作品展示会も無事に終わり、自由製作期間に入った手芸部。
4人で作り上げた作品は残念ながら銅賞だったが、それよりもっと大きなものを手に入れた満足感で、
友晴の心は一杯だった。


ミカ「あら・・・?」

友晴「どうした?観神。」

ミカ「ノリが切れてしまって・・・」

美央「テープも、これで終わりみたい。」

友晴「そっか・・・じゃ、ちょっと買いに行って来る。」

美央「あ、私が行くよ。雲衣君は、残って熾亜に指示してあげて。」

ミカ「私もついていきます。」

友晴「あぁ、ありがとう。職員室に星崎先生がいると思うから、部費を少し分けてもらって・・・
   文具屋の場所はわかるよな? ちょっと遠いけど、先生に言えば学校所有の自転車借りれると
   思うから。」

美央「わかった。それじゃ、行って来るね。」

友晴「スグになくなるといけないから、多めに頼む。」

美央「はいは〜い」

ミカ「いってきま〜す」

友晴「気をつけてな。」


友晴「天仲、その棚の上の箱取ってくれるか? そこに踏み台あるから。」

熾亜「うん!」


熾亜は棚の前に踏み台を置き、めいいっぱい背伸びして箱に手を伸ばす。


熾亜「ん・・・なんとか、取れそう。」

友晴「天仲、あんまりムリするな・・・俺が取るから。」


そう言って、友晴が熾亜に近づいたときだった。


熾亜「おっけー、取れ・・・あっ!」

友晴「え?」

熾亜「き、きゃぁぁぁぁ!!」

友晴「う、うあぁぁ?」


ドガシャァァァァ

小さめの箱だったが、予想外に重く、取った拍子に熾亜が踏み台を踏み外し、
そのまま勢いよく友晴に倒れ掛かってきた。
友晴は、見事に熾亜の下敷きである。


熾亜「う・・・ん・・・?」

友晴「っててて・・・」


友晴の手は、とっさに支えようとしたせいか、熾亜の腰に回っていた。


友晴「わわわ! ご、ごめん!」

熾亜「わ、私こそっ!」


あわてて手をどかす友晴と、急いで友晴の上からどく熾亜。


友晴「・・・・・・」

熾亜「・・・・・・」


そして、訪れる沈黙。


友晴「け、ケガ・・・ないか?」

熾亜「うん、大丈夫・・・」

友晴「そ、そうか・・・なら、よかった。」

熾亜「あの・・・」

友晴「え?」

熾亜「重かった・・・でしょ。」

友晴「あ、いや・・・そんなことは・・・」

熾亜「そ、そうなん、だ・・・」


また沈黙・・・


友晴「あ、箱・・・あんなところに。」


見ると、箱は二人から少し離れた場所に転がっていた。
中身も少し散らばっているようだ。


熾亜「お、落としちゃったけど・・・大丈夫?」

友晴「うん、中身は大丈夫なモノだから。」

熾亜「よかった。」

友晴「ごめん」

熾亜「え?」

友晴「俺が自分で取れば・・・」

熾亜「わ、私も・・・ムリに取ろうとしちゃったから・・・」

友晴「いや、せめて見た目より重いってこと、俺が伝えるべきで・・・・」

熾亜「ううん、私ももっと気をつけてれば・・・」


責任の取り合いである。


友晴「とにかく、箱をなんとかしないと・・・」


友晴が、その場を動こうとしたとき・・・


友晴「っ痛!?」


友晴の顔が少し歪む。


熾亜「どうしたの!?」

友晴「少し、頭打ったみたいだ。」


友晴は自分の後頭部に手を当てる。


熾亜「大変! なにかで冷やさないと・・・」

友晴「だ、大丈夫! 血も出てないし。」

熾亜「でも、コブになってるかも。」


周囲を見ると、部屋の片隅に水道があった。


熾亜「あの水道、ちょっと借りるね。」

友晴「おい天仲? いったい何を・・・」


熾亜は自分のポケットからハンカチを取り出し、水で濡らして戻ってきた。
そして、そっと友晴の後頭部に添える。


熾亜「これでいいかなぁ・・・それとも、いちおう保健室行ったほうが・・・」

友晴「あ〜、いや・・・大丈夫だと思う。」


いつも一緒に部活をしているメンバーとはいえ、こうなるとどうも気恥ずかしい。


友晴「・・・悪い。」

熾亜「なんで? 私がコケたせいだし・・・」

友晴「いや、だからそれは俺が・・・」

熾亜「その話はもういいから、今はじっとしてて。」

友晴「・・・わかったよ。」


そうしているうちに、二人が買出しから戻ってくる。


美央「ただいま〜って、二人とも何してんの?」

友晴「いや、あの・・・これはだな・・・」

熾亜「私が荷物取るときにコケて雲衣くんにぶつかっちゃって、その拍子で雲衣君が頭ぶつけて・・・」

ミカ「大丈夫なんですか?」

友晴「たぶん、大丈夫。」

美央「あ〜、ハイハイハイ・・・そういうコトね。」

熾亜「?」

美央「ありがちなパターンね、全く。ね〜、ミカさんw」

ミカ「え? なんのことですか?」

美央「お二人さん、仲良くやんなさいよ?」

友晴「ば、バカ! そんなんじゃねぇ!」

熾亜「そ、そうだよ美央! 私はただ手当てしてるだけで・・・!」

美央「二人ともどうしたの〜? 私はただ、そういうトラブルでギクシャクした関係にならないように〜ってイミで
   言ったつもりだけど〜、その慌て方・・・アヤシイな〜w」


美央はイタズラに微笑んで見せた。


友晴「なっ!」

熾亜「ちょっと、美央っ!」

美央「冗談はここまでにして・・・まぁ、見た感じ溝はできそうにないから大丈夫ね。
   あ、あとコレ・・・足りなかったモノ。」

ミカ「差し入れに、ジュースもありますよw」

美央「私のオゴリだから、カンシャしなさいよね!」

友晴「あ、あぁ・・・サンキュ」

熾亜「ありがと、美央。」

友晴「じゃぁ、サッサと片付けて続きやろうか。」

ミカ「そうしましょうw」


転がった箱を手早く片付け、全員作業を再開する。
後頭部がまだ少し痛む友晴だったが、苦にすることもなく作業を進める。
友晴と熾亜は、美央にからかわれたコトが、少し気になっていた・・・
それからというもの・・・


友晴「あ、天仲・・・ちょっと、違う・・・」

熾亜「あ、ごめん・・・なさい」

美央「・・・う〜ん・・・」


友晴と熾亜の関係は、なんとなくギクシャクしていた。


美央「ホントに冗談のつもりだったんだけど、失敗したかなぁ・・・」

ミカ「会話がおぼつかないようですね。」

友晴「観神、悪いけどちょっと、そこにあるテープ貸してくれるか?」

ミカ「あ、はい。これですね。」


ミカは自分のすぐ横に置いてあったテープを友晴に手渡す。


友晴「サンキュ」


そんな状態で、数日が経過したある日・・・


熾亜「はぁ・・・」


朝からため息をつく熾亜


美央「どうしたの熾亜? めずらしくため息なんてついちゃって・・・」

熾亜「ううん、なんでもない。」

ミカ「なにか悩み事でも・・・」

熾亜「そんなんじゃ・・・」

美央「熾亜の悩み、当ててみようか?」

熾亜「悩んでないってば・・・」

美央「ズバリ、手芸部のこと。もっと言えば、雲衣君のこと。」

熾亜「そ、そんな・・・雲衣君のことでなんか・・・」

美央「・・・図星。」

熾亜「ぅ〜・・・」

ミカ「でも美央さん、なんでわかったんですか?」

美央「そりゃわかるわよ。あの日、私が二人をからかってから、ずっとそうだもん。
   変に意識しちゃってるんじゃない?お互いに。」

熾亜「うん。なんていうんだろ・・・もっと普通に話したいのに、普通に話しかけれなくて・・・
   それで、雲衣君も戸惑ってるのかなって・・・
   それとも私、雲衣君に嫌われてるのかなぁ・・・」

美央「雲衣君は、熾亜のこと嫌いなんじゃないと思う。」

熾亜「そう・・・だよね。嫌いだったら、口きいてもらえないと思うし。」

美央「熾亜、ごめんね・・・こんな風になるなんて思わなかったから・・・」

熾亜「ううん、美央が謝る必要なんてないよ。これは私の問題だし・・・
   私から普通に話しかければ、解決する・・・と思う。」

美央「私、ちょっと雲衣君のところにも行ってくる。」


そう言うと、美央は友晴の席の前に立った。


美央「雲衣君。」

友晴「ん? あぁ、空野か。何か用?」

美央「ごめんなさい」

友晴「な、何? いきなりどうした!?」

美央「私がからかったせいで、熾亜とギクシャクしちゃってるみたいで・・・」

友晴「あぁ、天仲と・・・ね。確かに、最近なんかうまく話せなくてさ・・・
   どうしたら天仲と普通に喋れるのか、わかんなくて。
   俺が普通に話しかければそれでいいんだろうけど、そう考えると逆にダメで・・・」

美央「私、二人がそこまで悩むとは思わなくて・・・」

友晴「あぁ、いいよ。空野は悪くないと思うし。
   って、”二人が”ってことは、天仲も悩んでるのか?」

美央「うん。雲衣君と同じこと言ってた。”私から普通に話しかければ〜”って。」

友晴「そうか・・・別に天仲に嫌われたわけじゃなかったんだな。」

美央「でも、その気持ちが余計にお互いをギクシャクさせてると思う・・・
   いっそ、何も考えずに喋ったほうがいいかも。」

友晴「また難しいご注文だな・・・でも、心がけてみるよ。」

美央「うん。それじゃまた、放課後・・・」

友晴「ああ。」


そして、放課後・・・いつもなら4人揃って部活に行く。
しかしその日、友晴はわざと部活に行く時間をずらし、3人とは別のタイミングで部室に向かった。
その途中でも、熾亜のことばかり考えている友晴がいた。


友晴(頭に浮かぶのは天仲のことばかり・・・か。)

友晴「まさか・・・な。」


友晴は自分の考えを否定するかのように、首を横に振った。


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