜「そ、そうだね」


また沈黙・・・


二人「あのっ・・・」


今度は同時に声をあげる。


友晴「な・・・何?」

熾亜「う、ううん・・・お先に・・・」

友晴「そう・・・それじゃ・・・」


友晴は深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。


友晴「あのさ・・・部活と関係ないことなんだけど・・・」

熾亜「う、うん・・・」

友晴「いきなりこんなこと言うのもおかしいんだけど・・・その・・・」

熾亜「な、なに・・・?」

友晴「俺・・・天仲が好きだ!」

熾亜「え・・・?」

友晴「ご、ごめん!いきなり・・・」

熾亜「うん・・・びっくりした。」

友晴「でも、本気だから・・・」

熾亜「うん・・・でも、返事・・・すぐにはできない・・・」

友晴「じゃ・・・待ってる。」

熾亜「・・・うん。」


二人の気持ちも落ち着かないままに、突然開け放たれるドア


美央「ごめ〜ん、ちょっと遅くなっちゃった・・・」

ミカ「お待たせしましたぁ・・・」

熾亜「美央・・・ミカさん・・・」

友晴「お、遅かったじゃないか。」

ミカ「ちょっと欲しい物が品切れで、別のお店まで行ってたんです。
   あ、でも安心してください。ちゃんと調達できましたから。」

熾亜「そ、そうなんだ・・・」

美央「ところで二人とも、様子おかしいみたいだけど・・・なにかあった?」

友晴「べべべっ、別に何も!」

熾亜「う、うんっ! な〜んにもっ!!」

美央(ようやく、言ったみたいね。)

ミカ「それよりも、早く始めましょう。」

美央「そうね、今日は何をすればいい?」

友晴「それじゃ、まず買った物を片付けて・・・何しようか?」

美央「・・・特に何も決まってないの?」

友晴「あ〜・・・まぁ・・・活動内容は俺に一任されてるし・・・」

美央「ところで・・・」


美央は友晴にズイっと近寄り、耳元で囁く。


美央「ちゃんと言えた?」

友晴「あ、あぁ・・・おかげさまで・・・」

美央「そうw ならいい。」

ミカ「二人とも、なに話してるんですか?」

友晴「なんでもない。じゃぁ、そこの針金で・・・」


こうして二人の関係は、美央の計らいによって多少の進展を見せた。


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